ウラモトユウコについては、
2017年3月26日日曜日 「フイチンさん」の娘たち (2) 近藤聡乃 ウラモトユウコ
でも紹介しましたが、その新刊です。
・ウラモトユウコ (2017.9) 『fit !!!』(BIG COMICS SPECIAL). 127pp. 小学館, 東京.
装丁 : 望月綾子
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これ、かなりマンガに力を入れている大書店でも1冊しかなかった。
あんまり期待されてないのか、印刷が後回しにされてるのか・・・(初刷を小部数にしておくと、すぐに増刷がかかって、売れてるように見える)。
まあ、「傑作!」というほどの作品ではないが、こんな扱いされるほどダメダメでもない。
というわけで、出たこと自体あまり知られずに、忘れ去られそうな気配もあるので、今のうちに紹介しておこう。
言っとくけど、かなりおもしろいんだよ。
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全10回の連載・表題作
・「fit !!!」
← 初出 : やわらかスピリッツ, 2017年3月2日号~7月6日号
ウラモト作品ではお馴染みの、ガサツでグラマラスな女子「テンポちゃん」が主人公で、それに小柄ギャル「サナちゃん」がからんでいくストーリーなのかな、と思いきや・・・。
確かに前半はそうなんだが、後半はインストラクター「ユイ先生」が主人公だったり、と、そこでようやく「フィットネス・クラブでの人間模様」を描くマンガであると気づいた。
わずか10回なら、もっとテンポちゃん中心だけでよかったような気もするが、まあネタが持たなかったんだろうな。隔週連載だったようだし。
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小柄女子サナちゃんが、ギャル化することで自信をつけていった回顧談がとてもおもしろい。
すごくリアルな話で、これ、誰かから実際に聞いたのが元ネタなんじゃないかな。
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編集部主導の、「フィットネス・クラブ」という設定ありきの話なので、ウラモトさんもなかなか苦労している。でも、そこそこよくまとまった作品だと思う(あんまり人気なくて、打ち切りになったんだと思うが・・・)。
前に紹介した小坂俊史の小学館連載作でも感じたのだが、小学館は、よそから引っ張ってきた作家を、自社の型にはめようとするので、他社での作品より窮屈そうに感じる。
もっと自由に描かせていいのにな。そう、島本和彦「炎の転校生」くらい(笑)。
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残りの6ページ短編2本
・「タネとシカケと酒屋のキクちゃん」
← 初出 : ビッグコミックスピリッツ, 2014年32号
・「へいらっしゃい」
← 初出 : ビッグコミック・オリジナル, すし増刊 2016年8月29日号
は、どちらもウラモトさんらしさが出た名作。
「キクちゃん」は、おなじみグラマラス女子が活躍。「へいらっしゃい」は、オチが完璧、マンガの教科書に載せたいくらい。
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とまあ、なかなか悪くないので、本屋で出くわしたら「二度目はない」と思って、すぐさま買いましょう。
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なお、現在(2017/09/27時点)発売中の週刊モーニングにも、短編
・ウラモトユウコ (2017.9) ラッキーボウル 紅葉町店. 週刊モーニング, 2017年43号.
が掲載されているので、こちらもどうぞ。おもしろいよ。でも、忙しいのか、ちょっと絵が荒れてる。
2017年9月27日水曜日
2017年9月24日日曜日
近藤聡乃 『A子さんの恋人 4』
・近藤聡乃 (2017.9) 『A子さんの恋人 4』(HARTA COMIX). 208pp. KADOKAWA, 東京.
← 初出 : ハルタ, vol.39[2016/11]~47[2017/8].
装丁 : 芦田慎太郎(芦田デザイン事務所)
が出ました。
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今回は、おおむね3部構成。
第1部は、「A子さん締め切りギリギリ」コント大会。相変わらず絵も達者でテンポもいい。主役はU子だなあ。
------------------------------------------
第2部は、「I子の乱」。I子が、A太郎→A子→K子の家に次々と爆弾を投下しに回る話。
A子-A太郎の関係に割り込もうと必死のI子だが、これで一応決着したよう。余分な枝葉を切り払い、いよいよ話を畳みにかかっているな。
------------------------------------------
第3部は、A君とA太郎の間でウジウジ揺れるA子。ここは興味ないや(笑)。
この3人を見ているとイライラするので、表1だけじゃなくて、表4も挙げておこう。
同書, 表4
ダメだ!こいつらもイライラする(笑)。
------------------------------------------
ところで、学生時代の回想シーンで、大学の学食が出てくるのだが、あれ東京芸大の食堂じゃないか!
こいつらが東京芸大とは思わなかった!中央線沿いが舞台のことが多いので、ムサ美か多摩美かと思ってた。
I子なんて、東京芸大出てファンシー・イラストで食ってるんだぞ。いいのか?
まあ、なんでもいいのか・・・生きてりゃ(笑)。芸大卒は半分くらい消息不明になるらしいし・・・。
------------------------------------------
さて、次巻ではついにA君が来日するようだし、完結も近いと見たぞ。3人の修羅場はあんまり楽しみじゃない(笑)。
コントのテンポだけしっかりキープしてくれれば満足。
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(追記)@2017/09/27
近藤聡乃については、こちらもどうぞ。
2017年3月26日日曜日 「フイチンさん」の娘たち (2) 近藤聡乃 ウラモトユウコ
← 初出 : ハルタ, vol.39[2016/11]~47[2017/8].
装丁 : 芦田慎太郎(芦田デザイン事務所)
が出ました。
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今回は、おおむね3部構成。
第1部は、「A子さん締め切りギリギリ」コント大会。相変わらず絵も達者でテンポもいい。主役はU子だなあ。
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第2部は、「I子の乱」。I子が、A太郎→A子→K子の家に次々と爆弾を投下しに回る話。
A子-A太郎の関係に割り込もうと必死のI子だが、これで一応決着したよう。余分な枝葉を切り払い、いよいよ話を畳みにかかっているな。
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第3部は、A君とA太郎の間でウジウジ揺れるA子。ここは興味ないや(笑)。
この3人を見ているとイライラするので、表1だけじゃなくて、表4も挙げておこう。
同書, 表4
ダメだ!こいつらもイライラする(笑)。
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ところで、学生時代の回想シーンで、大学の学食が出てくるのだが、あれ東京芸大の食堂じゃないか!
こいつらが東京芸大とは思わなかった!中央線沿いが舞台のことが多いので、ムサ美か多摩美かと思ってた。
I子なんて、東京芸大出てファンシー・イラストで食ってるんだぞ。いいのか?
まあ、なんでもいいのか・・・生きてりゃ(笑)。芸大卒は半分くらい消息不明になるらしいし・・・。
コントのテンポだけしっかりキープしてくれれば満足。
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(追記)@2017/09/27
近藤聡乃については、こちらもどうぞ。
2017年3月26日日曜日 「フイチンさん」の娘たち (2) 近藤聡乃 ウラモトユウコ
2017年9月21日木曜日
小坂俊史 『わびれもの』
小坂俊史のもう一つの顔が、「わびれもの」好き。
「わびれもの」とは造語で、「わびしく」+「さびれた」+「もの」。全国の「さびれてるけど、いい味出ているスポット」巡りのルポマンガだ。
自分の趣味全開で描いたマンガなので、4コマから逸脱した4ページでもなんのその。楽しそう。
------------------------------------------
・小坂俊史 (2010.6) 『わびれもの』(BAMBOO COMICS MOMO SELECTION). 117pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : まんがライフMOMO, 2008年1月号~2010年4月号
装丁 : 関善之+青山功 for VOLARE inc.
なんだか、往時の女性週刊誌「ゲロ表紙」みたいだが、もちろん意図的なもの。それよりも、あれか、旅行パンフレットかな。
------------------------------------------
File 1 相模湖 → 見どころは、船尾から進むボート(笑)。「ホントはこの時乗ってないだろ!」「いや、それどころかボートをこいだことすらないのでは?」とか、散々言われたのだろう。表紙と奥付ではちゃんとした方向に進んでます(笑)。
File 2 無人駅 → 岩手県・JR岩泉線・押角駅+富山県・JR高山本線・猪谷駅
File 3 冬の江ノ島 → 見どころは、自信たっぷりに「孤独のグルメ」の食堂を紹介しておきながら・・・というオチ。
File 4 美川ムーバレー → 山口県。探偵ナイトスクープでいうところの「パラダイス」ですな。
File 5 西新宿 → これは「もやもや さま~ず」とどっちが先だ?
File 6 三木鉄道 → 兵庫県。廃線一週間前。鉄分も多いマンガ。
File 7 奈良 → 生駒山、天理市街、明日香村の古墳。ちょっと普通だったかも。
File 8 足尾銅山 → 廃墟もの。かなりの「わびれもの」。
File 9 デパ屋 → 西武池袋本店、伊勢丹新宿店、日本橋高島屋、松屋浅草の屋上。
File 10 飯田線 前編 → 愛知県・小和田駅。横見浩彦氏同行。あー、暑苦しい(笑)。
File 11 飯田線 後編 → 長野県・鴬巣(うぐす)駅、田本駅、唐笠駅、中井侍駅、金野(きんの)駅。鉄分過多。
File 12広島 → 小坂氏大学時代の思い出の場所めぐり。
File 13 おおざわの石仏の森 → 富山県。珍スポットもの。
File 14 日暮里・駄菓子問屋 → まともなルポもの、って感じ。
File 15 四国・お遍路 → 1日+数時間の七番札所までのお手軽お遍路ルポ。まあ忙しい人だからねえ。
File 16 上野・不忍池 → 今回変換してみて、「しのばず"の"いけ」であることに、はじめて気づいた。
File 17 ブルートレイン → 富士・はやぶさ(東京→下関)。廃止間近ルポなので、周囲も「鉄」の人しか出てこない。
File 18 宗谷岬 → 中途半端な4月の訪問。これはこのマンガらしい時期のチョイス。
File 19 納沙布岬 → 北方領土マンガ。
File 20 中野ブロードウェイ → 魔窟度の高い4階。
File 21 九州ローカル線 → 遠野への引っ越しで忙しいので、お蔵出し。
File 22 遠野 → まじルポ。遠野在住中も仕事と免許取得で忙しくて、結局そんなに周辺地域を探索できなかったらしい。
File 23 ロッテ二軍球場 → プロ野球二軍ルポは、いつ、どれを見ても一緒だなあ。
File 24 キリストの墓 → 青森県。キング・オブ珍スポット。
File 25 川原毛地獄 → 秋田県。見どころは、「--- ここで 雨が強くなったので カッパを着ます」「何故カッパかというと 傘は描くのが 面倒くさいからです」(笑)。
File 26 本州四端 → のうちの二つ(笑)。
File 27 山形県飛島 → 見どころは、鶴瓶のポロリ(笑)。
Last File 終着駅 → 最後もやっぱり鉄もの。
------------------------------------------
結構人気だったんだな。連載終了から1年足らずで再開。
・小坂俊史 (2013.5) 『わびれもの Gorgeous』(BAMBOO COMICS MOMO SELECTION). 117pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : まんがライフMOMO, 2011年2月号~2013年5月号
装丁 : 関善之+青山功 for VOLARE inc.
------------------------------------------
File 1 七戸十和田駅 → ここは実に「わびれもの」らしい。「よし」。
File 2 古墳めぐり → チブサン古墳ルポは、ちょっと珍しいし、いい感じ。
File 3 都内富士見坂 → 中央線高架から見る冬の富士山、きれいだよね(笑)。
File 4 東尋坊タワー → ここもなかなか「わびれもの」らしい場所。
File 5 モーゼの墓 → 来た来た(笑)、「竹内」もの第2弾。
File 6 都心釣り堀 → 麻布十番・衆楽園。ああ、あそこかあ。「がま池」も誰かルポしてほしい。
File 7 四戸を追う → 青森県。遠野在住ならではのネタ。
File 8 弥彦競輪 → にぎやかなのに「わびれ」感最高潮。
File 9 座散乱木遺跡 → 完全に「さびれもの」。
File 10 休止駅 → 福島県・JR磐越西線・猪苗代湖畔駅、宮城県・JR仙山線・西仙台ハイランド駅、山形県・JR仙山線・面白山高原駅(大昔は「面白山仮乗降場」という名で、国鉄では日本一長い駅名として有名だった)、宮城県・JR仙山線・八ツ森駅。
File 11 廃線跡 → 北海道・旧国鉄・白糠線。ネタ切れも近く、ますます鉄分増量。
File 12 清里 → 30年前には、すでに「恥ずかしい場所」だった。
File 13 小坂町 → 秋田県。エゴサーチみたいな回。
File 14 楊貴妃の墓 → 山口県。珍スポットもここまでマイナーだと、さびれ感だけになるなあ。「竹内」が足らん。おまけで「小野小町の墓」(笑)。
File 15 世界平和大観音 → 兵庫県淡路島。珍スポットもあまり大規模過ぎると、廃止後始末に困る、という例。
File 16 ひとりの町 → 人口「一人」の町をめぐる。千代田区有楽町2丁目、足立区古千谷2丁目、大田区京浜島3丁目(2人住んでるけど)。
File 17 東京の井戸 → 中野、谷中、三田。
File 18 早朝相撲 → 取材費出てたんだな、たぶん。
File 19 拘置所・刑務所 → 小菅、立川、府中。
File 20 UFOの里 → 福島県飯野町。「ふるさと創生事業」ものはもっと出てくると思ってたが、そうでもなかった。
File 21 紀州鉄道 → 御坊~西御坊。歩いても踏破できる距離を行ったり来たり。
File 22 牛丼太郎 → 新宿に1店舗になってしまった「たつ屋」にもスポットを当ててほしい。
File 23 五色園 → 愛知県日進市。タイガーバームガーデンにも通じる、浅野祥雲・作コンクリ像の数々。
File 24 オートパーラー → 埼玉県・上尾市+行田市。トーストサンドの自販機、ハンバーガー自販機。
File 25 無番地 → 千葉県四街道市、JR四ツ谷駅、道東の村。
File 26 縁切りスポット → 京都・安井金比羅宮。「陰」です。
File 27 波照間島 前編 → 最終ステージらしく、2回連続の企画物だ。
File 28 波照間島 後編 → 幻の泡盛「泡波」また飲みに行きたい。
------------------------------------------
どちらの巻も、連載期間はきっちり2年4ヶ月。こういう、休載もせず、きっちり面白い作品を出せる安定感が、この人への信頼感なんだろうなあ。
ルポ・マンガの中でも高水準の作品です。
「わびれもの」とは造語で、「わびしく」+「さびれた」+「もの」。全国の「さびれてるけど、いい味出ているスポット」巡りのルポマンガだ。
自分の趣味全開で描いたマンガなので、4コマから逸脱した4ページでもなんのその。楽しそう。
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・小坂俊史 (2010.6) 『わびれもの』(BAMBOO COMICS MOMO SELECTION). 117pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : まんがライフMOMO, 2008年1月号~2010年4月号
装丁 : 関善之+青山功 for VOLARE inc.
なんだか、往時の女性週刊誌「ゲロ表紙」みたいだが、もちろん意図的なもの。それよりも、あれか、旅行パンフレットかな。
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File 1 相模湖 → 見どころは、船尾から進むボート(笑)。「ホントはこの時乗ってないだろ!」「いや、それどころかボートをこいだことすらないのでは?」とか、散々言われたのだろう。表紙と奥付ではちゃんとした方向に進んでます(笑)。
File 2 無人駅 → 岩手県・JR岩泉線・押角駅+富山県・JR高山本線・猪谷駅
File 3 冬の江ノ島 → 見どころは、自信たっぷりに「孤独のグルメ」の食堂を紹介しておきながら・・・というオチ。
File 4 美川ムーバレー → 山口県。探偵ナイトスクープでいうところの「パラダイス」ですな。
File 5 西新宿 → これは「もやもや さま~ず」とどっちが先だ?
File 6 三木鉄道 → 兵庫県。廃線一週間前。鉄分も多いマンガ。
File 7 奈良 → 生駒山、天理市街、明日香村の古墳。ちょっと普通だったかも。
File 8 足尾銅山 → 廃墟もの。かなりの「わびれもの」。
File 9 デパ屋 → 西武池袋本店、伊勢丹新宿店、日本橋高島屋、松屋浅草の屋上。
File 10 飯田線 前編 → 愛知県・小和田駅。横見浩彦氏同行。あー、暑苦しい(笑)。
File 11 飯田線 後編 → 長野県・鴬巣(うぐす)駅、田本駅、唐笠駅、中井侍駅、金野(きんの)駅。鉄分過多。
File 12広島 → 小坂氏大学時代の思い出の場所めぐり。
File 13 おおざわの石仏の森 → 富山県。珍スポットもの。
File 14 日暮里・駄菓子問屋 → まともなルポもの、って感じ。
File 15 四国・お遍路 → 1日+数時間の七番札所までのお手軽お遍路ルポ。まあ忙しい人だからねえ。
File 16 上野・不忍池 → 今回変換してみて、「しのばず"の"いけ」であることに、はじめて気づいた。
File 17 ブルートレイン → 富士・はやぶさ(東京→下関)。廃止間近ルポなので、周囲も「鉄」の人しか出てこない。
File 18 宗谷岬 → 中途半端な4月の訪問。これはこのマンガらしい時期のチョイス。
File 19 納沙布岬 → 北方領土マンガ。
File 20 中野ブロードウェイ → 魔窟度の高い4階。
File 21 九州ローカル線 → 遠野への引っ越しで忙しいので、お蔵出し。
File 22 遠野 → まじルポ。遠野在住中も仕事と免許取得で忙しくて、結局そんなに周辺地域を探索できなかったらしい。
File 23 ロッテ二軍球場 → プロ野球二軍ルポは、いつ、どれを見ても一緒だなあ。
File 24 キリストの墓 → 青森県。キング・オブ珍スポット。
File 25 川原毛地獄 → 秋田県。見どころは、「--- ここで 雨が強くなったので カッパを着ます」「何故カッパかというと 傘は描くのが 面倒くさいからです」(笑)。
File 26 本州四端 → のうちの二つ(笑)。
File 27 山形県飛島 → 見どころは、鶴瓶のポロリ(笑)。
Last File 終着駅 → 最後もやっぱり鉄もの。
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結構人気だったんだな。連載終了から1年足らずで再開。
・小坂俊史 (2013.5) 『わびれもの Gorgeous』(BAMBOO COMICS MOMO SELECTION). 117pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : まんがライフMOMO, 2011年2月号~2013年5月号
装丁 : 関善之+青山功 for VOLARE inc.
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File 1 七戸十和田駅 → ここは実に「わびれもの」らしい。「よし」。
File 2 古墳めぐり → チブサン古墳ルポは、ちょっと珍しいし、いい感じ。
File 3 都内富士見坂 → 中央線高架から見る冬の富士山、きれいだよね(笑)。
File 4 東尋坊タワー → ここもなかなか「わびれもの」らしい場所。
File 5 モーゼの墓 → 来た来た(笑)、「竹内」もの第2弾。
File 6 都心釣り堀 → 麻布十番・衆楽園。ああ、あそこかあ。「がま池」も誰かルポしてほしい。
File 7 四戸を追う → 青森県。遠野在住ならではのネタ。
File 8 弥彦競輪 → にぎやかなのに「わびれ」感最高潮。
File 9 座散乱木遺跡 → 完全に「さびれもの」。
File 10 休止駅 → 福島県・JR磐越西線・猪苗代湖畔駅、宮城県・JR仙山線・西仙台ハイランド駅、山形県・JR仙山線・面白山高原駅(大昔は「面白山仮乗降場」という名で、国鉄では日本一長い駅名として有名だった)、宮城県・JR仙山線・八ツ森駅。
File 11 廃線跡 → 北海道・旧国鉄・白糠線。ネタ切れも近く、ますます鉄分増量。
File 12 清里 → 30年前には、すでに「恥ずかしい場所」だった。
File 13 小坂町 → 秋田県。エゴサーチみたいな回。
File 14 楊貴妃の墓 → 山口県。珍スポットもここまでマイナーだと、さびれ感だけになるなあ。「竹内」が足らん。おまけで「小野小町の墓」(笑)。
File 15 世界平和大観音 → 兵庫県淡路島。珍スポットもあまり大規模過ぎると、廃止後始末に困る、という例。
File 16 ひとりの町 → 人口「一人」の町をめぐる。千代田区有楽町2丁目、足立区古千谷2丁目、大田区京浜島3丁目(2人住んでるけど)。
File 17 東京の井戸 → 中野、谷中、三田。
File 18 早朝相撲 → 取材費出てたんだな、たぶん。
File 19 拘置所・刑務所 → 小菅、立川、府中。
File 20 UFOの里 → 福島県飯野町。「ふるさと創生事業」ものはもっと出てくると思ってたが、そうでもなかった。
File 21 紀州鉄道 → 御坊~西御坊。歩いても踏破できる距離を行ったり来たり。
File 22 牛丼太郎 → 新宿に1店舗になってしまった「たつ屋」にもスポットを当ててほしい。
File 23 五色園 → 愛知県日進市。タイガーバームガーデンにも通じる、浅野祥雲・作コンクリ像の数々。
File 24 オートパーラー → 埼玉県・上尾市+行田市。トーストサンドの自販機、ハンバーガー自販機。
File 25 無番地 → 千葉県四街道市、JR四ツ谷駅、道東の村。
File 26 縁切りスポット → 京都・安井金比羅宮。「陰」です。
File 27 波照間島 前編 → 最終ステージらしく、2回連続の企画物だ。
File 28 波照間島 後編 → 幻の泡盛「泡波」また飲みに行きたい。
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どちらの巻も、連載期間はきっちり2年4ヶ月。こういう、休載もせず、きっちり面白い作品を出せる安定感が、この人への信頼感なんだろうなあ。
ルポ・マンガの中でも高水準の作品です。
2017年9月18日月曜日
アルチンボルド「裸体寄せ絵人面画」の追随者たち
2017年8月7日月曜日 アルチンボルド→国芳の流れ
の続きになります。
Arcimboldoの追随者の作品、特に「裸体寄せ絵人面画」をいくつか見つけました。
Google画像検索結果を一部改変
------------------------------------------
これは、Google画像検索で「arcimboldo herod|herodes」で検索した結果。
1~6と9は、いずれも「Herod」あるいは「Herodes」というタイトル。すなわち古代ユダヤのヘロデ王のことです。
これらの作品は、「Arcimboldo作」とされていることもあれば、「Arcimboldoの追随者の作」とされていることもあります。
でも私は、どれも「追随者の作」だと思います。だって下手だもん。
------------------------------------------
7は「ヘロデ王」ではありませんが、これも「裸体寄せ絵人面画」。これも「追随者の作」でしょう。
しかしこれで、前回紹介したBossiの他にも、Arcimboldoを真似て「裸体寄せ絵人面画」を描いた画家が、思いのほかたくさんいることがわかった。これは収穫だった。
それならば、そのうちのいくつかが、おそらく模写という形で日本に伝わってもおかしくない。『芸海余波』のように。
調べると色々面白いことがわかってくる。調査継続。
------------------------------------------
ところで、おまけでもう一つ面白いことがわかった。
先ほどの検索結果の8。タイトルは「Trojan Horse(トロイの木馬)」。
これも「Arcimboldoの作」とも「追随者の作」ともいわれている。
これまたすごい作品だ。SwedenのNational Portrait Gallery所蔵だそうな。うーん、見てみたい。
参考 :
・Jahsonic/The Art & Popular Culture Encyclopedia > Trojan Horse (Arcimboldesque) (This page was last modified 15:04, 8 December 2013)
http://www.artandpopularculture.com/Trojan_Horse_%28Arcimboldesque%29
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なお、10は、
2017年8月7日月曜日 アルチンボルド→国芳の流れ
で紹介しきれなかったEveです。
の続きになります。
Arcimboldoの追随者の作品、特に「裸体寄せ絵人面画」をいくつか見つけました。
Google画像検索結果を一部改変
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これは、Google画像検索で「arcimboldo herod|herodes」で検索した結果。
1~6と9は、いずれも「Herod」あるいは「Herodes」というタイトル。すなわち古代ユダヤのヘロデ王のことです。
これらの作品は、「Arcimboldo作」とされていることもあれば、「Arcimboldoの追随者の作」とされていることもあります。
でも私は、どれも「追随者の作」だと思います。だって下手だもん。
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7は「ヘロデ王」ではありませんが、これも「裸体寄せ絵人面画」。これも「追随者の作」でしょう。
しかしこれで、前回紹介したBossiの他にも、Arcimboldoを真似て「裸体寄せ絵人面画」を描いた画家が、思いのほかたくさんいることがわかった。これは収穫だった。
それならば、そのうちのいくつかが、おそらく模写という形で日本に伝わってもおかしくない。『芸海余波』のように。
調べると色々面白いことがわかってくる。調査継続。
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ところで、おまけでもう一つ面白いことがわかった。
先ほどの検索結果の8。タイトルは「Trojan Horse(トロイの木馬)」。
これも「Arcimboldoの作」とも「追随者の作」ともいわれている。
これまたすごい作品だ。SwedenのNational Portrait Gallery所蔵だそうな。うーん、見てみたい。
参考 :
・Jahsonic/The Art & Popular Culture Encyclopedia > Trojan Horse (Arcimboldesque) (This page was last modified 15:04, 8 December 2013)
http://www.artandpopularculture.com/Trojan_Horse_%28Arcimboldesque%29
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なお、10は、
2017年8月7日月曜日 アルチンボルド→国芳の流れ
で紹介しきれなかったEveです。
2017年9月16日土曜日
月岡芳年ツアー2017(3) 太田記念美術館 「月岡芳年 月百姿」 展
芳年ツアー第3弾。太田記念美術館の後期。
今年はもうないかな。でも、芳年作品はまだまだあるので、展覧会があれば、少し遠出してでも行くぞ。
しかし、やっぱり札幌の芳年展に行けなかったのは、かえすがえすも心残り。
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・太田記念美術館 > 展覧会 > 年間スケジュール > 特別展 月岡芳年 月百姿(as of 2017/06/28)
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/%E6%9C%88%E5%B2%A1%E8%8A%B3%E5%B9%B4%E3%80%80%E6%9C%88%E7%99%BE%E5%A7%BF
会期 : 2017年9月1日(金)~9月24日(日)(9月4、11、19日は休館します)
開館時間 : 午前10時30分~午後5時30分(入館は午後5時まで)
会場 : 太田記念美術館 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10
TEL : 03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料 : 一般 1000円、大高生※学生証をご提示ください。 700円、中学生以下※中学生は学生証(生徒手帳)をご提示ください。 無料(リピーター割引 「月岡芳年 妖怪百物語」および「月岡芳年 月百姿」両展覧会の会期中2回目以降ご鑑賞の方は、半券のご提示にて200円割引いたします。※チケット購入時に半券をご提示下さい。他の割引との併用はできません。
しまった!前回の半券忘れた。まあ前回、横浜の半券で割引してもらったからいいか。
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同展パンフレット, p.4
同展パンフレット, p.3
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「月百姿」は、芳年晩年の「月」をテーマにしたシリーズ。明治中期の作品だ。その百点を全点展示。見応えあったなあ。
晩年の筆致はかなり硬質になっており、闊達なところに乏しく、「硬すぎる」と感じるかもしれないが、その繊細かつ細かい描写を見ていくのが今回の見所だ。
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「月」というと、たいていは満月。この「月百姿」も大半は満月なのだが、三日月、上弦、下弦、二十三夜月、叢雲に隠れる月、とヴァリエーションもかなりあり、そのリズムを楽しむこともできる。
果ては、月を描かず、それを眺める人物で表現した絵、あるいは月の気配すらないものまである。これはもう、「このお話知ってるでしょ」という鑑賞者との間の暗黙の了解で成り立っているのだが、当時流行りのお話がネタ元なので、現代人の我々には解説がないとなかなか厳しい。明治人に生まれ変わるVirtual Realityって作れないもんか・・・。
また、浮世絵/錦絵最末期の彫り、摺り技術の到達点も見どころだ。本当に唸らされる。惜しい文化を亡くした。
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これが図録。今回も、一般書籍として書店でも販売されています。
・日野原健司・著, 太田記念美術館・監修 (2017.8) 『月岡芳年 月百姿』. 135pp. 青幻舎, 東京.
デザイン : 原条令子
「月」がテーマなのに、月を思わせる円を青で塗ったデザインが大胆だ。
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気に入った作品、あるいは気になったものをいくつか。
月岡芳年 (1886.9) はかなしや波の下にも入ぬべしつきの都の人や見るとて 有子
同書, p.14
身投げの直前に琵琶を弾く有子(ありこ)。『源平盛衰記』より。
ここでは月本体は描かれておらず、水面に反射する光で月の存在を表現しています。日本ならではの繊細な表現。
「月百姿」シリーズでは、空摺り、正面摺りの手法がふんだんに使われています。紙の裏から版木を当て、墨を付けずに摺り、画面に凹凸や部分的に光沢を出す手法です。たいていは、白、黒などの単色ベタ塗り面上に、柄を浮かび上がらせたり、光沢模様を出すために使われています。
このシリーズでは、白の四角に囲まれた題字にはすべて空摺りが入っていました。また、白地~薄色の着物にはたいてい空摺りで柄が浮かんでいましたね。
見渡したところ、しゃがんだり横から眺めたりして、空摺り、正面摺りを観察していたのは私だけだった。もったいない。空摺り、正面摺りは、図録や画集ではほとんど出ないので、現物を見た人だけが楽しめる技法なのに・・・。
さて、この絵では、空摺りが使われているのは、着物の柄ではなく、なんと水面の月光反射。画面下から上に伸びていく月光反射は上部では白い背景に消えていくのですが、実は画面の凹凸でその連続が見れるのです。これは是非、現物を見てもらうしかない。
なお本書では、正面摺りの解説が、p.64、p.88、p.106にあります。
------------------------------------------
月岡芳年 (1886.3) 源氏夕顔巻
同書, p.42
薄墨で表現された夕顔の幽霊。色、線の繊細さ、素晴らしい。ボサボサの髪もまた哀れを誘う。前景に、実際の夕顔を配する構成も粋だ。
------------------------------------------
月岡芳年 (1889) 雨中月 児島高徳
同書, p.72
南北朝時代、南朝の武将・児島高徳が後醍醐天皇の無事を祈る姿。
ここで注目は雨の表現。これは白い墨で刷ってあるのだ。こういう白墨を使った技法ははじめて見た。この技術、どの程度広まっていたのだろうか。興味あるなあ。
いずれにしろ、その後まもなく、この技法含め、浮世絵/錦絵まるごと滅びるわけですが・・・。
------------------------------------------
月岡芳年 (1886.2) 烟中月
同書, p.90
明治時代とは思えない、モダンでスタイリッシュな画面処理だ。右側の炎の部分には、なにか英文コピーを入れたくなるではないか。芳年は、20世紀の広告美術を先取りしていたのかもしれない。
対面の屋根に、鏡写しのように同じポーズの人物をシルエットで置くアイディアもクールだ。
あと、炎の黄色。この鮮やかさは、スキャン画像や図録、画集ではうまく出ない。これも現物を見た人だけが楽しめる特権。
------------------------------------------
月岡芳年 (1886.2) 月夜釜 小鮒の源吾 嶋矢伴蔵
同書, p.118
石川五右衛門の子分二人。見張り番が入ったままの大釜を盗んでしまい、中から声が聞こえるのを不審がっている様子。これも解説なしでは、なんだかさっぱりわかりませんね。でも、絵だけでも楽しめる一枚。
以前、
2017年9月3日日曜日 中谷伸生 『耳鳥斎アーカイヴズ』
でも、大坂の戯画「鳥羽絵」にちょっとだけ触れましたが、この絵はその鳥羽絵の影響というか、ちょっとパロってみました、という珍しい絵だ。鳥羽絵の特長は、異様に細長い腕と脚。
芳年は、こういうマンガ的な絵も描いていたんだなあ。もうちょっと、この路線も見てみたかった。
------------------------------------------
過去3回の展覧会で、だいぶ芳年とお近づきになれたような気がする。
しかしまだ、「血みどろ絵」はあまり見ていない。
今回の一連の展覧会では、意図的に「血みどろ絵」ははずされている。それは1970年代に芳年が注目された時に、こういった残虐絵ばかりが注目されたせい。その反動でしょう。
芳年は作品数も多いので、近々またどこかで展覧会がありそうな気がする。また行くぞ。
===========================================
(追記)@2017/09/16
・菅原真弓 (2009.11) 『浮世絵版画の十九世紀 風景の時間、歴史の空間』. 396pp. ブリュッケ, 国立(東京).
という本も、ちょうど読みました。目次だけ簡単に。
007-020 序章 語られなかった"過渡期"の日本美術 幕末明治美術への視点
021-160 第一部 十九世紀の浮世絵版画における風景主題 風景と時間をめぐって
023-075 第一章 歌川広重「木曽海道六拾九次」の「時間」
077-103 第二章 歌川広重と木曽街道の旅
105-131 第三章 歌川広重と縦絵の風景画
133-160 第四章 小林清親の光と広重受容
161-321 第二部 十九世紀の浮世絵版画における歴史主題 歴史と空間をめぐって
163-193 第五章 武者絵の十九世紀 葛飾北斎から歌川国芳へ
195-226 第六章 武者絵から歴史画へ 歌川国芳における画面拡大の意味
227-266 第七章 虚構から現実への階梯 月岡芳年「血みどろ絵」のリアリティ
267-321 第八章 十九世紀歴史画の確立 月岡芳年の『前賢故実』受容
323-327 終章 風景の時間と歴史の空間
329-333 あとがき 謝辞を兼ねて
335-387 資料・年譜
392-388 掲載図版一覧
395-393 索引
著者は大阪市立大学教授。2000~06年には中山道広重美術館学芸員だった関係上、第一部は当時の研究対象・広重に関する論考。
私としては、第二部の北斎、国芳、そして芳年に関する論考が特に面白かった。
芳年の元ネタとしての菊池容斎 (before 1868) 『前賢故実』を知れたのもよかった(第八章)。
この手の本、もっとないかな。探してみよう。
今年はもうないかな。でも、芳年作品はまだまだあるので、展覧会があれば、少し遠出してでも行くぞ。
しかし、やっぱり札幌の芳年展に行けなかったのは、かえすがえすも心残り。
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・太田記念美術館 > 展覧会 > 年間スケジュール > 特別展 月岡芳年 月百姿(as of 2017/06/28)
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/%E6%9C%88%E5%B2%A1%E8%8A%B3%E5%B9%B4%E3%80%80%E6%9C%88%E7%99%BE%E5%A7%BF
会期 : 2017年9月1日(金)~9月24日(日)(9月4、11、19日は休館します)
開館時間 : 午前10時30分~午後5時30分(入館は午後5時まで)
会場 : 太田記念美術館 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10
TEL : 03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料 : 一般 1000円、大高生※学生証をご提示ください。 700円、中学生以下※中学生は学生証(生徒手帳)をご提示ください。 無料(リピーター割引 「月岡芳年 妖怪百物語」および「月岡芳年 月百姿」両展覧会の会期中2回目以降ご鑑賞の方は、半券のご提示にて200円割引いたします。※チケット購入時に半券をご提示下さい。他の割引との併用はできません。
しまった!前回の半券忘れた。まあ前回、横浜の半券で割引してもらったからいいか。
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同展パンフレット, p.4
同展パンフレット, p.3
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「月百姿」は、芳年晩年の「月」をテーマにしたシリーズ。明治中期の作品だ。その百点を全点展示。見応えあったなあ。
晩年の筆致はかなり硬質になっており、闊達なところに乏しく、「硬すぎる」と感じるかもしれないが、その繊細かつ細かい描写を見ていくのが今回の見所だ。
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「月」というと、たいていは満月。この「月百姿」も大半は満月なのだが、三日月、上弦、下弦、二十三夜月、叢雲に隠れる月、とヴァリエーションもかなりあり、そのリズムを楽しむこともできる。
果ては、月を描かず、それを眺める人物で表現した絵、あるいは月の気配すらないものまである。これはもう、「このお話知ってるでしょ」という鑑賞者との間の暗黙の了解で成り立っているのだが、当時流行りのお話がネタ元なので、現代人の我々には解説がないとなかなか厳しい。明治人に生まれ変わるVirtual Realityって作れないもんか・・・。
また、浮世絵/錦絵最末期の彫り、摺り技術の到達点も見どころだ。本当に唸らされる。惜しい文化を亡くした。
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これが図録。今回も、一般書籍として書店でも販売されています。
・日野原健司・著, 太田記念美術館・監修 (2017.8) 『月岡芳年 月百姿』. 135pp. 青幻舎, 東京.
デザイン : 原条令子
「月」がテーマなのに、月を思わせる円を青で塗ったデザインが大胆だ。
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気に入った作品、あるいは気になったものをいくつか。
月岡芳年 (1886.9) はかなしや波の下にも入ぬべしつきの都の人や見るとて 有子
同書, p.14
身投げの直前に琵琶を弾く有子(ありこ)。『源平盛衰記』より。
ここでは月本体は描かれておらず、水面に反射する光で月の存在を表現しています。日本ならではの繊細な表現。
「月百姿」シリーズでは、空摺り、正面摺りの手法がふんだんに使われています。紙の裏から版木を当て、墨を付けずに摺り、画面に凹凸や部分的に光沢を出す手法です。たいていは、白、黒などの単色ベタ塗り面上に、柄を浮かび上がらせたり、光沢模様を出すために使われています。
このシリーズでは、白の四角に囲まれた題字にはすべて空摺りが入っていました。また、白地~薄色の着物にはたいてい空摺りで柄が浮かんでいましたね。
見渡したところ、しゃがんだり横から眺めたりして、空摺り、正面摺りを観察していたのは私だけだった。もったいない。空摺り、正面摺りは、図録や画集ではほとんど出ないので、現物を見た人だけが楽しめる技法なのに・・・。
さて、この絵では、空摺りが使われているのは、着物の柄ではなく、なんと水面の月光反射。画面下から上に伸びていく月光反射は上部では白い背景に消えていくのですが、実は画面の凹凸でその連続が見れるのです。これは是非、現物を見てもらうしかない。
なお本書では、正面摺りの解説が、p.64、p.88、p.106にあります。
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月岡芳年 (1886.3) 源氏夕顔巻
同書, p.42
薄墨で表現された夕顔の幽霊。色、線の繊細さ、素晴らしい。ボサボサの髪もまた哀れを誘う。前景に、実際の夕顔を配する構成も粋だ。
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月岡芳年 (1889) 雨中月 児島高徳
同書, p.72
南北朝時代、南朝の武将・児島高徳が後醍醐天皇の無事を祈る姿。
ここで注目は雨の表現。これは白い墨で刷ってあるのだ。こういう白墨を使った技法ははじめて見た。この技術、どの程度広まっていたのだろうか。興味あるなあ。
いずれにしろ、その後まもなく、この技法含め、浮世絵/錦絵まるごと滅びるわけですが・・・。
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月岡芳年 (1886.2) 烟中月
同書, p.90
明治時代とは思えない、モダンでスタイリッシュな画面処理だ。右側の炎の部分には、なにか英文コピーを入れたくなるではないか。芳年は、20世紀の広告美術を先取りしていたのかもしれない。
対面の屋根に、鏡写しのように同じポーズの人物をシルエットで置くアイディアもクールだ。
あと、炎の黄色。この鮮やかさは、スキャン画像や図録、画集ではうまく出ない。これも現物を見た人だけが楽しめる特権。
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月岡芳年 (1886.2) 月夜釜 小鮒の源吾 嶋矢伴蔵
同書, p.118
石川五右衛門の子分二人。見張り番が入ったままの大釜を盗んでしまい、中から声が聞こえるのを不審がっている様子。これも解説なしでは、なんだかさっぱりわかりませんね。でも、絵だけでも楽しめる一枚。
以前、
2017年9月3日日曜日 中谷伸生 『耳鳥斎アーカイヴズ』
でも、大坂の戯画「鳥羽絵」にちょっとだけ触れましたが、この絵はその鳥羽絵の影響というか、ちょっとパロってみました、という珍しい絵だ。鳥羽絵の特長は、異様に細長い腕と脚。
芳年は、こういうマンガ的な絵も描いていたんだなあ。もうちょっと、この路線も見てみたかった。
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過去3回の展覧会で、だいぶ芳年とお近づきになれたような気がする。
しかしまだ、「血みどろ絵」はあまり見ていない。
今回の一連の展覧会では、意図的に「血みどろ絵」ははずされている。それは1970年代に芳年が注目された時に、こういった残虐絵ばかりが注目されたせい。その反動でしょう。
芳年は作品数も多いので、近々またどこかで展覧会がありそうな気がする。また行くぞ。
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(追記)@2017/09/16
・菅原真弓 (2009.11) 『浮世絵版画の十九世紀 風景の時間、歴史の空間』. 396pp. ブリュッケ, 国立(東京).
という本も、ちょうど読みました。目次だけ簡単に。
007-020 序章 語られなかった"過渡期"の日本美術 幕末明治美術への視点
021-160 第一部 十九世紀の浮世絵版画における風景主題 風景と時間をめぐって
023-075 第一章 歌川広重「木曽海道六拾九次」の「時間」
077-103 第二章 歌川広重と木曽街道の旅
105-131 第三章 歌川広重と縦絵の風景画
133-160 第四章 小林清親の光と広重受容
161-321 第二部 十九世紀の浮世絵版画における歴史主題 歴史と空間をめぐって
163-193 第五章 武者絵の十九世紀 葛飾北斎から歌川国芳へ
195-226 第六章 武者絵から歴史画へ 歌川国芳における画面拡大の意味
227-266 第七章 虚構から現実への階梯 月岡芳年「血みどろ絵」のリアリティ
267-321 第八章 十九世紀歴史画の確立 月岡芳年の『前賢故実』受容
323-327 終章 風景の時間と歴史の空間
329-333 あとがき 謝辞を兼ねて
335-387 資料・年譜
392-388 掲載図版一覧
395-393 索引
著者は大阪市立大学教授。2000~06年には中山道広重美術館学芸員だった関係上、第一部は当時の研究対象・広重に関する論考。
私としては、第二部の北斎、国芳、そして芳年に関する論考が特に面白かった。
芳年の元ネタとしての菊池容斎 (before 1868) 『前賢故実』を知れたのもよかった(第八章)。
この手の本、もっとないかな。探してみよう。
2017年9月13日水曜日
小坂俊史5連発(2) 『これでおわりです。』『ふたりごと自由帳』『まどいのよそじ 1』
次に竹書房が振ったお題は「おわり」。
・小坂俊史 (2016.3) 『これでおわりです。』(BAMBOO COMICS). 139pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : まんがライフSTORIA, vol.1(2013年3月)-16(2016年3月).
装丁:名和田耕平デザイン事務所
------------------------------------------
今回は4コマじゃなくて、8ページのショート・ストーリー。全部「最後の××」というタイトル。
これまでほとんど4コマばかりだった小坂氏にとっては、一見むずかしいタスクか?と思いきや、実はそれほどでもなかった。その理由は後述。
8ページとはいえ、最後のページには必ず、はっきり「オチ」と納得できる「オチ」が用意してある。四コマ師の習性ですなあ。作者も「かなり4コマと同じ方法論でなんとかなった気がします」と言う通り。
------------------------------------------
その「オチ」も、かなりどんでん返しと呼べるものが多い。
「最後の納品」では、事務用品の納入先でOLさんにアタックし続けたがふられ続け、さらには取引が打ち切りとなり、最後の納品。しかし翌日に、なぜか納入したばかりのコピー用紙1ケースがさらに注文が入る。「これは!!」と、納入に行った先で見たものは・・・。
すごいオチだ。「なぜだ!?」がいつまでも止まらないよ。ある意味不条理オチとも言える。
------------------------------------------
「最後の営業日」の舞台は、おばあちゃんの店を継いだものの、あえなく「本日で閉店」のせんべい屋。これが「店舗プロデュース」業者の目に止まり、スタイル変更で大繁盛。
しかしこれが「オチ」ではない。オチは、実は「本日で閉店」の貼り紙だ。ね、読みたくなったでしょ。
なんか、モーパッサンあたりの雰囲気もある、気の利いた名品だ。
------------------------------------------
「最後の打者」は、高校野球の予選が舞台。9回裏7点差を追う2アウト、ランナーなしでの打席。「絶対"最後の打者"にだけはなりたくない!」という瀬戸くん。
幸いデッドボールで塁に出て、「最後の打者」は免れたものの、その後チームは連打に次ぐ連打、6点を返して打者一巡。2アウト満塁で瀬戸くん2度目の打席。
再度「最後の打者」の可能性が回ってきてしまったのだ。さあ、どうなる瀬戸!
で、ページをめくると最後のページの1コマ目は「瀬戸、三振!」。ところが、その後に驚くべき展開が待っているのだ。
あまりの急展開、というか、一回読んだだけでは理解不能。2~3回読んでようやく理解ができる、という代物だ。
わかりにくいのは、作者は計算ずくだろう。これまで「わかりやすさ」を売りにしてきた小坂氏にしては、実験作と言える。
しかし、「四コマ王子も、このレベルまで来ていたのか」と驚くばかりの作品です。
------------------------------------------
他にも、派手な落ちこそないものの、「最後の名前」の分目(わんめ)六郎くん、「最後の卒業生」で離島小学校最後の卒業生から今度は復活した同じ離島小学校に赴任した朝木はるか、あたりも、それほど派手なオチじゃないが、味わい深い。
タバコがきっかけで会社一の美女といい感じになったが、最後のページでドタバタ展開していく「最後の一本」もいい。それまでのゆったりしたペースと、最終ページの駆け足具合のコントラストに、作者の技が光る。
------------------------------------------
とにかく濃い作品集だ。どこから見つけてくるのか、舞台設定の多彩さもすごい。
あと、絵がちょっと変わってきている。少し、最近の内田春菊の影響があるような気がする。狭い四コマの制限から逃れて、頭身も少し高くなってますね。
------------------------------------------
小坂氏にしては珍しい作品集と思うかもしれないが、実はこの作品と似たテイストの試みは、10年以上前に行われていたのだ。それがこれ↓
・小坂俊史+重野なおき (2007.7) 『ふたりごと自由帳』(MANGA TIME COMICS). 201pp. 芳文社, 東京.
← 初出 : (2002.2-06.11) 同人誌.
------------------------------------------
これはプロ・マンガ家の傍ら、同人誌で発表し続けた二人の作品をまとめたもの。「重野なおき」も主に四コマ界で活躍している人。大きな目のかわいい絵を描く人だ。
好きなように描いた作品ばかりなので、あまり派手なオチを用意していない。比較的落ち着いた雰囲気の作品ばかりだ。
作者らが「笑いを意識しないものを目指した結果が このしみったれたショート集です」という通り。
四コマも多いが、小坂氏はここで2~5ページのショート物に挑戦している。しみじみ物が多く、小坂氏の一方の資質が発揮されたもの。これ、最近の作風によく似ている。
中でも、連作「女子旅に出る」シリーズはどれも好きだなあ。「水谷フーカかよ!?」とも思える、百合ものもあったりして意外性も。
------------------------------------------
プロでも、余裕があったら、読者受けを考えないこういう同人活動をするのは重要なんだなあ、と実感した。行き詰まってるマンガ家には、そこで次の展開へのヒントが掴めると思う。
これも小坂氏にとって重要作ですね。
------------------------------------------
さあ、そして、これまでの活動、特に「これでおわりです。」が大手の目に止まって、ついに小学館再デビュー(注)。それがこれ↓。
・小坂俊史 (2016.3) 『まどいのよそじ 1』(BIG COMICS SPECIAL). 158pp. 小学館, 東京.
← 初出 : ビッグコミック・オリジナル, 2014年 no.7~2015年 no.22/ビッグコミック・オリジナル増刊号, 2014年1月号~2015年11月号.
装丁:名和田耕平デザイン事務所
単行本は、『これでおわりです。』と同時発売。装丁も、名和田耕平デザイン事務所による似たテイストでそろえてある。
(注)@2017/09/14
当初「ついに小学館デビュー」と書いてしまいましたが、
・ウィキペディア > 小坂俊史(最終更新 2017年6月29日 (木) 13:39)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%9D%82%E4%BF%8A%E5%8F%B2
によると、2002~04年に、ビッグコミック増刊号で「空ぶり魂」を連載していたようです。なので「再デビュー」に修正。
(再追記)@2017/09/14
あっ、よく見ると『れんげヌードルライフ』も、連載はBC増刊(2004~09年)じゃないか。
これも長年連載していたのに、小学館から単行本を出してもらえなかった、かわいそうな作品(単行本は竹書房から出た)。
まあでも、久々の小学館登場なのは間違いない。
------------------------------------------
小学館は、編集の口出しが多いんだろうなあ。竹書房や芳文社での作品に比べて、ちょっと窮屈そうだ。
テーマは「四十路」ということで、しょぼくれた展開が多いし、オチも「きれいにまとめよう」という方針が、やや堅苦しい。まあ、いかにも小学館、特にBCオリジナルらしい、とも言えるけど。
------------------------------------------
それと、絵に「かわいさ」がなくなってきている。頭身も微妙に高い。まあ、テーマが「四十路」じゃしょうがないけど。
しかし、ここは「セーラー服」みたいに、無理やり女子中学生を出して、いつもの小坂流を押し通す時があってもいいんじゃないかな。
とはいえ、この作品集もレベルは高く、今回挙げた一連の作品集を読むと、小坂マンガの奥深さがより感じられると思う。
------------------------------------------
このレベルまで来ている四コマの達人に用意されている次の舞台は、おそらく「新聞四コマ」だろう。
1991年に「いしいひさいち」が朝日新聞に登場して、「ついにこんな時代が来たか」と感慨深かったものだが、先んじていた植田まさし「コボちゃん」(1982年~連載継続)に加え、最近では、しりあがり寿、森下裕美、いしかわじゅん、唐沢なをき、と才能あるマンガ家が参入。なかなか楽しい時代になった。
しかし、いしいひさいち「となりの山田くん」~「ののちゃん」ももう26年。植田まさし「コボちゃん」に至っては35年だ。そろそろ世代交代がある頃かもしれない。
その時に真っ先に名前の上がるのが小坂俊史でしょうね。いやあ、小坂四コマを毎日見てみたいねえ。
「ほのぼのもの」ありの、「しんみりもの」ありの、どんでん返しもありの、時には毒も吐き・・・。万能じゃないですか(最近の新聞四コマでは、時事ネタをあまり期待されていないので、そっちの心配もいらないし)。
新聞四コマ連載できれば、経済的には安泰だけれど、消耗度もすごいらしいから、それで竹書房や芳文社でリラックスした作品を描く余裕がなくなるのも嫌だなあ。悩む(笑)。
------------------------------------------
まあ、今そんな妄想してもしょうがないので、これで終わるが、とにかく小坂俊史が「四コマ王子」から「四コマ王」になる日も近いと見たね。
褒めすぎたかな(笑)。でも「泡沫四コマかよ」と馬鹿にして、今まで読んだことない人はぜひ一度どうぞ。どの作品も、面白さは保証します。
・小坂俊史 (2016.3) 『これでおわりです。』(BAMBOO COMICS). 139pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : まんがライフSTORIA, vol.1(2013年3月)-16(2016年3月).
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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今回は4コマじゃなくて、8ページのショート・ストーリー。全部「最後の××」というタイトル。
これまでほとんど4コマばかりだった小坂氏にとっては、一見むずかしいタスクか?と思いきや、実はそれほどでもなかった。その理由は後述。
8ページとはいえ、最後のページには必ず、はっきり「オチ」と納得できる「オチ」が用意してある。四コマ師の習性ですなあ。作者も「かなり4コマと同じ方法論でなんとかなった気がします」と言う通り。
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その「オチ」も、かなりどんでん返しと呼べるものが多い。
「最後の納品」では、事務用品の納入先でOLさんにアタックし続けたがふられ続け、さらには取引が打ち切りとなり、最後の納品。しかし翌日に、なぜか納入したばかりのコピー用紙1ケースがさらに注文が入る。「これは!!」と、納入に行った先で見たものは・・・。
すごいオチだ。「なぜだ!?」がいつまでも止まらないよ。ある意味不条理オチとも言える。
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「最後の営業日」の舞台は、おばあちゃんの店を継いだものの、あえなく「本日で閉店」のせんべい屋。これが「店舗プロデュース」業者の目に止まり、スタイル変更で大繁盛。
しかしこれが「オチ」ではない。オチは、実は「本日で閉店」の貼り紙だ。ね、読みたくなったでしょ。
なんか、モーパッサンあたりの雰囲気もある、気の利いた名品だ。
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「最後の打者」は、高校野球の予選が舞台。9回裏7点差を追う2アウト、ランナーなしでの打席。「絶対"最後の打者"にだけはなりたくない!」という瀬戸くん。
幸いデッドボールで塁に出て、「最後の打者」は免れたものの、その後チームは連打に次ぐ連打、6点を返して打者一巡。2アウト満塁で瀬戸くん2度目の打席。
再度「最後の打者」の可能性が回ってきてしまったのだ。さあ、どうなる瀬戸!
で、ページをめくると最後のページの1コマ目は「瀬戸、三振!」。ところが、その後に驚くべき展開が待っているのだ。
あまりの急展開、というか、一回読んだだけでは理解不能。2~3回読んでようやく理解ができる、という代物だ。
わかりにくいのは、作者は計算ずくだろう。これまで「わかりやすさ」を売りにしてきた小坂氏にしては、実験作と言える。
しかし、「四コマ王子も、このレベルまで来ていたのか」と驚くばかりの作品です。
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他にも、派手な落ちこそないものの、「最後の名前」の分目(わんめ)六郎くん、「最後の卒業生」で離島小学校最後の卒業生から今度は復活した同じ離島小学校に赴任した朝木はるか、あたりも、それほど派手なオチじゃないが、味わい深い。
タバコがきっかけで会社一の美女といい感じになったが、最後のページでドタバタ展開していく「最後の一本」もいい。それまでのゆったりしたペースと、最終ページの駆け足具合のコントラストに、作者の技が光る。
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とにかく濃い作品集だ。どこから見つけてくるのか、舞台設定の多彩さもすごい。
あと、絵がちょっと変わってきている。少し、最近の内田春菊の影響があるような気がする。狭い四コマの制限から逃れて、頭身も少し高くなってますね。
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小坂氏にしては珍しい作品集と思うかもしれないが、実はこの作品と似たテイストの試みは、10年以上前に行われていたのだ。それがこれ↓
・小坂俊史+重野なおき (2007.7) 『ふたりごと自由帳』(MANGA TIME COMICS). 201pp. 芳文社, 東京.
← 初出 : (2002.2-06.11) 同人誌.
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これはプロ・マンガ家の傍ら、同人誌で発表し続けた二人の作品をまとめたもの。「重野なおき」も主に四コマ界で活躍している人。大きな目のかわいい絵を描く人だ。
好きなように描いた作品ばかりなので、あまり派手なオチを用意していない。比較的落ち着いた雰囲気の作品ばかりだ。
作者らが「笑いを意識しないものを目指した結果が このしみったれたショート集です」という通り。
四コマも多いが、小坂氏はここで2~5ページのショート物に挑戦している。しみじみ物が多く、小坂氏の一方の資質が発揮されたもの。これ、最近の作風によく似ている。
中でも、連作「女子旅に出る」シリーズはどれも好きだなあ。「水谷フーカかよ!?」とも思える、百合ものもあったりして意外性も。
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プロでも、余裕があったら、読者受けを考えないこういう同人活動をするのは重要なんだなあ、と実感した。行き詰まってるマンガ家には、そこで次の展開へのヒントが掴めると思う。
これも小坂氏にとって重要作ですね。
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さあ、そして、これまでの活動、特に「これでおわりです。」が大手の目に止まって、ついに小学館再デビュー(注)。それがこれ↓。
・小坂俊史 (2016.3) 『まどいのよそじ 1』(BIG COMICS SPECIAL). 158pp. 小学館, 東京.
← 初出 : ビッグコミック・オリジナル, 2014年 no.7~2015年 no.22/ビッグコミック・オリジナル増刊号, 2014年1月号~2015年11月号.
装丁:名和田耕平デザイン事務所
単行本は、『これでおわりです。』と同時発売。装丁も、名和田耕平デザイン事務所による似たテイストでそろえてある。
(注)@2017/09/14
当初「ついに小学館デビュー」と書いてしまいましたが、
・ウィキペディア > 小坂俊史(最終更新 2017年6月29日 (木) 13:39)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%9D%82%E4%BF%8A%E5%8F%B2
によると、2002~04年に、ビッグコミック増刊号で「空ぶり魂」を連載していたようです。なので「再デビュー」に修正。
(再追記)@2017/09/14
あっ、よく見ると『れんげヌードルライフ』も、連載はBC増刊(2004~09年)じゃないか。
これも長年連載していたのに、小学館から単行本を出してもらえなかった、かわいそうな作品(単行本は竹書房から出た)。
まあでも、久々の小学館登場なのは間違いない。
小学館は、編集の口出しが多いんだろうなあ。竹書房や芳文社での作品に比べて、ちょっと窮屈そうだ。
テーマは「四十路」ということで、しょぼくれた展開が多いし、オチも「きれいにまとめよう」という方針が、やや堅苦しい。まあ、いかにも小学館、特にBCオリジナルらしい、とも言えるけど。
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それと、絵に「かわいさ」がなくなってきている。頭身も微妙に高い。まあ、テーマが「四十路」じゃしょうがないけど。
しかし、ここは「セーラー服」みたいに、無理やり女子中学生を出して、いつもの小坂流を押し通す時があってもいいんじゃないかな。
とはいえ、この作品集もレベルは高く、今回挙げた一連の作品集を読むと、小坂マンガの奥深さがより感じられると思う。
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このレベルまで来ている四コマの達人に用意されている次の舞台は、おそらく「新聞四コマ」だろう。
1991年に「いしいひさいち」が朝日新聞に登場して、「ついにこんな時代が来たか」と感慨深かったものだが、先んじていた植田まさし「コボちゃん」(1982年~連載継続)に加え、最近では、しりあがり寿、森下裕美、いしかわじゅん、唐沢なをき、と才能あるマンガ家が参入。なかなか楽しい時代になった。
しかし、いしいひさいち「となりの山田くん」~「ののちゃん」ももう26年。植田まさし「コボちゃん」に至っては35年だ。そろそろ世代交代がある頃かもしれない。
その時に真っ先に名前の上がるのが小坂俊史でしょうね。いやあ、小坂四コマを毎日見てみたいねえ。
「ほのぼのもの」ありの、「しんみりもの」ありの、どんでん返しもありの、時には毒も吐き・・・。万能じゃないですか(最近の新聞四コマでは、時事ネタをあまり期待されていないので、そっちの心配もいらないし)。
新聞四コマ連載できれば、経済的には安泰だけれど、消耗度もすごいらしいから、それで竹書房や芳文社でリラックスした作品を描く余裕がなくなるのも嫌だなあ。悩む(笑)。
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まあ、今そんな妄想してもしょうがないので、これで終わるが、とにかく小坂俊史が「四コマ王子」から「四コマ王」になる日も近いと見たね。
褒めすぎたかな(笑)。でも「泡沫四コマかよ」と馬鹿にして、今まで読んだことない人はぜひ一度どうぞ。どの作品も、面白さは保証します。
2017年9月10日日曜日
小坂俊史5連発(1) 『モノローグジェネレーション』『月刊すてきな終活』
かつて、本屋に行って、特に買いたいものが見当たらない、でも何か読みたい。そんな時、「これでも買っておくか」という代打的存在だったのが、唐沢なをき。
決して馬鹿にしているわけじゃなくて、「この人のマンガなら絶対ハズレはない」という篤い信頼と思ってください。熱心なファンとはいえないけど、唐沢商会名義のものを含めて30冊くらい持ってる。
こういう人の条件は、安定した面白さ、出版点数が多いこと、この2つですね。
------------------------------------------
で、それが今は、小坂俊史(こさかしゅんじ)になってます。
小坂俊史のマンガはこれまで
2016年8月24日水曜日 『終電ちゃん』の副読本2冊
で、『中央モノローグ線』(2009年)を、
2017年3月6日月曜日 小坂俊史 『遠野モノがたり』の座敷童子と終電ちゃん
で、モノローグ・シリーズの続編、『遠野モノがたり』(2011年)を取り上げました。
------------------------------------------
そのモノローグ・シリーズの完結編(て、ほどではないけど)が、
・小坂俊史 (2013.5) 『モノローグジェネレーション』(BAMBOO COMICS). 115pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : 月刊まんがライフオリジナル, 2011年8月号~2013年3月号.
装丁:名和田耕平デザイン事務所
------------------------------------------
今回は、シリーズ・レギュラーであるイラストレーター「なのか」をはじめ、中1(13歳)から72歳まで、いろんな世代の8人のレギュラー+単発が十人くらい(ちゃんと数えていない)の女性のモノローグ四コマ。
前2作のような場所の縛りはないので、ちょっと焦点がボケた感があるけど、相変わらずレベルは高い。ストリート・ミュージシャンのニコ(24歳)のエピソードが一番好きだ。あと、女子中学生ものを描かすと、この人はホントうまいですね。
30代イラストレーター「なのか」が、作者の分身に当たるのだろう。「埋もれたままの中堅」なんて、ずいぶん自虐的だが、いやいや、小坂さん、あんたもう「巨匠」の域に半分足突っ込んでますよ。
------------------------------------------
モノローグ・シリーズが終わって、次に竹書房が小坂氏に課したタスクはとんでもないものだった!それがこれ↓
・小坂俊史 (2014.12) 『月刊すてきな終活』(BAMBOO COMICS). 109pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : 月刊まんがライフオリジナル, 2013年7月号~2014年11月号.
装丁:名和田耕平デザイン事務所
------------------------------------------
なんと「「終活」をテーマに四コマ「ギャグ」を描け!」というのだ。無理筋だよな~、普通。
でもこれが、暗くならず(ほどほど湿っぽいのはしょうがない)、かといって「死」に対して失礼にならない形で、ちゃんとギャグになっているのだから驚きだ。
登場人物は、必然的に高齢者が多くなった。しかし、高齢者を描けるようになったことで、その後の作品でも登場人物に広がりが出て、また深みのあるマンガになって来た。
高齢者ばかりだと、ほんとにマジな「終活」になってしまうので、中学生や20代の若者、30~40代の中年も無理やり突っ込んでくる、その力技にも舌を巻く。
------------------------------------------
だいたい、「強盗殺人で無期懲役(刑期は結局37年)くらって出所してきた78歳」のマンガなんて、シリアス・ストーリー・マンガでさえおいそれとは描けないのに、それをギャグ四コマできっちり描いてしまうのだ。
犯行時のフラッシュバックや被害者遺族への謝罪まで「ギャグ四コマ」で描く。驚きですよね。
------------------------------------------
基本的に毎回一人を取り上げているのだが、一人だけ毎回登場するのが、「余命●カ月の女(33)」。これも連載最後のオチはちゃんと暗くならずにまとめてる。さすがだ。
『中央モノローグ線』の祥子とか、『球場のシンデレラ』の桶川さんとかと同系の、お馴染みのネガティブ担当レギュラーだが、作者にとっては動かしやすいキャラなんだろうな。
こういう作者がいじりやすいキャラを見つけると、どの作品でも安定度が俄然増してくる。
------------------------------------------
あとがきを読むと、さすがの「四コマ王子」(もうこのキャッチフレーズも恥ずかしい年頃か?)もネタをひねり出すのに七転八倒の苦しみだったらしい。同情するわ。
しかし、この作品は小坂氏の一つメルクマールになった作品じゃないかと思う。
そして、次の作品がさらにすごかった!
以下次回。
決して馬鹿にしているわけじゃなくて、「この人のマンガなら絶対ハズレはない」という篤い信頼と思ってください。熱心なファンとはいえないけど、唐沢商会名義のものを含めて30冊くらい持ってる。
こういう人の条件は、安定した面白さ、出版点数が多いこと、この2つですね。
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で、それが今は、小坂俊史(こさかしゅんじ)になってます。
小坂俊史のマンガはこれまで
2016年8月24日水曜日 『終電ちゃん』の副読本2冊
で、『中央モノローグ線』(2009年)を、
2017年3月6日月曜日 小坂俊史 『遠野モノがたり』の座敷童子と終電ちゃん
で、モノローグ・シリーズの続編、『遠野モノがたり』(2011年)を取り上げました。
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そのモノローグ・シリーズの完結編(て、ほどではないけど)が、
・小坂俊史 (2013.5) 『モノローグジェネレーション』(BAMBOO COMICS). 115pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : 月刊まんがライフオリジナル, 2011年8月号~2013年3月号.
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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今回は、シリーズ・レギュラーであるイラストレーター「なのか」をはじめ、中1(13歳)から72歳まで、いろんな世代の8人のレギュラー+単発が十人くらい(ちゃんと数えていない)の女性のモノローグ四コマ。
前2作のような場所の縛りはないので、ちょっと焦点がボケた感があるけど、相変わらずレベルは高い。ストリート・ミュージシャンのニコ(24歳)のエピソードが一番好きだ。あと、女子中学生ものを描かすと、この人はホントうまいですね。
30代イラストレーター「なのか」が、作者の分身に当たるのだろう。「埋もれたままの中堅」なんて、ずいぶん自虐的だが、いやいや、小坂さん、あんたもう「巨匠」の域に半分足突っ込んでますよ。
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モノローグ・シリーズが終わって、次に竹書房が小坂氏に課したタスクはとんでもないものだった!それがこれ↓
・小坂俊史 (2014.12) 『月刊すてきな終活』(BAMBOO COMICS). 109pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : 月刊まんがライフオリジナル, 2013年7月号~2014年11月号.
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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なんと「「終活」をテーマに四コマ「ギャグ」を描け!」というのだ。無理筋だよな~、普通。
でもこれが、暗くならず(ほどほど湿っぽいのはしょうがない)、かといって「死」に対して失礼にならない形で、ちゃんとギャグになっているのだから驚きだ。
登場人物は、必然的に高齢者が多くなった。しかし、高齢者を描けるようになったことで、その後の作品でも登場人物に広がりが出て、また深みのあるマンガになって来た。
高齢者ばかりだと、ほんとにマジな「終活」になってしまうので、中学生や20代の若者、30~40代の中年も無理やり突っ込んでくる、その力技にも舌を巻く。
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だいたい、「強盗殺人で無期懲役(刑期は結局37年)くらって出所してきた78歳」のマンガなんて、シリアス・ストーリー・マンガでさえおいそれとは描けないのに、それをギャグ四コマできっちり描いてしまうのだ。
犯行時のフラッシュバックや被害者遺族への謝罪まで「ギャグ四コマ」で描く。驚きですよね。
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基本的に毎回一人を取り上げているのだが、一人だけ毎回登場するのが、「余命●カ月の女(33)」。これも連載最後のオチはちゃんと暗くならずにまとめてる。さすがだ。
『中央モノローグ線』の祥子とか、『球場のシンデレラ』の桶川さんとかと同系の、お馴染みのネガティブ担当レギュラーだが、作者にとっては動かしやすいキャラなんだろうな。
こういう作者がいじりやすいキャラを見つけると、どの作品でも安定度が俄然増してくる。
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あとがきを読むと、さすがの「四コマ王子」(もうこのキャッチフレーズも恥ずかしい年頃か?)もネタをひねり出すのに七転八倒の苦しみだったらしい。同情するわ。
しかし、この作品は小坂氏の一つメルクマールになった作品じゃないかと思う。
そして、次の作品がさらにすごかった!
以下次回。
2017年9月3日日曜日
中谷伸生 『耳鳥斎アーカイヴズ』
前回ちょっと紹介した耳鳥斎(にちょうさい)に関する唯一の本
・中谷伸生 (2015.3) 『耳鳥齋アーカイヴズ 江戸時代における大坂の戯画』(関西大学東西学術研究所資料集刊36). vi+209pp. 関西大学出版部, 吹田(大阪).
を図書館から借りてきました。
中谷先生は、関西大学・文学部の教授。耳鳥斎を研究しているのは、今は中谷先生だけのよう。
------------------------------------------
耳鳥斎とは、江戸中期の大阪の画人。生年は不明。没年は1803年。少なくとも53歳まで生きたことが確認されているが、謎の多い人物である。
本名・松屋半三郎。よって松屋耳鳥斎とも呼ばれる。
酒造家を経営していたが、これを潰してしまい、骨董商に。並行して画人として活躍し、名を上げた人。
まあ芸事が高じた放蕩旦那ですね。耳鳥斎みたいにそこそこ成功した人はごく一部で、こういう碌でもない旦那衆はたくさんいたんだろうなあ。
------------------------------------------
耳鳥斎の特長は、「おもしろい」「かわいい」だ。いわゆる戯画の系統に分類され、美術史上の評価は高くない。が、これをマイナーなままにしておくのはもったいない。耳鳥斎に関する本だって、上記1冊しかないなんて。
耳鳥斎は狩野派に学んだというが、その片鱗はあまり見えない。関西で流行ったらしい、手足を長く描く「鳥羽絵」というふざけた絵を描く一派であるのは間違いないが、耳鳥斎はそこから頭ひとつ図抜けた存在。当時の大阪で人気の画人だったらしい。
俳人・画人として有名な与謝蕪村との共通点も指摘されている。
------------------------------------------
上記書の表紙は、耳鳥斎の代表作
・耳鳥斎 (ca.1793) 「別世界巻」
からの抜粋。この作品は、いろんな職業の人が地獄に落ちたら、それぞれの職業にちなんだ刑罰を受ける(だったら、おもしろいなあ)という戯画集だ。
左上が「錆どうぐやの地獄」から。「茶道具商が地獄に送られると、茶壺を鬼にかぶせられる」という刑罰なんだが、たいした苦痛じゃないなあ(笑)。
下は「かぶき役者の地獄」から。「下手な歌舞伎役者が地獄に送られると、大根と一緒に煮られる」という刑罰。これも風呂につかってるようで、のんき、楽しそう。一番左の亡者なんて、どう見ても笑ってるよ。
こういった具合で、耳鳥斎の絵は、どれもとぼけていて、お笑いの要素が強い。大坂の「とぼけ型お笑い」の志向は、江戸時代から変わりませんね。
------------------------------------------
「別世界巻」から、もう少し紹介しておこう。
耳鳥斎(ca.1793)「別世界巻(明神講中の地獄)」
中谷(2015), p.39より
これも、刑罰を受けている亡者はみんな笑ってるよ(笑)。鳥居の周りを跳ねまわったり、落っこちたりしてるのも、意味わからん。ポーズもみんな変。
同じ大阪のマンガ家「川崎ゆきお」にも通じる動き。やっぱ大阪だあ。
------------------------------------------
耳鳥斎(ca.1793)「別世界巻(衆道好の地獄)」
中谷(2015), p.42より
「ホモが落ちる地獄」ですね。タガネでオカマを掘られているのに、うれしそう。
あっ、こいつ「受け」だ!刑罰になってないじゃないか(笑)。
------------------------------------------
耳鳥斎の同時期の作品
・耳鳥斎 (1793) 「地獄図巻」
からも1枚。前回紹介した「地獄絵ワンダーランド」では、この現物が展示されていたのですよ。見に行ってよかったなあ。
耳鳥斎(1793)「地獄図巻(歌舞伎役者の地獄)」
中谷(2015), p.51
これもさっきと同じ「大根役者が受ける刑罰」なんだが、今度は磔にされて大根をくわえさせられてるよ。これもあんまり苦痛じゃなさそう。みんな顔は笑ってる。
しかし、耳鳥斎の地獄は、どれも全然怖くないですね。「地獄絵ワンダーランド」展でも異彩を放ってました。
------------------------------------------
中谷書よりもう1枚
耳鳥斎(18世紀後半)「相撲之図」
中谷(2015), p.4
負けた力士の、黒丸目と一本の直線で表現された口。喝采を送る客の顔もそんな感じ。江戸時代とは思えない「カワイイ絵」だ。
行司のストーンとした脚もシンプルでいい。
------------------------------------------
Google画像検索で「耳鳥斎」で検索するだけで、耳鳥斎の「カワイイ絵」がたくさん出てきます。
Google画像検索「耳鳥斎」
なんかAppleが、耳鳥斎の絵を大量に無料配信しているらしいのだ。出てくるのは、
・耳鳥斎 (1780) 『絵本水や空』
からの絵が多いよう。これは、当時の人気役者の似顔絵だが、江戸の浮世絵とはだいぶ趣向が違うね。とにかく、カワイク、おもしろい。
中村次郎三なんてほんとにこんな顔だったのか?見てみたくなる。
------------------------------------------
耳鳥斎は、明治~昭和前期にはまだまだ人気だった。
岡本一平(1886~1948)が1930年に耳鳥斎のオマージュ『新水や空』を出したり、宮尾しげを(1902~1982、岡本一平の弟子)が1934年に『絵本水や空』の復刻本を出したりしていたという。
しかし次第に忘れ去られ、現代人にはほとんど知られていない状態だが・・・。いやいや、これは今でも充分通じる面白さだぞ。もっと人気が出てほしい。
------------------------------------------
展覧会は、これまでただ一度開催されたことがある。
・伊丹市立美術館 > 展覧会 > 過去の展覧会 > 2005年度 > 笑いの奇才・耳鳥斎! 近世大坂の戯画 2005年4月9日(土)~5月22日(日)
http://www.artmuseum-itami.jp/2005_h17/05nichosai.html
ああ、これは見たかった。その図録
・伊丹市立美術館・編 (2005) 『笑いの奇才・耳鳥斎! 近世大坂の戯画』. 115pp. 伊丹市立美術館, 伊丹(大阪).
も是非ほしいが、なかなか入手難らしい。まあのんびり探そう。
しかし、それよりもぜひまた展覧会をやってほしい。大阪だろうが北海道だろうが、絶対見に行くぞ!
そしていずれは、とんぼの本(新潮社)、ふくろうの本(河出書房新社)、コロナ・ブックス(平凡社)、別冊太陽(平凡社)あたりから、しっかりした本を出してほしい。もちろん著者は中谷先生で。
------------------------------------------
参考:
・ウィキペディア > 耳鳥斎(最終更新 2015年7月13日 (月) 07:18)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%80%B3%E9%B3%A5%E6%96%8E
・中谷伸生 (2015.3) 『耳鳥齋アーカイヴズ 江戸時代における大坂の戯画』(関西大学東西学術研究所資料集刊36). vi+209pp. 関西大学出版部, 吹田(大阪).
を図書館から借りてきました。
中谷先生は、関西大学・文学部の教授。耳鳥斎を研究しているのは、今は中谷先生だけのよう。
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耳鳥斎とは、江戸中期の大阪の画人。生年は不明。没年は1803年。少なくとも53歳まで生きたことが確認されているが、謎の多い人物である。
本名・松屋半三郎。よって松屋耳鳥斎とも呼ばれる。
酒造家を経営していたが、これを潰してしまい、骨董商に。並行して画人として活躍し、名を上げた人。
まあ芸事が高じた放蕩旦那ですね。耳鳥斎みたいにそこそこ成功した人はごく一部で、こういう碌でもない旦那衆はたくさんいたんだろうなあ。
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耳鳥斎の特長は、「おもしろい」「かわいい」だ。いわゆる戯画の系統に分類され、美術史上の評価は高くない。が、これをマイナーなままにしておくのはもったいない。耳鳥斎に関する本だって、上記1冊しかないなんて。
耳鳥斎は狩野派に学んだというが、その片鱗はあまり見えない。関西で流行ったらしい、手足を長く描く「鳥羽絵」というふざけた絵を描く一派であるのは間違いないが、耳鳥斎はそこから頭ひとつ図抜けた存在。当時の大阪で人気の画人だったらしい。
俳人・画人として有名な与謝蕪村との共通点も指摘されている。
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上記書の表紙は、耳鳥斎の代表作
・耳鳥斎 (ca.1793) 「別世界巻」
からの抜粋。この作品は、いろんな職業の人が地獄に落ちたら、それぞれの職業にちなんだ刑罰を受ける(だったら、おもしろいなあ)という戯画集だ。
左上が「錆どうぐやの地獄」から。「茶道具商が地獄に送られると、茶壺を鬼にかぶせられる」という刑罰なんだが、たいした苦痛じゃないなあ(笑)。
下は「かぶき役者の地獄」から。「下手な歌舞伎役者が地獄に送られると、大根と一緒に煮られる」という刑罰。これも風呂につかってるようで、のんき、楽しそう。一番左の亡者なんて、どう見ても笑ってるよ。
こういった具合で、耳鳥斎の絵は、どれもとぼけていて、お笑いの要素が強い。大坂の「とぼけ型お笑い」の志向は、江戸時代から変わりませんね。
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「別世界巻」から、もう少し紹介しておこう。
耳鳥斎(ca.1793)「別世界巻(明神講中の地獄)」
中谷(2015), p.39より
これも、刑罰を受けている亡者はみんな笑ってるよ(笑)。鳥居の周りを跳ねまわったり、落っこちたりしてるのも、意味わからん。ポーズもみんな変。
同じ大阪のマンガ家「川崎ゆきお」にも通じる動き。やっぱ大阪だあ。
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耳鳥斎(ca.1793)「別世界巻(衆道好の地獄)」
中谷(2015), p.42より
「ホモが落ちる地獄」ですね。タガネでオカマを掘られているのに、うれしそう。
あっ、こいつ「受け」だ!刑罰になってないじゃないか(笑)。
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耳鳥斎の同時期の作品
・耳鳥斎 (1793) 「地獄図巻」
からも1枚。前回紹介した「地獄絵ワンダーランド」では、この現物が展示されていたのですよ。見に行ってよかったなあ。
耳鳥斎(1793)「地獄図巻(歌舞伎役者の地獄)」
中谷(2015), p.51
これもさっきと同じ「大根役者が受ける刑罰」なんだが、今度は磔にされて大根をくわえさせられてるよ。これもあんまり苦痛じゃなさそう。みんな顔は笑ってる。
しかし、耳鳥斎の地獄は、どれも全然怖くないですね。「地獄絵ワンダーランド」展でも異彩を放ってました。
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中谷書よりもう1枚
耳鳥斎(18世紀後半)「相撲之図」
中谷(2015), p.4
負けた力士の、黒丸目と一本の直線で表現された口。喝采を送る客の顔もそんな感じ。江戸時代とは思えない「カワイイ絵」だ。
行司のストーンとした脚もシンプルでいい。
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Google画像検索で「耳鳥斎」で検索するだけで、耳鳥斎の「カワイイ絵」がたくさん出てきます。
Google画像検索「耳鳥斎」
なんかAppleが、耳鳥斎の絵を大量に無料配信しているらしいのだ。出てくるのは、
・耳鳥斎 (1780) 『絵本水や空』
からの絵が多いよう。これは、当時の人気役者の似顔絵だが、江戸の浮世絵とはだいぶ趣向が違うね。とにかく、カワイク、おもしろい。
中村次郎三なんてほんとにこんな顔だったのか?見てみたくなる。
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耳鳥斎は、明治~昭和前期にはまだまだ人気だった。
岡本一平(1886~1948)が1930年に耳鳥斎のオマージュ『新水や空』を出したり、宮尾しげを(1902~1982、岡本一平の弟子)が1934年に『絵本水や空』の復刻本を出したりしていたという。
しかし次第に忘れ去られ、現代人にはほとんど知られていない状態だが・・・。いやいや、これは今でも充分通じる面白さだぞ。もっと人気が出てほしい。
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展覧会は、これまでただ一度開催されたことがある。
・伊丹市立美術館 > 展覧会 > 過去の展覧会 > 2005年度 > 笑いの奇才・耳鳥斎! 近世大坂の戯画 2005年4月9日(土)~5月22日(日)
http://www.artmuseum-itami.jp/2005_h17/05nichosai.html
ああ、これは見たかった。その図録
・伊丹市立美術館・編 (2005) 『笑いの奇才・耳鳥斎! 近世大坂の戯画』. 115pp. 伊丹市立美術館, 伊丹(大阪).
も是非ほしいが、なかなか入手難らしい。まあのんびり探そう。
しかし、それよりもぜひまた展覧会をやってほしい。大阪だろうが北海道だろうが、絶対見に行くぞ!
そしていずれは、とんぼの本(新潮社)、ふくろうの本(河出書房新社)、コロナ・ブックス(平凡社)、別冊太陽(平凡社)あたりから、しっかりした本を出してほしい。もちろん著者は中谷先生で。
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参考:
・ウィキペディア > 耳鳥斎(最終更新 2015年7月13日 (月) 07:18)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%80%B3%E9%B3%A5%E6%96%8E