2017年9月13日水曜日

小坂俊史5連発(2) 『これでおわりです。』『ふたりごと自由帳』『まどいのよそじ 1』

次に竹書房が振ったお題は「おわり」。

・小坂俊史 (2016.3) 『これでおわりです。』(BAMBOO COMICS). 139pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : まんがライフSTORIA, vol.1(2013年3月)-16(2016年3月).


装丁:名和田耕平デザイン事務所

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今回は4コマじゃなくて、8ページのショート・ストーリー。全部「最後の××」というタイトル。

これまでほとんど4コマばかりだった小坂氏にとっては、一見むずかしいタスクか?と思いきや、実はそれほどでもなかった。その理由は後述。

8ページとはいえ、最後のページには必ず、はっきり「オチ」と納得できる「オチ」が用意してある。四コマ師の習性ですなあ。作者も「かなり4コマと同じ方法論でなんとかなった気がします」と言う通り。

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その「オチ」も、かなりどんでん返しと呼べるものが多い。

「最後の納品」では、事務用品の納入先でOLさんにアタックし続けたがふられ続け、さらには取引が打ち切りとなり、最後の納品。しかし翌日に、なぜか納入したばかりのコピー用紙1ケースがさらに注文が入る。「これは!!」と、納入に行った先で見たものは・・・。

すごいオチだ。「なぜだ!?」がいつまでも止まらないよ。ある意味不条理オチとも言える。

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「最後の営業日」の舞台は、おばあちゃんの店を継いだものの、あえなく「本日で閉店」のせんべい屋。これが「店舗プロデュース」業者の目に止まり、スタイル変更で大繁盛。

しかしこれが「オチ」ではない。オチは、実は「本日で閉店」の貼り紙だ。ね、読みたくなったでしょ。

なんか、モーパッサンあたりの雰囲気もある、気の利いた名品だ。

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「最後の打者」は、高校野球の予選が舞台。9回裏7点差を追う2アウト、ランナーなしでの打席。「絶対"最後の打者"にだけはなりたくない!」という瀬戸くん。

幸いデッドボールで塁に出て、「最後の打者」は免れたものの、その後チームは連打に次ぐ連打、6点を返して打者一巡。2アウト満塁で瀬戸くん2度目の打席。

再度「最後の打者」の可能性が回ってきてしまったのだ。さあ、どうなる瀬戸!

で、ページをめくると最後のページの1コマ目は「瀬戸、三振!」。ところが、その後に驚くべき展開が待っているのだ。

あまりの急展開、というか、一回読んだだけでは理解不能。2~3回読んでようやく理解ができる、という代物だ。

わかりにくいのは、作者は計算ずくだろう。これまで「わかりやすさ」を売りにしてきた小坂氏にしては、実験作と言える。

しかし、「四コマ王子も、このレベルまで来ていたのか」と驚くばかりの作品です。

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他にも、派手な落ちこそないものの、「最後の名前」の分目(わんめ)六郎くん、「最後の卒業生」で離島小学校最後の卒業生から今度は復活した同じ離島小学校に赴任した朝木はるか、あたりも、それほど派手なオチじゃないが、味わい深い。

タバコがきっかけで会社一の美女といい感じになったが、最後のページでドタバタ展開していく「最後の一本」もいい。それまでのゆったりしたペースと、最終ページの駆け足具合のコントラストに、作者の技が光る。

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とにかく濃い作品集だ。どこから見つけてくるのか、舞台設定の多彩さもすごい。

あと、絵がちょっと変わってきている。少し、最近の内田春菊の影響があるような気がする。狭い四コマの制限から逃れて、頭身も少し高くなってますね。

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小坂氏にしては珍しい作品集と思うかもしれないが、実はこの作品と似たテイストの試みは、10年以上前に行われていたのだ。それがこれ↓

・小坂俊史+重野なおき (2007.7) 『ふたりごと自由帳』(MANGA TIME COMICS). 201pp. 芳文社, 東京. 
← 初出 : (2002.2-06.11) 同人誌.



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これはプロ・マンガ家の傍ら、同人誌で発表し続けた二人の作品をまとめたもの。「重野なおき」も主に四コマ界で活躍している人。大きな目のかわいい絵を描く人だ。

好きなように描いた作品ばかりなので、あまり派手なオチを用意していない。比較的落ち着いた雰囲気の作品ばかりだ。

作者らが「笑いを意識しないものを目指した結果が このしみったれたショート集です」という通り。

四コマも多いが、小坂氏はここで2~5ページのショート物に挑戦している。しみじみ物が多く、小坂氏の一方の資質が発揮されたもの。これ、最近の作風によく似ている。

中でも、連作「女子旅に出る」シリーズはどれも好きだなあ。「水谷フーカかよ!?」とも思える、百合ものもあったりして意外性も。

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プロでも、余裕があったら、読者受けを考えないこういう同人活動をするのは重要なんだなあ、と実感した。行き詰まってるマンガ家には、そこで次の展開へのヒントが掴めると思う。

これも小坂氏にとって重要作ですね。

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さあ、そして、これまでの活動、特に「これでおわりです。」が大手の目に止まって、ついに小学館デビュー(注)。それがこれ↓。

・小坂俊史 (2016.3) 『まどいのよそじ 1』(BIG COMICS SPECIAL). 158pp. 小学館, 東京.
← 初出 : ビッグコミック・オリジナル, 2014年 no.7~2015年 no.22/ビッグコミック・オリジナル増刊号, 2014年1月号~2015年11月号.


装丁:名和田耕平デザイン事務所

単行本は、『これでおわりです。』と同時発売。装丁も、名和田耕平デザイン事務所による似たテイストでそろえてある。

(注)@2017/09/14

当初「ついに小学館デビュー」と書いてしまいましたが、

・ウィキペディア > 小坂俊史(最終更新 2017年6月29日 (木) 13:39)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%9D%82%E4%BF%8A%E5%8F%B2

によると、2002~04年に、ビッグコミック増刊号で「空ぶり魂」を連載していたようです。なので「再デビュー」に修正。

(再追記)@2017/09/14

あっ、よく見ると『れんげヌードルライフ』も、連載はBC増刊(2004~09年)じゃないか。

これも長年連載していたのに、小学館から単行本を出してもらえなかった、かわいそうな作品(単行本は竹書房から出た)。

まあでも、久々の小学館登場なのは間違いない。

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小学館は、編集の口出しが多いんだろうなあ。竹書房や芳文社での作品に比べて、ちょっと窮屈そうだ。

テーマは「四十路」ということで、しょぼくれた展開が多いし、オチも「きれいにまとめよう」という方針が、やや堅苦しい。まあ、いかにも小学館、特にBCオリジナルらしい、とも言えるけど。

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それと、絵に「かわいさ」がなくなってきている。頭身も微妙に高い。まあ、テーマが「四十路」じゃしょうがないけど。

しかし、ここは「セーラー服」みたいに、無理やり女子中学生を出して、いつもの小坂流を押し通す時があってもいいんじゃないかな。

とはいえ、この作品集もレベルは高く、今回挙げた一連の作品集を読むと、小坂マンガの奥深さがより感じられると思う。

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このレベルまで来ている四コマの達人に用意されている次の舞台は、おそらく「新聞四コマ」だろう。

1991年に「いしいひさいち」が朝日新聞に登場して、「ついにこんな時代が来たか」と感慨深かったものだが、先んじていた植田まさし「コボちゃん」(1982年~連載継続)に加え、最近では、しりあがり寿、森下裕美、いしかわじゅん、唐沢なをき、と才能あるマンガ家が参入。なかなか楽しい時代になった。

しかし、いしいひさいち「となりの山田くん」~「ののちゃん」ももう26年。植田まさし「コボちゃん」に至っては35年だ。そろそろ世代交代がある頃かもしれない。

その時に真っ先に名前の上がるのが小坂俊史でしょうね。いやあ、小坂四コマを毎日見てみたいねえ。

「ほのぼのもの」ありの、「しんみりもの」ありの、どんでん返しもありの、時には毒も吐き・・・。万能じゃないですか(最近の新聞四コマでは、時事ネタをあまり期待されていないので、そっちの心配もいらないし)。

新聞四コマ連載できれば、経済的には安泰だけれど、消耗度もすごいらしいから、それで竹書房や芳文社でリラックスした作品を描く余裕がなくなるのも嫌だなあ。悩む(笑)。

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まあ、今そんな妄想してもしょうがないので、これで終わるが、とにかく小坂俊史が「四コマ王子」から「四コマ王」になる日も近いと見たね。

褒めすぎたかな(笑)。でも「泡沫四コマかよ」と馬鹿にして、今まで読んだことない人はぜひ一度どうぞ。どの作品も、面白さは保証します。

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