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2017年11月18日土曜日

国立西洋美術館 「北斎とジャポニズム」展

に行ってきました。

・読売新聞/北斎とジャポニズム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃(as of 2017/11/16)
http://hokusai-japonisme.jp/index.html

北斎とジャポニズム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃
開催概要
会期 : 2017年10月21日(土)~2018年1月28日(日)
会場 : 国立西洋美術館 [東京・上野公園]
住所 : 〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
開館時間 : 午前9時30分~午後5時30分(金、土曜日は午後8時。ただし 11/18は午後5時30分まで) ※入館は閉館の30分前まで
休館日 : 月曜日(ただし1/8は開館)、12/28~1/1、1/9
観覧料(税込)当日(団体) : 一般1,600円(1,400円) 大学生1,200円(1,000円) 高校生800円(600円) 中学生以下 無料(無料)
主催 : 国立西洋美術館、読売新聞社、日本テレビ放送網、BS日テレ
特別協賛 : キヤノン
協賛 : 花王、損保ジャパン日本興亜、大日本印刷、トヨタ自動車、みずほ銀行、三菱商事
協力 : 日本航空、ヤマトロジスティクス、西洋美術振興財団
お問合せ : TEL.03-5777-8600 (ハローダイヤル)

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同展パンフレット, p.1


同展パンフレット, pp.2-3


同展パンフレット, p.4

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平日で雨も降っていたというのに、なんでこんなに人が多いんだ!上野公園も、この展覧会も。

最初、列に並んでいたが、一向に進みそうにないので、しょうがないから客の肩越しに眺める作戦だ。それでどんどん進んだが、じっくり見られないのは仕方ない。

おかげで、あとで図録を見て気づくことの多いこと・・・トホホ。

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これが図録。

・馬渕明子・監修, 袴田紘代+池田祐子・責任編集 (2017) 『北斎とジャポニズム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃』. 401pp. 読売新聞東京本社, 東京+国立西洋美術館, 東京.


デザイン : 山田政彦

これは腰巻(帯)ともカバーともつかないものをつけた状態。カバーには、

Claude Monet (1888) At Cap d'Antibes (At Cape Antibes/アンティーブ岬).

が使われている。で、カバーを外すと


デザイン : 山田政彦

葛飾北斎 (19C) 『北斎画譜 下編』より.

の、美しい薄墨摺が現れてくる。なかなか粋な装丁。

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最初のコーナーでは、19世紀の西欧の画家たちが北斎を模写した絵が、北斎の作品と並べて、「これでもか!」とばかりに出てきます。

もうこれで、「北斎のJaponismeへの影響」という、この展覧会のテーマに納得せざるをえない。

しかし、模写した画家たちも、こんな形で、それも名前入りで、それも日本で、まさか百数十年後にさらされるとは思ってもみなかっただろうなあ。草葉の陰での心中、お察しいたします。

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図録, p.64

これは、

葛飾北斎 (1815) 『北斎漫画 二編』より.

Edouard Manet (19世紀) Deux Sortes de Salamandres et Une Grosse Mouche (Gecko, Newt, Carpenter Bee/ヤモリ、イモリ、クマバチ)

Manetくらいだと、だいぶ自分流に消化した様子が伺えるが、有象無象の挿絵画家あたりになるともう、ホントに丸写しだ。

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工芸作家になるともっと露骨。絵皿、花瓶、ガラス工芸などなど、もうそのまま丸写し。


図録, p.150

葛飾北斎 (1949) 『北斎漫画 十三編』より.

Émille Gallé (1978-90) Vase 'Le Carp' (Vase with Carp/双耳鉢:鯉)

さすがGalléだけに、周囲の模様には自分のデザインが入っているが、鯉の絵柄は北斎の丸写しだ。

北斎の絵が西欧に浸透していった過程では、油絵よりも、むしろこういう工芸品の影響が大きかったのかもしれない。

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著名な画家もなると、さすがに露骨な丸写しはしない。それだけに、北斎の絵と並べて比較されても、「どこが?」「偶然では?」「考え過ぎじゃないの?」という展示が結構続く。

この辺は意見が分かれるところだろう。

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パンフレットp.1/p.2の

葛飾北斎 (19C) 『北斎漫画 十一編』より.

Edgar Degas (1894) Danseurs, en Rose et Vert (Dancers, Pink and Green/踊り子たち、ピンクと緑)

は、この展覧会のsymbolになっている絵。この絵にしてから、まずこのポーズは、Degasがたくさん描いている、踊り子たちの他の絵でも出てくるポーズである。

それを、北斎の描いた「力士のポーズ」の影響といえるのだろうか?

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パンフレットp.3上の

葛飾北斎 (1814) 『北斎漫画 初編』より.

Mary Cassatt (1878) Little Girl in A Blue Armchair(青い肘掛け椅子に座る少女)

では、北斎の「ぐでっと袋によっかかる布袋さま」の影響というのだから、「ほんと~?」と言いたくなる。

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しかし、Degasにしても、Cassattにしても、それまではもっと端正なポーズを描いていて、こういうユニークだったり、変わった角度からだったり、そして生き生きとしたポーズを描くことはなかったらしいのだ。

しかし、北斎の影響を受ける前後の比較がないので、観覧している方には、本当かどうかわからない。

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図録, p.123

葛飾北斎 (ca.1831) 百物語 さらやしき.

Odilon Redon (1888) Ensuite Parait Un Être Singulier, Ayant Une Tête d'Homme sur Un Corps de Poisson (Planche V, TENTATION DE SAINT ANTOINE, SÉRIE I) (Then There Appears A Singular Being, Having the Head of A Man on the Body of A Fish (Plate V from the portfolio THE TEMPTATION OF SAINT ANTHONY, First Series)/「聖アントワーヌの誘惑」第一集より, 《V. それから魚の体に人間の頭を持った奇妙なものが現れる》).

まで行くと、Redonが浮世絵を見ていたか?好んでいたか?からして全くわからないし、二つの絵の影響関係についても、こじつけのような気がする。

しかしまあ、前から見たいと思っていたRedonの絵が、意外なところで見られたので、うれしかった。

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もう優秀な画家ばかりですから、北斎の絵をそのまま持ってくることはしないのはわかる。これは絵柄の影響を受けた、というより、北斎の精神を受け継いだということなのだろう。

しかし、影響関係がわかりにくいのは事実。今も100%納得はしていない。学者さんの「トバシ」もかなりあると見た。

その評価は後世の人がしてくれるだろう。

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図録, p.248

これは言わずと知れた

葛飾北斎 (1830-33) 冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏.

この波頭の描写はだいぶ西欧の画家に影響を与えたらしい。

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1867年のParis万国博覧会で浮世絵(おそらく波の絵があったと思われる)を見たらしいGustave Courbetは、その直後から波の絵を大量に描き始める。


図録, p.238

Gustave Courbet (ca.1870) La Vague(Wave/波).

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驚くのはこれ↓


図録, pp.240-241

葛飾北斎 (ca.1804-07) おしをくりはとうつうせんのづ(押送り波濤通船の図).

Georges Seurat (1885) Le Bec du Hoc, Grandcamp(尖ったオック岬、グランカン).

これ、構図がよく似てるけど、北斎は波、Seuratは岩だ。たまたまじゃないの?展覧会の現場ではそう思ってしまった。

ところが、絵の上の方を見てほしい。似たような位置に鳥の群れが!これは偶然ではないだろう。

そして決定的なのは「枠」だ。北斎の絵に枠があるのはそれほど奇異ではない。しかしだ、Seuratの絵、印象派の絵にこのような「枠」があるのは異常だ。

これに気づいてから、ようやく「北斎の影響」であることを確信した。

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じつはこの「枠」に気づいたのは、帰って図録を見ていて。うーん、現場で気づきたかった。悔しい。

しかしあの人出では、一点一点を、なかなかじっくり見れないのだ。図録を買っておいてよかったなあ。

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それにしても北斎の絵もなかなかにすごい。こんな波は現実にはありえないだろう。だいたい縦が5倍くらい誇張されている。

しかし、もしかすると北斎の方にも、何か元絵があったのかもしれない。この絵には西欧の版画(ething)の影響が見られるようだし。

この元絵(あるとして)を西欧の絵に探すのも、おもしろいかもしれない。

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今年、展覧会で非常に楽しんだ「Arcimboldo-国芳」の流れをはじめとして、西欧と日本のように地理的に離れていて、これまであまり関係が知られていなかった文化交流が明らかになっていく過程は、本当に面白い。

手前味噌だが、私がチベットやラダックを見るスタンスは、「チベットだけを見ていてもチベットは見えない」、「ラダックだけ見ていてもラダックは見えない」というものだ。

つまり、周囲との政治的・宗教的・文化的な差異と交流・影響関係を把握することで、その地域の特色が浮き出てくる。その浮き出た瞬間をエイッとすくい取るのだ。楽しい瞬間ですよ。

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図録, p.181

現物を見て腰を抜かしたのがこれ。

Émille Gallé (ca.1890-1900) Panel with Dropping Aronia(パネル : 枝垂海棠).

これは板に絵が描いてあるわけではなく、寄木細工で出来ているのだ。びっくり。はじめて知った。

これは「浮世絵を模した」なんていうのは、もうどうでもいい。とにかく驚愕の工芸品だ。

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Galléの寄せ木工芸品は、他に2点、テーブルとキャビネットが出品されていたが、これもものすごかった。

図録ではその凄さが全くわからないので、是非会場で現物を間近に見てほしい。

いつかGalléの展覧会があったら、是非行こう。

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それにしても、日本側は北斎だらけだ。この北斎一人で、錚々たる西欧の大画家軍団に多大な影響を与えているんだから、正に浮世絵の巨人である。

しかし、待てよ・・・。西欧に渡った浮世絵は北斎だけではないはずだ。他の浮世絵の影響って、ないのか?

この展覧会のテーマは「北斎」なので、他の浮世絵が取り上げられていないのは仕方ないのかもしれないが、それにしても北斎・北斎と強調し過ぎのような気がした。

浮世絵全体がJaponismeに影響を与えており、「その中で最も強い影響力を誇ったのが北斎だ」という位置づけがわかるような展示があってもいいのではないか、と思った。現物の展示がなくとも、写真入りパネル数枚でいいから説明がほしかった。

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日本の浮世絵が西洋の画家に与えた影響で一番有名なのは、実は北斎ではない。

歌川広重(1797-1858) → Vincent van Gogh(1853-1890)

である。

広重の「名所江戸百景 亀戸梅屋敷」や「名所江戸百景 大はし あたけの夕立」を、Goghがまんま模写しているのは、つとに有名。

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実は、この国立西洋美術館の「北斎とジャポニズム」展と同時に、同じ上野公園の東京都美術館で「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」が開催中なのだ。

・日本放送協会+NHKプロモーション+北海道新聞社/ゴッホ展 巡りゆく日本の夢(as of 2017/11/17)
http://gogh-japan.jp/

ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 東京展
開催概要
会期 : 2017年10月24日(火)─2018年1月8日(月・祝)
会場 : 東京都美術館
住所 : 〒110-0007 東京都台東区上野公園8−36
アクセス : JR「上野駅」公園口より徒歩7分、東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口より徒歩10分、京成電鉄「京成上野駅」より徒歩10分 ※駐車場はありませんので、車での来場はご遠慮ください。
開室時間 : 午前9時30分~午後5時30分 ※金曜日、11月1日(水)、2日(木)、4日(土)は午後8時まで ※いずれも入室は閉室の30分前まで
休室日 : 月曜日、12月31日(日)、1月1日(月・祝) ※ただし、1月8日(月・祝)は開室
観覧料(税込)当日(前売・団体) : 一般1,600円(1,300円) 大学生・専門学校生 1,300円(1,100円) 高校生800円(600円) 65歳以上1,000円(800円) 11月15日(水)、12月20日(水)はシルバーデーにより65歳以上の方は無料(要証明)。混雑が予想されます。 ※団体割引の対象は20名以上。 ※中学生以下は無料 ※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料 ※毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日により、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住、2名まで)は一般当日料金の半額 ※いずれも証明できるものをご持参ください
主催 : 東京都美術館、NHK、NHKプロモーション
後援 : 外務省、オランダ王国大使館
協賛 : 損保ジャパン日本興亜
協力 : KLMオランダ航空、日本航空
共同企画 : ファン・ゴッホ美術館
お問い合わせ : 03-5777-8600(ハローダイヤル)
報道機関お問い合わせ : ゴッホ展 広報事務局(プラチナム内) 担当:金・森 TEL 03-5572-7351 / FAX 03-3584-0727 MAIL gogh-japan.pr@vectorinc.co.jp

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「北斎とジャポニズム」展で、「広重→Gogh」関係に意図的に触れていないのは、実はこういう理由があったのです。

そういうわけで、「ゴッホ展」も近々行くぞ!

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(追記)@2017/11/18

なお、北斎の浮世絵は、状態がよいものはあまりありません。まあ、この展覧会は、北斎の浮世絵だけを見るものではないからいいんだけど。

状態のいい北斎を見るのであれば、太田記念美術館など、北斎展をしょっちゅうやってるのでそちらでどうぞ。

2017年10月7日土曜日

千葉市美術館「鈴木春信」展

に行ってきました。

・千葉市美術館 Chiba City Museum of Art > ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信 会期 2017年9月6日(水)~ 10月23日(月)(as of 2017/10/07)
http://www.ccma-net.jp/exhibition_end/2017/0906/0906.html

ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信
会期 : 2017年9月6日(水)~ 10月23日(月)
会場 : 千葉市美術館
住所 : 〒260-8733 千葉県千葉市中央区中央3-10-8
tel : 043-221-2311
fax : 043-221-2316
開館時間 : 午前10時-午後6時 (入場は午後5時30分まで)、金・土曜日は、午後8時まで開館 (入場は午後7時30分まで)
休館日 : 毎月第1月曜日(祝日の場合は翌日)
観覧料 : 一般1,200円(960円)、大学生700円(560円)、小・中学生、高校生無料 ※( )内は前売券、団体20名以上、千葉市内在住65歳以上の方の料金 ※障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料 ※10月18日(水)は「市民の日」につき観覧無料
主催 : 千葉市美術館、ボストン美術館、日本経済新聞社
後援 : アメリカ大使館
特別協賛 : フィデリティ投信
協賛 : 大伸社
協力 : 日本航空、高久国際奨学財団

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同展パンフレット, 表


同展パンフレット, 裏

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これは図録

・田辺昌子+セーラ・E・トンプソン・監修 (2017) 『ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信』. 263pp. 日本経済新聞社, 東京.


デザイン : 川添英昭

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鈴木春信(1725?-70)は、江戸中期の浮世絵師。浮世絵が2~3色刷の「紅絵」から多色刷の「錦絵」に移り変わる1760年代に活躍しました。

パンフレット表、図録表紙は、春信の代表作

鈴木春信 (1766) 桃の小枝を折り取る男女.

から。

お人形さんのように定型化された(当時の絵は皆そうだが)切れ長目、おちょぼ口、細身の体躯が特長。他の絵師もスタイルは同じだが、筆の滑らかさ、体の線の柔らかさが、春信は抜きん出ている。

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画題は女性が多いが、春信の絵では、男性も同じ筆致で描かれる。とても艶かしい男になっている。中性的だ。

だから、派手に着飾った若衆(わかしゅ、男色で受け担当の少年)や色子(美少年男娼)を描かせると絶品。


鈴木春信 (1766-67) 見立三夕「西行法師」.
図録, p.112.

これは一見女性に見えるが、二人とも色子だそうです。

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この時代の浮世絵はサイズが小さく、彫り・摺りの技術もまだ発展途上。しかし紙はかなり上質なものが使われている。部数もまだ少なく、いまだ好事家が主対象だったわけ。

そういった好事家が私的に浮世絵を作らせて、会で集まり互いに交換していたのが「絵暦」。この絵暦交換会(大小会)が浮世絵を発展させたと言ってもいい。

絵の中に「大の月」あるいは「小の月」を判じ物のように折り込んで入れるのが特徴だ。ちょっと見には全然わからないものも多く、クイズ的な楽しみ方もしていたと思われる。

採算を度外視して美しい「絵暦」を競ったことから、浮世絵が単調な「紅絵」から「錦絵」に急速に発展していった。

春信の浮世絵も、後期になるほどどんどんカラフルになっていくので、その急速な発展ぶりは目を見張る。

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鈴木春信 (1765) 夕立.
図録, p.66

止まったような絵が多い春信だが、これは珍しく動きのある絵だ。「あらまあ」という顔、おもしろい手・腕のポーズ、下駄が外れて蹴上げた右足、風になびく袖、くねる体躯、どれを取っても絶品である。

雨風の描き方などは、北斎以降の浮世絵にくらべるとまだまだ稚拙だが、その分かえっておもしろい。

なお、これも絵暦で、明和二年の大の月が干し物に隠されている。

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横浜、原宿で開催された「月岡芳年」展では、墨を付けないで摺り、紙の表面に凹凸や光沢を出す「空摺り」や「正面摺り」の手法に驚きました。その話はこちらでどうぞ↓

2017年9月16日土曜日 月岡芳年ツアー2017(3) 太田記念美術館 「月岡芳年 月百姿」 展
2017年8月19日土曜日 月岡芳年ツアー2017(2) 太田記念美術館 「月岡芳年 妖怪百物語」 展
2017年8月5日土曜日 月岡芳年ツアー2017(1) 横浜歴史博物館「歴史×妖×芳年」展

これは、浮世絵後期に生み出された手法だとばかり思い込んでいたのですが、春信の時代にすでに発明されてたことを知りました。

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鈴木春信 (1766-67) 鷺娘.
図録, p.103.

娘の白地の着物に、空摺りで細かく模様が浮き出ています。図録では、珍しくこの空摺りがよく出ているのですが、スキャン画像ではうまく出なかった。

また、娘の帽子や積もった雪は、これも墨を付けず凹版で摺って、エッジを凹ませてあります。つまり丸みを帯びた図形の内部がもっこり浮き出るわけです。これは「きめ出し」という手法。

これも是非展覧会で現物を見てください。感動しますよ。

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もう一つ「きめ出し」の例を。


鈴木春信 (1767-68) 女三宮と猫.
図録, p.126

ここでは着物の輪郭や猫の輪郭に強く「きめ出し」が使われている。これは図録ですらよく出ているが、現物はもっとよい。

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春信は晩年になると、突如、現実の町娘を題材に美人画を描きはじめる。中高年になって、突如アイドルに入れ込みだすオッサンみたいで微笑ましい。まあ、本人の趣味というよりは、版元のアイディアではないかと思われるが。


鈴木春信 (ca.1769) 浮世美人寄花(はなによす) 笠森の婦人 卯花(うのはな).
図録, p.177.

これは谷中・笠森稲荷境内の水茶屋・鍵屋の看板娘「お仙」。右手の蔦紋小袖がお仙だ。柳腰のいい女。当時、江戸のアイドル的な存在で、この浮世絵もブロマイドとして扱われていたらしい。

同じ頃に、浅草寺奥山の楊枝屋・本柳屋の「お藤」、浅草・二十軒茶屋の水茶屋・蔦屋の「およし」と並んで、明和の三美人と呼ばれていたそうだ。

その中でもこの「お仙」が一番人気で、春信は「お仙」を何度も描いている。

もっとも、この頃の浮世絵は顔が皆同じなので、袖の紋などで判別するより他ないのだが、それでも体躯の優美なカーブなどで「お仙」らしさが十分表現できていたのだろう(本当にそうかどうかは、当時の人じゃないとわかんないけど)。

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その後、役者絵が流行するようになると、徐々に役者の顔を似顔絵で描くようになってくる。特異な絵師・写楽の登場で、デフォルメともいえる強烈な似顔絵が出てきて、ますます浮世絵はおもしろくなっていくのだ。

春信の発展形である細面・柳腰の美人画は、喜多川歌麿で完成を見る。歌麿の美人画は頭身が高くなり、八頭身美人。洗練されすぎていて、手が届かない感じ。まさに「美人画」だ。

それに比べると、春信の美人画はちょっとかわいらしいし、やはりお人形さんっぽい。より親しみやすい絵だ。

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しかしこうして見ると、春信の絵、というか当時の浮世絵には、中国の美人画の影響を非常に強く感じる。柔らかな体躯の描き方は、まさに中国の手法だ。

またサイズが小さいこともあり、イラン~インドのミニアチュールの雰囲気もある。まあ、ミニアチュール自体、中国絵画が移植されて発達したものだから、似ていても不思議ではないが。

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それにしても、ボストン美術館の浮世絵コレクション恐るべしだ。世界でもボストンにしかない浮世絵が、山のようにあるという。

今回の春信作品も、ボストンだけの所蔵品がいくつも来ている。大規模な春信展は15年ぶりだというし、浮世絵ファンは無理してでも見た方がいいですよ。

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なお、この「春信展」、千葉のあとは1年かけて、名古屋→大阪→福岡と巡回されます。そちら方面の方々もお見逃しなく。

2017/09/06~10/23 千葉・千葉市美術館
2017/11/03~2018/01/21 名古屋・名古屋ボストン美術館
2018/04/24~06/24 大阪・あべのハルカス美術館
2018/07/07~08/26 福岡・福岡市博物館

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「春信展」と並行して、千葉市美術館の所蔵品で「江戸美術の革命 春信の時代」展も開催されていた。

色々と面白かったが、中でも曾我蕭白の(ca.1751~64)「獅子虎図」、(ca.1758~59)「寿老人・鹿・鶴図」を見れたのがよかった。蕭白お得意の「困り顔の虎」、いつ見ても笑えるし、いいなあ。迫力も充分。

参考:
・だまけん/だまけん文化センター 絵画と寺社巡り > 曽我蕭白 獅子虎図屏風(2016/10/04)
http://5dama2.blog96.fc2.com/blog-entry-247.html

2017年9月16日土曜日

月岡芳年ツアー2017(3) 太田記念美術館 「月岡芳年 月百姿」 展

芳年ツアー第3弾。太田記念美術館の後期。

今年はもうないかな。でも、芳年作品はまだまだあるので、展覧会があれば、少し遠出してでも行くぞ。

しかし、やっぱり札幌の芳年展に行けなかったのは、かえすがえすも心残り。

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・太田記念美術館 > 展覧会 > 年間スケジュール > 特別展 月岡芳年 月百姿(as of 2017/06/28)
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/%E6%9C%88%E5%B2%A1%E8%8A%B3%E5%B9%B4%E3%80%80%E6%9C%88%E7%99%BE%E5%A7%BF

会期 : 2017年9月1日(金)~9月24日(日)(9月4、11、19日は休館します)
開館時間 : 午前10時30分~午後5時30分(入館は午後5時まで)
会場 : 太田記念美術館 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10
TEL : 03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料 : 一般 1000円、大高生※学生証をご提示ください。 700円、中学生以下※中学生は学生証(生徒手帳)をご提示ください。 無料(リピーター割引 「月岡芳年 妖怪百物語」および「月岡芳年 月百姿」両展覧会の会期中2回目以降ご鑑賞の方は、半券のご提示にて200円割引いたします。※チケット購入時に半券をご提示下さい。他の割引との併用はできません。

しまった!前回の半券忘れた。まあ前回、横浜の半券で割引してもらったからいいか。

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同展パンフレット, p.4


同展パンフレット, p.3

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「月百姿」は、芳年晩年の「月」をテーマにしたシリーズ。明治中期の作品だ。その百点を全点展示。見応えあったなあ。

晩年の筆致はかなり硬質になっており、闊達なところに乏しく、「硬すぎる」と感じるかもしれないが、その繊細かつ細かい描写を見ていくのが今回の見所だ。

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「月」というと、たいていは満月。この「月百姿」も大半は満月なのだが、三日月、上弦、下弦、二十三夜月、叢雲に隠れる月、とヴァリエーションもかなりあり、そのリズムを楽しむこともできる。

果ては、月を描かず、それを眺める人物で表現した絵、あるいは月の気配すらないものまである。これはもう、「このお話知ってるでしょ」という鑑賞者との間の暗黙の了解で成り立っているのだが、当時流行りのお話がネタ元なので、現代人の我々には解説がないとなかなか厳しい。明治人に生まれ変わるVirtual Realityって作れないもんか・・・。

また、浮世絵/錦絵最末期の彫り、摺り技術の到達点も見どころだ。本当に唸らされる。惜しい文化を亡くした。

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これが図録。今回も、一般書籍として書店でも販売されています。

・日野原健司・著, 太田記念美術館・監修 (2017.8) 『月岡芳年 月百姿』. 135pp. 青幻舎, 東京.


デザイン : 原条令子

「月」がテーマなのに、月を思わせる円を青で塗ったデザインが大胆だ。

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気に入った作品、あるいは気になったものをいくつか。


月岡芳年 (1886.9) はかなしや波の下にも入ぬべしつきの都の人や見るとて 有子
同書, p.14

身投げの直前に琵琶を弾く有子(ありこ)。『源平盛衰記』より。

ここでは月本体は描かれておらず、水面に反射する光で月の存在を表現しています。日本ならではの繊細な表現。

「月百姿」シリーズでは、空摺り、正面摺りの手法がふんだんに使われています。紙の裏から版木を当て、墨を付けずに摺り、画面に凹凸や部分的に光沢を出す手法です。たいていは、白、黒などの単色ベタ塗り面上に、柄を浮かび上がらせたり、光沢模様を出すために使われています。

このシリーズでは、白の四角に囲まれた題字にはすべて空摺りが入っていました。また、白地~薄色の着物にはたいてい空摺りで柄が浮かんでいましたね。

見渡したところ、しゃがんだり横から眺めたりして、空摺り、正面摺りを観察していたのは私だけだった。もったいない。空摺り、正面摺りは、図録や画集ではほとんど出ないので、現物を見た人だけが楽しめる技法なのに・・・。

さて、この絵では、空摺りが使われているのは、着物の柄ではなく、なんと水面の月光反射。画面下から上に伸びていく月光反射は上部では白い背景に消えていくのですが、実は画面の凹凸でその連続が見れるのです。これは是非、現物を見てもらうしかない。

なお本書では、正面摺りの解説が、p.64、p.88、p.106にあります。

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月岡芳年 (1886.3) 源氏夕顔巻
同書, p.42

薄墨で表現された夕顔の幽霊。色、線の繊細さ、素晴らしい。ボサボサの髪もまた哀れを誘う。前景に、実際の夕顔を配する構成も粋だ。

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月岡芳年 (1889) 雨中月 児島高徳
同書, p.72

南北朝時代、南朝の武将・児島高徳が後醍醐天皇の無事を祈る姿。

ここで注目は雨の表現。これは白い墨で刷ってあるのだ。こういう白墨を使った技法ははじめて見た。この技術、どの程度広まっていたのだろうか。興味あるなあ。

いずれにしろ、その後まもなく、この技法含め、浮世絵/錦絵まるごと滅びるわけですが・・・。

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月岡芳年 (1886.2) 烟中月
同書, p.90

明治時代とは思えない、モダンでスタイリッシュな画面処理だ。右側の炎の部分には、なにか英文コピーを入れたくなるではないか。芳年は、20世紀の広告美術を先取りしていたのかもしれない。

対面の屋根に、鏡写しのように同じポーズの人物をシルエットで置くアイディアもクールだ。

あと、炎の黄色。この鮮やかさは、スキャン画像や図録、画集ではうまく出ない。これも現物を見た人だけが楽しめる特権。

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月岡芳年 (1886.2) 月夜釜 小鮒の源吾 嶋矢伴蔵
同書, p.118

石川五右衛門の子分二人。見張り番が入ったままの大釜を盗んでしまい、中から声が聞こえるのを不審がっている様子。これも解説なしでは、なんだかさっぱりわかりませんね。でも、絵だけでも楽しめる一枚。

以前、

2017年9月3日日曜日 中谷伸生 『耳鳥斎アーカイヴズ』

でも、大坂の戯画「鳥羽絵」にちょっとだけ触れましたが、この絵はその鳥羽絵の影響というか、ちょっとパロってみました、という珍しい絵だ。鳥羽絵の特長は、異様に細長い腕と脚。

芳年は、こういうマンガ的な絵も描いていたんだなあ。もうちょっと、この路線も見てみたかった。

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過去3回の展覧会で、だいぶ芳年とお近づきになれたような気がする。

しかしまだ、「血みどろ絵」はあまり見ていない。

今回の一連の展覧会では、意図的に「血みどろ絵」ははずされている。それは1970年代に芳年が注目された時に、こういった残虐絵ばかりが注目されたせい。その反動でしょう。

芳年は作品数も多いので、近々またどこかで展覧会がありそうな気がする。また行くぞ。

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(追記)@2017/09/16

・菅原真弓 (2009.11) 『浮世絵版画の十九世紀 風景の時間、歴史の空間』. 396pp. ブリュッケ, 国立(東京).

という本も、ちょうど読みました。目次だけ簡単に。

007-020 序章 語られなかった"過渡期"の日本美術 幕末明治美術への視点

021-160 第一部 十九世紀の浮世絵版画における風景主題 風景と時間をめぐって
023-075 第一章 歌川広重「木曽海道六拾九次」の「時間」
077-103 第二章 歌川広重と木曽街道の旅
105-131 第三章 歌川広重と縦絵の風景画
133-160 第四章 小林清親の光と広重受容

161-321 第二部 十九世紀の浮世絵版画における歴史主題 歴史と空間をめぐって
163-193 第五章 武者絵の十九世紀 葛飾北斎から歌川国芳へ
195-226 第六章 武者絵から歴史画へ 歌川国芳における画面拡大の意味
227-266 第七章 虚構から現実への階梯 月岡芳年「血みどろ絵」のリアリティ
267-321 第八章 十九世紀歴史画の確立 月岡芳年の『前賢故実』受容

323-327 終章 風景の時間と歴史の空間

329-333 あとがき 謝辞を兼ねて

335-387 資料・年譜
392-388 掲載図版一覧
395-393 索引

著者は大阪市立大学教授。2000~06年には中山道広重美術館学芸員だった関係上、第一部は当時の研究対象・広重に関する論考。

私としては、第二部の北斎、国芳、そして芳年に関する論考が特に面白かった。

芳年の元ネタとしての菊池容斎 (before 1868) 『前賢故実』を知れたのもよかった(第八章)。

この手の本、もっとないかな。探してみよう。

2017年9月3日日曜日

中谷伸生 『耳鳥斎アーカイヴズ』

前回ちょっと紹介した耳鳥斎(にちょうさい)に関する唯一の本

・中谷伸生 (2015.3) 『耳鳥齋アーカイヴズ 江戸時代における大坂の戯画』(関西大学東西学術研究所資料集刊36). vi+209pp. 関西大学出版部, 吹田(大阪).



を図書館から借りてきました。

中谷先生は、関西大学・文学部の教授。耳鳥斎を研究しているのは、今は中谷先生だけのよう。

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耳鳥斎とは、江戸中期の大阪の画人。生年は不明。没年は1803年。少なくとも53歳まで生きたことが確認されているが、謎の多い人物である。

本名・松屋半三郎。よって松屋耳鳥斎とも呼ばれる。

酒造家を経営していたが、これを潰してしまい、骨董商に。並行して画人として活躍し、名を上げた人。

まあ芸事が高じた放蕩旦那ですね。耳鳥斎みたいにそこそこ成功した人はごく一部で、こういう碌でもない旦那衆はたくさんいたんだろうなあ。

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耳鳥斎の特長は、「おもしろい」「かわいい」だ。いわゆる戯画の系統に分類され、美術史上の評価は高くない。が、これをマイナーなままにしておくのはもったいない。耳鳥斎に関する本だって、上記1冊しかないなんて。

耳鳥斎は狩野派に学んだというが、その片鱗はあまり見えない。関西で流行ったらしい、手足を長く描く「鳥羽絵」というふざけた絵を描く一派であるのは間違いないが、耳鳥斎はそこから頭ひとつ図抜けた存在。当時の大阪で人気の画人だったらしい。

俳人・画人として有名な与謝蕪村との共通点も指摘されている。

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上記書の表紙は、耳鳥斎の代表作

・耳鳥斎 (ca.1793) 「別世界巻」

からの抜粋。この作品は、いろんな職業の人が地獄に落ちたら、それぞれの職業にちなんだ刑罰を受ける(だったら、おもしろいなあ)という戯画集だ。

左上が「錆どうぐやの地獄」から。「茶道具商が地獄に送られると、茶壺を鬼にかぶせられる」という刑罰なんだが、たいした苦痛じゃないなあ(笑)。

下は「かぶき役者の地獄」から。「下手な歌舞伎役者が地獄に送られると、大根と一緒に煮られる」という刑罰。これも風呂につかってるようで、のんき、楽しそう。一番左の亡者なんて、どう見ても笑ってるよ。

こういった具合で、耳鳥斎の絵は、どれもとぼけていて、お笑いの要素が強い。大坂の「とぼけ型お笑い」の志向は、江戸時代から変わりませんね。

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「別世界巻」から、もう少し紹介しておこう。


耳鳥斎(ca.1793)「別世界巻(明神講中の地獄)」
中谷(2015), p.39より

これも、刑罰を受けている亡者はみんな笑ってるよ(笑)。鳥居の周りを跳ねまわったり、落っこちたりしてるのも、意味わからん。ポーズもみんな変。

同じ大阪のマンガ家「川崎ゆきお」にも通じる動き。やっぱ大阪だあ。

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耳鳥斎(ca.1793)「別世界巻(衆道好の地獄)」
中谷(2015), p.42より

「ホモが落ちる地獄」ですね。タガネでオカマを掘られているのに、うれしそう。

あっ、こいつ「受け」だ!刑罰になってないじゃないか(笑)。

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耳鳥斎の同時期の作品

・耳鳥斎 (1793) 「地獄図巻」

からも1枚。前回紹介した「地獄絵ワンダーランド」では、この現物が展示されていたのですよ。見に行ってよかったなあ。


耳鳥斎(1793)「地獄図巻(歌舞伎役者の地獄)」
中谷(2015), p.51

これもさっきと同じ「大根役者が受ける刑罰」なんだが、今度は磔にされて大根をくわえさせられてるよ。これもあんまり苦痛じゃなさそう。みんな顔は笑ってる。

しかし、耳鳥斎の地獄は、どれも全然怖くないですね。「地獄絵ワンダーランド」展でも異彩を放ってました。

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中谷書よりもう1枚


耳鳥斎(18世紀後半)「相撲之図」
中谷(2015), p.4

負けた力士の、黒丸目と一本の直線で表現された口。喝采を送る客の顔もそんな感じ。江戸時代とは思えない「カワイイ絵」だ。

行司のストーンとした脚もシンプルでいい。

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Google画像検索で「耳鳥斎」で検索するだけで、耳鳥斎の「カワイイ絵」がたくさん出てきます。


Google画像検索「耳鳥斎」

なんかAppleが、耳鳥斎の絵を大量に無料配信しているらしいのだ。出てくるのは、

・耳鳥斎 (1780) 『絵本水や空』

からの絵が多いよう。これは、当時の人気役者の似顔絵だが、江戸の浮世絵とはだいぶ趣向が違うね。とにかく、カワイク、おもしろい。

中村次郎三なんてほんとにこんな顔だったのか?見てみたくなる。

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耳鳥斎は、明治~昭和前期にはまだまだ人気だった。

岡本一平(1886~1948)が1930年に耳鳥斎のオマージュ『新水や空』を出したり、宮尾しげを(1902~1982、岡本一平の弟子)が1934年に『絵本水や空』の復刻本を出したりしていたという。

しかし次第に忘れ去られ、現代人にはほとんど知られていない状態だが・・・。いやいや、これは今でも充分通じる面白さだぞ。もっと人気が出てほしい。

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展覧会は、これまでただ一度開催されたことがある。

・伊丹市立美術館 > 展覧会 > 過去の展覧会 > 2005年度 > 笑いの奇才・耳鳥斎! 近世大坂の戯画 2005年4月9日(土)~5月22日(日)
http://www.artmuseum-itami.jp/2005_h17/05nichosai.html

ああ、これは見たかった。その図録

・伊丹市立美術館・編 (2005) 『笑いの奇才・耳鳥斎! 近世大坂の戯画』. 115pp. 伊丹市立美術館, 伊丹(大阪).

も是非ほしいが、なかなか入手難らしい。まあのんびり探そう。

しかし、それよりもぜひまた展覧会をやってほしい。大阪だろうが北海道だろうが、絶対見に行くぞ!

そしていずれは、とんぼの本(新潮社)、ふくろうの本(河出書房新社)、コロナ・ブックス(平凡社)、別冊太陽(平凡社)あたりから、しっかりした本を出してほしい。もちろん著者は中谷先生で。

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参考:

・ウィキペディア > 耳鳥斎(最終更新 2015年7月13日 (月) 07:18)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%80%B3%E9%B3%A5%E6%96%8E

2017年8月21日月曜日

三井記念美術館 「地獄絵ワンダーランド」

にも行ってきました。日本橋に行ったのも何年ぶりだろう?

・三井記念美術館 > 展覧会情報 > 開催中の展覧会 : 特別展 地獄絵ワンダーランド 2017年7月15日(土)~9月3日(日)
http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html

特別展 地獄絵ワンダーランド
会場 : 三井記念美術館
住所 : 東京都中央区日本橋室町二丁目1番1号 三井本館7階
電話 : ハローダイヤル03-5777-8600
会期 :2017年7月15日(土)~9月3日(日)
休館日 : 月曜日、7月18日(火) ※但し7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開館
開館時間 : 10:00~17:00 ※入館は16:30まで
ナイトミュージアム : 会期中毎週金曜日は19:00まで開館 ※入館は18:30まで
入館料 : 一般1,300円(1,100円) 大学・高校生800円(700円) 中学生以下 無料 *70歳以上の方(要証明)は1,000円。また20名様以上の団体の方は( )内割引となります。ナイトミュージアム(会期中毎週金曜日17:00以降)の入館料は一般1,000円 大学・高校生500円
主催 : 三井記念美術館、NHK、NHKプロモーション
協賛 : 日本写真印刷


同展チラシ, p.1


同展チラシ, pp.2-3


同展チラシ, p.4

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まずネーミングがいい。「地獄絵」と「ワンダーランド」をくっつけるセンスは素晴らしい。

冒頭は、

水木しげる先生の絵本「水木少年とのんのんばあの地獄めぐり」の原画。

・水木しげる (2013.6) 『水木少年とのんのんばあの地獄めぐり』. 32pp. マガジンハウス, 東京.

やあ、これは得したぞ。

水木さん最晩年の作品なので、絵は全編チーフ・アシスタントの村澤昌夫氏のもの(もう明かしてもいいでしょう)だが、全体のコンセプトは水木さんが抑えているはず。

地獄絵は、水木さん大好きでしたからね。微に入り細に入りの描き込みはさすがだ。水木さんは絵こそ描いていないものの、水木少年とのんのんばあの彩色だけは、自分で担当している(そこだけ彩色が他と違うのですよ)。たいしたもんです。

これでつかみはOKだ。

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水木作品の地獄なら、貸本時代の傑作・そのものズバリの「地獄」(1965)やその翻案作「コロポックルの枕」(1970)でしょ!とも思うが、これらはあまりに残虐描写がキツいので、子供も対象にしている今回の展覧会じゃ無理だったかな。

Redonの宇宙船に乗ってくる「鬼宇宙人」、仏足石の宇宙ロケットなど、SF主流に毒されていないユニークなメカニックの原画も見てみたい。

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残虐描写のきつい地獄絵自体は、六道図の一部や地獄草紙の展示があるだけなので、それほどショッキングではない。小さい絵が多いので、パンフレットなどに引用されている絵はかなり拡大したものであることがわかる。

後半になると、行けども行けども十王(閻魔大王のグループ)図だらけなのでちょっと飽きた。

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地獄残虐描写が少なかったので、ちょっと物足りない展覧会だったが、一つ収穫。

耳鳥斎(にちょうさい)・筆 (1793) 地獄図巻

この人、はじめて知った。江戸時代・大坂の浮世絵師なのだが、他に類を見ない「カワイイ絵」を描く人。この当時、目を黒丸で描いたり、開いた口をV字形に描くような人はいない。

地獄絵も全然怖くない。むしろみんな楽しそう。「役者が行く地獄」では、亡者は縛り付けられて、太い「大根」を口に押し込まれている。でも笑ってるよ(笑)。こんな地獄なら行ってみたい。

参考:
・アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】 >耳鳥斎の地獄ワールドツアー 2015-09-14
https://ameblo.jp/artony/entry-12073124925.html

今後、耳鳥斎追っかけてみよう。耳鳥斎の本って、

・中谷伸生 (2015.3) 『耳鳥齋アーカイヴズ 江戸時代における大坂の戯画』(関西大学東西学術研究所資料集刊36). vi+209pp. 関西大学出版部, 吹田(大阪).

くらいしかないんだな。いつか展覧会やってほしい。

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あと、ミュージアムショップにすごい本があった。

・梶谷亮治+西田直樹・著, Michael Jamentz+Rachel Saunders+Miriam Chusid・英訳 (2017.7) 『HELL 地獄 地獄をみる』. 592pp. パイ・インターナショナル, 東京.
http://pie.co.jp/search/detail.php?ID=4811

出たばかりの本のようだ。ぬるい絵が多かった展覧会に比べて、こちらはもうすさまじい絵が、「コレでもか!」とばかりに集めてある。圧巻!むしろ、こちらをそのまま展覧会にしてほしかったほど。

この本ほしい。しかし5900円+税とかなりのお値段なんだよなあ。いつか買おう。

2017年8月19日土曜日

月岡芳年ツアー2017(2) 太田記念美術館 「月岡芳年 妖怪百物語」 展

芳年ツアー第2弾は、原宿の太田記念美術館の前期。

・太田記念美術館 > 展覧会 > 年間スケジュール > 特別展 月岡芳年 妖怪百物語(as of 2017/06/28)
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/%E6%9C%88%E5%B2%A1%E8%8A%B3%E5%B9%B4%E3%80%80%E5%A6%96%E6%80%AA%E7%99%BE%E7%89%A9%E8%AA%9E-2

会期 : 2017年7月29日(土)~8月27日(日)(7月31日、8月7、14、21日は休館します)
開館時間 : 午前10時30分~午後5時30分(入館は午後5時まで)
会場 : 太田記念美術館 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10
TEL : 03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料 : 一般 1000円、大高生※学生証をご提示ください。 700円、中学生以下※中学生は学生証(生徒手帳)をご提示ください。 無料(リピーター割引 「月岡芳年 妖怪百物語」および「月岡芳年 月百姿」両展覧会の会期中2回目以降ご鑑賞の方は、半券のご提示にて200円割引いたします。※チケット購入時に半券をご提示下さい。他の割引との併用はできません。
芳年を巡る 入館料相互割引プラン : 下記展覧会のチケットを当館でご提示いただくと、「月岡芳年 月百姿」展を100円割引でご覧いただけます。※1枚につき1名様、1回限り有効、他の割引との併用はできません。
横浜市歴史博物館 丹波コレクションの世界Ⅱ 歴史×妖×芳年 2017年7月29日(土)~8月27日(日)


同展パンフレット, p.1


同展パンフレット, p.2

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案の定、横浜の「歴史×妖×芳年」展とは「新形三十六怪撰シリーズ」が丸かぶり。

しかし、がっかりしたかというと、そんなことはない。横浜で芳年錦絵の見方を勉強できたおかげで、こちらでは重要技法を見逃すこともなく、じっくり鑑賞することができました。

空摺や正面摺の技を見ようと、伸びをしたり、しゃがんだりしてたのは自分だけだった。

横浜みたいに、技法の解説はないし。太田は浮世絵専門館なので、「そんなの解説するまでもなく、うちの客には常識」ってことなのかもしれない。

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これが図録。一般書籍として、書店でも販売されています。

・日野原健司+渡邊晃・著, 太田記念美術館・監修 (2017.7) 『月岡芳年 妖怪百物語』. 135pp. 青幻舎, 東京.


デザイン : 原条令子

展示作品をコーナーごとに紹介すると、

(1) 初期の妖怪画 16点
(2) 和漢百物語 26点
(3) 円熟期の妖怪画 24点
(4) 新形三十六怪撰 36点

まさに充実の展示です。それにしても、この頃の浮世絵師は多作だ。これでも芳年作品のほんの一部なのだから。

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お気に入りは、


月岡芳年 (1865.8) 和漢百物語 宮本無三四
同書, p.54

躍動感が素晴らしいですね。

他には、やたらと相撲取りの豪傑話(まあ作り話かうわさ話なのだろうけど)が多いのがおもしろい。小野川喜三郎が、三つ目入道に煙草の煙を吹きかけながらの、小馬鹿にした目が素晴らしい。嫌がる三つ目入道の顔との対比も、また絶妙。

しかし芳年が描く妖怪は貧相なものが多く、ちょっとかわいそう。これだけ妖怪画を描いているのに、芳年の立ち位置は飽くまで「退治する側」にある。「妖怪が好きで好きでたまらない」といったタイプではない、と見た。

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月岡芳年 (1885.9) 奥州安達がはら ひとつ家の図
同書, p.80

芳年らしさが発揮された一枚。縦二枚つづりの画面構成を存分に活かした力作だ。

横浜でも太田でも、残念ながら無惨絵系統の展示はほとんどないので、今回の展示の中では、そっち方面の嗜好を垣間見れる貴重な作品。

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なお、今回の図録はページがマットなので、発色が悪いような気がする。横浜と展示が重複している「新形三十六怪撰」で、図録を比較してみるのも面白い。

すると、横浜展示のものとは、摺りが違う版があったりする。これは一点物ではない浮世絵収集の宿命であり醍醐味でもある。

一つ紹介しておこう。


月岡芳年 (1891) 新形三十六怪撰 奈須野原 殺生石之図
同書, p.113


月岡芳年 (1891) 新形三十六怪撰 奈須野原 殺生石之図
横浜市歴史博物館・編 (2017.7) 『丹波コレクションの世界II 歴史(れきし)×妖(あやかし)×芳年(よしとし) "最後の浮世絵師"が描いた江戸文化』. p.90 横浜市ふるさと歴史財団, 横浜.

横浜の図録は、ページがグロスで発色がいい。太田のよりもコントラストを強めにしている。ぼかしなど、微妙な味わいは太田図録の方がよく出ているかもしれない。

しかし、原本の保存状態の違い、図録での図版作製・色調整を考慮したとしても、これは摺り版が違うのではないか、と思った。

太田の展示では、一部の絵柄が刷られていない版を並べて展示してあったりするのも、なかなかおもしろかった。意図的なのか単なるミスプリントなのか、わかっていないそうだ。

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太田記念美術館はこじんまりとしたところなので、作品との距離が近くていい。その分、客が多いと結構窮屈になり、観覧も時間がかかるけど。平日昼間にゆったりした気持ちで見るには、すごくいい場所だと思った。

今回の「妖怪百物語」展は、2017/07/29~08/27と、わずか1ヶ月の短い展示なので、すぐに行った方がいい。もたもたしてると終わっちゃうぞ。

次回、「月百姿」展(2017/09/01~09/24、こちらも短いので注意)ももちろん行きます。

2017年8月7日月曜日

アルチンボルド→国芳の流れ

2017年7月1日土曜日 「アルチンボルド展」に行ってきました

でも触れましたが、Arcimboldoの寄せ絵と歌川国芳の寄せ絵は、確実とは言えないまでも、「ある程度関係ありそうだ」というところまではわかっています。

でも、絵なしではその流れはわかりにくいですね。というわけで、絵をつけました。

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Giuseppe Arcimboldo (1578) Eve and the Apple, with Counterpart (right, Adam).
デ・ジローラミ・チーニー(2017)p.222より.

Eve像は省略。この絵がArcimboldo自身の筆になるものかどうかは確実ではないらしく、作者が「アルチンボルドの工房」となっている場合もあります。

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その後、Arcimboldoの追随者が現れますが、ほとんどはヘタな模倣でした。

「裸体寄せ絵肖像画」で、上記Eve & Adam画にそっくりな絵は、18~19世紀に現れます。


Bartolomeo Bossi(18~19C) Composite Head of a Man.
フェリーノ=パグデン+渡辺・編 (2017)p.155より.

この絵は、今回の展覧会が世界初公開。Eve画は省略。

Arcimboldoから約200年たって、突如そっくりさんが現れたかのように見えますが、おそらく「現在見つかっているのはこれだけ」ということなのでしょう。Eve & Adam画の模倣者は、Arcimboldo以降連綿と続いていたと思われます。

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そういった寄せ絵の一部は、模写という形で19世紀の日本に伝わります。


松平斉民・収集 (19C) 人物画. 『芸海余波 第五集』所収. 早稲田大学図書館所蔵, 東京.
府中市美術館・編(2017)p.84より.

この絵は、ArcimboldoともBossiとも若干違います。おそらく、この手の「裸体寄せ絵肖像画」はたくさんあったのでしょう。そのうちの一つが、模写という形で日本まで届いていたということです。

これは大発見。府中市美術館エライ!

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そして、勉強家である歌川国芳が、この本を見たか、あるいは別ルートで、この手の「裸体寄せ絵肖像画」を見た可能性は充分あるでしょう。

もしかすると、「西洋には、こういう変な絵があるよ」と人づてで聞いただけなのかもしれません。国芳なら、そんな情報だけからでも「裸体寄せ絵肖像画」を描いてしまいそうな気がします。

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そして描かれたのが、一連の「裸体寄せ絵肖像画」


歌川国芳 (ca.1848) 人かたまつて人になる.
府中市美術館・編(2017)p.84より.

これは横顔なので、Arcimboldoの流れをくんでいる、とも言えそうですが、


歌川国芳 (ca.1848) みかけハこハゐがとんだいゝ人だ.
府中市美術館・編(2017)p.85より.

こういう斜めからの角度は、国芳独自の発想でしょう。

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というわけで、Arcimboldo→国芳という流れは、ある程度つながるわけですが、まだ「『芸海余波』→国芳」の部分がmissing linkになっています。

でも、昨今の国芳研究には目覚ましいものがあるので、その部分も早晩解決しそうな気がします。期待していましょう。

それにしても、「時空的に離れた二者がつながっている」ことがわかった瞬間は、ほんとうに驚きだし、また楽しいですよね。まさに学問の醍醐味です。

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なお、「アルチンボルド展」図録に収録されているバイヤー(2017)では、Arcimboldo流「裸体寄せ絵肖像画」の日本への伝来については、「かといって否定されるべきものでもない」と言うにとどめています。

しかしバイヤー先生が「国芳展」図録を見たら、両者の関係性について、より発展的な考察が展開されることになるでしょう。こちらも今後に期待しましょう。

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文献 :

・府中市美術館(金子信久+音ゆみ子)・編著 (2017.3) 『歌川国芳 21世紀の絵画力』. 287pp. 講談社, 東京.
・シルヴィア・フェリーノ=パグデン+渡辺晋輔・責任編集 (2017.6) 『ARCIMBOLDO : NATURE INTO ART』. 244pp. 国立西洋美術館, 東京/NHK, 東京/NHKプロモーション, 東京/朝日新聞社, 東京.
・アンドレアス・バイヤー・著, 岩谷秋美・訳 (2017.6) 多重形象化の芸術 ジュゼッペ・アルチンボルドの寄せ絵と二重化されたイメージの意味生産. 『ARCIMBOLDO : NATURE INTO ART』所収. pp.137-141. 国立西洋美術館, 東京/NHK, 東京/NHKプロモーション, 東京/朝日新聞社, 東京.
・レアナ・デ・ジローラミ・チーニー・著, 笹山裕子・訳 (2017.6) 『アルチンボルド アートコレクション』. 255pp. グラフィック社, 東京.
← 英語原版 : Leana De Girolami-Cheney (2013.10) ARCIMBOLDO (MEGA SQUARE). 256pp. Parkstone Press, NY, USA.

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なお、府中市美術館の「国芳展」については、こちらをどうぞ↓

2017年3月29日水曜日 府中市美術館 「歌川国芳 21世紀の絵画力」展
2017年4月24日月曜日 府中市美術館 「歌川国芳 21世紀の絵画力」展 2回目

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(追記)@2017/08/10

なお、

・松平斉民・収集 (19C) 『芸海余波 第五集』. 早稲田大学図書館所蔵, 東京.

は、早稲田大学図書館のサイトで見ることができます。

・早稲田大学 > 学部・大学院・図書館 > 図書館 : 早稲田大学図書館 > コレクション・刊行物 > 古典籍総合データベース >芸海余波. 第1-16集 > 芸海余波 第5集(as of 2017/08/09)
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/i05/i05_01646/i05_01646_0005/i05_01646_0005.html

このうち、前述の「裸体寄せ絵肖像画」(模写)のページは、

・早稲田大学 > 学部・大学院・図書館 > 図書館 : 早稲田大学図書館 > コレクション・刊行物 > 古典籍総合データベース >芸海余波. 第1-16集 > 芸海余波 第5集 > 16枚目 (as of 2017/08/09)
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/i05/i05_01646/i05_01646_0005/i05_01646_0005_p0016.jpg

「裸体寄せ絵肖像画」(模写)のクローズアップは

・早稲田大学 > 学部・大学院・図書館 > 図書館 : 早稲田大学図書館 > コレクション・刊行物 > 古典籍総合データベース >芸海余波. 第1-16集 > 芸海余波 第5集 > 図55 (as of 2017/08/09)
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/i05/i05_01646/i05_01646_0005/i05_01646_0005_p1055.jpg

2017年8月5日土曜日

月岡芳年ツアー2017(1) 横浜市歴史博物館「歴史×妖×芳年」展

2017年5月27日土曜日 行きたい! 札幌 「月岡芳年」展

で紹介した、札幌の月岡芳年展には結局行けず、残念だったのですが、そのかわりに

2017年6月28日水曜日 東京・横浜でも「月岡芳年」展

で紹介した、原宿で2回、横浜で1回開かれる芳年展に行くことにしました。

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まず一発目は横浜。

・(公財)横浜市ふるさと歴史財団/横浜市歴史博物館 > 見る : 企画展 > 年度別アーカイブ : H29(2017) > 企画展 丹波コレクションの世界Ⅱ 歴史×妖×芳年 : 詳細を見る > 企画展 丹波コレクションの世界Ⅱ 歴史(れきし)×妖(あやかし)×芳年(よしとし) "最後の浮世絵師"が描いた江戸文化(as of 2017/06/28)
http://www.rekihaku.city.yokohama.jp/koudou/see/kikakuten/2017/tanba_collection-2/

会期 : 2017年7月29日 (土) ~2017年8月27日 (日)
会場 : 横浜市歴史博物館
開館時間 : 9:00~17:00(券売は16:30まで)
休館日 : 月曜日
観覧料 : 一般 企画展500円(400円) 企画展・常設展共通700円(560円)、大学生・高校生 企画展 200円(160円) 企画展・常設展共通300円(240円)、中学生・小学生企画展100円(80円)企画展・常設展共通100円(80円) ※( )内は20名以上の団体料金です。 ※毎週土曜日は、小・中・高校生は無料です。
芳年を巡る【入館料相互割引プラン】 : 本展チケットの半券を太田記念美術館(外部リンク)の展覧会「月岡芳年 妖怪百物語/月岡芳年 月百姿」(会期:2017年7月29日(土)~8月27日/9月1日(金)~9月24日(日))でご提示いただくと、100円割引で御覧いただけます。(一枚につき一名様、1回限り有効) 他の割引との併用はできません。
主催 : 横浜市歴史博物館
共催 : 横浜市教育委員会
協力 : 神奈川県立歴史博物館
後援 : 朝日新聞横浜総局・神奈川新聞社・産経新聞社横浜総局・東京新聞横浜支局・日本経済新聞社横浜支局・毎日新聞横浜支局・読売新聞横浜支局・NHK横浜放送局・TVK・FMyokohama84.


同展チラシ表


同展チラシ裏

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会場の横浜市歴史博物館は、横浜市営地下鉄ブルーライン/グリーンラインのセンター北駅から歩いて5分。これまで、行き先として視界に入ったことのない地域だったので、新鮮でした。

ところで、頭に何もつかない「センター」って何だろう?

平日でしたが、思ったより客がいた。それでも、作品の前に人がダンゴになっているような状態ではないので、じっくり見ることができました。

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これは図録↓

・横浜市歴史博物館・編 (2017.7) 『丹波コレクションの世界II 歴史(れきし)×妖(あやかし)×芳年(よしとし) "最後の浮世絵師"が描いた江戸文化』. 107pp. 横浜市ふるさと歴史財団, 横浜.


装丁 : 高橋健介

展示作品は、横浜の貿易商・丹波恒夫氏(1881~1971)のコレクションから、78点が選ばれています。ほとんどは神奈川県立歴史博物館の所蔵品。

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月岡芳年(1839~92)は、幕末から明治前半に活躍した浮世絵師(錦絵師)。歌川国芳の弟子です。

2016年5月28日土曜日 府中市美術館 「ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想」展と岡田屋鉄蔵 『ひらひら』

で紹介した国芳一門のマンガ

・岡田屋鉄蔵 (2011.12) 『ひらひら 国芳一門浮世譚』. 182pp. 太田出版, 東京.

にも、小僧時代の芳年が出てきますよ。

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初期の武者絵などには、国芳の影響が強く出ていますが、次第に、豪胆な師匠の線とは違った、繊細な線での画風を極めていきます。

特に、糸のように細い線で描かれる美人画は、芳年の十八番。浮世絵というよりも、中国の美人画の影響があるような気がする。

明治になると、国芳の頃よりも一層海外の絵がどんどん入ってきて、絵師もいろいろな刺激を受ける機会が増えたのだと思う。

芳年にも、聖母子像の影響があらわな「一魁随筆 山姥 怪童丸」という作品がある。

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芳年の絵はもとより、彫師の技にも注目。明治期になると、彫師のテクニックもここまで進歩していたのか、と驚くばかりです。とても木版画には見えない。

摺師のテクニックにも仰天しっぱなし。ぼかし、グラデーションなどはお手の物。

空摺(墨をつけずに摺り、紙に凹凸を出す手法)
正面摺(墨の表面に艶を出して、単色の中に模様を浮かび上がらせる手法)
雲母(きら)摺(細かい雲母片を散らす手法)

などの、繊細な摺り技がふんだんに使われています。

会場には、これらの手法についての解説もあり、とてもわかりやすかった。この辺は指摘してもらわないと、素人にはなかなか気づかない。

これらは、図録や画集の印刷では全然出ない微妙な技なので、会場で現物を見るしかない。

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なお、図録カバーでは、この雲母摺部分のクローズアップが使われていて、なかなか通好みの装丁です。気づいた人はどれくらいいるかな?「遠方の星雲を撮影した天文写真」と思った人も多いかもしれない。

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優美な線で描かれた美人画からは一転、芳年が得意とした歴史物・時事もので男を描く際には、勢いのある直線で構成された角張った輪郭になります。特に、線の屈曲点での止めの迫力が芳年の特色。

芳年の売りの一つである「無惨絵」は、この丹波コレクションには少ない。しかし、今回は三枚綴りの歴史・時事ものや新形三十六怪撰シリーズなど、芳年の実力が十分堪能できる展示です。

この辺は、コレクターや展覧会キュレーターの個性が出るところ。今回は比較的一般人にも理解できるような作品ばかりが選ばれている、といえるでしょう。

しかし、逆を言えば、この展覧会だけでは、芳年の全貌は全く見えて来ないのだ。

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「新形三十六怪撰シリーズ」などは、原宿の太田記念美術館の展示とかなり重複していそうだが、一点ものではない浮世絵・錦絵の展覧会の宿命と観念して、もちろんそちらも行きます。

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暁斎や芳年が担った明治期の錦絵は、次第に印刷物に取って代わられます。彼らの後進たちは、印刷物での挿絵の世界に進んでいくわけですが、その世界もまた面白いのだ。

そして、伊藤晴雨、伊藤彦造、高畠華宵などを経て、これら挿絵画家の技は、現代のマンガ家たち、平田弘史、花輪和一、丸尾末広、さらには諸星大二郎の絵にまで続いていく。

手塚治虫を中心に置いてたどる「日本マンガ史」からは、全く見えてこない絵の系譜です。

そういった日本の通俗絵画史・マンガ史のパースペクティブの中に、芳年を置いて考えてみるのも、楽しみ方の一つでしょう。

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さて、次は、原宿・太田記念美術館の「月岡芳年 妖怪百物語」展だ!