2022年4月1日金曜日

Louise Brooks (2) 映画の手帖 4 「特集 宿命の女優」 - Louise 追悼特集

★Twitter 2021/01/10-11より転載+加筆修正★

Lulu を演じた Louise Brooks は、その後数作品に出演した後、1930年代には映画界から干されて引退。1985年8月に78歳で亡くなる。『ルイズ・ブルックスと「ルル」』が出てから1年も経っていない。

Louise を追悼する雑誌特集がこれ。

シネアスト 映画の手帖 4 : 特集 宿命の女優 Femme Fatale (1986.1). 261pp. 青土社.

大岡昇平をはじめファンが多いとはいえ、Louise Brooks だけではページが埋まらないため、他にも20世紀前半の女優、特に「魔性の女」系の人たちを多数取り上げている。が、Louise の分量が一番多いのは言うまでもない。

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Louise Brooks 関連記事は以下の通り。なぜか、大岡と並ぶ Louise ファンである山口昌男の執筆はなし。残念。

(01) タハール・ベン・ジェルン・詩+吉田加南子・訳 / まなざしの手ざわり ルイーズに. pp.42-43.
(02) 大岡昇平 / 「ルイズ」から「ルイーズ」へ. pp.44-51.
(03) ライオネル・リチャード・著+安藤俊次・訳 / ルルはどこからやって来たのか. pp.52-54.
(04) ロラン=ジャカール・著+千葉文夫・訳 / ルル 神話の起源. pp.55-59.
(05) 筒井康隆 / カナリヤが殺されるまで. pp.60-74.
(06) ロッテ・H・アイスナー・著+中田元子・訳 / パプストとルイズ・ブルックスの奇跡. pp.75-81.
(07) 四方田犬彦 / パンドラ・コムプレックス. pp.82-89.
(08) 松岡小夜子 / マンガになったルイズ・ブルックス. pp.90-91.
(09) ルイーズ・ブルックス・著+吉田加南子・訳 / クレパックスへの手紙. pp.92-94.
(10) ルイーズ・ブルックスの周辺 (女優さんらの写真集). pp.95-102.
(11) 丸尾末広・画 / ルル幻想. p.103.
(12) トマス・エルセッサー・著+夏目康子・訳 / ルルとメーター調べ ルイーズ・ブルックス/パプスト 『パンドラの箱』. pp.104-119.

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大岡昇平「「ルイズ」から「ルイーズ」へ」は、今回はあっさりした内容。『ルイズ・ブルックスと「ルル」』ですべてを出し尽くし、追い打ちで Louise の死、ということで気落ちしているようでもある。

大岡昇平が亡くなるのはこの2年後、1988年。Louise Brooks についてかっちりまとめた本を出せたことで、この世での心残りは少し減っていたかもしれない、なんて思ったりする。

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筒井康隆「カナリヤが殺されるまで」は、古いキネマ旬報記事を細かく当たり、Louise Brooks の駆け出し時代を丹念に追っていく。これはすごくおもしろい。『ダンヌンツィオに夢中』に再録もされている。

筒井氏は、Betty Boop と Louise Brooks について書こうと資料を集めていたところ、大岡昇平が Louise に関する文章を発表し始めたため、Louise についてはあきらめて手元の資料をすべて大岡氏に譲ったのだそうな。立派。

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四方田犬彦「パンドラ・コムプレックス」では、Louise のボブ・カットについて面白い話を伝えてくれている。

Frank Wedekind の Lulu の初映画化は、Asta Nielsen 主演で、

【Movie】 Leopold Jessner (dir) (1921) ERDGEIST (地霊)
IMDb > Erdgeist

Lulu 二部作のうち前半のみの映画化だ。この映画では、Nielsen 演じる Lulu はすでにボブ・カットなのであった。

Asta Nielsenについては本書にも、

小松弘 / アスタ・ニールセンの衝撃 もうひとりのルル. pp.135-145. 

という論考がある。

Pabst 監督が自作の主演女優を探す際に、この Nielsen 演じる Lulu のイメージを強く求め、同じボブ・カットの Louise を抜擢したのであった。

しかし、撮影に入るや考え直し、Louise の髪形を変えた。それが船上闇 casino のシーン。

だが、Pabst 監督は再度考え直し、その後の撮影では Louise に元のボブ・カットに戻すよう要求。なので、あの映画の Louise のボブ・カットはほとんどカツラなのだそうな。なんと、これは衝撃。

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Italy のマンガ家 Guido Crepax は、Louise Brooks 演じる Lulu をモデルとした Valentina Rosselli というキャラクターを生みだした。Guido は Louise にそのマンガを贈呈。それに対する返礼予定稿が、 ルイーズ・ブルックス 「クレパックスへの手紙」だ。同書p.93より。

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1920年代に大流行したショート・ボブは日本でもモガ ( Modern Girl ) の髪形として大流行。今でもショート・ボブの「最上もが」なんていう人もいる。Louise Brooks はそのシンボルとなり、ボブ・カットといえば彼女の姿が現れることになる。それはマンガの世界にも登場。

それについて軽く触れたのが、松岡小夜子 「マンガになったルイズ・ブルックス」 。だが、日本古来の幼児の髪形である「おかっぱ」まで全部西欧のボブ・カット由来とするのは無理がある。ただ、この髪型が日本人に合ったのは確かで、その辺はもっと深く追及が必要。本書pp.90-91より。

美少女エロ劇画を描かせたら右に出るものはいなかった村祖俊一を持ってきたのは卓見。Lulu のイメージに一番近いと思う。確かにボブ・カットが多かった。1980年代以降どうなったんだ、村祖俊一。

約100年前の話なので、現在のボブ・カットが当時の流行の名残、という認識はすでになくなっているのだが、面白いテーマであるので、誰か突っ込んで論考してほしいなあ。Lilian Gish のゆるふわファッションの現代への影響なんかも。

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本書は雑誌の形態をとっているのであまり知られていないが、大岡昇平 『ルイズ・ブルックスと「ルル」』と対になるものなので、Louise Brooks ファンならぜひ探し出して読んでほしい。

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