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2022年4月4日月曜日

USCA (ユースカ) No.5 - 森泉岳土、かつしかけいた

★Twitter 2021/01/18より転載+加筆修正★


であげた装丁家・森敬太さんは、同人誌 ( 市販もされていたよう ) USCA ( ユースカ ) の主宰者でもあるのだな。手元のあるのは no.2 (2014/2) とno.5 (2016/5)。→ ( 2022/04追記 ) その後no.3、4 も入手。No.1 はなかなか見ない。

これはno.5。

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2と5にある作者名で、デビュー済の人で知ってる人を挙げると、ひらのりょう、谷口奈津子、宮崎夏次系、笠辺哲、座二郎、西村ツチカ、本秀康、森泉岳土、真造圭伍。他にデビュー済みの人がいたらごめんなさい。ほぼセミプロ同人誌だ。アックスよりメジャー感あり。

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No.5の森泉岳土 「手牛の血」は、初期森泉でよくあった「わけわかんなさ」がいかんなく発揮されている作品。


こういう変な作品がまた読みたい。連載しているビッグコミックオリジナル増刊の読者相手じゃ無理かな・・・。

「手牛の地」は以下の単行本収録。

森泉岳土 (2018.9) 『セリー』 (ビームコミックス). 192pp. KADOKAWA.

(補足)
ビッグコミックオリジナル増刊連載作は以下の単行本にまとまっています。

森泉岳土 (2020.7) 『爪のようなもの・最後のフェリー その他の短篇』 (ビッグコミックススペシャル). 232pp. 小学館.

もう、うますぎて何も言うことはないのだが、「彼ならこれくらい描くだろうな」という予想の範囲内という気がしないでもない。安定の作品集。

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USCAでは「かつしかけいた」という人も気になる。USCAでは地元・葛飾に特化したマンガを描いているよう。No.2の「街跡」は、ホント散歩して人・風景を描写してるだけだが、No.5の「まままい」はストーリー、というか変な設定が立ててあって意外だった。このプレハブ、実在する。


架空の大学「葛飾区立大学 (← えー?)」の生徒4人 ( 全学生4人って大学なのか、これ? ) の日々を描く。変な話だなー。

この人観察/スケッチの人なので、やっぱりこの辺が面白い。いますよね、こういう人。それを小柄な女子でやってるのもいい。


絵柄はルポの挿絵とかでよく見るタイプの絵なのだが、「誰と似てる」というのも思い出せない不思議な絵。面白い人なので、そのうちどっかでまた出くわすでしょう。それはたぶんマンガ雑誌ではないような気がする。→ BCオリジナルなどで挿絵をやってるのを確認。

2018年3月5日月曜日

『ランバーロール 0』 森泉岳土「あの日あなたと クチン2015」ほか

そういうわけで、『ランバーロール0』を見つけてきました。

・ランバーロール・編 (2017.2) 『ランバーロール0』. 111pp. ランバーロール, 出版地不明.


表紙イラスト : 森泉岳土, デザイン : セキネシンイチ制作室

006-013 (マンガ) 森泉岳土/あの日あなたと クチン2015
014-020 (小説) 滝口悠生/温み
021-021 (イラスト) 森泉岳土/(無題)
022-027 (小説) 上田岳弘/かつての魔王
028-053 (マンガ) おくやまゆか/しおりしっとり
054-058 (小説) 太田靖久/ノラルンバ
059-059 (イラスト) 森泉岳土/(無題)
060-067 (小説) 高橋弘希/愛と平和
068-109 (マンガ) 安永知澄/海ちゃんへの手紙
110-111 (あとがき) 安永知澄+森泉岳土+おくやまゆか

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これで、この本が年1回刊であること、主導しているのは森泉+おくやま+安永の3人であること、小説分野では今のところレギュラーはいないこと、などいろいろわかったぞ。

0号の売れ行きで、ある程度手応えをつかんだのだろう。1号は、増ページな上に、装丁もより凝った作りになった。

0号は1000円+税、01号は1200円+税。ちょっと高いと感じるかもしれないが、まあ、同人誌と思えばそんなこともない。

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・森泉岳土 (2017.2) あの日あなたと クチン2015. 『ランバーロール0』所収. pp.6-13. ランバーロール, 所在地不明. 

0号を見て、森泉の作品は「あの日あなたと」というシリーズものであることがわかった。

今回は、奥さんとマレーシアへ。内容は、なんということはない観光エッセイ。楽しそうではあるが、なるほどこれは商業誌には載らないだろう。

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今回も森泉はイラストも2枚提供。


同書, p.59

やっぱり黒い部分が多い方が森泉らしさが出る。

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・安永知澄 (2017.2) 海ちゃんへの手紙. 『ランバーロール0』所収. pp.68-109. ランバーロール, 所在地不明. 

0号では、安永作品が3分の1を占めている。これも「海ちゃんへの手紙」というシリーズものになっている。

内容は、「マッサージ店人情もの」という珍しいジャンル。これはちょっと尺を整理すれば、「ビッグコミックオリジナル」あたりで好まれそうな話だ。意外に早くメジャー誌に昇格して来るかもしれない。

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おくやま作品も、しみじみしていい。2号以降は「むかしこっぷり」を続けるのかな?

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奥付に名前が挙がっている谷口愛さん(リトルプレス「歩きながら考える」編集長)が、実質的に編集を担当しているようだ(営業も委託してる?)。

なるほど、年一回の刊行ペースといい、取り扱い書店が限定的(置いてある場所は、「歩きながら考える」も「ランバーロール」も共通している)といい、営業方針が似ている。

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というわけで、なかなかおしゃれなアート系のマンガ・小説誌なのだが、上記の3人が仲良くしてる間はまた出るだろうから、来年2月また買います。

2018年3月4日日曜日

『ランバーロール 01』 森泉岳土「あの日あなたと ヴェネツィア2016」ほか

・ランバーロール・編 (2018.2) 『ランバーロール01』. 159pp. ランバーロール, 出版地不明.


表紙画 : 森泉岳土, デザイン : セキネシンイチ制作室

という雑誌というか本を見つけました。

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表紙画は森泉岳土。相変わらず嫌味なくらいうまい、美しい。ロゴもユニーク(読めない!)。

森泉(モデルさんではない方(笑))については、これまで3度取り上げていますので、「この人の絵、何?」という人はそちらでどうぞ。

2017年10月15日日曜日 森泉岳土 『報いは報い、罰は罰』
2016年12月31日土曜日 森泉岳土 『うと そうそう』
2016年8月14日日曜日 森泉岳土5連発

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同人誌的な内容だが、ISBNがついているので、一応通常の流通ルートに乗る商業誌。雑誌コードはついていないので、本という扱い。

奥付には、版元「ランバーロール」の所在地記載がない。この辺は同人誌的。

それでも装丁はやたらと立派で、プロに依頼してるし、こっちは商業誌的、というキメラのような雑誌だ。

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内容は、マンガが5編に短編小説が4編という構成。

006-015 (マンガ) 森泉岳土/あの日あなたと ヴェネツィア2016
016-022 (小説) 戌井昭人/アライちゃん
023-023 (イラスト) 森泉岳土/(無題)
024-033 (マンガ) ササキエイコ/工場
034-042 (小説) 加藤秀行/マルシェ
043-043 (イラスト) 森泉岳土/(無題)
044-061 (マンガ) おくやまゆか/むかしこっぷり 塀の上の二人のはなし
062-071 (小説) ふくだももこ/カナちゃん
072-073 (イラスト) 森泉岳土/(無題)
074-084 (小説) 松波太郎/5、4、3、2、1、0.9
085-085 (イラスト) 森泉岳土/(無題)
087-119 (マンガ) 横山雄/彗星のこども
120- (マンガ) 安永知澄/海ちゃんへの手紙 すごいひと

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中心になっているのは誰かわからないが、森泉は表紙・巻頭だし、その他にイラストも4枚提供してるし、彼が雑誌の顔として全面的に協力しているのは間違いない。


同誌, p.43

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・森泉岳土 (2018.2) あの日あなたと ヴェネツィア2016. 『ランバーロール01』所収. pp.6-15. ランバーロール, 所在地不明. 

は、ItalyのUdineで毎年開催されているIl Far East Film Festival 18(第18回ウーディネ極東映画祭)(2016年4月)で、岳父である映画監督・大林宣彦が、Gelso d’Oro alla Carriera(生涯功労賞)を受賞した際に、一家でItaly、特にVeneziaを訪れた時の思い出を綴る小品。

内容は一見軽いが、大林監督は末期癌であることを公言しているので、実は家族にとっては大切な思い出だ。

「ああ くつろぐ」

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森泉が、大林監督の娘さんと結婚しているのは、知っている人は知っているが、知らない人も多いかもしれない。アーティストとして自立しているから、それを売りにする必要は全くないので、表に出すことはあまりない(かといって隠しているわけでもない)。

しかし、やはり大林監督の時間が少なくなっているせいもあって、最近は両者のコラボが増えてきた。『うとそうそう』の推薦シールや解説(になってなかったけど)に大林監督が登場しているし、大林監督の最新映画『花筺』のポスターも森泉だ。

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線画だけのシンプルな絵だが、「水で描いてそこに墨を垂らす」といういつもの森泉画法で描かれている。

大きく描いて、それを絵ごとにスキャナーで取り込み、画像ソフト上でコマ構成するというやり方らしいが、ここまで縮小されていると、そんな凝った画法が使われていることに気づかない人も多いだろう。

しかし、この線の妙な不均質さに「筆にしても変だ」と嗅ぎつけた人は、

・ジャパン・クリエーターズ Wannabe.jp > Illustration イラスト > Illustrator FILE 10:森泉岳土(2015年8月24日更新)
http://wannabe.jp/illustration/column/moriizumi/index.html

をどうぞ。

イラストの方は、お得意の「人物シルエット+にじみベタ塗り」が多用された森泉らしいもの。これが4枚も見れるのだから幸せだ。

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他の作者で知っているのは「おくやまゆか」だけ。これも死期の迫った父親の記憶を代筆した、いい作品だ。

ササキエイコ、横山雄は、どちらもアート系のマンガだ。森泉人脈らしい作品群。

こういった中に入ると、普通の絵柄の安永作品が居心地悪そう(笑)。

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小説の方は、いずれも文学賞を取っているような、それなりに有名な人たちらしいが、私はほとんど小説というものを読まないので、全然知らなかった。

小説はほとんど読まない、とはいえ、「ツツイスト」ではあるので、戌井作品、松波作品などには、どうしても筒井康隆の影響を見てしまう。いずれも面白い実験小説だ。

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ランバーロールは、どのようなペースで発刊されるのかわからないが、毎回森泉作品が読めるのなら、また買おうと思う。

どうも、創刊準備号である『ランバーロール 0』というのもあるらしいので、探しに行ってみる。

2017年10月15日日曜日

森泉岳土 『報いは報い、罰は罰』

『A-A'』の途中ですが、新刊の紹介。

2016年12月31日土曜日 森泉岳土 『うと そうそう』
2016年8月14日日曜日 森泉岳土5連発

で紹介した森泉岳土(もりいずみたけひと)の新刊が出ました。

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・森泉岳土 (2017.10) 『報いは報い、罰は罰 上・下』(BEAM COMIX). KADOKAWA, 東京.
← 初出 : 月刊コミックビーム, 2016年12月号~2017年9月号.


装幀 : 吉田昌平(白い立体)

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いやー、今回の表紙は、白黒で何が描いてあるのかわからないグチャグチャの絵。森泉の真骨頂だ。最高です。

表紙でいきなり客を選ぶ、と思うけど、「最近の森泉絵は、端正になりすぎ」と感じていたので、初期のテイストが蘇ったこの表紙は、自分にはとても嬉しい。

書店の売り場に、禍々しい空気を存分に発散しているので、気持ち悪くて、「チラ見するのも嫌だ」という人もいるかもしれない。

自分は、最初、上・下巻の区別がつかなくて、「もう片方はどこだ?」と探してしまいましたよ(笑)。

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カバーは、何と言うのか知らないが、しっとりしたマットな素材。これは汚れや煙をよく吸いそうだ。書店カバーはかけたままにしておこう。

この凝った装幀のせいもあり、この本かなり高い。各170ページくらい(正確にはわかんないんですよ)で1250円+税。でも迷わず買っちゃいましたよ。それだけ価値のある本です。

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この本、ノンブル(ページ番号)がいっさいない。少年マンガでは、ほぼ全ページ断ち切りでノンブルがないのはあるけど、これはきっちり全コマがページ内に収まっているのに、だ。

当然、意図的なもの。マンガというより芸術作品として売ろうとしているのかもしれない。あるいは「ページ数など気にせず没頭してほしい」ということか?

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内容は、長編ゴシック・ホラー。これだけストーリー性の強い長編作品は、森泉は初挑戦だ。

妹・真百合が、嫁ぎ先の洋館から行方不明になったと聞き、姉・真椿(まつばき)はUSAから帰国早々、山奥の洋館に向かうのだった。

そこで出会った洋館の怪しい一家。そして、冬の洋館で巻き起こる惨劇。犯人は?真椿は無事に帰れるのか?そして妹・真百合の行方は?

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同書・上, はじめの方

2ページ目の絵からして、もう怖すぎなんですけど(笑)。

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推理ものの要素も少しあるが、悩む間もなく、わりとあっさり明らかになってしまうので、これはやっぱりホラーものだ。犯人もそれほどひねりはない、と感じるかもしれない。

「冬の洋館での惨劇」というと、小説 Stephen King (1977) SHINING、あるいは映画 Stanley Kubrik(dir) (1980) SHINING(シャイニング)を思い出すかもしれないが、このマンガもかなりその影響を受けていると思う。

それだけではなく、作中には様々なホラーの類型が散りばめられていて、作者がホラーものをよく勉強していることがわかる。その分、ホラーとしてのオリジナリティは少し弱い気がする。登場人物もちょっと類型的かな。

しかし、そんなことはあまり気にする必要はない。森泉くらいの超絶画力で、本気で読者を怖がらせようとしたら、底知れぬ恐ろしい絵が出てくる、という事実を楽しんでほしい。

ホント、どのページも怖すぎだよ。


同書・下, 前半

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今回人物画は、おそらく意識的にちょっと劇画調にしてある。誰かの絵にそっくりのような気がするんだが、思い出せない。石井隆や丸尾末広のテイストはかなり感じる。

端正な表情だけでストーリーを進めることが多い森泉だが、ホラーともなると、驚き、恐怖、疲労の表情など、バラエティに富んだ森泉人物画が楽しめる。相変わらず「汗」を感じさせる絵はないが、まあそれはそういう作風なんで・・・。

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ぜひ挙げたかったのだが、ネタバレになるのでわざと挙げなかった絵が、上巻後半の惨殺シーン。これはもうスゴすぎて、声も出ない。日本マンガの至宝ですね。おそらく何年か後には、あちこちで真似されるでしょう(特にFranceのband decinée方面で)。

最初に描いたように、この作品では、どうやって描いているのか想像もつかない、森泉流背景が圧倒的だ。暗がりの多い洋館、夜のシーンの多さ、森泉テクニックが存分に発揮されている。

コンピュータ上の画像処理ではなさそうな、暗闇のボカシの多用も、この洋館に漂う禍々しさをよく表現している。これに気が滅入る人もいるかもしれないな。

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ストーリー展開では、ちょっとタイミングよすぎでお芝居くさい、とか、主人公が転落するシーンはちょっと無理がある、とか感じる所もあるかもしれないが、何せこの絵で、この勢いで、描かれると、もう圧倒されてしまい、ぐいぐい引き込まれる。

今後、ネット上ではネタバレっぽいレビューもかなり出てくると思うので、早いこと買って、まっさらな状態で読むことをお勧めします。

いやあ、次はどんなマンガを描いてくれるんだろう。楽しみでしょうがない。

2016年12月31日土曜日

森泉岳土 『うと そうそう』

2016年8月14日日曜日 森泉岳土5連発

で紹介した森泉岳土の新刊が出ています。

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・森泉岳土 (2016.12) 『うと そうそう』. 166pp. 光文社, 東京.
← 初出 : 小説宝石, 2015年6月号~2016年8月号


ブックデザイン : 吉岡秀典(セプテンバー・カウボーイ)

今回は、水と爪楊枝を8B(!)の鉛筆に持ち替えての作品。紙は画用紙かな?

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うまい、うますぎる。嫌味に感じるほどうまい。中身もブックデザインも完成度が高すぎて、私がくだくだ語る必要もない。見て、読んでもらえばそれで充分、といった作品。

解説によると、著者はこの作品全部を、連載開始前わずか1ヶ月で描き終え、連載はそれを小出しにしていったのだそうな。驚きですね。

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中身は8ページものが15編。いずれも主人公のモノローグで構成される詩のような作品。スケッチのような単純な線で描かれており、シルエットを得意とする森泉にとってはお手のものだろう。



鉛筆なので下描きはないはず。一発勝負でこれだけの絵が描けてしまうのがすごい。別紙にラフくらい取ってから、その後にコマ割りして描いてはいるのだろうが。

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各話の扉がまた凝っている。上3分の2は見えるか見えないかのかすかな線で、手前に置いて見るとよく見えないが、奥から覗きこむようにすると見えてくるという、ホログラムのような特殊印刷。どういう仕組みなんだろう。

本をひっくり返しても同じなので、インクの粒子に角度がついている、とかではなさそう。不思議な仕組みだ。

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解説は映画監督・大林宣彦。実は、著者は大林監督の娘婿に当たるのです。大林監督の文章は、フラフラあちこちに寄り道する展開で、本人の話と似ていておもしろい。

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1400円+税、ということで高いと感じるかもしれませんが、ブックデザインも含めてひとつの芸術作品と思って、手に取ってみてください。

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(追記)@2016/12/31

著者自身が、小説宝石及びブックバンで本作について語っているので、そちらもどうぞ。

・ブックバン > レビュー > 森泉岳土/だれかの指 『うと そうそう』刊行エッセイ(2016/12)
http://www.bookbang.jp/review/article/523795
← 初出 : 小説宝石, 2017年1月号

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(追記)@2017/01/01

扉の仕組みが少しわかった。仕掛けがあるのはインクの方じゃなくて紙の方だ。

光沢のある紙を使っているんだが、特定の角度に光を多く反射する。それが手前側、少し本を傾けた角度(本を読む視線の方向)。すると紙が光を反射して白っぽくなり、やはり白っぽいインクで印刷された絵と同化して真っ白に見える、という寸法。

その角度からずれると、紙からの反射は減り、紙は少し黒っぽくなり絵が見える、というわけだ。

2016年8月14日日曜日

森泉岳土5連発

本エントリーは
stod phyogs 2016年8月14日日曜日 森泉岳土5連発
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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「もりいずみたけひと」と読みます。マンガ家です。

この人の絵はびっくりしましたね。こんなのです↓


(『祈りと署名』「ハルはきにけり」 p.91)

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主線は太いのに、なんか線の真ん中が抜けてる、ってわけがわからない。どうやって描いてるの?

答えは『祈りと署名』「あとがき」にありました。

「水で描いてます」というとまずキョトンとされる。「そこに墨を落とすんです。細かいところは爪楊枝で」と説明してもほとんどのかたが(分からない)という顔をする。
(『祈りと署名』「解説あるいは経緯など」 p.148)

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わかんねーよ(笑)。でも、こちらを見たらようやく理解出来ました。

・ジャパン・クリエーターズ Wannabe.jp > Illustration イラスト > Illustrator FILE 10:森泉岳土
http://wannabe.jp/illustration/column/moriizumi/index.html

まず下絵を描く。その線を水でなぞる。そこに墨を落としそのまま広がるのを待つ。あるいは爪楊枝でひろげる。こういう手法のようです。

墨が線の端に残るのは、水を吸った紙は膨らんで、だいたい中央部が盛り上がるので墨は周縁部に落ちて行く、また周縁部に染みこんで行く水と一緒に縁辺部に向かって行く、ってとこでしょうか。

紙が水で濡れた時に、残った染みでは縁辺部の汚れが一番目立つのと同じ現象でしょう。

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なんでまたこんな面倒くさい画法で描くのか?と誰しも疑問に思うでしょうが、

今のところ、これがいちばん僕に向いた描きかただ、と思っている。
(『祈りと署名』「解説あるいは経緯など」 p.148)

と言うんだから仕方ない(笑)。でも、この画法を発見したエピソードも知りたいところ。

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先ほどの「Illustrator FILE 10:森泉岳土」によると、この画法だと必然的に太い線しか描けないので、4倍サイズで原画を作り、それをコンピューターに取り込んで、コラージュ的にマンガにしてるんだそうです。相当な手間ですね。

初期の作品は、ちょっと見には、なにやら墨のシミが画面いっぱいににじんでるようにしか見えない絵が多かったが、近作はだんだん洗練されてきて大分見やすくなっています。画法よりもコンピューター使いが洗練されてきているんだと思いますね。

初期のあの荒々しい絵もすごく魅力的ですが。

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・森泉岳土 (2013.12) 『祈りと署名』(BEAM COMIX). 149pp. KADOKAWA/エンターブレイン, 東京.


ブックデザイン:吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)

単行本デビュー作。

表題作はかなり力を入れた作品のようではあるが、自分にはあんまり肌に合わなかったなあ。

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「ハルはきにけり」 pp.85-116.
← 初出:月刊コミックビーム, 2011年11月号.

これは名作。小学生のハルちゃんが本の世界と妄想の世界を行き来する楽しい連作。

社会の授業で「アルジェリア」と「ナイジェリア」があることを知ったハルちゃんは図書館へ。そして「アルゼンチン」の反対「ナイゼンチン」を発見するのであった。

「行ってみたいな」に続く、次の見開き4ページが素晴らしい。


(『祈りと署名』「ハルはきにけり」 p.110-111)


(『祈りと署名』「ハルはきにけり」 p.112-113)

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「トロイエ」 pp.117-136.
← 初出:月刊コミックビーム, 2012年8月号.

全編シルエットで描かれた作品。


(『祈りと署名』中扉)

実験作、と思いきや、実は元々こういうシルエットでの作品ばかり描いていたんだそうな。この画法でシルエットだけの作品・・・想像を絶する。どうしてマンガで行こうと思ったのか、謎は深まるばかり。

顔を描くようになったのは、なんと

なにを置いても、漫画家のいしかわじゅん氏から「目鼻口を描かないと」と助言をいただいたことが大きい。そんな助言をいただくのもどうかとは思うが、
(『耳は忘れない』「未来、未来、今は過去」p.150)

だそうな。

シルエットの人物から徐々に表情が見えてくるのがすごい。真っ黒のシルエットよりも、所々白く抜けたシルエットのほうが圧迫感があるのはどういうわけだ?

とにかく不思議なマンガ。

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・森泉岳土 (2014.7) 『夜よる傍に』(BEAM COMIX). 186pp. KADOKAWA/エンターブレイン, 東京.
← 初出:月刊コミックビーム, 2013年12月号~2014年6月号.


ブックデザイン:吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)

なんと連載作で、きっちり単行本になってしまうのです、この人の作風で。すごいですね。

夜中出歩く休業中のカメラマンのサトル。神社で出会った少女・美琴の頼みに答えて、絵本をさがす。そして見つけ出した絵本の世界が現実に侵入し始め・・・。


(『夜よる傍に』 p.127)

ほとんどが夜のシーンなので、この作者にはお手の物。「夜の帳」という言葉を、これほどまでに的確に絵に出来る人がいるとは・・・。


(『夜よる傍に』 pp.22-23)

この作品では、線の太さが気にならないほどまで縮小してあるようで、荒々しさが消えだいぶ洗練された画面構成になっています。コンピューター使いがうまくなったよう。

ごくわずかだが、気付き線(頭上に描かれる短い放射線)や汗といったいわゆる「漫符」も現れ、徐々にマンガ文法を勉強していることも伺えます。

登場人物は最小限なのだが、脇役も魅了的。深夜喫茶のマスター藤田さん+真央さんがいい味出している。アンは「引き」強すぎでしょ(笑)。また、絵本の作者クリスピンのエピソード挿入もいいタイミング。

静かでいい作品なんだが、一つだけ、「間違った夜明け」には爆笑してしまった(すんません)。言葉を絵にするのは難しいですね。その道の達人森泉も相当悩んだに違いない。

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・森泉岳土 (2014.8) 『耳は忘れない』(BEAM COMIX). 152pp. KADOKAWA/エンターブレイン, 東京.


ブックデザイン:吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)

この人の単行本が2ヶ月連続で出てるなんて信じられない。初期作品が多く収録されているので、荒々しい画風時代の森泉画法がたっぷり堪能できる。

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「耳は忘れない」 pp.1-16.
←初出:描きおろし

表題作で単行本表紙もこの作品から。

黒に黄色を入れた二色の作品。実験作だが、さすがに黄色だと、この画法の効果はあまり出ない。

この人、意外にもバックパッカーなのだ。旅先で出会った女と、旅先で聴いた音楽の思い出。

私は旅先に音楽は持って行かないので、この感覚はわからない。だいたいThelonious Monkの音楽が頭に入っていると、音源などなくとも頭の中で充分楽しめる、というような話はいつかMonkのお話の時に。

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「森のマリー」 pp.49-58.
← 初出:月刊コミックビーム, 2010年9月号.

これが商業誌デビュー作らしい。


(『耳は忘れない』「森のマリー」 pp.54-55.)

絶句しますよね。初出の時の衝撃はどうだったんだろうか。まあ、わけがわからん、という感じで、反応はあまりなかったんだろうと思うけど。

しかし初期の荒々しさはほんと魅力的だ。意外にも森泉絵のルーツが「いわさきちひろ」にあるらしいことも、これでわかる。

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「盗賊は砂漠を走る」 pp.73-90.
← 初出:月刊コミックビーム, 2011年2月号.


(『耳は忘れない』「盗賊は砂漠を走る」 pp.84-85.)

もうね、ちょっと見には何が描いてあるのかわからない絵とはこれです。どうやって描いているのかも、説明聞いてもわからない。

マンガとしては空前絶後の絵。なのに、律儀に枠線があり、吹き出しもある。なるほどこれはマンガである。

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「小夜子、かけるかける」 pp.91-148.
← 初出:月刊コミックビーム, 2011年12月号~2012年1月号.

お母さんが作ったお話を絵本にする小夜子。絵のスクールに通い熱中する小夜子。塾に通わされる小夜子(以下略)。少女の自分探しの旅。

作中作の絵は薄墨を使って差別化しているが、この絵もとても美しい。


(『耳は忘れない』「小夜子、かけるかける」 pp.116-117)

このころからようやく、補助的に使っていた爪楊枝の真価に気づき、だいぶ細い線を描けるようになってきている。
(『耳は忘れない』「未来、未来、今は過去」p.151)

「爪楊枝の真価」などという言葉、生まれてはじめて聞いたよ。ほんともう驚きっぱなし。

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・森泉岳土 (2015.3) 『カフカの「城」他三篇』. 81pp. 河出書房新社, 東京.


デザイン:セキネシンイチ制作室

名作のマンガ化作品集。これはB5版。これくらい大きいほうがのびのび描けているような気がする。

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収録作は、

フランツ・カフカ「城」
夏目漱石「こころ」より「先生と私」
エドガー・アラン・ポー「盗まれた手紙」
ドストエフスキー「鰐」

・ドリヤス工場 (2015.9)『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』. リイド社.
・ドリヤス工場 (2016.7)『定番すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』. リイド社.

もやたら売れてるみたいだし、こういった名作マンガ化けっこう流行るかもしれませんね。もっとも、この森泉本はどこに行ってもなくて、意外にも近所の小さい本屋で見つけた。

でも、こういう名作によっかかる路線は、受けがよかったり売れたりするかもしれないが、続けてもおもしろい方向性にはなかなかいかないので、数年に1回程度でいいかも。

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「古典」を意識してか、全作を通じてコマ割りが3×3、あるいはその変形になっています。そのせいか、とても読みやすい。後半はコマ割りの実験場のごとし。

絵もすっかり端正にまとめる技を身に着けているので、森泉画法には気づかない人も多いかもしれない。

この辺りの画面構成は見事ですね。


(『カフカの「城」他三篇』「カフカ「城」」 p.17)

漱石「こころ」の終わりごろから、縦長3コマの実験が始まります。


(『カフカの「城」他三篇』「漱石「こころ」」 p.40)

縦長コマの中で遠近感を表す実験


(『カフカの「城」他三篇』「ポー「盗まれた手紙」」 p.50)

とまあ見応えたっぷりです。

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・森泉岳土 (2016.5) 『ハルはめぐりて』(BEAM COMIX). 140pp. KADOKAWA/エンターブレイン, 東京.
← 初出:月刊コミックビーム, 2015年5月号/2015年9月号/2015年12月号/2016年4月号


ブックデザイン:吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)

「ハルはきにけり」のハルちゃんが中学生になって、ベトナム、台湾、モンゴル、山形・銀山温泉を旅する。

「中学生バックパッカー」という設定はちょっと無理があるけど、ハルちゃんをみんな(私も)見たいようだから許そう(笑)。

今後、ハルちゃんは森泉作品唯一の馴染みキャラとして定着していくのかもね。

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画風はすっかり安定しちゃって、フツーの人でも安心して読める。ストーリーも旅ものなので淡々と進み、お馴染みのハルちゃんの妄想シーンが見どころ。


(『ハルはめぐりて』「台湾篇」 pp.66-67)

霧に巻かれるシーン、見事ですね。シルエットで語らせるのはお手のもの。

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(『ハルはめぐりて』「ベトナム篇」 pp.30-31)

よく見ると、これ不思議な絵だ。写実的な部分とデフォルメがきつい部分が妙な具合に共存して違和感がない。

前髪なんてぶっとい線で3本垂らしてあるギャグマンガみたいな表現なのに、その周囲のタッチと違和感なく入ってくる。ぶっとい前髪3本は、「ハルはきにけり」の頃からのハルちゃんのアイコンになってる。

森泉作品の雰囲気は、森雅之(この人もいつか取り上げよう)に似ていることにも今気づいた。

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ハルちゃん面白いので、数年に1度でいいから、ハルちゃん物を描き続けてほしいですね。

あとやっぱり、最近の端正なスタイルもいいけど、初期の嵐のような絵もまた見たいなあ、とお願いしといて終わり。