芳年ツアー第3弾。太田記念美術館の後期。
今年はもうないかな。でも、芳年作品はまだまだあるので、展覧会があれば、少し遠出してでも行くぞ。
しかし、やっぱり札幌の芳年展に行けなかったのは、かえすがえすも心残り。
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・太田記念美術館 > 展覧会 > 年間スケジュール > 特別展 月岡芳年 月百姿(as of 2017/06/28)
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/%E6%9C%88%E5%B2%A1%E8%8A%B3%E5%B9%B4%E3%80%80%E6%9C%88%E7%99%BE%E5%A7%BF
会期 : 2017年9月1日(金)~9月24日(日)(9月4、11、19日は休館します)
開館時間 : 午前10時30分~午後5時30分(入館は午後5時まで)
会場 : 太田記念美術館 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10
TEL : 03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料 : 一般 1000円、大高生※学生証をご提示ください。 700円、中学生以下※中学生は学生証(生徒手帳)をご提示ください。 無料(リピーター割引 「月岡芳年 妖怪百物語」および「月岡芳年 月百姿」両展覧会の会期中2回目以降ご鑑賞の方は、半券のご提示にて200円割引いたします。※チケット購入時に半券をご提示下さい。他の割引との併用はできません。
しまった!前回の半券忘れた。まあ前回、横浜の半券で割引してもらったからいいか。
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同展パンフレット, p.4
同展パンフレット, p.3
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「月百姿」は、芳年晩年の「月」をテーマにしたシリーズ。明治中期の作品だ。その百点を全点展示。見応えあったなあ。
晩年の筆致はかなり硬質になっており、闊達なところに乏しく、「硬すぎる」と感じるかもしれないが、その繊細かつ細かい描写を見ていくのが今回の見所だ。
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「月」というと、たいていは満月。この「月百姿」も大半は満月なのだが、三日月、上弦、下弦、二十三夜月、叢雲に隠れる月、とヴァリエーションもかなりあり、そのリズムを楽しむこともできる。
果ては、月を描かず、それを眺める人物で表現した絵、あるいは月の気配すらないものまである。これはもう、「このお話知ってるでしょ」という鑑賞者との間の暗黙の了解で成り立っているのだが、当時流行りのお話がネタ元なので、現代人の我々には解説がないとなかなか厳しい。明治人に生まれ変わるVirtual Realityって作れないもんか・・・。
また、浮世絵/錦絵最末期の彫り、摺り技術の到達点も見どころだ。本当に唸らされる。惜しい文化を亡くした。
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これが図録。今回も、一般書籍として書店でも販売されています。
・日野原健司・著, 太田記念美術館・監修 (2017.8) 『月岡芳年 月百姿』. 135pp. 青幻舎, 東京.
デザイン : 原条令子
「月」がテーマなのに、月を思わせる円を青で塗ったデザインが大胆だ。
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気に入った作品、あるいは気になったものをいくつか。
月岡芳年 (1886.9) はかなしや波の下にも入ぬべしつきの都の人や見るとて 有子
同書, p.14
身投げの直前に琵琶を弾く有子(ありこ)。『源平盛衰記』より。
ここでは月本体は描かれておらず、水面に反射する光で月の存在を表現しています。日本ならではの繊細な表現。
「月百姿」シリーズでは、空摺り、正面摺りの手法がふんだんに使われています。紙の裏から版木を当て、墨を付けずに摺り、画面に凹凸や部分的に光沢を出す手法です。たいていは、白、黒などの単色ベタ塗り面上に、柄を浮かび上がらせたり、光沢模様を出すために使われています。
このシリーズでは、白の四角に囲まれた題字にはすべて空摺りが入っていました。また、白地~薄色の着物にはたいてい空摺りで柄が浮かんでいましたね。
見渡したところ、しゃがんだり横から眺めたりして、空摺り、正面摺りを観察していたのは私だけだった。もったいない。空摺り、正面摺りは、図録や画集ではほとんど出ないので、現物を見た人だけが楽しめる技法なのに・・・。
さて、この絵では、空摺りが使われているのは、着物の柄ではなく、なんと水面の月光反射。画面下から上に伸びていく月光反射は上部では白い背景に消えていくのですが、実は画面の凹凸でその連続が見れるのです。これは是非、現物を見てもらうしかない。
なお本書では、正面摺りの解説が、p.64、p.88、p.106にあります。
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月岡芳年 (1886.3) 源氏夕顔巻
同書, p.42
薄墨で表現された夕顔の幽霊。色、線の繊細さ、素晴らしい。ボサボサの髪もまた哀れを誘う。前景に、実際の夕顔を配する構成も粋だ。
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月岡芳年 (1889) 雨中月 児島高徳
同書, p.72
南北朝時代、南朝の武将・児島高徳が後醍醐天皇の無事を祈る姿。
ここで注目は雨の表現。これは白い墨で刷ってあるのだ。こういう白墨を使った技法ははじめて見た。この技術、どの程度広まっていたのだろうか。興味あるなあ。
いずれにしろ、その後まもなく、この技法含め、浮世絵/錦絵まるごと滅びるわけですが・・・。
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月岡芳年 (1886.2) 烟中月
同書, p.90
明治時代とは思えない、モダンでスタイリッシュな画面処理だ。右側の炎の部分には、なにか英文コピーを入れたくなるではないか。芳年は、20世紀の広告美術を先取りしていたのかもしれない。
対面の屋根に、鏡写しのように同じポーズの人物をシルエットで置くアイディアもクールだ。
あと、炎の黄色。この鮮やかさは、スキャン画像や図録、画集ではうまく出ない。これも現物を見た人だけが楽しめる特権。
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月岡芳年 (1886.2) 月夜釜 小鮒の源吾 嶋矢伴蔵
同書, p.118
石川五右衛門の子分二人。見張り番が入ったままの大釜を盗んでしまい、中から声が聞こえるのを不審がっている様子。これも解説なしでは、なんだかさっぱりわかりませんね。でも、絵だけでも楽しめる一枚。
以前、
2017年9月3日日曜日 中谷伸生 『耳鳥斎アーカイヴズ』
でも、大坂の戯画「鳥羽絵」にちょっとだけ触れましたが、この絵はその鳥羽絵の影響というか、ちょっとパロってみました、という珍しい絵だ。鳥羽絵の特長は、異様に細長い腕と脚。
芳年は、こういうマンガ的な絵も描いていたんだなあ。もうちょっと、この路線も見てみたかった。
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過去3回の展覧会で、だいぶ芳年とお近づきになれたような気がする。
しかしまだ、「血みどろ絵」はあまり見ていない。
今回の一連の展覧会では、意図的に「血みどろ絵」ははずされている。それは1970年代に芳年が注目された時に、こういった残虐絵ばかりが注目されたせい。その反動でしょう。
芳年は作品数も多いので、近々またどこかで展覧会がありそうな気がする。また行くぞ。
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(追記)@2017/09/16
・菅原真弓 (2009.11) 『浮世絵版画の十九世紀 風景の時間、歴史の空間』. 396pp. ブリュッケ, 国立(東京).
という本も、ちょうど読みました。目次だけ簡単に。
007-020 序章 語られなかった"過渡期"の日本美術 幕末明治美術への視点
021-160 第一部 十九世紀の浮世絵版画における風景主題 風景と時間をめぐって
023-075 第一章 歌川広重「木曽海道六拾九次」の「時間」
077-103 第二章 歌川広重と木曽街道の旅
105-131 第三章 歌川広重と縦絵の風景画
133-160 第四章 小林清親の光と広重受容
161-321 第二部 十九世紀の浮世絵版画における歴史主題 歴史と空間をめぐって
163-193 第五章 武者絵の十九世紀 葛飾北斎から歌川国芳へ
195-226 第六章 武者絵から歴史画へ 歌川国芳における画面拡大の意味
227-266 第七章 虚構から現実への階梯 月岡芳年「血みどろ絵」のリアリティ
267-321 第八章 十九世紀歴史画の確立 月岡芳年の『前賢故実』受容
323-327 終章 風景の時間と歴史の空間
329-333 あとがき 謝辞を兼ねて
335-387 資料・年譜
392-388 掲載図版一覧
395-393 索引
著者は大阪市立大学教授。2000~06年には中山道広重美術館学芸員だった関係上、第一部は当時の研究対象・広重に関する論考。
私としては、第二部の北斎、国芳、そして芳年に関する論考が特に面白かった。
芳年の元ネタとしての菊池容斎 (before 1868) 『前賢故実』を知れたのもよかった(第八章)。
この手の本、もっとないかな。探してみよう。
「釜泥」っていう落語がありますね。
返信削除コメントありがとうございます。「釜泥」は聞いたことなかったです。
返信削除しかし、落語「釜泥」には、小鮒の源吾と嶋矢伴蔵の名前は出てきませんね。この二人の名前を検索しても、芳年「月夜釜」しか出てきません。困ったな。
「釜泥」の元ネタは、図録に出ている噺本二種
(1) 稲穂 (1773) 『近目貫』「大釜」
(2) 鳥居清経・画 (1775) 『豊年俵百噺』
らしいのですが、少なくとも後者には二人の名前は出てきません。たぶん同じような噺本である前者にも出てこないでしょう。
何か、当時の芝居での創作役名ではないか?と思いますが、もはやわかりませんね。
遅ればせながら、手元の下記の書籍とCDを調べてみました。
返信削除やっぱり、名前はありませんでした。
興津要編(1973.11)『古典落語 続々々』,講談社,東京,(pp.39-47,p.530).
東大落語会編(1969.9)『三遊亭小円朝集』,青蛙房,東京(pp.173-184,pp.326-327).
東大落語会編(1985.5)『増補 落語事典』,青蛙房,東京.(p.125)
立川談志(2004)『談志百選 第一期 付録冊子』,竹書房,東京.
(第6集の項、ページの記載なし)
CD:立川談志(2004)『談志百選 第一期 第6集』,竹書房,東京.
わざわざ調べていただきありがとうございました。
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