2016年8月24日水曜日

『終電ちゃん』の副読本2冊

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stod phyogs 2016年8月24日水曜日 『終電ちゃん』の副読本2冊
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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・山田亮 (2016.5) 『JR中央線・青梅線・五日市線 各駅停車』. 223pp. 洋泉社, 東京.


















装丁:志村佳彦(ユニルデザインワークス)

中央線本はたくさんあって、ちょっと食傷気味なほど。その中でもこれは買い!

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古い写真、古い地図満載。古い地図(昭和前半頃のものが多い)は住宅・商業地造成による改変前の原地形がわかって興味深い。

古い地図を集めた本も、結構多いんだが、みな高いんですよ。だからこういうコンパクトにまとめた本は貴重。

あと、青梅線、五日市線を取り上げているのもポイント高い。

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お次はマンガ。

・小坂俊史(こさかしゅんじ) (2009.10) 『中央モノローグ線』(BAMBOO COMICS). 115pp. 竹書房, 東京.


















装丁:名和田耕平デザイン事務所

表1の風景がどこか、中央線住民ならすぐわかりますね。ついでに表4も。


















これもすぐわかるでしょう。著者の中央線愛が伝わってくる表紙です。

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中央線住民の女性たちのモノローグ四コマ。最初に出てくるのは、中野、高円寺、吉祥寺。

あーありがちだなー、と思って見ていると、次に出てくるのがなんと武蔵境。これがこの本の特殊な点ですね。

いわゆる「中央線文化」と呼ばれるのは、高円寺とか吉祥寺とかが中心となっている。だいたい三鷹より東、中央・総武線エリアだ。三鷹以西の「田舎くさい中央線」とは別世界。

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その田舎くさい中央線が始まるのが、「一昔前は」武蔵境からだった。高架化以降ずんずん都会化して、武蔵境はいまや「中央線マイナー四強」からは脱却しつつある。

残りの「マイナー三強」は、東小金井、西国分寺、西八王子です。さすがにこのエリアは、このマンガでも取り上げられなかったが。

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しかしこのマンガ、作者は男性なのですね。

男性がマンガで描く女性は、時に女性には気持ち悪く映るらしいのだが、このマンガは女性が読んでも違和感ないんじゃないだろうか?

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中央線マンガは他にも何冊かあったと思うので、そのうちまた探して取り上げてみよう。

それにしても2冊とも見事に中央線カラーだなあ(笑)。

2016年8月16日火曜日

終電ちゃんに叱られたい

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stod phyogs 2016年8月16日火曜日 終電ちゃんに叱られたい
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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・藤本正二 (2016.3) 『終電ちゃん 1』(モーニングKC-2580). 190pp. 講談社, 東京.


















装丁:杉本智行(uni-co)

いわゆる「擬人化マンガ」と思いきや、どうもちょっと違うらしい。

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東京都を東西に横断するJR中央線。その高尾行最終電車を司っているのが「終電ちゃん」。正確には「中央線の終電ちゃん」。

というのは、各社各路線にそれぞれ独自の「終電ちゃん」がいるらしいのだ。

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駅では酔客をどなりつけ、酔いつぶれている客は起こしたり車内に運び入れたり、とにかくすべての客を乗せるのを使命としている。ダイヤを守ることは重視していない。

徹底的に乗客への慈愛に満ちている。口は悪いが。だから乗客からの信頼・人気もすごいのだ。

「よーし 出発する前に一言 お前たち全員に 言っておきたいことがある!」
「終電ちゃんだ!」
「明日は必ず もっと早い電車で帰るって 約束しな!!」
「はーい!!!するするーッ!!」

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馴染みの乗客にはいちいち声をかける。どうやら、終電ちゃんは、すべての客の下の名前を知っているらしいのだ。ただの擬人化キャラではありませんね。

厳しさと慈愛を兼ね備えたキャラ。これは・・・。

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発車時刻も終電ちゃんが決める。東京総合指令室より偉いのだ。運転士も車掌も駅員も、駅長すら終電ちゃんを怖れ、へりくだって話しかける。


















(『終電ちゃん 1』 p.38)

見得を切るポーズの男前なこと。

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終電ちゃんは中央線終電の擬人化キャラか?妖精か?それとも女神か?と議論がなされているわけですが、これはもう決定です。

『終電ちゃん』「終電ちゃんとクリスマス(後編)」 p.139で終電ちゃんが言っているではないですか

「ああやっと分かったかい 厄介事ばかりの疫病神なんだよ私は!」

って。だから(女)神様なんですよ。

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中央線の終電ちゃんは、なぜか背中に変なものを背負っている。これは勾配標。

仏教の仏様は、皆独自の持ち物(持物(じもつ)と云います)を持っています。たとえば、観世音菩薩=蓮華、薬師如来=薬壺、文殊菩薩=経冊+剣など。それぞれの尊格の属性(つまりお経で語られている仏の性格)を一発で表現する持ち物となっています。

中央線の終電ちゃんの勾配標はこれと同じですね。

他の終電ちゃんも独自の持物を持っています。JR山手線の終電ちゃんは転轍機を引きずっているし、小田急小田原線の終電ちゃんはカンテラを持っています。

それぞれの持物にはこういう由来が・・・ないんだろうなあ(笑)。この辺は、下手につじつまを合わせるとツッコミが入るところでしょうから、由来を語るエピソードなどは入れない方がいいかも。

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終電ちゃんは、走行中は電車の先頭の屋根に座っています(ほんとはあり得ないが)。これも女神である証拠。

これは、船の舳先に飾られているアレ。そう船の守り神である女神様、それと同じなのです。

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マンガで語られている中央線の終電は高尾行。しかし、実は高尾行終電の後には、武蔵小金井行終電、三鷹行終電がまだあるのだ。

                                東京   新宿   吉祥寺   終点
高尾行終電             24:20  24:41  24:58    高尾 25:37
武蔵小金井行終電  24:27  24:50  25:07    武蔵小金井 25:17
三鷹行終電             24:35  25:01  25:18    三鷹 25:21

出典:
・chuosen.jp > 基礎知識 終電時刻表 (as of 2016/08/15)
http://www.chuosen.jp/timetable/lasttrain/

ということは、武蔵小金井行終電ちゃん、三鷹行終電ちゃんもいるのだろうか?

ここは「中央線の終電ちゃんは実は三姉妹」という説を主張したい。もちろん長女があの「高尾行終電ちゃん」。

いつか二人の妹終電ちゃんも見てみたいが(自分でかってに思っているだけですが)、このへんも「今まで全然触れないじゃないか」とツッコミが入りそうなので、もし出すとしても、おまけの四コマかなんかで軽く触れるだけにしといた方がいいかも。

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それにしても、この作者は新人にしてすごいキャラを発見してしまったもんだ。ちばてつや賞受賞作の週刊モーニング掲載後わずか2ヶ月でいきなり連載開始(月一連載)なんだから、実力はある。

絵はまだ下手だけど、これからみるみるうまくなるはずだから全然心配していない。

絵よりもストーリーに長けた人。「人情もの」の展開は安定しているし、ストックもまだまだ持ってそう。そんなに若い人ではないと見た(30代?)。

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とはいえ、「終電ネタ」でそうそう続くものでもないだろう。「終電ちゃんとクリスマス(前後編)」で大ネタをかましてしまったし(たぶんこれが一番描きたかったネタとみたぞ)。

あとは終電ちゃんを狂言回しにして、乗客の人情話で延々連載を続けるか・・・。

ネタ出しに苦しむくらいなら、3巻くらいで早めに風呂敷をたたむのもひとつの手。実力ありそうだから、次回作も楽しみだ。

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誰も指摘しないけど、「終電ちゃん」のタイトルロゴ。これは、駅とも関係が深い「修悦体」を模したもの。これもなかなかいい感じ。

2巻は2016年9月23日発売だそうだ。楽しみ。

2016年8月14日日曜日

森泉岳土5連発

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stod phyogs 2016年8月14日日曜日 森泉岳土5連発
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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「もりいずみたけひと」と読みます。マンガ家です。

この人の絵はびっくりしましたね。こんなのです↓


(『祈りと署名』「ハルはきにけり」 p.91)

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主線は太いのに、なんか線の真ん中が抜けてる、ってわけがわからない。どうやって描いてるの?

答えは『祈りと署名』「あとがき」にありました。

「水で描いてます」というとまずキョトンとされる。「そこに墨を落とすんです。細かいところは爪楊枝で」と説明してもほとんどのかたが(分からない)という顔をする。
(『祈りと署名』「解説あるいは経緯など」 p.148)

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わかんねーよ(笑)。でも、こちらを見たらようやく理解出来ました。

・ジャパン・クリエーターズ Wannabe.jp > Illustration イラスト > Illustrator FILE 10:森泉岳土
http://wannabe.jp/illustration/column/moriizumi/index.html

まず下絵を描く。その線を水でなぞる。そこに墨を落としそのまま広がるのを待つ。あるいは爪楊枝でひろげる。こういう手法のようです。

墨が線の端に残るのは、水を吸った紙は膨らんで、だいたい中央部が盛り上がるので墨は周縁部に落ちて行く、また周縁部に染みこんで行く水と一緒に縁辺部に向かって行く、ってとこでしょうか。

紙が水で濡れた時に、残った染みでは縁辺部の汚れが一番目立つのと同じ現象でしょう。

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なんでまたこんな面倒くさい画法で描くのか?と誰しも疑問に思うでしょうが、

今のところ、これがいちばん僕に向いた描きかただ、と思っている。
(『祈りと署名』「解説あるいは経緯など」 p.148)

と言うんだから仕方ない(笑)。でも、この画法を発見したエピソードも知りたいところ。

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先ほどの「Illustrator FILE 10:森泉岳土」によると、この画法だと必然的に太い線しか描けないので、4倍サイズで原画を作り、それをコンピューターに取り込んで、コラージュ的にマンガにしてるんだそうです。相当な手間ですね。

初期の作品は、ちょっと見には、なにやら墨のシミが画面いっぱいににじんでるようにしか見えない絵が多かったが、近作はだんだん洗練されてきて大分見やすくなっています。画法よりもコンピューター使いが洗練されてきているんだと思いますね。

初期のあの荒々しい絵もすごく魅力的ですが。

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・森泉岳土 (2013.12) 『祈りと署名』(BEAM COMIX). 149pp. KADOKAWA/エンターブレイン, 東京.


ブックデザイン:吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)

単行本デビュー作。

表題作はかなり力を入れた作品のようではあるが、自分にはあんまり肌に合わなかったなあ。

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「ハルはきにけり」 pp.85-116.
← 初出:月刊コミックビーム, 2011年11月号.

これは名作。小学生のハルちゃんが本の世界と妄想の世界を行き来する楽しい連作。

社会の授業で「アルジェリア」と「ナイジェリア」があることを知ったハルちゃんは図書館へ。そして「アルゼンチン」の反対「ナイゼンチン」を発見するのであった。

「行ってみたいな」に続く、次の見開き4ページが素晴らしい。


(『祈りと署名』「ハルはきにけり」 p.110-111)


(『祈りと署名』「ハルはきにけり」 p.112-113)

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「トロイエ」 pp.117-136.
← 初出:月刊コミックビーム, 2012年8月号.

全編シルエットで描かれた作品。


(『祈りと署名』中扉)

実験作、と思いきや、実は元々こういうシルエットでの作品ばかり描いていたんだそうな。この画法でシルエットだけの作品・・・想像を絶する。どうしてマンガで行こうと思ったのか、謎は深まるばかり。

顔を描くようになったのは、なんと

なにを置いても、漫画家のいしかわじゅん氏から「目鼻口を描かないと」と助言をいただいたことが大きい。そんな助言をいただくのもどうかとは思うが、
(『耳は忘れない』「未来、未来、今は過去」p.150)

だそうな。

シルエットの人物から徐々に表情が見えてくるのがすごい。真っ黒のシルエットよりも、所々白く抜けたシルエットのほうが圧迫感があるのはどういうわけだ?

とにかく不思議なマンガ。

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・森泉岳土 (2014.7) 『夜よる傍に』(BEAM COMIX). 186pp. KADOKAWA/エンターブレイン, 東京.
← 初出:月刊コミックビーム, 2013年12月号~2014年6月号.


ブックデザイン:吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)

なんと連載作で、きっちり単行本になってしまうのです、この人の作風で。すごいですね。

夜中出歩く休業中のカメラマンのサトル。神社で出会った少女・美琴の頼みに答えて、絵本をさがす。そして見つけ出した絵本の世界が現実に侵入し始め・・・。


(『夜よる傍に』 p.127)

ほとんどが夜のシーンなので、この作者にはお手の物。「夜の帳」という言葉を、これほどまでに的確に絵に出来る人がいるとは・・・。


(『夜よる傍に』 pp.22-23)

この作品では、線の太さが気にならないほどまで縮小してあるようで、荒々しさが消えだいぶ洗練された画面構成になっています。コンピューター使いがうまくなったよう。

ごくわずかだが、気付き線(頭上に描かれる短い放射線)や汗といったいわゆる「漫符」も現れ、徐々にマンガ文法を勉強していることも伺えます。

登場人物は最小限なのだが、脇役も魅了的。深夜喫茶のマスター藤田さん+真央さんがいい味出している。アンは「引き」強すぎでしょ(笑)。また、絵本の作者クリスピンのエピソード挿入もいいタイミング。

静かでいい作品なんだが、一つだけ、「間違った夜明け」には爆笑してしまった(すんません)。言葉を絵にするのは難しいですね。その道の達人森泉も相当悩んだに違いない。

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・森泉岳土 (2014.8) 『耳は忘れない』(BEAM COMIX). 152pp. KADOKAWA/エンターブレイン, 東京.


ブックデザイン:吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)

この人の単行本が2ヶ月連続で出てるなんて信じられない。初期作品が多く収録されているので、荒々しい画風時代の森泉画法がたっぷり堪能できる。

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「耳は忘れない」 pp.1-16.
←初出:描きおろし

表題作で単行本表紙もこの作品から。

黒に黄色を入れた二色の作品。実験作だが、さすがに黄色だと、この画法の効果はあまり出ない。

この人、意外にもバックパッカーなのだ。旅先で出会った女と、旅先で聴いた音楽の思い出。

私は旅先に音楽は持って行かないので、この感覚はわからない。だいたいThelonious Monkの音楽が頭に入っていると、音源などなくとも頭の中で充分楽しめる、というような話はいつかMonkのお話の時に。

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「森のマリー」 pp.49-58.
← 初出:月刊コミックビーム, 2010年9月号.

これが商業誌デビュー作らしい。


(『耳は忘れない』「森のマリー」 pp.54-55.)

絶句しますよね。初出の時の衝撃はどうだったんだろうか。まあ、わけがわからん、という感じで、反応はあまりなかったんだろうと思うけど。

しかし初期の荒々しさはほんと魅力的だ。意外にも森泉絵のルーツが「いわさきちひろ」にあるらしいことも、これでわかる。

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「盗賊は砂漠を走る」 pp.73-90.
← 初出:月刊コミックビーム, 2011年2月号.


(『耳は忘れない』「盗賊は砂漠を走る」 pp.84-85.)

もうね、ちょっと見には何が描いてあるのかわからない絵とはこれです。どうやって描いているのかも、説明聞いてもわからない。

マンガとしては空前絶後の絵。なのに、律儀に枠線があり、吹き出しもある。なるほどこれはマンガである。

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「小夜子、かけるかける」 pp.91-148.
← 初出:月刊コミックビーム, 2011年12月号~2012年1月号.

お母さんが作ったお話を絵本にする小夜子。絵のスクールに通い熱中する小夜子。塾に通わされる小夜子(以下略)。少女の自分探しの旅。

作中作の絵は薄墨を使って差別化しているが、この絵もとても美しい。


(『耳は忘れない』「小夜子、かけるかける」 pp.116-117)

このころからようやく、補助的に使っていた爪楊枝の真価に気づき、だいぶ細い線を描けるようになってきている。
(『耳は忘れない』「未来、未来、今は過去」p.151)

「爪楊枝の真価」などという言葉、生まれてはじめて聞いたよ。ほんともう驚きっぱなし。

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・森泉岳土 (2015.3) 『カフカの「城」他三篇』. 81pp. 河出書房新社, 東京.


デザイン:セキネシンイチ制作室

名作のマンガ化作品集。これはB5版。これくらい大きいほうがのびのび描けているような気がする。

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収録作は、

フランツ・カフカ「城」
夏目漱石「こころ」より「先生と私」
エドガー・アラン・ポー「盗まれた手紙」
ドストエフスキー「鰐」

・ドリヤス工場 (2015.9)『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』. リイド社.
・ドリヤス工場 (2016.7)『定番すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』. リイド社.

もやたら売れてるみたいだし、こういった名作マンガ化けっこう流行るかもしれませんね。もっとも、この森泉本はどこに行ってもなくて、意外にも近所の小さい本屋で見つけた。

でも、こういう名作によっかかる路線は、受けがよかったり売れたりするかもしれないが、続けてもおもしろい方向性にはなかなかいかないので、数年に1回程度でいいかも。

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「古典」を意識してか、全作を通じてコマ割りが3×3、あるいはその変形になっています。そのせいか、とても読みやすい。後半はコマ割りの実験場のごとし。

絵もすっかり端正にまとめる技を身に着けているので、森泉画法には気づかない人も多いかもしれない。

この辺りの画面構成は見事ですね。


(『カフカの「城」他三篇』「カフカ「城」」 p.17)

漱石「こころ」の終わりごろから、縦長3コマの実験が始まります。


(『カフカの「城」他三篇』「漱石「こころ」」 p.40)

縦長コマの中で遠近感を表す実験


(『カフカの「城」他三篇』「ポー「盗まれた手紙」」 p.50)

とまあ見応えたっぷりです。

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・森泉岳土 (2016.5) 『ハルはめぐりて』(BEAM COMIX). 140pp. KADOKAWA/エンターブレイン, 東京.
← 初出:月刊コミックビーム, 2015年5月号/2015年9月号/2015年12月号/2016年4月号


ブックデザイン:吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)

「ハルはきにけり」のハルちゃんが中学生になって、ベトナム、台湾、モンゴル、山形・銀山温泉を旅する。

「中学生バックパッカー」という設定はちょっと無理があるけど、ハルちゃんをみんな(私も)見たいようだから許そう(笑)。

今後、ハルちゃんは森泉作品唯一の馴染みキャラとして定着していくのかもね。

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画風はすっかり安定しちゃって、フツーの人でも安心して読める。ストーリーも旅ものなので淡々と進み、お馴染みのハルちゃんの妄想シーンが見どころ。


(『ハルはめぐりて』「台湾篇」 pp.66-67)

霧に巻かれるシーン、見事ですね。シルエットで語らせるのはお手のもの。

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(『ハルはめぐりて』「ベトナム篇」 pp.30-31)

よく見ると、これ不思議な絵だ。写実的な部分とデフォルメがきつい部分が妙な具合に共存して違和感がない。

前髪なんてぶっとい線で3本垂らしてあるギャグマンガみたいな表現なのに、その周囲のタッチと違和感なく入ってくる。ぶっとい前髪3本は、「ハルはきにけり」の頃からのハルちゃんのアイコンになってる。

森泉作品の雰囲気は、森雅之(この人もいつか取り上げよう)に似ていることにも今気づいた。

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ハルちゃん面白いので、数年に1度でいいから、ハルちゃん物を描き続けてほしいですね。

あとやっぱり、最近の端正なスタイルもいいけど、初期の嵐のような絵もまた見たいなあ、とお願いしといて終わり。

2016年8月9日火曜日

panpanya 3連発

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stod phyogs 2016年8月9日火曜日 panpanya 3連発
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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これもよくわかんないタイトルですが、やっぱりマンガの話。panpanyaは「パンパンヤ」と読むようです。これも性別不明だが、たぶん男。

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平方イコルスン同様、白泉社「楽園」執筆者だが、知ったのはそちら経由ではない。

本屋に行くたびに、気になってしょうがなかったのだが、この人の本結構高いんですよ。だからなかなか手が出なかった。

でも1冊買ったらもうはまりまくり。といっても寡作なので3冊しかないけど。

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黒っぽい緻密な背景に、ラフスケッチのようないいかげんな人物。

とくると、これはまさに水木しげるではないですか。怪奇色はないけど、水木しげる、あるいはガロ・マンガの後継者の一人、と言っていいでしょう。

こういう人が、青林工藝舎(注)ではないところから出てきて、商業的に成立しているのが21世紀の日本マンガの特徴です。

(注)青林堂が1997年に青林堂と青林工藝舎に分裂した後、ガロらしさを保持しているのは青林工藝舎の方。青林堂は、かつてのおもかげは微塵もなく、ガロも廃刊。保守系活字本である程度ヒットを出しているのはご存知の通り。

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登場人物はというと、全作品同じ。おかっぱの少女が主人公。小学生から社会人まで、どの年代でもこれで押し通す。だいたい高校生くらいのことが多いけど。


主人公の女の子
(『蟹に誘われて』 「方彷の呆」 p.78)

他には、犬のレオナルド


レオナルド(なんでこの名前?)
(『蟹に誘われて』 「THE PERFECT SUNDAY」 p.186)

犬には見えないぞ。「べつやくれい」が描く犬なみのいいかげんさ。

お次は、なんて言ったらいいのかわからない、目も鼻もなく、タコのような口が四方に開いているだけの人物。この二人が必ず出てくる。


なんていう名前だ?この「謎のタコ男」(そうだこれで行こう、今、名前つけたよ)
(『蟹に誘われて』 「パイナップルをご存じない」 p.65)

あと、友だちらしきロングヘアーの女の子と、イルカが時々いろんな役で出てくる。一種のスターシステムと言えないこともない。

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背景に描かれるのは、ゴチャゴチャした街の風景であることが多い。それも看板にやたらと執着している。

こんなの


(『足摺り水族館』 「完全商店街」 p.39)

このコマにpanpanyaのすべてが詰まっていると言っても過言ではない。

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というと、思い出すのは、ガロ出身の逆柱いみり(望月勝広)。

緻密な街の風景、それも昭和30年代テイストでありながらも、架空の看板やら架空の乗り物・生物やらがあふれる幻想テイストの作品を描き続けている人。

そういえば、逆柱いみりも、初期の作品にはショートカットの女子となにか変なものとの掛け合いで、一応ストーリーが展開されていた。panpanyaはそれと似ていますね。

逆柱マンガは、その後徐々にまともな登場人物がいなくなり、ついにはストーリーすら消滅。異様な風景だけがえんえん描かれるという、もはや環境マンガ~アートの世界に入ってしまった。

最初の2冊『象魚』、『马马虎虎』までは追っかけたが、その後ついていけなくなりました。

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調べてみると、panpanyaと逆柱いみりは仲がよいらしく、二人で展覧会などもやっているそうな。まあそうなるでしょうね。しかし、まさか逆柱いみりの後継者が現れるとは・・・驚きの一言。

panpanyaが描く風景は、逆柱に比べると現実味があり(といっても今はもうない、二昔前の風景だが)、逆柱マンガよりはとっつきやすいかもしれない。看板も現実のものを使ってるし(やっぱり二昔前のものだけど)。

結構年食ってる人なのか、レトロ好きの若い人なのか、もう全然わからないです。しかし、レトロ好きであっても、いきなり「HiC50」(缶ジュースです)なんか出せるもんだろうか?

いやいや、最近は串間努さんの一連の著作なんかもあるし、若い人でも調べられるかあ。わからんなあ。

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では単行本と作品をいくつか紹介。

・panpanya (2013.8) 『足摺り水族館』. 323pp. 1月と7月, 東京.


装丁:panpanya
・1月と7月(as of 2016/08/02)
http://1to7.thebase.in/

小さい出版社からのデビュー作。出版社のサイトに行ってみたが、『足摺り水族館』は出版物リストにはない。すでに絶版のようなので、見つけたら逃さず買っておいた方がいいです。

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気になったのは、

「完全商店街」 pp.13-50.

少女はここでは小学生らしい。お母さんに頼まれたお使い。読めないアイテム↓


(『足摺り水族館』「完全商店街」 p.17.)

を探して町をさまよい歩く。百貨店へ行ったり、街中のロシアへ行ったり、そしてついに完全商店街へ。

完全商店街の描写がもう素晴らしすぎて・・・(前述)。よく見るとこれは、映画「ブレードランナー」の世界ですね。なるほど自分が好きなのはそういうことであったか・・・。今気づいた。

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「インノセントワールド」 pp.109-142.

これはいつもと違い、画用紙にスケッチ風に描かれている(あるいはそれ風なデジタル作画?)。

京都への修学旅行。仲間とはぐれ京都タワーを目指すが、いつの間にか第2京都タワーへ。そしてさらには未知の第3京都タワーへ。

夢風に描かれた作品。つげ義春「外のふくらみ」っぽくもあり、とても魅力的。

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「マシン時代の動物たち」 pp.221-256.

真夜中の空き地に向かって、自動販売機たちがどんどん集まり出すシーンは素晴らしい。

落ちは、ちょっと腑に落ちすぎて、イマイチのような気がする。

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「君の魚」 pp.269-316.

私設水族館展示用の魚を求めて多摩川を逆上るのだが、時代設定が1970年代あたりらしく、水質汚染がひどいことになってる。

立川あたりが工場地帯になっていたり、平行している玉川上水を大型漁船が通過しマグロを落としたりと、妄想の多摩川っぷりが実に楽しい。

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・panpanya (2014.4) 『蟹に誘われて』. 219pp. 白泉社, 東京.


装丁:panpanya

そして白泉社から商業誌デビュー。それにしてもこの作風で毎年1冊も単行本が出せるのってすごい。

なお、タコ男がレギュラー化するのはこの本から。

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「わからなかった思い出」 pp.10-14.
← 初出:楽園web増刊, 2013/4.

田舎のおばあちゃんがくれるおもちゃ、

「スーパーボールだよ」
「アメリカンクラッカーだよ」
「アストロジャックスだよ」
「ソムベーソバイだよ」
「オロコッパーヘンデルモルゲンだよ」
「Непонятный(注)」

と徐々にエスカレートしていく話。

(注)

ちなみにこれはロシア語で「奇妙な」という意味です。おそらく、おもちゃの名前ということではないのでしょう。ロシア語、というかキリル文字好きなんだね。

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「innovation」 pp.21-51.
← 初出:同人誌, 2012/2.

発電所で、ベルトコンベアで流れてくるココナッツを棒で叩いて割るアルバイトをしている主人公(今回は高校生)。

学校の授業である竹細工を作り、これをバイトの仕事に使ったために大変なことに。

落ちは謎の解明に向かうのだが、ますますわけがわからなくなる結末でいい。豪快だし。最後の方はなぜか黒田硫黄を思い出す。

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「TAKUAN DREAM」 p.144-147.
← 初出:楽園web増刊, 2013/11.

わずか4ページながら、大傑作。

お話はというと、「たくあん」のプラモデルを作る話だ。どうだ参ったか!

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「鍋」 pp.169-172.
← 初出:楽園, no.14 [2014/2].

スーパーに、

広告の品 「闇鍋セット ゲテモノ・非食品 珍味など愉快な具材をこれ一袋で バラエティアソート スープ付 2~3人前」 ズバリ 特価498円

があるのもビックリだが、その隣りに陳列されている、

広告の品 「AKARUNABE 明鍋セット 明るい鍋で気軽に闇鍋気分! おいしくてもりあがる!! スープ付 2~3人前」 ズバリ 特価 498円

にはもっとビックリ(笑)。

で、レオナルド(繰り返すけど犬です)と一緒に食べる明鍋の驚きの結末!(ってほどじゃないか)。でもこの話好きだなあ。

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「計算機のこころ」 pp.205-216.
← 初出:楽園, no.14 [2014/2].

「鍋」と同時発表か。同月に傑作を2作も描いてしまうとは、すごい。

1960年代にトランジスターやICを搭載した電卓が登場する以前にイルカの頭脳を演算処理装置として利用していた時代があったのだ。(『蟹に誘われて』「計算機のこころ」 p.206)

という偽史をベースに、イルカの計算機をもらってきた主人公。ためしにこのイルカ計算機で、リーマン予想を解かせてみると・・・。

しかし、リーマン予想を解かせるのに、「リーマン予想」と書いた紙を「べこーっ」と入れるだけでいいのは楽だなあ(笑)。

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・panpanya (2015.5) 『枕魚』. 217pp. 白泉社, 東京.


装丁:panpanya

今のところ最新作。2016年は単行本出るかなあ。楽しみ。

細かい背景描き込みに、主人公だけスポットで赤、そして全体にアミかけ、と凝った表紙。panpanyaらしいデザインです。

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「範疇」 pp.9-12.
← 初出:楽園web増刊, 2014/4.

走ってくる車をカウントする主人公。これは車か?車じゃないのか?と悩んでいるうちに目を回す。落ちも完璧。傑作です。

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「備品」 pp.29-32.
← 初出:楽園, no.15 [2014/6].

校庭に現れる犬。それに対処しきれない先生たち。そこに現れたのが謎の備品。

その「備品」は、真上からしか描かれてないのが、想像をかきたてさせてくれて見事。

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「地下行脚」 pp.63-96.
← 同人誌, 2009/11.

新宿の地下、イルカの案内で「変わったピザまん」をさがす話。

確かに深夜の東京、誰もいない地下街や繁華街ってこんな印象だ。暗い暗い意志の塊がうごめいているような・・・。これを絵にできるんだから、この人すごい。

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「ニューフィッシュ」 pp.111-141.
← 同人誌, 2013/10.

これはスペクタクルSF大作(ってほどでもないか)。でも作者にしてはアクションも多く、スケールの大きい珍しい作品なのは確か。

James Cameron監督 (1989) 『THE ABYSS』なみ、なんちゃって。

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「始末」 pp.166-170.
← 初出:楽園web増刊, 2014/11.

電動黒板消し(これ、本当に見たいな)に駆逐されたラーフル(鹿児島方言)の末路は!

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「記憶だけが町②」 pp.193-198.
← 同人誌, 2009/11.

サンエブリー、SPAR、生活彩家、time's、オレンジハート、■ママ(不明、ヤマザキショップ?)、ヒロマルチェーン、モンマート、コミュニティストア、全日食チェーン、マイショップ、くらしハウス、SAVE ON、スリーエフ・・・。

「マイナーコンビニの激戦区だったのか・・・」

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しかし、平方イコルスンにしてもpanpanyaにしても、自分の分身を少女として登場させるのはなぜなんだろう?

「そりゃ、読むのは男なんだから、かわいい女の子出さなきゃ駄目でしょ!何が不思議なの?」
「ユングでしょ。これは作者のアニマであり・・・・」
「男はみな、すべからく少女になりたい願望があるのだよ。」

どれも当たっているかもしれないし、当たってないかもしれない。

そういえば花輪和一のマンガも、作者の分身は少女だ。江口寿史は「オレは女子高生を描きたいんじゃなくて女子高生になりたいんだ」と言った。

この話は奥が深そうなので、ここで終わり。

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panpanyaのマンガは、登場人物がこのかわいい子じゃなければ、マイナーマンガのままで終わったかもしれない。

でもやっぱり、性格は少しひねくれてるし、言葉遣いは「君は○○なのかね?」という具合でやっぱり男。

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それにしても、「最近のマンガはおもしろいものがない」などとほざいて、全然最近のマンガを読んでいなかったオレは大馬鹿野郎だった。

すごいマンガはまだまだあるぞ!どんどん紹介していこう。

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(追記)@2016/11/30

2016年11月29日火曜日 panpanya 『動物たち』

この時点での最新刊

・panpanya (2016.12) 『動物たち』. 180pp. 白泉社, 東京.

について書いていますので、こちらもどうぞ。

2016年8月6日土曜日

平方イコルスン3連発

本エントリーは
stod phyogs 2016年8月6日土曜日 平方イコルスン3連発
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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タイトルだけ見ると、一体何の話か?と思うかもしれないが、マンガの話です。

「平方イコルスン」は作家名。近頃はペンネームも凝りすぎて、何がなんだかわからないのが多い。もともと「平方二寸」だったのが、友人が「平方=(イコール)寸」と誤読して以来このペンネームになったそうな。性別不明だが、たぶん男です。

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知ったのはごく最近。ドリヤス工場(これもよくわからないペンネーム)を追っかけて、リイド社(『ゴルゴ13』の単行本で有名)のマンガサイト

・トーチweb(since 2014/08)
http://to-ti.in/

に行ったらぶち当たった。

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登場人物は95%が女子高生。その会話というかセリフ中心でストーリーが展開されていく、というちょっと珍しいマンガ。

この人はもともと文章の人で、おまけでイラストやマンガを描いているうちに、pixvに投稿した「けいおん」パロが目に止まってデビュー、という経歴らしい。だからセリフ中心の展開も納得。

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そのセリフも生硬で理屈っぽい。姿は女子高生なんだが、中身はやっぱり男だな。それでもよくわからないセリフ回しは変でおもしろい。こういうマンガもあるんだ、とちょっと新鮮でした。

画材はペンタブでオール・デジタル作画らしいが、トーンも全く使わない絵柄なので、デジタル感は微塵もない。ハンコか版画みたいなソリッドなこういう絵柄は昔から好きです。

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・平方イコルスン (2012.8) 『成程』. 91pp. 白泉社, 東京.


デザイン:柴田昌房(30A)

商業誌デビュー作含む初単行本。

この人のマンガはセリフが多いし、コマ割りも細かい。基本三段組だが、それをさらに上下に二段に割ってあることが多い。だからこの単行本はB5版という珍しいサイズ。

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気になった作品は、

「性的寄り道」 pp.19-22.
← 初出:楽園, no.6[2011/6]

持ち主不明で教室に置きっぱなしになっているバイク・ヘルをめぐる話。意味わかんないでしょ。まあ読むがいいさ。

わずか4ページなのに、連続TVドラマ「オヨグダンシ」(なんでいまさら「ウォーターボーイズ」なのやら)なんていう小ネタまで挟んでくる。変だ。

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「恋の草鞋編み」 pp.39-42.
← 初出:楽園, no.7[2011/10]

先生に草鞋を編むと、見返りに関西弁を聞かせてもらえる、という現物を読まない限り、意味がよくわからないストーリー。

その手伝いをする友人(当人より草鞋編みがうまい)のアンビバレンツな心情が切ない。青春やねえ。

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「とっておきの脇差」 pp.43-48.
← 初出:描きおろし

これは6ページ。武器による女子同士の決闘が当たり前の世界。

友人の付き添いで決闘現場まで車で送ったが、敢えなく友人は敗れ去り(つまり死んだってことです)、二人はそのまま予約していた温泉に向かうのだった(一名分予約キャンセル)。

なんでこんな発想できるんだろ。

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・平方イコルスン (2015.5) 『駄目な石』. 121pp. 白泉社, 東京.


装丁:柴田昌房(30A)

引き続き「楽園」発表作をまとめたもの。サイズが小さくなったので、読みにくいことこの上ない。文庫化は絶対無理だな。

例によってタイトルからして意味不明。

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「みっとも」 p.33-36
← 初出:楽園web増刊[2013/3]

風紀にうるさい先生と、「ツインテールがうっとうしい」と注意された女子の息詰まる攻防。

この「エネルギーが無駄に空回りしている女子」、作者はよっぽど気に入ったらしく、巻末にどアップで再度登場。

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「相討ち」 pp.43-46.
← 初出:楽園web増刊[2013/7]

これは大傑作。

武器自作マニアの女子(もう設定からしてよくわからない)が、教室で槌(棍棒)を振り回しているうちに、後ろの席の男子の頭部を直撃。男子は入院。見舞いに行ったその女子は、武器への愛情を延々語るのであった。

そして男子も退院後は武器マニアとなり、二人で仲よく自作武器のテスト、というA Boy Meets A Girlストーリーなのだが、冷静になって読みなおしてみると変な話だよな~。

武器愛(ほら、変な言葉ができてる)を語る女子のイキイキとした表情が素晴らしいです。

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「咄嗟」 pp.73-76.
← 初出:楽園web増刊[2014/3]

芝居のセリフ合わせをしているらしい男女高校生。「雄叫び」では物足りなくて「どたけび」に変える。

女子部員が「どたけび」の手本を示すが、みんな口には出さないが「めたけび」にしかなってないな・・・、という、そんだけの話。なんのこっちゃ。

最後の女子部長(?)の「さけび!」「わめく!」(すぱぱっ)で唐突に終わるのもいい。

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「報復上手」 pp.95-98
← 初出:楽園web増刊[2014/8]

合唱で腕をガン振りしている女子(意味がわからない・・・)に、わざと殴られに行って見事成功した男子(これも意味がわからない・・・)。

それをフォローしている別の女子。そのうちに、この二人が喧嘩しつつ、イチャチャするのだった。ええ話やなあ(どこが?)。

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・平方イコルスン (2016.4) 『スペシャル vol.01』(torch comica). 175pp. リイド社, 東京.
← 初出:トーチweb., 2014/8~2015/10.


装幀:名和田耕平デザイン事務所

さあ、そしていよいよ連載作品。これまではすべて違う登場人物による4~6ページの読み切りばかりだったのですが、ついに続きものです。でも「スペシャル」ってなんだ?

田舎の高校に転校してきた葉野(さよちゃん)。隣の席は授業中も常にヘルメットをかぶっている伊賀さん。あんまり出てこないけど、下の名前は「こもろ」(場所は長野県なんだろうか・・・)。

これが異常な怪力少女。借りたシャーペンはあっという間に粉々になるし、下校中に標識を曲げてしまうし。

その原因は不明。解明しない。おそらく最終回になっても解明はしないと思う。これはそういうマンガではないのだ。

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他のクラスメイトも異常。

炊飯器から洗濯機まで、私物を教室に置く金持ち・大石(女子)。その奴隷と化している・谷(男子)。ガソリン・フェチ(意味不明)・藤村(女子)。年中豆を食ってる・会藤(男子)、そいつをつねることを生きがいとする築前(女子)。相変わらずよくわかんない設定。

この作品の女子は、あんまり理屈っぽくないので、みんな一応「女子・・・かな?」という気はするなあ。

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なんか「ここが素晴らしい!」というポイントがよくわからないまま、読み続けている、というマンガの紹介でした。

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(追記)@2017/07/20

2017年7月時点での最新刊『スペシャル 2』について書いていますので、こちらもどうぞ。

2017年7月20日木曜日 平方イコルスン 『スペシャル 2』