本エントリーは
stod phyogs 2016年8月9日火曜日 panpanya 3連発
からの移籍です。日付は初出と同じです。
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これもよくわかんないタイトルですが、やっぱりマンガの話。panpanyaは「パンパンヤ」と読むようです。これも性別不明だが、たぶん男。
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平方イコルスン同様、白泉社「楽園」執筆者だが、知ったのはそちら経由ではない。
本屋に行くたびに、気になってしょうがなかったのだが、この人の本結構高いんですよ。だからなかなか手が出なかった。
でも1冊買ったらもうはまりまくり。といっても寡作なので3冊しかないけど。
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黒っぽい緻密な背景に、ラフスケッチのようないいかげんな人物。
とくると、これはまさに水木しげるではないですか。怪奇色はないけど、水木しげる、あるいはガロ・マンガの後継者の一人、と言っていいでしょう。
こういう人が、青林工藝舎(注)ではないところから出てきて、商業的に成立しているのが21世紀の日本マンガの特徴です。
(注)青林堂が1997年に青林堂と青林工藝舎に分裂した後、ガロらしさを保持しているのは青林工藝舎の方。青林堂は、かつてのおもかげは微塵もなく、ガロも廃刊。保守系活字本である程度ヒットを出しているのはご存知の通り。
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登場人物はというと、全作品同じ。おかっぱの少女が主人公。小学生から社会人まで、どの年代でもこれで押し通す。だいたい高校生くらいのことが多いけど。
主人公の女の子
(『蟹に誘われて』 「方彷の呆」 p.78)
他には、犬のレオナルド
レオナルド(なんでこの名前?)
(『蟹に誘われて』 「THE PERFECT SUNDAY」 p.186)
犬には見えないぞ。「べつやくれい」が描く犬なみのいいかげんさ。
お次は、なんて言ったらいいのかわからない、目も鼻もなく、タコのような口が四方に開いているだけの人物。この二人が必ず出てくる。
なんていう名前だ?この「謎のタコ男」(そうだこれで行こう、今、名前つけたよ)
(『蟹に誘われて』 「パイナップルをご存じない」 p.65)
あと、友だちらしきロングヘアーの女の子と、イルカが時々いろんな役で出てくる。一種のスターシステムと言えないこともない。
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背景に描かれるのは、ゴチャゴチャした街の風景であることが多い。それも看板にやたらと執着している。
こんなの
(『足摺り水族館』 「完全商店街」 p.39)
このコマにpanpanyaのすべてが詰まっていると言っても過言ではない。
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というと、思い出すのは、ガロ出身の逆柱いみり(望月勝広)。
緻密な街の風景、それも昭和30年代テイストでありながらも、架空の看板やら架空の乗り物・生物やらがあふれる幻想テイストの作品を描き続けている人。
そういえば、逆柱いみりも、初期の作品にはショートカットの女子となにか変なものとの掛け合いで、一応ストーリーが展開されていた。panpanyaはそれと似ていますね。
逆柱マンガは、その後徐々にまともな登場人物がいなくなり、ついにはストーリーすら消滅。異様な風景だけがえんえん描かれるという、もはや環境マンガ~アートの世界に入ってしまった。
最初の2冊『象魚』、『马马虎虎』までは追っかけたが、その後ついていけなくなりました。
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調べてみると、panpanyaと逆柱いみりは仲がよいらしく、二人で展覧会などもやっているそうな。まあそうなるでしょうね。しかし、まさか逆柱いみりの後継者が現れるとは・・・驚きの一言。
panpanyaが描く風景は、逆柱に比べると現実味があり(といっても今はもうない、二昔前の風景だが)、逆柱マンガよりはとっつきやすいかもしれない。看板も現実のものを使ってるし(やっぱり二昔前のものだけど)。
結構年食ってる人なのか、レトロ好きの若い人なのか、もう全然わからないです。しかし、レトロ好きであっても、いきなり「HiC50」(缶ジュースです)なんか出せるもんだろうか?
いやいや、最近は串間努さんの一連の著作なんかもあるし、若い人でも調べられるかあ。わからんなあ。
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では単行本と作品をいくつか紹介。
・panpanya (2013.8) 『足摺り水族館』. 323pp. 1月と7月, 東京.
装丁:panpanya
・1月と7月(as of 2016/08/02)
http://1to7.thebase.in/
小さい出版社からのデビュー作。出版社のサイトに行ってみたが、『足摺り水族館』は出版物リストにはない。すでに絶版のようなので、見つけたら逃さず買っておいた方がいいです。
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気になったのは、
「完全商店街」 pp.13-50.
少女はここでは小学生らしい。お母さんに頼まれたお使い。読めないアイテム↓
(『足摺り水族館』「完全商店街」 p.17.)
を探して町をさまよい歩く。百貨店へ行ったり、街中のロシアへ行ったり、そしてついに完全商店街へ。
完全商店街の描写がもう素晴らしすぎて・・・(前述)。よく見るとこれは、映画「ブレードランナー」の世界ですね。なるほど自分が好きなのはそういうことであったか・・・。今気づいた。
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「インノセントワールド」 pp.109-142.
これはいつもと違い、画用紙にスケッチ風に描かれている(あるいはそれ風なデジタル作画?)。
京都への修学旅行。仲間とはぐれ京都タワーを目指すが、いつの間にか第2京都タワーへ。そしてさらには未知の第3京都タワーへ。
夢風に描かれた作品。つげ義春「外のふくらみ」っぽくもあり、とても魅力的。
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「マシン時代の動物たち」 pp.221-256.
真夜中の空き地に向かって、自動販売機たちがどんどん集まり出すシーンは素晴らしい。
落ちは、ちょっと腑に落ちすぎて、イマイチのような気がする。
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「君の魚」 pp.269-316.
私設水族館展示用の魚を求めて多摩川を逆上るのだが、時代設定が1970年代あたりらしく、水質汚染がひどいことになってる。
立川あたりが工場地帯になっていたり、平行している玉川上水を大型漁船が通過しマグロを落としたりと、妄想の多摩川っぷりが実に楽しい。
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・panpanya (2014.4) 『蟹に誘われて』. 219pp. 白泉社, 東京.
装丁:panpanya
そして白泉社から商業誌デビュー。それにしてもこの作風で毎年1冊も単行本が出せるのってすごい。
なお、タコ男がレギュラー化するのはこの本から。
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「わからなかった思い出」 pp.10-14.
← 初出:楽園web増刊, 2013/4.
田舎のおばあちゃんがくれるおもちゃ、
「スーパーボールだよ」
「アメリカンクラッカーだよ」
「アストロジャックスだよ」
「ソムベーソバイだよ」
「オロコッパーヘンデルモルゲンだよ」
「Непонятный(注)」
と徐々にエスカレートしていく話。
(注)
ちなみにこれはロシア語で「奇妙な」という意味です。おそらく、おもちゃの名前ということではないのでしょう。ロシア語、というかキリル文字好きなんだね。
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「innovation」 pp.21-51.
← 初出:同人誌, 2012/2.
発電所で、ベルトコンベアで流れてくるココナッツを棒で叩いて割るアルバイトをしている主人公(今回は高校生)。
学校の授業である竹細工を作り、これをバイトの仕事に使ったために大変なことに。
落ちは謎の解明に向かうのだが、ますますわけがわからなくなる結末でいい。豪快だし。最後の方はなぜか黒田硫黄を思い出す。
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「TAKUAN DREAM」 p.144-147.
← 初出:楽園web増刊, 2013/11.
わずか4ページながら、大傑作。
お話はというと、「たくあん」のプラモデルを作る話だ。どうだ参ったか!
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「鍋」 pp.169-172.
← 初出:楽園, no.14 [2014/2].
スーパーに、
広告の品 「闇鍋セット ゲテモノ・非食品 珍味など愉快な具材をこれ一袋で バラエティアソート スープ付 2~3人前」 ズバリ 特価498円
があるのもビックリだが、その隣りに陳列されている、
広告の品 「AKARUNABE 明鍋セット 明るい鍋で気軽に闇鍋気分! おいしくてもりあがる!! スープ付 2~3人前」 ズバリ 特価 498円
にはもっとビックリ(笑)。
で、レオナルド(繰り返すけど犬です)と一緒に食べる明鍋の驚きの結末!(ってほどじゃないか)。でもこの話好きだなあ。
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「計算機のこころ」 pp.205-216.
← 初出:楽園, no.14 [2014/2].
「鍋」と同時発表か。同月に傑作を2作も描いてしまうとは、すごい。
1960年代にトランジスターやICを搭載した電卓が登場する以前にイルカの頭脳を演算処理装置として利用していた時代があったのだ。(『蟹に誘われて』「計算機のこころ」 p.206)
という偽史をベースに、イルカの計算機をもらってきた主人公。ためしにこのイルカ計算機で、リーマン予想を解かせてみると・・・。
しかし、リーマン予想を解かせるのに、「リーマン予想」と書いた紙を「べこーっ」と入れるだけでいいのは楽だなあ(笑)。
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・panpanya (2015.5) 『枕魚』. 217pp. 白泉社, 東京.
装丁:panpanya
今のところ最新作。2016年は単行本出るかなあ。楽しみ。
細かい背景描き込みに、主人公だけスポットで赤、そして全体にアミかけ、と凝った表紙。panpanyaらしいデザインです。
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「範疇」 pp.9-12.
← 初出:楽園web増刊, 2014/4.
走ってくる車をカウントする主人公。これは車か?車じゃないのか?と悩んでいるうちに目を回す。落ちも完璧。傑作です。
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「備品」 pp.29-32.
← 初出:楽園, no.15 [2014/6].
校庭に現れる犬。それに対処しきれない先生たち。そこに現れたのが謎の備品。
その「備品」は、真上からしか描かれてないのが、想像をかきたてさせてくれて見事。
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「地下行脚」 pp.63-96.
← 同人誌, 2009/11.
新宿の地下、イルカの案内で「変わったピザまん」をさがす話。
確かに深夜の東京、誰もいない地下街や繁華街ってこんな印象だ。暗い暗い意志の塊がうごめいているような・・・。これを絵にできるんだから、この人すごい。
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「ニューフィッシュ」 pp.111-141.
← 同人誌, 2013/10.
これはスペクタクルSF大作(ってほどでもないか)。でも作者にしてはアクションも多く、スケールの大きい珍しい作品なのは確か。
James Cameron監督 (1989) 『THE ABYSS』なみ、なんちゃって。
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「始末」 pp.166-170.
← 初出:楽園web増刊, 2014/11.
電動黒板消し(これ、本当に見たいな)に駆逐されたラーフル(鹿児島方言)の末路は!
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「記憶だけが町②」 pp.193-198.
← 同人誌, 2009/11.
サンエブリー、SPAR、生活彩家、time's、オレンジハート、■ママ(不明、ヤマザキショップ?)、ヒロマルチェーン、モンマート、コミュニティストア、全日食チェーン、マイショップ、くらしハウス、SAVE ON、スリーエフ・・・。
「マイナーコンビニの激戦区だったのか・・・」
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しかし、平方イコルスンにしてもpanpanyaにしても、自分の分身を少女として登場させるのはなぜなんだろう?
「そりゃ、読むのは男なんだから、かわいい女の子出さなきゃ駄目でしょ!何が不思議なの?」
「ユングでしょ。これは作者のアニマであり・・・・」
「男はみな、すべからく少女になりたい願望があるのだよ。」
どれも当たっているかもしれないし、当たってないかもしれない。
そういえば花輪和一のマンガも、作者の分身は少女だ。江口寿史は「オレは女子高生を描きたいんじゃなくて女子高生になりたいんだ」と言った。
この話は奥が深そうなので、ここで終わり。
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panpanyaのマンガは、登場人物がこのかわいい子じゃなければ、マイナーマンガのままで終わったかもしれない。
でもやっぱり、性格は少しひねくれてるし、言葉遣いは「君は○○なのかね?」という具合でやっぱり男。
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それにしても、「最近のマンガはおもしろいものがない」などとほざいて、全然最近のマンガを読んでいなかったオレは大馬鹿野郎だった。
すごいマンガはまだまだあるぞ!どんどん紹介していこう。
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(追記)@2016/11/30
2016年11月29日火曜日 panpanya 『動物たち』
この時点での最新刊
・panpanya (2016.12) 『動物たち』. 180pp. 白泉社, 東京.
について書いていますので、こちらもどうぞ。
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