2018年5月22日火曜日

変な海外小説大集合! (3) 牧眞司 『世界文学ワンダーランド』

次は書評集だが、一本一本が短いのでカタログ本としても使える。

・牧眞司 (2007.3) 『世界文学ワンダーランド』. 397pp. 本の雑誌社, 東京.


装丁 : 山田英春

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著者は、「本の雑誌」でお馴染みの人だ。本の雑誌は1980年代(月刊化くらいまで)にはよく読んでいたのだが、最近は時々読むくらい。

そもそも私は、娯楽として小説を読むという習慣がほとんどない人なので、entertainment系小説の書評が中心の「本の雑誌」は飛ばすページが多い。でも、時々変な本を紹介しているページが出てくるので、そこで手が止まる。

そういったページでよく見かけたのがこの人だったなあ、とこの本を読んで、ようやく名前と文章が一致した。

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002-011 はじめに
012-015 目次
017-030 とってもよくわかる「わたしたちの文学」
031-031凡例
033-057 I 炸裂する文学(ガルシア=マルケス、バルガス=リョサ、ラブレーほか)
059-083 II 世界のなりたち・宇宙の仕組み(ボルヘス、カルヴィーノ、コルタサル、カフカほか)
085-117 III逸脱する物語・増殖する物語(チュツオーラほか)
119-139 IV 街の神秘と憂愁(ピンチョンほか)
141-165 V どこか遠くへ(ボウルズほか)
167-187 VI 異界への回路(エリアーデほか)
189-213 VII 時間と空間の冒険(カルペンティエール、エーコほか)
215-235 VIII うつろう世界・はかない現実(ブローティガンほか)
237-269 IX 青春小説/恋愛小説/官能小説(カポーティ、ヴィアンほか)
271-291 X 呪うべき世界・絶望と嘲笑あるいは唾棄(セリーヌ、倉橋由美子ほか)
293-321 XI 不条理・奇妙な味・諧謔(ミショーほか)
323-355 XII 迷宮・合わせ鏡・チャイニーズボックス(ザシダワ、安部公房ほか)
357-361 あとがき
362-367 年表
368-369 最強の文学 牧眞司が選ぶ50作品
370-371 最強のジャンル小説 牧眞司が選ぶ50作品
372-397 作品リスト

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実験的な小説で私が知っている作家は、だいたい最初の方に出てくる。いや、全部読んだことある、とは言わないが(笑)。その意味で馴染みのある世界だ。

牧さんは基本的にSF読みなのだが、この本ではSFは取り上げていない。たぶん別にSF書評集があるのだろう。Ballard、Burroughs、Lafferty、筒井なんかもいない。

しかしSFをこういう現代文学の中に散りばめると、どういう絵になるのかは興味ある。まあそれは自分でやればいいんだけど。

あと、分野を越えて、マンガ、美術、映画、音楽などとの相互作用についても興味あるところ。Burroughsのcut-upはもともと美術の世界のcollageをヒントにして始められたものだし。

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本業の宗教学者としてはよく知っていたMilcea Eliade(1907-86)を取り上げているのも興味深い。小説を書いていることは知っていたが、これまでその内容を知りたいと思ったことがなかった。幻想小説。

著者が「人類史上最高の文学者」と評しているのが意外。一度読んでみたくなったね。

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チベット人作家ザシダワ བཀྲ་ཤིས་ཟླ་བ་ bkra shis zla ba (1959-)が取り上げられているのも、意外かつうれしい。

これは中国語で書かれた幻想小説なんだが、今なら続々と訳されているチベット小説が取り上げられるかもしれない(しかもこれらは原文はチベット語で、そこから直接日本語訳されているのだ)。

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後半は知らない作家ばかり。実験的な小説とも限らないので、だんだん飽きてきたが、それにしてもこのヴォリュームは圧巻だ。いまどき書評集で、こんな分厚い本を出そうというところが、さすが本の雑誌社。

これも変な小説の大海への出港地となりうる好著。数も多いだけに、こっちの方がひっかかる小説は多いだろう。ご一読あれ。

2018年5月20日日曜日

変な海外小説大集合! (2) 木原善彦 『実験する小説たち』

今度はガチの実験小説研究書。

・木原善彦 (2017.1) 『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』. 262pp. 彩流社, 東京.


装幀 : 長澤均(Papier Colé)

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著者は阪大准教授。どっかで聞いた名前だと思ったら、

・木原善彦 (2006.2) 『UFOとポストモダン』(平凡社新書). 203pp. 平凡社, 東京.

の人かあ。この本も、最後やや強引なところはあるが、面白い本だった。研究史をまとめるのがうまい人ですね。

文学研究が本職だから、実験小説史をまとめるなんてのは、慣れたものだ。なるほど。

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001-002 はじめに
003-005 目次
007-024 第1章 実験小説とは メタフィクション、グラフィック、マルチメディア、文体
025-036 第2章 現代文学の起点 ジェイムズ・ジョイス 『ユリシーズ』(1922)
037-046 第3章 詩+註釈=小説 ウラジミール・ナボコフ 『青白い炎』(1962)
047-058 第4章 どの順番に読むか? フリオ・コルタサル 『石蹴り遊び』(1963)
059-068 第5章 文字の迷宮 ウォルター・アビッシュ 『アルファベット式のアフリカ』(1974)
069-071 休憩1 タイトルが(内容も)面白い小説
073-086 第6章 ト書きのない戯曲 ウィリアム・ギャディス 『JR』(1975)
087-101 第7章 2人称の小説 イタロ・カルヴィーノ 『冬の夜のひとりの旅人が』(1979)
103-115 第8章 事典からあふれる幻想 ミロラド・バヴィッチ 『ハザール事典』(1984)
117-130 第9章 実験小説に見えない実験小説 ハリー・マシューズ 『シガレット』(1987)
131-138 休憩2 小説ではないけど、興味深い試みをしている本や作家
139-146 第10章 脚注のついた超スローモーション小説 ニコルソン・ベイカー 『中二階』(1988)
147-157 第11章 逆語り小説 マーティン・エイミス 『時の矢』(1991)
159-173 第12章 独り言の群れ エヴァン・ダーラ 『失われたスクラップブック』(1995)
175-185 第13章 幽霊屋敷の探検記? マーク・Z・ダニエレブスキー 『紙葉の家』(2000)
187-202 第14章 これは小説か? デイヴィッド・マークソン 『これは小説ではない』(2001)
203-205 休憩3 個性際立つ実験小説
207-221 第15章 サンドイッチ構造 デイヴィッド・ミッチェル 『クラウド・アトラス』(2004)
223-236 第16章 ビジュアル・ライティング ジョナサン・サフラン・フォア 『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2005)
237-245 第17章 擬似小説執筆プログラム 円城塔 『これはペンです』(2011)
247-257 第18章 どちらから読むか? アリ・スミス 『両方になる』(2014)
258-260付録:さらに知りたい人のために
261-262 あとがき

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表題の作品は、見事に1冊も読んだことない(笑)。章末の「これもオススメ!」には、読んだことのある作品が結構あったけど(日本の作家では、筒井康隆が頻出するあたり満足だ)。

各章とも「手法」に主眼をおいて分類している。各章10ページ程度なのですごく読みやすいし、わかりやすい。

かといって、この中でどれだけ「よし、読んでみよう!」となるか?この本で概要を知って、満足しちゃったのが多いかもなあ。

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Burroughsのcup-up小説も、手法紹介や短い文例で見るとすごくおもしろいのだが、長編一冊をその手法でやられると、読み通すのは苦痛以外の何物でもない。

ある程度批評的、分析的な視点を持って読まないと、読破は無理だ。実験小説というやつは。

ツツイストとしては、entertainmentとしても十分楽しめる体裁も備えている筒井康隆実験小説群はやはりすごいんだな、というのが実感できた。

そういえば、筒井康隆のエッセイやブックガイド本でも、かなり実験小説が紹介されているので、ご一読を。

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私は結構こういうカタログ本が好きなんだが、さて、この本を出港地として、実験小説の大海に漕ぎ出していくかどうかは、まだわかりません。今のところBurroughsだけで精一杯だし。

2018年5月19日土曜日

変な海外小説大集合! (1) 岸本佐知子・編訳 『居心地の悪い部屋』

別blogで、ここ半年ほど、USAの小説家William S. BurroughsのCDを延々紹介しているせいもあり、Burroughs関係の本ばかり読んでいるわけですが、ご存知の通りBurroughsの小説というのは、代表作THE NAKED LUNCH(裸のランチ)をはじめとして、変なのばっかりです。

私はもともとツツイストなので、そういう変な小説にはさほど抵抗感はないのですが、『裸のランチ』だけは強烈過ぎた。いまだに通読していない。拾い読みしただけ。

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そうこうするうちに、他の前衛小説、実験小説、変な小説にも興味が出始めた。

もっとも、30年前には、やはり筒井康隆から派生して、R.A.Laffetyだの、Italo CalvinoだのGabriel Garcia-Marquezをはじめとする中南米文学を読んでいた時期もあったのだ。まあその感覚が蘇ってきたわけですな。

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ちょうどいいタイミングで出くわしたのが、これ。

・岸本佐知子・編訳 (2015.11) 『居心地の悪い部屋』(河出文庫). 193pp. 河出書房新社, 東京.
← 原版 : (2012.3) 角川書店, 東京.(ただし文庫化にあって1編入れ替えあり)


カバー・デザイン : 水戸部功

岸本さんのエッセイ3冊は、ものすごくおもしろいし、Twitterも前から眺めていた。名前を聞くと反射的に「Miranda July」と出てくるほどには知ってるつもり。美人さんだし(Miranda Julyも美人ですよね)。

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この本は、変な短編小説ばかりを翻訳して、野性時代誌上で連載したものの単行本化だ。

収録作を挙げておこう。

(01) 007-018 Brian Evenson (1994) Hébé Kills Jarry. IN : ALTMANN'S TONGUE. (ブライアン・エヴンソン 「ヘベはジャリを殺す」)
(02) 019-025 Luis Alberto Urrea (2010.11) Chametla. Tin House, serial#12. (ルイス・アルベルト・ウレア 「チャメトラ」)
(03) 027-036 Anna Kavan (1940) The Birthmark. IN : ASYLUM PIECE. (アンナ・カヴァン 「あざ」)
(04) 037-052 Paul Glennon (2010) How Did You Sleep? (ポール・グレノン 「どう眠った?」)
(05) 053-063 Brian Evenson (1994) The Father, Unblinking. IN : ALTMANN'S TONGUE. (ブライアン・エヴンソン 「父、まばたきもせず」)
(06) 065-068 Rikki Ducornet (1994) The Double. IN : THE COMPLETE BUTCHER'S TALES. (リッキー・ドゥコーネイ 「分身」)
(07) 069-081 Daniel Orozco (2011) Orientation. (ダニエル・オロズコ 「オリエンテーション」)
(08) 083-113 Lewis Robinson (2003) The Diver. IN : OFFICER FRIENDLY AND OTHER TALES. (ルイス・ロビンソン 「潜水夫 ダイバー」)
(09) 115-123 Joyce Carol Oates (2007) Hi, Howya Doin! (ジョイス・キャロル・オーツ 「やあ! やってるかい!」)
(10) 125-144 Ray Vukcevich (2001) Whisper. (レイ・ヴクサヴィッチ 「ささやき」)
(11) 145-155 Stacey Levine (1993) Cakes. IN : MY HORSE AND OTHER STORIES. (ステイシー・レヴィーン 「ケーキ」)
(12) 157-180 Ken Kalfus (1998) The Joy and Melancholy Baseball Trivia Quiz. (ケン・カルファス 「喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ」)
(13) 181-189 編訳者あとがき
(14) 190-191 文庫版あとがき
(15) 192-193 出典

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(01)なんかはBurroughsのTHE NAKED LUNCHを思わせる妙な話。オチもよくわからんし。

(06)も、目が覚めたら自分の足が取れてた、なんていう変な話だ。しかし、その足もだんだん再生してくるばかりでなく、足からもだんだん身体ができてくる、なんて・・・。読みたくなるでしょ。

(07)は、漫談か朗読にしたらおもしろそうだ。マンガでもいいかも。

一番変な小説が(11)だ。なんか統合失調症の人の話を聞いてるみたい。「わたしは丸々となりたかった」が延々繰り返される。

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全部が実験小説とは言えないかもしれないが、訳者の言う通り、どれも「モヤモヤ」する読後感の小説ばかり。変な物好きは是非一読を。

2018年5月13日日曜日

ヨコイエミ 『カフェでカフィを 2』

2017年10月30日月曜日 高野文子の娘たち (2) ヨコイエミ 『カフェでカフィを』

で紹介した『カフェでカフィを』の2巻が登場。今回は在庫が結構あったので、出るの早かったな。

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・ヨコイエミ (2018.4) 『カフェでカフィを 2』(集英社クリエティブコミックス). 159pp. 集英社, 東京/集英社クリエイティブ, 東京.
← 初出 : Office You, 2015年11月号~2017年12月号.


デザイン : 松本哲児

前回もそうだったが、表紙の色使いいいですね。今回はパステル・グリーンが基調。色コーディネートを見ながら作ったような色使いをマンガに持ち込んだのは、実は高野文子『るきさん』なのだが、もはや一般的なことでもあるし、取り立てて高野さんの影響云々を言う必要もないでしょう。

今回はずいぶんページ数を減らしてきた(前回は191ページ)。1巻がよほど売れたようだ。「早く読みたかったでしょ?だからページ数少なくても、早めに出したんですよ」と出版社に言われているようだが、図星なのでぐうの音も出ない。

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このマンガには、前回の登場人物が次回にもちらっと現れる、という縛りを入れていたのだが、2巻ではそれはあまり強く出していない。むしろ、登場人物たちが暮らすボロアパートを、そこはかとなく絡めている。

「このボロアパートが実は!」といった大河もの的な仕掛けがあるわけではないので、まあ、それも特に気にする必要はないのだが。

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1巻の実験マンガ的な作風はおとなしめで、女性誌らしいカップルもの中心の作品が多い。前回から引き続き登場しているのは、腐れ縁の堀-佐藤コンビと残業の小田-田中コンビ。「よかったですね」としか言いようがないが(笑)。

徐々に私の興味からは離れつつあるけど、最後の「通過駅」では、絵にもストーリーにも少し実験的な試みがあって、私の好み。


同書, pp.154-155

余談だが、この前回「午後二時 ホテルのラウンジで」のアゴヒゲ男が、ゴリラおじさんの後ろにちらっと顔を出しているのに、今気づいた。探すとあるんだろうなあ。

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絵はもうヨコイエミの絵柄が確立しているので、この調子で安定して描いてくれればいいような気がする。高野風ではなくなった。

しかし、ところどころ森泉岳土とか近藤聡乃を思わせる絵柄が出てくるのがおもしろい。この人マンガ好きなんだなあ。


同書, pp.134-135

いや、マンガ家に「マンガ好き」と言うのも変だが、自分のマンガにしか興味ないというマンガ家も結構いるのだ。

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この人は、ところどころ結構えげつない性描写をぶち込んでくる人なんだが、p.41なんかは参ったなあ。こんなのマンガで見たの初めてだ。

P.76あたりもなかなかにすごい。設定を考えると、結構やばい話になってくるのだが、あんまり掘らないようにしよう(笑)。

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1巻の三爺に続いて、2巻では三婆が登場。こういう高齢者をちゃんと描けるのがこの人の強み。こういうパターンは次でも続けてほしい。

この調子で続けてくれるなら、3巻ももちろん買うぞ。出るのは2年後になりそうだが。