2018年1月14日日曜日

『谷崎万華鏡』

・中央公論新社・編 (2016.11) 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. 227pp. 中央公論新社, 東京.
← 初出 : 中央公論新社 > 特設サイト > 谷崎潤一郎メモリアルイヤー マンガアンソロジー 谷崎万華鏡, 2015/05~2016/10.
http://www.chuko.co.jp/special/tanizaki_mangekyo/


装画:中村明日美子, 装幀:山影麻奈

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中央公論新社が谷崎潤一郎生誕百三十周年を記念して、『谷崎潤一郎全集 全26巻』を刊行。そのタイミングに合わせて、自社websiteで連載したマンガアンソロジーをまとめたものだ。

表紙は、シャープな絵の中村明日美子。谷崎好みの女性とはちょっと違うような気もするが、まあ、谷崎小説の感じ方は人それぞれ違うし、第一私は、谷崎をたいして読んでない(笑)。読んだのもだいぶ忘れてる。

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005-014 久世番子/谷崎ガールズ(オリジナル)
015-042 古屋兎丸/少年
043-066 西村ツチカ/人間が猿になった話
067-082 近藤聡乃/夢の浮橋
083-094 山田参助/飈風
095-120 今日マチ子/痴人の愛
121-132 中村明日美子/続続蘿洞先生
133-150 榎本俊二/青塚氏の話
151-158 高野文子/陰翳礼讃
159-192 しりあがり寿/瘋癲老人日記
193-220 山口晃/台所太平記
221-225 作者あとがき
226-227 主要参考文献/初出

かなり力の入った布陣。その中から気になったものをいくつか。

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・谷崎潤一郎・原作, 古屋兎丸・画 (2016.11) 少年. 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. pp.15-42. 中央公論新社, 東京.


同書, p.17

谷崎作品に一番ぴったりのマンガ家は丸尾末広だと思うが、残念ながら丸尾作品はない。断られたかな?

だからというわけでもないのかもしれないが、ここで古屋兎丸は充分丸尾を意識した絵を描いている。なんでも描けるんだけどね、この人は。

谷崎世界よりは、ちょっとジメジメさが足りないような気もするが、充分淫靡だ。

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・谷崎潤一郎・原作, 近藤聡乃・画 (2016.11) 夢の浮橋. 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. pp.67-82. 中央公論新社, 東京.


同書, pp.80-81

このアンソロジーの中では、これが一番好き。

こんな作品があるのは知らなかった。これは筒井康隆でたくさん読んだ夢話とよく似ている。そうか、そういうことだったのか。

しかし、近藤聡乃はうまい。切れ長の目で下膨れの女性。幾何学的に整った絵も。一部で使ってあるマンガ的な表現を、とことん抑えたらもっと不気味な作品になっていたかもしれないなあ、なんても思う。

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・谷崎潤一郎・原作, 高野文子・画 (2016.11) 陰翳礼讃. 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. pp.151-158. 中央公論新社, 東京.


同書, pp.154-155

なんかすっかり絵本風の絵になってしまった高野先生だが、うまさは相変わらず。谷崎の美文の側面を活かした絵になると、こうなるのかな。

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・しりあがり寿 (2016.11) 谷崎潤一郎 『瘋癲老人日記』×ヘミングウェイ 『老人と海』 REMIX. 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. pp.159-192. 中央公論新社, 東京.


同書, pp.182-183

この本一番の問題作だろう。わけがわからない(笑)。最近William S. Burroughsばっかり読んでいるので、これはBurroughsのcut-upだな、とすぐ気づいたよ。この人は、やっぱり「前衛の人」なのだ。

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他の作品も力作揃い。久世番子は安定の面白さ。

西村ツチカは、相変わらず不思議なマンガを描く人だ。

山田参助は『あれよ星屑』の人。本来あっちの人なので、男の裸を描く方が堂に入ってるのがおかしい。

今日マチ子の絵では『痴人の愛』を直球で描くのは無理と見て、現代物に翻案してある。まあチョイスとしてはいいとこでしょう。

中村明日美子は、気味の悪いテーマにはぴったり。

榎本俊二は、今はこんな絵になっているのか。意外に谷崎ワールドとしっくりくる作品になっていてびっくり。

山口晃は安定そのもの。マンガというより絵物語に近いが、晩年の谷崎を飽きずに読ませる。

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濃厚な谷崎原作に比べて、少し脂分が足りない感は否めないが、曲者ばかりをそろえ、どれもおもしろい作品に仕上がっている。

何度も言っていることだが、ほんと日本のマンガの豊かさに驚きっぱなしです。

2018年1月8日月曜日

諸星大二郎 『雨の日はお化けがいるから』

諸星先生の短篇集が出ました。

・諸星大二郎 (2018.1) 『雨の日はお化けがいるから』(諸星大二郎劇場 第1集, BIG COMICS SPECIAL). 220pp. 小学館, 東京.


装幀 : 関善之 for Volare

この本、どこ行ってもない。なんで?初刷少ないのかな?巨大書店でようやく見つけました。

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副題にある通り、ビッグコミック増刊に掲載されていた作品が中心です。

詳細目次

(01) 003-038 闇綱祭り ← 初出 : ビッグコミック, 2013年7月10日号
(02) 039-066 雨の日はお化けがいるから ← 初出 : モーニング, 2015年4月16日
(03) 067-090 ゴジラを見た少年 ← 初出 : ビッグコミックオリジナルゴジラ増刊号, 2014年8月10日増刊号
(04) 091-121 影人 ← 初出 : ビッグコミック, 2016年6月17日増刊号
(05) 123-142 (眼鏡なしで)右と左に見えるもの エリック・サティ氏への親愛なる手紙 ← 初出 : ビッグコミック, 2016年10月17日増刊号
(06) 143-154 空気のような ← 初出 : (2006.1)『AERA COMIC ニッポンのマンガ』(朝日新聞社)
(07) 155-162 怒々山博士と謎の遺跡 ← 初出 : ビジネスジャンプ増刊BJ魂, 2006年5月1日増刊号
(08) 163-170 怒々山博士と巨石遺構 ← 初出 : ビジネスジャンプ増刊BJ魂, 2006年7月1日増刊号
(09) 173-180 河畔にて 第1話 クーリング・オフ ← 初出 : 諸星大二郎 (2013.12) 『子供の情景』(諸星大二郎選集 第2集)(小学館)
(10) 181-196 河畔にて 第2話 上流からの物体X ← 初出 : ビッグコミック, 2016年12月17日増刊号
(11)197-220 河畔にて 第3話 欲しいものは河を流れてくる ← 初出 : ビッグコミック, 2017年3月17日増刊号

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(01) 「闇綱祭り」は、「妖怪ハンター」に連なる異界もの。一番しっかりストーリーを作ってあるのがこの作品。


同書, p.7

この半分だけの神社!こんなのありえないんだけど、このイマジネーションは他の人では無理。創造力衰え知らず、といったところ。

他の作品はわりと軽めのものが多く、半分くらいコメディものだ。

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(02) 「雨の日がお化けがいるから」は、「あもくん」シリーズの追加作。『あもくん』単行本発売の際に、どういうわけか筋違いの講談社「モーニング」に掲載された。

諸星先生はメジャーとはいえないが、確実に販売数が読める巨匠ですからね、大手出版社もこういった形で折に触れ恩を売っておくようなことをするのです。

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(03) 「ゴジラを見た少年」が掲載された「ビッグコミックオリジナルゴジラ増刊号」はもう3年前かあ・・・。つい最近のように思ってしまうが・・・。

おなじみの少年時代の妄想ものだが、3.11や原発問題といった時事ものに関わっている。諸星作品にはたまにある傾向の作品だが、理に落ちすぎてあまり面白くはならないのが通例。

BCオリジナル増刊号は、この他にも「タイガース増刊」とか、最近変な特集をいろいろ組むのでおもしろい。店頭で見つけるのが楽しみ。

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(04)、(05)については、初出時に

2016年5月26日木曜日 諸星大二郎 「影人(えいじん)」
2016年9月27日火曜日 諸星大二郎 「(眼鏡なしで)右と左に見えるもの」

で触れていますので、そちらもご覧ください。

いやあ、しかし「(眼鏡なしで)・・・」は、改めて読んでもやっぱりすごい。

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(07)、(08)は久々の「怒々山博士もの」。このシリーズ、まだストックあるようなので、今後楽しみ。

(09)~(11)は、BC増刊号掲載のシリーズ。サイレントものだが、ちょっとご教訓ものっぽく、理に落ち過ぎであんまりおもしろくない。

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BC増刊号では、ここしばらく「オリオン・ラジオ」シリーズが続いている。かなり地味な作品群だ。

まあでも、68歳なのに現役バリバリで新作マンガを描いてくれて、そのどれもがかなりおもしろいというだけで驚異的だ。ファンとしてはありがたいと思う。

前作『BOX』はおもしろかったけど、自分にはあんまり肌が合わなかった。でも、あれは諸星先生が楽しんで描いていることがわかって、それだけで充分だった。

あの歳でいろいろ新しいことやろうとしてるんだから、すごいよ。

この感じだと、今後さらに「あっ」と驚くような作品を期待してもよさそうだ。楽しみ。

2018年1月7日日曜日

秋山はる 『こたつやみかん』

・秋山はる (2013.3~2014.6) 『こたつやみかん 1~4』(アフタヌーンKC). 講談社, 東京.
← 初出 : アフタヌーン, 2012年5~6月号/2013年2月号~2014年6月号.


Cover Design : Garowa Graphico

約2年で4冊を疾走した感のある快作だ。

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高校落研の物語。主人公は中心にいるチビメガネちゃん・坂井日菜子(高2)。「こたつやみかん」とは彼女の高座名だ。

最近このタイプが主人公のマンガ、増えたなあ。昔は脇役専門だったんだけど。でもどれもおもしろいのだ。当然みんな「オタク」だし(笑)。

この子はこう見えて「落語オタク」。なにせ、最初から最後まで落語の話しかしない。そしてついには・・・、おっとこれは現物を読んで確かめてくれ。

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登場人物は、落研の4人と他校の男子1人、これですべてだ。4巻でコンパクトに収まったのは、登場人物の数とテーマを絞ったからに他ならない。これに、定番の友情と恋愛をほどよく絡めてあり、そのバランス、出しどころも的確。

物語が休むことなく常に前へ前へと進んでいくので、すごく読みやすい。引き込まれる。寄り道は、夏休みに海に行く1回だけだ(巻頭カラー掲載用の措置)。

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普通、主人公は「最初はダメダメだけど、どこかキラリと光るものがある!こ、こいつは・・・」という場面があって、その才能を見ぬいた指導者が特訓を加える、という展開が多いのだが、このマンガにはそれがない!これがこのマンガの面白いところだ。

日菜子は当初、聞くだけの落語オタクだったので、演じ始めて最初はボロボロで、才能のカケラも感じさせない。

その後も、落語の上達はスローペース。しかし、ステップステップで着実に上達していく。それも指導者なしの自力だ。これだけ努力オンリー型の主人公は、最近珍しい。

その分「劇的な場面に乏しい」と感じるかもしれないが、いや、それがこのマンガの特徴と思って浸って下さい。

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転校生で美人で長身で才色兼備で落語もうまく性格もいい、という超人「まほ吉」がだんだん普通の人になっていったり、当初のライバル「悠太」がどんどんヘタレ化していったのはちょっと物足りないが、その分日菜子の落語愛が際立つ結果になり、ストーリーに筋を通す役目を果たしていたと思う。

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他校の男子で、落語の天才・桐野くんの行動はちょっと意外で(何が意外かは読んでちょうだい)、それまでそんな片鱗も見せていなかったのに・・・と思わないでもないが、それはあれだ、日菜子視点で絵を見せていたから、と思っておこう。

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連載になってから出してきた、後輩の「おパン亭コットン」がアクセントとして、すごくよく機能していた。クールなのもいい。

こういうキャラを作れるのは、コメディ作家として相当な実力だと思う。

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いずれにしても、この作品はワイワイ感もありすごく楽しめた。

あんまり評判は聞かないけど、絵も堅実にうまいし、もっと話題になっていい作品だと思う。

もう3年前と、中途半端に古い作品なので、全巻そろえるのはちょっと手間がかかるけど(4巻がなかなか見つからなかった)、頑張ってさがす価値のある作品です。