前回の「暁斎展」を見たあと、渋谷から六本木に移動して、この「絵巻マニア」展を見たのでした。展覧会のハシゴ。
東京ミッドタウンははじめて行ったのだが、どこも高級すぎて私には無縁の店ばかり。サントリー美術館くらいか、用があるのは。
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・サントリー・ホールディングス/サントリー > 文化・社会・スポーツ > 芸術・文化・学術 > サントリー美術館 > 展覧会 > 六本木開館10周年記念展 絵巻マニア列伝(as of 2017/04/22)
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2017_2/
同展パンフレット/ポスター, 表
「開館10周年記念展 絵巻マニア列伝」
会場 : サントリー美術館(六本木・東京ミッドタウン ガレリア3階)
会期 : 2017年03月29日 ~ 2017年05月14日
入場料 : 一般 当日 1300円(前売 1100円) 大学・高校生 当日 1000円(前売 800円)
開館時間 : 10:00から18:00まで 金曜日は20:00まで, 土曜日は20:00まで
休館日 : 火曜休館 火曜日が祝日の場合は火曜日開館、翌日休館
住所 : 〒107-8643 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガーデンサイド
電話 : 03-3479-8600
ファックス : 03-3479-8643
アクセス : 都営地下鉄大江戸線六本木駅直結, 東京メトロ日比谷線六本木駅と直結予定, 東京メトロ千代田線乃木坂駅から徒歩約3分
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これは図録↓
・サントリー美術館・編集 (2017.3) 『開館10周年記念展 絵巻マニア列伝』. 239+VIIIpp. サントリー美術館, 東京.
デザイン : 高岡健太郎(日本写真印刷コミュニケーションズ)
表紙デザインがシンプルすぎる。絵巻を入れたものにしてほしかったが、もしかすると予算が尽きたか?
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この展覧会は、絵巻を愛好したり、保護したりした人々が残した文献を示しながら、絵巻の歴史をたどる、というユニークな企画。
絵巻物となると、一般には「美術」というより「日本史」の文脈で紹介されるケースが多く、通常の美術展よりはとっつきにくいかもしれない。
そのせいか、無茶込みだった「暁斎展」に比べ、休日なのにそこそこの入りで、じっくり観覧することができました。
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この展覧会に行った主目的は、「放屁合戦絵巻」と「福富草紙」。どちらも「屁」を題材とした珍しい絵巻。
こういった絵巻では、幕末の「屁合戦絵巻」(早稲田大学所蔵)が一番有名。
・早稲田大学 > Academics 学部・大学院・図書館 > 図書館 : 早稲田大学図書館 > コレクション・刊行物 Collections & Publications : 古典籍総合データベース > 屁合戦絵巻(as of 2017/04/22)
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/chi04/chi04_01029/
で見ることができる。
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サントリー美術館の「放屁合戦絵巻」の方は、平安時代12世紀中頃の定智・筆の原本を、室町時代1449年に模写した模本。原本は現存しない。
平安末期の風俗を知る上でも重要な作品なのだが、そんなことよりあまりの下らなさに、笑いをこらえられない。
同展図録, pp.94-95, 図版38
調べてみたが、同絵巻を概観できるサイトがなかったので、低解像度で図録図版を紹介します。新たに同絵巻の全貌を見ることができるサイトが出てきたら、これは消します。
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巻頭では、坊さんたちが豆を食べたり、全裸で腹ばいになって腹を冷やしたりと、放屁の準備に余念がない。
そうして始まった放屁合戦。着衣では屁の勢いが衰えるので、尻だけ丸出し、あるいはなぜか全裸(笑)。間抜けだ。
屁は放物線、というより直線で描かれ、そのすごい勢いが伺える、ってまあこれは誇張なのだろうけど。
屁を扇でよけるわ、帽子が屁で飛ばされるわ、陰部丸出しで全裸でんぐり返しをする男はいるわ、大勢の屁を袋に詰めて一気に吹き出すわ、大騒ぎ。
最後は、この放屁術師範らしい老尼さんが出てきて、屁で扇を割る模範演技を見せて終わり。
なんだこりゃ!
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実はこの老尼さん、放屁曲芸の達人・高向秀武(たかむこのひでたけ)の娘だとされている。
その高向秀武と、これを真似しようとして失敗する福富の物語(いわゆる「正直爺さん・意地悪爺さん」譚の一種)を描いた「福富草紙」(15世紀)が、この「放屁合戦絵巻」と一緒に展示されている。
しかし、この高向秀武、その娘の放屁術師範、実在したのだろうか?絵巻の内容を見ると、とても現実のことには思えないが・・・。
そんなことも考えてしまうこの展示、「屁」ファンには必見。
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「放屁合戦絵巻」はサントリー美術館の所蔵なので、いずれまた公開される時があるだろう。その時に、また見に行きたい。
また、こういった「放屁合戦絵巻」はいろんな時代、あちこちにあるらしいので、一度、それらを一堂に会した「放屁合戦大絵巻展」を開催してほしい。これはサントリー美術館の仕事になるでしょう。
図録収録の
・上野友愛 (2017.3) 数寄から広がる絵巻好き. サントリー美術館・編集, 図録『開館10周年記念展 絵巻マニア列伝』所収. pp.191-193. サントリー美術館, 東京.
も必読。
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他にも貴重な絵巻が続々登場。
同展パンフレット/ポスター, 裏
複製とはいえ、「伴大納言絵巻」(平安時代12世紀)を見れたのはよかったなあ。右から左へと時間が進んでいく展開、モブの描き分け、人の向きが意味する所、など絵巻の基本を学ぶにも最適な素材です。
他に印象的だったものを上げておくと、
「病草紙断簡」(平安時代12世紀)-変な病気の人を描いた草紙
「後三年合戦絵巻」(室町時代1347年)-平安時代奥州での戦を描いた絵巻、保存状態は悪いが迫力ある
「九相図」(鎌倉時代14世紀)-死体が腐っていく様を描いた気持ち悪い絵巻。前期展示はその江戸時代17世紀の模本だったが、原本に非常に忠実
「玄奘三蔵絵」(鎌倉時代14世紀)-そんな古いのものとは思えない保存のよさ。色彩の美しさに目を見張る。
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松平定信が絵巻保存、修復、模本作製に大きな功績があったことは、今回はじめて知った。まさに絵巻マニアだ。
「蒙古襲来絵詞」(鎌倉時代13世紀)もそんな定信のすすめで、熊本藩から江戸に運ばれて模本が作成されることにより、広く知られるようになった。
現在は宮内庁所蔵であるその原本が、今回観覧できるのだ。実に感動ですよ。歴史の教科書でしか見たことのないあの武者絵が目の前に。
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この展覧会の趣旨である、文献に記された記録とともに絵巻を楽しむ、という点では、古文書の筆使いを見るのも楽しい。なかなか読めないけど。
地味ながら、すごく面白い展覧会でした。是非どうぞ。
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展覧会に行く前に、この辺で予習しておくのもいいですよ。
・ほぼ日/ほぼ日刊イトイ新聞 > ほぼ日手帳2017spring > ほぼ日手帳マガジン > サントリー美術館学芸員・上野友愛・談/見方がわかれば、おもしろい!絵巻-emaki-の世界1~3(2017-04-14-FRI~04-16-SUN)
http://www.1101.com/store/techo/ja/magazine/2017/emakinosekai/2017-04-14.html?device=pc
・産経新聞社/産経ニュース > ライフ > 学術・アート > 産経新聞文化部・黒沢綾子/2017.4.22 11:00 【展覧会に行こう!】 「絵巻マニア列伝」 下ネタも不眠の悩みも…いにしえのオタクたちの愛好品から見えるのは今と変わらぬ姿
http://www.sankei.com/premium/news/170422/prm1704220021-n1.html
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