2015年10月30日金曜日

金井たつおのミツカンマンガ-その2

本エントリーは
stod phyogs 2015年10月30日金曜日 金井たつおのミツカンマンガ-その2
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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・本宮ひろ志・監修, 金井たつお・画, 和順高雄・シナリオ (2005)『七人の又左衛門 二百年の挑戦』. 227pp. ミツカングループ本社, 半田(愛知県).

通常、マンガを紹介する時は中身の画像を貼ることはしないのですが、今回は特別です。何せほとんど人目に触れない作品ですから。ご容赦いただきたい。

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この作品は、(株)ミツカンの興隆を描いたもので、主人公は代々の当主。ミツカンの当主・社長は代々「又左衛門」を名乗るしきたりになっており、初代~七代目の又左衛門の業績が描かれています(注1)。

マンガの原版となったのは、

・ミツカングループ創業二〇〇周年記念誌編纂委員会・編(2004)『MATAZAEMON 七人の又左衛門 200th anniversary of founding』. 135pp. ミツカングループ本社, 半田(愛知県).
・中埜酢店創業百八十周年記念誌編纂委員会・編 (1986) 『七人の又左衛門 風雪、ミツカン百八十年の跫音』. 150pp. 中埜酢店, 半田(愛知県).

です(注2)が、和順・金井独自の脚色がかなり入っていると思われます。

特に江戸時代にエピソードは、それほど詳しい資料が残っているとも思えません。かえってマンガ家としては自由に描けたのでしょう。企業マンガになっている昭和時代のエピソードに比べ、線もストーリーも生き生きしています。

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さて、マンガの中身に行きましょう。

冒頭にカラーページを置いています。8ページもあるのはなかなか太っ腹(マンガは3ページですが)。
















どうですか、この気合の入り具合。背景もきちんと描き込まれ、着色も見事です。

このエピソードは「秋」ということで、特に必要のない「柿の実」が描かれているあたり細やかな気遣い。一コマ目から、このマンガに手抜きが一切ないことがわかります。

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初代・又左衛門は、半田から江戸に出かけて女スリに遭うのですが、この女スリが実に魅力的に描かれています。登場箇所はわずか2ページなんですけどね。


















この辺は、原版の伝記にあったのかどうかも怪しいエピソード。シナリオの段階での創作ではないかと思われます。金井の構成力がそれをさらに見せるものにしています。

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初代は、江戸で偶然出会った(これも創作でしょう)醤油酢問屋に売り込みをかけます。

















その問屋が、そこら辺にいた猫のシッポをいじくりながら考えをまとめるあたりも、うまい!ここは完全に金井の創作と思われますが、ストーリーを追うだけではない細やかな描写が、このマンガを完成度の高いものに仕上げています。

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初代が酢商売の拡大を決意する瞬間。

















この大ゴマの使い方はさすが本宮プロ!迫力です。

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続いては、二代目の手代さんの江戸でのエピソード。

















手代の角四郎という人物は実在したんだろうけど、この大食いエピソードはおそらく創作。こういったドタバタの描き方は本当にうまい。金井の本質がコメディーにあることがわかります。

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次は、三代目のエピソード。

















出ました、本宮プロらしいキャラ(笑)。金井たつおもこういう線が描けるんだ、と意外に思いましたが、やはり本宮プロなんですね。本当にGペンがよく走ってる。リズムもいい。

船頭・権六が実在したか、本当にこんな「いかつい」容貌だったかはわかりませんが、マンガのお約束として安心して見ていられるものになっています。

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四代目はもう明治。

















この四代目が、「やり手の変人」として実に魅力的に描かれています。お馴染みのミツカン商標を決めたのもこの人。このマンガのハイライトですね。

実際、四代目は非常におもしろい人物だったと思われます。この人にはかなり興味を持ちました。

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一転、五代目はかなり温厚な人物に描かれています。


















こういった優男を描かせると、金井たつおは安定のうまさですね。

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大正~昭和の六代目。推定年齢三八歳の清水みどりさんという女性が(なんか無理矢理)登場。もちろん美人。

















次のページでも「なにぶん清水君は推定年齢三八歳・・・」と重ねのギャグを打って来て、笑わしてくれます。

この清水さんは、たぶん実在の人物と思われますが、シナリオの打ち合わせかなんかで「この清水さんって、年がよくわからないんですよ。たぶんこの時三十代後半くらいだとは思うんですが・・・」といった会話があったのでしょう。

これをマンガで遊んでしまうあたり、金井たつおの勘のよさを感じます。

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七代目は戦後。研究員・鈴木小百合さんがイイ!

















この辺だともう最近の話なので、創作の余地はなくなってきますが、それでも半ば無理矢理美人を登場させるところが金井たつお。それにしても女性をきれいに描くのがうまい。線も楽しげです。

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どうでしょう。私は、これまでこんなに気合の入った企業宣伝マンガを見たことがありません。市販されているマンガとなんら差はありませんね。

背景が最初から最後まで、しっかり描き込まれているのにも感動します。背景担当の水戸裕昌、今井茂は、当時の本宮プロ・メンバーでしょうか。本宮プロの底力を見せてくれます。

これだけ気合の入った仕事がしてあるこの作品が、ミツカン周辺のごくごく限られた人たちにしか出回っていないのは本当に惜しい。

何よりも金井たつおを知るためには、これは重要な作品です。事実、金井はこの直後2006年から久々に連載を開始しています。手抜きなしでこの一冊を仕上げたことで、自信を取り戻したのかもしれません。

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聞くところによれば、愛知県半田市のミツカン本社横に2015年11月19日にミツカン・ミュージアムというものが開館するとのこと。

・MIZKAN MUSEUM (as of 2015/10/17)
http://www.mizkan.co.jp/mim/

このマンガを是非そこで市販してほしい。需要はかなりあると思いますよ。なにより、これだけおもしろいマンガを、身内だけで楽しむなんてズルいですよね。

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なお、本宮プロでは、これに引き続きイオン・グループの企業マンガも手がけています。こちらも博報堂と和順氏が噛んでいます。作画の能田茂も本宮プロで、金井のアシも務めていたよう。

・本宮ひろ志・監修, 能田茂・画, 和順高雄・シナリオ (2008) 『すべてはお客さまのために』. 232pp. イオン創業250周年プロジェクトチーム., 千葉.

参考:
・どらお/どらおのマンガ部屋 > すべてはお客さまのために(能田茂・和順高雄)(2010-10-21 16:33)
http://doraman.blog.so-net.ne.jp/2010-10-21

こちらは一部のイオン店舗で読めたりするらしいんですが、そういう話を聞くと、金井ミツカンマンガがどこでも読めないのが一層残念。

是非とも、金井ミツカンマンガに光を!!

全般的な参考:
・mizkan やがて、いのちに変わるもの。(as of 2015/10/25)
http://www.mizkan.co.jp/index.html

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(注1)

2005年当時の社長・中埜和英氏は八代目・又左衛門ですが、2002年に社長就任と共に「又左衛門を襲名」したばかりですので、マンガには登場しません。

なお、中埜和英氏は2013年に会長(CEO)となり、又左衛門を名乗るのをやめました。よって2015年現在「又左衛門」はいないようようです。

(注2)

活字本の方はあちこちの図書館に所蔵があるようです。どこにも、ネット上にすら見当たらないこのマンガとは対照的。

マンガは文化財としてまだまだ軽く見られていますね。それはミツカン社内での扱いもそうなのでしょう。

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(追記)

前回も書いた通り、金井たつおの主要作は現在電子書籍として入手可能です。是非どうぞ。

どうしても1980年代の『ホールインワン』や『いずみちゃん』に話題が集中しがちだが、今回のエントリーを見てもわかるように、金井の実力は折り紙つきなので、その後の作品にもぜひ注目してほしい。

いや、実は自分は全然読んだことないのですが・・・。

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また、2015年10月号より、ゴルフレッスンコミック(日本文芸社)にて、

森川陽太郎・監修, 桜小路むつみ・脚本, 金井たつお・画 「OKライン」

を連載開始。こちらもどうぞ。

参考:

・日本文芸社 > 定期刊行物一覧 > ゴルフレッスンコミック > エントリー記事 : 新連載『OKライン』!! 2015年09月15日
http://www.nihonbungeisha.co.jp/goraku/golf/blog150915.html

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