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stod phyogs 2015年10月6日火曜日 ほしよりこ 『逢沢りく 上・下』
からの移籍です。日付は初出と同じです。
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・ほしよりこ (2014) 『逢沢りく 上』. 221pp. 文藝春秋, 東京.
stod phyogs 2015年10月6日火曜日 ほしよりこ 『逢沢りく 上・下』
からの移籍です。日付は初出と同じです。
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・ほしよりこ (2014) 『逢沢りく 上』. 221pp. 文藝春秋, 東京.
・ほしよりこ (2014) 『逢沢りく 下』. 244pp. 文藝春秋, 東京.
感動作という触れ込みだったが、残念ながら私は全く泣けなかった。それはどうも、主人公のりくに感情移入が全く出来なかったからに違いない。
りくだけではなく、東京(だよね?きっと)サイドの人々には全くなじめない。ま、それも作者の術中にハマっているんだろうけど。だから上巻前半は読むのが苦痛で苦痛で・・・。
かといって、上巻後半から現れる大阪の人々になじめたかというと、そうでもない。ただし、風景としては大変楽しんだ。おじいちゃんとおばあちゃんが、クマのチョコについて話してるとこなんか最高。ダブルボケのオチもしっかりあるし。
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結局このマンガは、主人公りくが大阪の風景に主役を乗っ取られるお話だったのだ、と思ってる。
そう考えると、ラストのりくの号泣は、主役を奪われた悔し涙に見えてくる、ってのはメタフィクション的な見方に毒されすぎ?
一見、おしゃれだが悩み多き東京と、コテコテでお気楽な大阪を対立概念として描いているように見え、そのどちらかの選択を迫っているように感じる(ほぼ8割方は大阪派になるよう仕向けられているけど)が、ほしさんの中では、きっとどちらの世界も好きなのに違いない。「猫村さん」でも、上品だが下世話な不倫話が矛盾なく流れているし。
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風景に主役を奪われる、というテーマはどっかにあったな・・・と思ってたんだが、思い出した。映画『ブレードランナー』ですね。
カルト的な人気を誇る『ブレードランナー』だが(私もライフタイムNO.1映画です)、主役デッカードを演じたハリソン・フォードは長らく「あの映画は嫌いだ」と言い放っていた。
私も『ブレードランナー』は何十回と見ているのだが、一向に飽きない。それはストーリーとは直接関係ない設定や美術が面白すぎるから。
「二つで十分ですよ」の寿司屋(orうどん屋)のオヤジ、強力わかもとの巨大ネオン看板、ハレ・クリシュナ、シリアルナンバーの入った蛇のウロコを見る露店の走査電顕屋などなど・・・、思い出すだけでワクワクする世界。
『ブレードランナー』人気は、この特異な設定・美術による所が大きく、ハリソン・フォードは自分の演技への評価ではなかった点がおもしろくなかったらしい。
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人生万事を計画通りに進むはず、と思っている人間が、風景に主役を乗っ取られる恐怖と驚きがりくの号泣だった、と思ってる。いや、意外な感動と変化に自分自身が驚いている動揺も、もちろんなんだが。
中学の制服を着て町をうろつき、ラーメンを食べるりくのママもおもしろい。こういうのが出てくる下巻が圧倒的に面白いのは当然なのだが、あのかったるい上巻あってこそのカタルシスなのだろう。
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これで『逢沢りく』が理解できたとも思わないが、一応、『逢沢りく』=『ブレードランナー』説ということで、引き出しに収めておきましょう。もう少し時間がたったら、また読んでみよう。きっと少し考えも変わってくるかもしらん。
しかし、自分の理解の範疇の外にあるモノにぶち当たるのは、楽しい体験ですね。
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ところで「ほしよりこ」さんの絵って、日本のマンガの文脈からはずれてますよね(絵だけじゃなくて、コマ割りなんかもそうですが)。あの絵はどっから来たんだろう?とずっと考えていたんですが、ある日ひらめきました。
あの絵は日本の古い絵巻物の絵ですな。『信貴山縁起絵巻』とか『伴大納言絵巻』とかの、有象無象のモブを描くときの絵。特に横顔を見ると一目瞭然(絵巻物は横顔が多い)。
美大ではその辺を勉強していたんだろうか・・・。そういう観点で見ると、なんか猫村さんを『鳥獣戯画』の中に入れてみたくなる。
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(追記)
後半頻出する「あの転校生、足めっちゃ速いなあ」っていう、ストーリーに全くからんでこない設定がおもしろい。こういうのが好きだ。
自然と発生した設定なんだろなあ。他にも全然回収しないで終わる小ネタ設定がいくつかあるけど、この放り出され感も好きです。
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