2017年2月6日月曜日

熊倉献 『春と盆暗』 → 不思議ちゃん図鑑です

・熊倉献(くまくらこん) (2017.1) 『春と盆暗』(アフタヌーンKC-1534). 158pp. 講談社, 東京.
← 初出 : アフタヌーン, 2016年11月号~2017年2月号.


















装丁 : 名和田耕平デザイン事務所

新人の短編作品集。2016年11月号でデビューして、1月にはもう初単行本を出してしまうのだからスゴイ。

書き溜めていた作品がすでに1冊分あって、それを雑誌に小出しにして行ったんではないか?という気はする。

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これは、タイトルにも挙げたように「不思議ちゃん図鑑」です。

全5話、一人ずつ不思議ちゃんが登場。それにおとなしめの男子(総称「ボンクラくん」)が惹かれたり、振り回されたりする話が5つ。

それを、主に男子からの視点で描く。男子の方も、ちょっと孤独な変わり者ばかりだ。

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不思議ちゃんというのは、総じて頭の回転が速いんだが、そうは見られない。

というのも、通常「頭の回転が速い」というのは、外からの刺激に反応し、早くて的確な対応が出来る人に対して使われる。

一方、不思議ちゃんの頭の回転は、ほとんど自分の頭の中だけに使われる。自己完結しているのだ。それじゃ、頭の回転がいくら速くても、外からはわからないよね。

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さらに、出力(しゃべったり書いたり)が、その高速回転に追いつかないケースが多い。sampling rateが粗くなってしまうので、outputを並べても脈絡がないように見えるのだ。だから、傍からは「何言ってんの?」となる。

まあ、走っている自動車のタイヤ(ホイール)を動画に撮った時、sampling rateによって逆回転しているように見えるようなもんか。違うか??

それを面白がれる人が周りにいるかどうかで、不思議ちゃんへの周囲の評価は180度変わる。

なぜか「不思議ちゃん論」になってしまいましたが、作品の不思議ちゃんも見ていきましょう。

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・第1話 月面と眼窩. pp.5-40.

ストレスを感じると、左手を「グーパーグーパー」する癖を持つサヤマさん。それが気になって仕方ないゴトウ君。

サヤマさんのピンチに、ゴトウ君が取った行動は・・・

客観的に見ると、二人とも「何言ってんの?何やってんの?」だし、最後にサヤマさんがゴトウ君に手渡したものも、筋はまあ通っているが、やっぱりよくわかんない。

そのズレ加減が絶妙で、ずっとクスクス笑いっぱなしでした。


















同書, pp.36-37.

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・第2話 水中都市と中央線. pp.43-78.

カラオケルームの外で、金魚のように上を向いて口をパクパクさせている常連メガネ女子高生(?)。それが気になって仕方がないフダ君。

そして、その子がチェックインの時に書く名前は、毎回違うのだ。神田、立川、中野、三鷹・・・。おお、これは一種の中央線マンガではないか。

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・第3話 仙人掌(さぼてん)使いの弟子. pp.81-112.

中3の名取くんと、クラスメートに消しゴムかすを毎日投げつけられているが無視している矢野くん。

それに名取くんのハトコの「さわ姉」(28歳)。今回は「からかい系不思議ちゃん」です。まあ大人だから、それなりに不思議が昇華されているけど。

さらには、小道具としてサボテンに恐竜。この一見脈絡がないような道具立てを、全部使いきって話をまとめるあたり、かなりの手腕だ。

今回は恋愛ものとはちょっと違うかな。

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・第4話 甘党たちの荒野. pp.115-150.

友人カジ山に「アニメを作るから、人類滅亡後の風景を描いてほしい」と頼まれたホシノくん。時間を早送りし、その風景を想像できるようになったはいいが、日常風景まで全部廃墟化して見えてしまう。

その能力を逆に使い、「時間を巻き戻して、ケーキの製法を想像してほしい」と頼む不思議系女子・大友さん。わけわかんないでしょ。

大友「『甘党』と書いて『なかま』です」
ホシノ「・・・・はい?」

爆笑。大友さんが少年マンガ・ファンという設定も、効果的に使われている。

ところでアニメ製作はどこに行ったんだよ、カジ山ぁ~!

第3話と第4話は、周囲を振り回す積極系不思議ちゃんでした。

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・おまけ 二足獣. pp.153-158.

高校生になった第3話の矢野くん。クラスの自己紹介作文で「僕の父はサメ、母はオオカミ」と、いきなりとんでもないことを言い出すメガネ女子タチバナさん。

いやー、この子が一番強烈だ。その後、自己嫌悪に陥って、休み時間にカーテンにくるまってるタチバナさんカワイイ。

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なんか豆腐料理をたくさん食べたような心持ち。いろんな料理出たけど、「でも全部豆腐」みたいな。

さて、この人は今後もこの路線で行くんでしょうか?見たところ、今回は一つの引き出しだけからネタを出してきているような感じ。他にも引き出しがあるのか?あるのなら楽しみ。

ないのなら、ここは編集者の出番でしょう。日常系の起伏の少ないストーリーでいい味出していた作家が、編集者のテコ入れでストーリー性の強い作品に挑戦し、大化けするケースは多い。また逆に、それが合わずに、元の日常系作品に戻る人もいる。

さて、この人はこの先どのパターンになるのか?それも楽しみだ。

個人的には、この不思議ちゃん路線、もう少し見たい気がする。口うるさい人には、「もうマンネリかよ」と言われるかもしれないけど。

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(追記1)@2017/02/06

「新人の短篇作品集」と書きましたが、デビューは2014年だそうです。ズブの新人じゃなかったんですね。

・講談社/モアイ > 試し読み > 熊倉 献『春と盆暗』 第1話「月面と眼窩」(2016/10/25)
http://www.moae.jp/comic/harutobonkura

熊倉 献(くまくら こん)
アフタヌーン四季賞「2012年夏のコンテスト」で佳作受賞。
2014年、「good!アフタヌーン」5号に読み切り『盤上兄弟』が掲載されデビュー。今作が初連載。

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(追記2)@2017/02/06

腰巻きのキャッチコピーはちょっとセンスないなあ。中身ちゃんと読んでるのかな?

どうして君みたいなエイリアンを好きになってしまったんだろう

って・・・この本に登場するボンクラ君たちは、そんな風には全然悩んでないよね。扱いにちょっと困ってるふうではあるけど。

「エイリアン」ってのも失礼だなあ。そんな風に「あっち側の人」として扱ってたら、うまくいくわけないですよね。不思議ちゃんはそこら辺は敏感だよ。

バイト先で出会った サヤマさんは 人あたり抜群で、 誰もが認める「いい人」、

ってのも、登場人物は他にもう一人しかいないのに、「誰もが」って・・・

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