2017年2月1日水曜日

三上修 『スズメの謎』

・三上修 (2012.12) 『スズメの謎 身近な野鳥が減っている!?』. 143pp. 誠文堂新光社, 東京.


















ブックデザイン : 小野口広子(ベランダ)

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2015年9月29日火曜日 『ハトはなぜ首を振って歩くのか』

で、

数年後に「スズメはなぜホッピングをするのか?」という本を読むのが、今から楽しみである。

と書いた。

これがその本になるかなあ?と思って読みはじめたのだが、違ったよ。そもそも『スズメの謎』の方が出たのは先。

とはいえ、ガッカリしたかというとさにあらず。充分面白かった。期待していた「スズメの生態」についての本ではなかったが。

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この本の前半は、「いったい日本にスズメは何羽いるのか?」の探求。どうやって数える(というより推定していく)のか見当もつかない。ちょっとネタバレになるかもしれないが、ざっと流れを追ってみよう。

まず、街歩きでスズメの巣を探して数えるところから始める。そこで、日本各地で何度も計測を実施。商用地/住宅地/農村/大規模公園/森に分けて、単位面積当たりの巣の平均個数を出す。

そして、すでに日本中で1平方km区画あたりの土地利用区分が出ているので、1平方km区画あたりのスズメの巣の個数が推定できるのだ。

これを、日本中の区画で計算し(この辺はさすがに人力では無理で、コンピュータ・プログラムの出番)、日本中のスズメの巣の数を計算。

地道な作業から始まって、徐々にゴールに近づいていく、形が見えてくる道筋を丁寧に説明しています。理系素養のある人なら、とても興奮できるはず。

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さあ、それで出てきた巣の数に巣1個あたりのスズメ親鳥の数=2羽を掛け算して、出てきた数字はホニャララ羽。なんと!

この研究は2008年に結果が発表され、新聞などで記事にもなっているので、興味のある人はその数字を探してみてください。

どうです?多いと思いますか?少ないと思いますか?私は「思ってたよりずっと少ない」と感じましたね。

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もっと学術的な記述を求めるならば、論文を読んでみよう。ネット上で公開されています。

・三上修 (2008) 日本にスズメは何羽いるのか?. Bird Research, vol.4, pp.A19-A29.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/birdresearch/4/0/4_0_A19/_pdf

学術論文とは思えないシンプルかつ平易なタイトル。

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三上先生は次に、「日本ではスズメが減っているという。本当だろうか?」また「減っているのならば、どの程度減っているのだろうか?」という疑問に挑戦。最後にその減っている理由を考察します。

こちらもなかなかエキサイティング。特に歴史の人である自分にとっては、あまり資料のない事象の時系列変化を、どう推定していくのか?という手法がとても参考になりました。

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三上先生が推定したスズメの数は、どの程度正しいのか?それは他に推定した人がいないのでわからない。

もしかすると、とんでもなくずれているのかもしれない。感覚的にはもっと多い、もしかすると一桁くらい多いんじゃないか、という気がしているが、自分でやらない限り、異議を唱える資格はありませんね。

でも、違っていてもいいのです。これによって議論が活発化し、後続研究が増えるのならばいいのです。

何事も、人はゼロから始めることを嫌いますが、人のやったことに色々ケチをつけるのは大好きですから、スズメの数研究も、その流れで今後後続研究がたくさん出てくるでしょう。より正確な数に迫る研究もどんどん出てくるでしょう。

でも、最も価値があるのは「最初に始めたパイオニア」の仕事なのです。今後後続研究がたくさん出てきても、スズメの数研究で三上先生の名前と仕事が無視されることはないのです。

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この本は、イラストがマンガ家・森雅之さんの絵なのもポイント高い。

森さんのマンガを知ったのはもう40年前だが、当時と今、全く変わりがない。どんどん変化していくマンガ家も素晴らしいが、これだけ変わらないのもウルトラ素晴らしい。

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ブックデザインもいいなあ。ときどき、イラストをよけるように文字組みしてある遊び心がよい。特にこのページ。

















同書, pp.70-71.

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しかし、全ページがカラーで、造本に手間ひまかけたおかげで、値段は1500円+税と、読者対象の中学生(くらいかな)には、買うにはちょっと高く感じるかもしれない。

まあでも、この本は学校や町の図書館の多くが仕入れてくれるだろう。図書館勤務の大人(全員本好き)にとても受けがいい本のような気がする。そちらで触れる機会が多ければいいでしょう。

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この本は、著者の研究への、イラストレーターのスズメや自然への、デザイナーの造本への、沢山の愛情と情熱を感じさせる本でした。

どっかで見かけたら、子供向けとバカにせずにぜひ読んでみてください。

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