本エントリーは
stod phyogs 2016年8月16日火曜日 終電ちゃんに叱られたい
からの移籍です。日付は初出と同じです。
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・藤本正二 (2016.3) 『終電ちゃん 1』(モーニングKC-2580). 190pp. 講談社, 東京.
装丁:杉本智行(uni-co)
いわゆる「擬人化マンガ」と思いきや、どうもちょっと違うらしい。
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東京都を東西に横断するJR中央線。その高尾行最終電車を司っているのが「終電ちゃん」。正確には「中央線の終電ちゃん」。
というのは、各社各路線にそれぞれ独自の「終電ちゃん」がいるらしいのだ。
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駅では酔客をどなりつけ、酔いつぶれている客は起こしたり車内に運び入れたり、とにかくすべての客を乗せるのを使命としている。ダイヤを守ることは重視していない。
徹底的に乗客への慈愛に満ちている。口は悪いが。だから乗客からの信頼・人気もすごいのだ。
「よーし 出発する前に一言 お前たち全員に 言っておきたいことがある!」
「終電ちゃんだ!」
「明日は必ず もっと早い電車で帰るって 約束しな!!」
「はーい!!!するするーッ!!」
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馴染みの乗客にはいちいち声をかける。どうやら、終電ちゃんは、すべての客の下の名前を知っているらしいのだ。ただの擬人化キャラではありませんね。
厳しさと慈愛を兼ね備えたキャラ。これは・・・。
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発車時刻も終電ちゃんが決める。東京総合指令室より偉いのだ。運転士も車掌も駅員も、駅長すら終電ちゃんを怖れ、へりくだって話しかける。
(『終電ちゃん 1』 p.38)
見得を切るポーズの男前なこと。
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終電ちゃんは中央線終電の擬人化キャラか?妖精か?それとも女神か?と議論がなされているわけですが、これはもう決定です。
『終電ちゃん』「終電ちゃんとクリスマス(後編)」 p.139で終電ちゃんが言っているではないですか
「ああやっと分かったかい 厄介事ばかりの疫病神なんだよ私は!」
って。だから(女)神様なんですよ。
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中央線の終電ちゃんは、なぜか背中に変なものを背負っている。これは勾配標。
仏教の仏様は、皆独自の持ち物(持物(じもつ)と云います)を持っています。たとえば、観世音菩薩=蓮華、薬師如来=薬壺、文殊菩薩=経冊+剣など。それぞれの尊格の属性(つまりお経で語られている仏の性格)を一発で表現する持ち物となっています。
中央線の終電ちゃんの勾配標はこれと同じですね。
他の終電ちゃんも独自の持物を持っています。JR山手線の終電ちゃんは転轍機を引きずっているし、小田急小田原線の終電ちゃんはカンテラを持っています。
それぞれの持物にはこういう由来が・・・ないんだろうなあ(笑)。この辺は、下手につじつまを合わせるとツッコミが入るところでしょうから、由来を語るエピソードなどは入れない方がいいかも。
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終電ちゃんは、走行中は電車の先頭の屋根に座っています(ほんとはあり得ないが)。これも女神である証拠。
これは、船の舳先に飾られているアレ。そう船の守り神である女神様、それと同じなのです。
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マンガで語られている中央線の終電は高尾行。しかし、実は高尾行終電の後には、武蔵小金井行終電、三鷹行終電がまだあるのだ。
東京 新宿 吉祥寺 終点
高尾行終電 24:20 24:41 24:58 高尾 25:37
武蔵小金井行終電 24:27 24:50 25:07 武蔵小金井 25:17
三鷹行終電 24:35 25:01 25:18 三鷹 25:21
出典:
・chuosen.jp > 基礎知識 終電時刻表 (as of 2016/08/15)
http://www.chuosen.jp/timetable/lasttrain/
ということは、武蔵小金井行終電ちゃん、三鷹行終電ちゃんもいるのだろうか?
ここは「中央線の終電ちゃんは実は三姉妹」という説を主張したい。もちろん長女があの「高尾行終電ちゃん」。
いつか二人の妹終電ちゃんも見てみたいが(自分でかってに思っているだけですが)、このへんも「今まで全然触れないじゃないか」とツッコミが入りそうなので、もし出すとしても、おまけの四コマかなんかで軽く触れるだけにしといた方がいいかも。
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それにしても、この作者は新人にしてすごいキャラを発見してしまったもんだ。ちばてつや賞受賞作の週刊モーニング掲載後わずか2ヶ月でいきなり連載開始(月一連載)なんだから、実力はある。
絵はまだ下手だけど、これからみるみるうまくなるはずだから全然心配していない。
絵よりもストーリーに長けた人。「人情もの」の展開は安定しているし、ストックもまだまだ持ってそう。そんなに若い人ではないと見た(30代?)。
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とはいえ、「終電ネタ」でそうそう続くものでもないだろう。「終電ちゃんとクリスマス(前後編)」で大ネタをかましてしまったし(たぶんこれが一番描きたかったネタとみたぞ)。
あとは終電ちゃんを狂言回しにして、乗客の人情話で延々連載を続けるか・・・。
ネタ出しに苦しむくらいなら、3巻くらいで早めに風呂敷をたたむのもひとつの手。実力ありそうだから、次回作も楽しみだ。
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誰も指摘しないけど、「終電ちゃん」のタイトルロゴ。これは、駅とも関係が深い「修悦体」を模したもの。これもなかなかいい感じ。
2巻は2016年9月23日発売だそうだ。楽しみ。
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