に行ってきました。
・千葉市美術館 Chiba City Museum of Art > ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信 会期 2017年9月6日(水)~ 10月23日(月)(as of 2017/10/07)
http://www.ccma-net.jp/exhibition_end/2017/0906/0906.html
ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信
会期 : 2017年9月6日(水)~ 10月23日(月)
会場 : 千葉市美術館
住所 : 〒260-8733 千葉県千葉市中央区中央3-10-8
tel : 043-221-2311
fax : 043-221-2316
開館時間 : 午前10時-午後6時 (入場は午後5時30分まで)、金・土曜日は、午後8時まで開館 (入場は午後7時30分まで)
休館日 : 毎月第1月曜日(祝日の場合は翌日)
観覧料 : 一般1,200円(960円)、大学生700円(560円)、小・中学生、高校生無料 ※( )内は前売券、団体20名以上、千葉市内在住65歳以上の方の料金 ※障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料 ※10月18日(水)は「市民の日」につき観覧無料
主催 : 千葉市美術館、ボストン美術館、日本経済新聞社
後援 : アメリカ大使館
特別協賛 : フィデリティ投信
協賛 : 大伸社
協力 : 日本航空、高久国際奨学財団
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同展パンフレット, 表
同展パンフレット, 裏
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これは図録
・田辺昌子+セーラ・E・トンプソン・監修 (2017) 『ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信』. 263pp. 日本経済新聞社, 東京.
デザイン : 川添英昭
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鈴木春信(1725?-70)は、江戸中期の浮世絵師。浮世絵が2~3色刷の「紅絵」から多色刷の「錦絵」に移り変わる1760年代に活躍しました。
パンフレット表、図録表紙は、春信の代表作
鈴木春信 (1766) 桃の小枝を折り取る男女.
から。
お人形さんのように定型化された(当時の絵は皆そうだが)切れ長目、おちょぼ口、細身の体躯が特長。他の絵師もスタイルは同じだが、筆の滑らかさ、体の線の柔らかさが、春信は抜きん出ている。
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画題は女性が多いが、春信の絵では、男性も同じ筆致で描かれる。とても艶かしい男になっている。中性的だ。
だから、派手に着飾った若衆(わかしゅ、男色で受け担当の少年)や色子(美少年男娼)を描かせると絶品。
鈴木春信 (1766-67) 見立三夕「西行法師」.
図録, p.112.
これは一見女性に見えるが、二人とも色子だそうです。
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この時代の浮世絵はサイズが小さく、彫り・摺りの技術もまだ発展途上。しかし紙はかなり上質なものが使われている。部数もまだ少なく、いまだ好事家が主対象だったわけ。
そういった好事家が私的に浮世絵を作らせて、会で集まり互いに交換していたのが「絵暦」。この絵暦交換会(大小会)が浮世絵を発展させたと言ってもいい。
絵の中に「大の月」あるいは「小の月」を判じ物のように折り込んで入れるのが特徴だ。ちょっと見には全然わからないものも多く、クイズ的な楽しみ方もしていたと思われる。
採算を度外視して美しい「絵暦」を競ったことから、浮世絵が単調な「紅絵」から「錦絵」に急速に発展していった。
春信の浮世絵も、後期になるほどどんどんカラフルになっていくので、その急速な発展ぶりは目を見張る。
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鈴木春信 (1765) 夕立.
図録, p.66
止まったような絵が多い春信だが、これは珍しく動きのある絵だ。「あらまあ」という顔、おもしろい手・腕のポーズ、下駄が外れて蹴上げた右足、風になびく袖、くねる体躯、どれを取っても絶品である。
雨風の描き方などは、北斎以降の浮世絵にくらべるとまだまだ稚拙だが、その分かえっておもしろい。
なお、これも絵暦で、明和二年の大の月が干し物に隠されている。
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横浜、原宿で開催された「月岡芳年」展では、墨を付けないで摺り、紙の表面に凹凸や光沢を出す「空摺り」や「正面摺り」の手法に驚きました。その話はこちらでどうぞ↓
2017年9月16日土曜日 月岡芳年ツアー2017(3) 太田記念美術館 「月岡芳年 月百姿」 展
2017年8月19日土曜日 月岡芳年ツアー2017(2) 太田記念美術館 「月岡芳年 妖怪百物語」 展
2017年8月5日土曜日 月岡芳年ツアー2017(1) 横浜歴史博物館「歴史×妖×芳年」展
これは、浮世絵後期に生み出された手法だとばかり思い込んでいたのですが、春信の時代にすでに発明されてたことを知りました。
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鈴木春信 (1766-67) 鷺娘.
図録, p.103.
娘の白地の着物に、空摺りで細かく模様が浮き出ています。図録では、珍しくこの空摺りがよく出ているのですが、スキャン画像ではうまく出なかった。
また、娘の帽子や積もった雪は、これも墨を付けず凹版で摺って、エッジを凹ませてあります。つまり丸みを帯びた図形の内部がもっこり浮き出るわけです。これは「きめ出し」という手法。
これも是非展覧会で現物を見てください。感動しますよ。
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もう一つ「きめ出し」の例を。
鈴木春信 (1767-68) 女三宮と猫.
図録, p.126
ここでは着物の輪郭や猫の輪郭に強く「きめ出し」が使われている。これは図録ですらよく出ているが、現物はもっとよい。
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春信は晩年になると、突如、現実の町娘を題材に美人画を描きはじめる。中高年になって、突如アイドルに入れ込みだすオッサンみたいで微笑ましい。まあ、本人の趣味というよりは、版元のアイディアではないかと思われるが。
鈴木春信 (ca.1769) 浮世美人寄花(はなによす) 笠森の婦人 卯花(うのはな).
図録, p.177.
これは谷中・笠森稲荷境内の水茶屋・鍵屋の看板娘「お仙」。右手の蔦紋小袖がお仙だ。柳腰のいい女。当時、江戸のアイドル的な存在で、この浮世絵もブロマイドとして扱われていたらしい。
同じ頃に、浅草寺奥山の楊枝屋・本柳屋の「お藤」、浅草・二十軒茶屋の水茶屋・蔦屋の「およし」と並んで、明和の三美人と呼ばれていたそうだ。
その中でもこの「お仙」が一番人気で、春信は「お仙」を何度も描いている。
もっとも、この頃の浮世絵は顔が皆同じなので、袖の紋などで判別するより他ないのだが、それでも体躯の優美なカーブなどで「お仙」らしさが十分表現できていたのだろう(本当にそうかどうかは、当時の人じゃないとわかんないけど)。
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その後、役者絵が流行するようになると、徐々に役者の顔を似顔絵で描くようになってくる。特異な絵師・写楽の登場で、デフォルメともいえる強烈な似顔絵が出てきて、ますます浮世絵はおもしろくなっていくのだ。
春信の発展形である細面・柳腰の美人画は、喜多川歌麿で完成を見る。歌麿の美人画は頭身が高くなり、八頭身美人。洗練されすぎていて、手が届かない感じ。まさに「美人画」だ。
それに比べると、春信の美人画はちょっとかわいらしいし、やはりお人形さんっぽい。より親しみやすい絵だ。
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しかしこうして見ると、春信の絵、というか当時の浮世絵には、中国の美人画の影響を非常に強く感じる。柔らかな体躯の描き方は、まさに中国の手法だ。
またサイズが小さいこともあり、イラン~インドのミニアチュールの雰囲気もある。まあ、ミニアチュール自体、中国絵画が移植されて発達したものだから、似ていても不思議ではないが。
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それにしても、ボストン美術館の浮世絵コレクション恐るべしだ。世界でもボストンにしかない浮世絵が、山のようにあるという。
今回の春信作品も、ボストンだけの所蔵品がいくつも来ている。大規模な春信展は15年ぶりだというし、浮世絵ファンは無理してでも見た方がいいですよ。
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なお、この「春信展」、千葉のあとは1年かけて、名古屋→大阪→福岡と巡回されます。そちら方面の方々もお見逃しなく。
2017/09/06~10/23 千葉・千葉市美術館
2017/11/03~2018/01/21 名古屋・名古屋ボストン美術館
2018/04/24~06/24 大阪・あべのハルカス美術館
2018/07/07~08/26 福岡・福岡市博物館
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「春信展」と並行して、千葉市美術館の所蔵品で「江戸美術の革命 春信の時代」展も開催されていた。
色々と面白かったが、中でも曾我蕭白の(ca.1751~64)「獅子虎図」、(ca.1758~59)「寿老人・鹿・鶴図」を見れたのがよかった。蕭白お得意の「困り顔の虎」、いつ見ても笑えるし、いいなあ。迫力も充分。
参考:
・だまけん/だまけん文化センター 絵画と寺社巡り > 曽我蕭白 獅子虎図屏風(2016/10/04)
http://5dama2.blog96.fc2.com/blog-entry-247.html
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