本エントリーは
stod phyogs 2016年12月3日土曜日 『うんこ』出ました。
からの移籍です。日付は初出と同じです。
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2016年10月30日日曜日 『10分後にうんこが出ます』
で紹介した
・中西敦士 (2016.11) 『10分後にうんこが出ます 排泄予知デバイス開発物語』. 223pp. 新潮社, 東京.
装幀:新潮社装幀室
が出たので、買ってきました。単刀直入に言うと「ハズレ」でした。
ハズレの本について書くのもなかなか苦痛なのですが、前々回のエントリーで大々的に「楽しみ」と書いてしまったので、ちゃんと責任取ります。
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この本は「排泄予知デバイス」を「作る人」の話ではなく、「作る人」と「金」を集めてくる「起業家」のお話。
だから、実験にしても試作機開発にしても、具体的な内容がさっぱりわからない。もっとも、著者はその最中ずっとUSAでプレゼン資料を作っていて、現場には立ち会っていないんだから、詳しいことが書けないのも仕方ない。
かたや資金調達の記述になると、とたんに具体的な話がどんどん出てくる。そっちが専門なんだから、その箇所では生き生きしてくるのも当然でしょうね。
実験や機器開発の間に、「排泄のメカニズムや腸内のうんこの諸相がどんどん明らかになっていく」、また「排泄予知が一筋縄ではいかないことが明らかとなり、そしてそれを克服する具体的な方法の発見」といった科学的な内容を期待していた自分にとっては、全く面白くありませんでした。
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終始、著者の行動力と人たらしの素晴らしさが、自画自賛として語られていく、という展開で、最初の4分の1で飽きたなあ。
確かに行動力は素晴らしいし、実際の人間性もきっと魅力的なんだと思うが、私と合うタイプではないですね。著者にとっては別にどうでもいいことだけど。
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文章はそれほどうまいわけではないんだが、時々名言チックなことを言ったり書いたりできる才能のある人。この本のキャッチーなタイトル「10分後にうんこが出ます」にもその片鱗が伺える。
「排泄のビッグデータ」(p.7)
「それなのに、うんこに関する情報は社会で共有されていない」(p.14)
この、今まで見たことも聞いたこともない意外な連結具合はどうだ。
「僕は当時(引用者注:大学時代)能楽サークルに所属していたのだ。ちなみにバークレーでうんこを漏らした時、パンツからブツが落ちないように歩く「すり足」は、サークルで学んだ動きだった。」(p.100)
も素晴らしい。
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しかしひと通り読んでみて、このプロジェクトには医学(特に内科)関係のプロが一人もいないのが、非常に気になった。つまり、消化器、排泄物に関する知識が圧倒的に不足している、と感じた。
「排泄予測」という理想だけが先走っていて、あたかももうすぐ完成するかのようにプレゼンして資金を集めているのだが、人間の体は素人がすぐに十全に把握できるほど甘くないだろう。
資金調達のためプレゼン日程だけが先に決まっていて、その直前に超音波装置(試作機とは別の既成の装置)で腸の具合を初めて調べているんだから、かなり危なっかしい。
その実験結果は「超音波測定器で腸内の便の様子がわかることが判明した」というもの。これだけで「排便予知装置の開発が可能」というシナリオで資金を集めるのだから、その強心臓ぶりは私にはちょっと理解できない。
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排尿予知デバイスはかなり実用化が近いようなのだが、肝心の排大便予知デバイスは当分完成しないようだ。
クラウド・ファンディングで集めた約1200万円を全額返金することを2016年9月に決定している(p.175)ことからも、それは確実だろう。
大便や大腸の諸相はそう簡単に単純化できるものではないし、なんといっても排便のタイミングには個人差が大きい。大便の位置がわかるだけで一律に「何分後に出ます」と予知できるものではない、と思う。
でもまあ、大腸の様子がウェアラブル・デバイスでリアルタイムに観測できるようになるだけでも立派なものだとは思う。
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発想が面白いのは間違いないし、完成したら世の役に立つのも間違いない。私が協力できるのは、この本を買って印税の130円(定価の10%が印税として)を著者にあげるくらいだが、是非完成へ向けて頑張ってほしい。
「山師」で終わるか、「利用者に感謝される人」になるのかは、今後の社長である著者の力にかかっているのだ。これから先は「行動力」だけでは解決できない問題が多いと思うけど。
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