2017年8月21日月曜日

三井記念美術館 「地獄絵ワンダーランド」

にも行ってきました。日本橋に行ったのも何年ぶりだろう?

・三井記念美術館 > 展覧会情報 > 開催中の展覧会 : 特別展 地獄絵ワンダーランド 2017年7月15日(土)~9月3日(日)
http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html

特別展 地獄絵ワンダーランド
会場 : 三井記念美術館
住所 : 東京都中央区日本橋室町二丁目1番1号 三井本館7階
電話 : ハローダイヤル03-5777-8600
会期 :2017年7月15日(土)~9月3日(日)
休館日 : 月曜日、7月18日(火) ※但し7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開館
開館時間 : 10:00~17:00 ※入館は16:30まで
ナイトミュージアム : 会期中毎週金曜日は19:00まで開館 ※入館は18:30まで
入館料 : 一般1,300円(1,100円) 大学・高校生800円(700円) 中学生以下 無料 *70歳以上の方(要証明)は1,000円。また20名様以上の団体の方は( )内割引となります。ナイトミュージアム(会期中毎週金曜日17:00以降)の入館料は一般1,000円 大学・高校生500円
主催 : 三井記念美術館、NHK、NHKプロモーション
協賛 : 日本写真印刷


同展チラシ, p.1


同展チラシ, pp.2-3


同展チラシ, p.4

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まずネーミングがいい。「地獄絵」と「ワンダーランド」をくっつけるセンスは素晴らしい。

冒頭は、

水木しげる先生の絵本「水木少年とのんのんばあの地獄めぐり」の原画。

・水木しげる (2013.6) 『水木少年とのんのんばあの地獄めぐり』. 32pp. マガジンハウス, 東京.

やあ、これは得したぞ。

水木さん最晩年の作品なので、絵は全編チーフ・アシスタントの村澤昌夫氏のもの(もう明かしてもいいでしょう)だが、全体のコンセプトは水木さんが抑えているはず。

地獄絵は、水木さん大好きでしたからね。微に入り細に入りの描き込みはさすがだ。水木さんは絵こそ描いていないものの、水木少年とのんのんばあの彩色だけは、自分で担当している(そこだけ彩色が他と違うのですよ)。たいしたもんです。

これでつかみはOKだ。

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水木作品の地獄なら、貸本時代の傑作・そのものズバリの「地獄」(1965)やその翻案作「コロポックルの枕」(1970)でしょ!とも思うが、これらはあまりに残虐描写がキツいので、子供も対象にしている今回の展覧会じゃ無理だったかな。

Redonの宇宙船に乗ってくる「鬼宇宙人」、仏足石の宇宙ロケットなど、SF主流に毒されていないユニークなメカニックの原画も見てみたい。

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残虐描写のきつい地獄絵自体は、六道図の一部や地獄草紙の展示があるだけなので、それほどショッキングではない。小さい絵が多いので、パンフレットなどに引用されている絵はかなり拡大したものであることがわかる。

後半になると、行けども行けども十王(閻魔大王のグループ)図だらけなのでちょっと飽きた。

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地獄残虐描写が少なかったので、ちょっと物足りない展覧会だったが、一つ収穫。

耳鳥斎(にちょうさい)・筆 (1793) 地獄図巻

この人、はじめて知った。江戸時代・大坂の浮世絵師なのだが、他に類を見ない「カワイイ絵」を描く人。この当時、目を黒丸で描いたり、開いた口をV字形に描くような人はいない。

地獄絵も全然怖くない。むしろみんな楽しそう。「役者が行く地獄」では、亡者は縛り付けられて、太い「大根」を口に押し込まれている。でも笑ってるよ(笑)。こんな地獄なら行ってみたい。

参考:
・アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】 >耳鳥斎の地獄ワールドツアー 2015-09-14
https://ameblo.jp/artony/entry-12073124925.html

今後、耳鳥斎追っかけてみよう。耳鳥斎の本って、

・中谷伸生 (2015.3) 『耳鳥齋アーカイヴズ 江戸時代における大坂の戯画』(関西大学東西学術研究所資料集刊36). vi+209pp. 関西大学出版部, 吹田(大阪).

くらいしかないんだな。いつか展覧会やってほしい。

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あと、ミュージアムショップにすごい本があった。

・梶谷亮治+西田直樹・著, Michael Jamentz+Rachel Saunders+Miriam Chusid・英訳 (2017.7) 『HELL 地獄 地獄をみる』. 592pp. パイ・インターナショナル, 東京.
http://pie.co.jp/search/detail.php?ID=4811

出たばかりの本のようだ。ぬるい絵が多かった展覧会に比べて、こちらはもうすさまじい絵が、「コレでもか!」とばかりに集めてある。圧巻!むしろ、こちらをそのまま展覧会にしてほしかったほど。

この本ほしい。しかし5900円+税とかなりのお値段なんだよなあ。いつか買おう。

2017年8月19日土曜日

月岡芳年ツアー2017(2) 太田記念美術館 「月岡芳年 妖怪百物語」 展

芳年ツアー第2弾は、原宿の太田記念美術館の前期。

・太田記念美術館 > 展覧会 > 年間スケジュール > 特別展 月岡芳年 妖怪百物語(as of 2017/06/28)
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/%E6%9C%88%E5%B2%A1%E8%8A%B3%E5%B9%B4%E3%80%80%E5%A6%96%E6%80%AA%E7%99%BE%E7%89%A9%E8%AA%9E-2

会期 : 2017年7月29日(土)~8月27日(日)(7月31日、8月7、14、21日は休館します)
開館時間 : 午前10時30分~午後5時30分(入館は午後5時まで)
会場 : 太田記念美術館 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10
TEL : 03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料 : 一般 1000円、大高生※学生証をご提示ください。 700円、中学生以下※中学生は学生証(生徒手帳)をご提示ください。 無料(リピーター割引 「月岡芳年 妖怪百物語」および「月岡芳年 月百姿」両展覧会の会期中2回目以降ご鑑賞の方は、半券のご提示にて200円割引いたします。※チケット購入時に半券をご提示下さい。他の割引との併用はできません。
芳年を巡る 入館料相互割引プラン : 下記展覧会のチケットを当館でご提示いただくと、「月岡芳年 月百姿」展を100円割引でご覧いただけます。※1枚につき1名様、1回限り有効、他の割引との併用はできません。
横浜市歴史博物館 丹波コレクションの世界Ⅱ 歴史×妖×芳年 2017年7月29日(土)~8月27日(日)


同展パンフレット, p.1


同展パンフレット, p.2

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案の定、横浜の「歴史×妖×芳年」展とは「新形三十六怪撰シリーズ」が丸かぶり。

しかし、がっかりしたかというと、そんなことはない。横浜で芳年錦絵の見方を勉強できたおかげで、こちらでは重要技法を見逃すこともなく、じっくり鑑賞することができました。

空摺や正面摺の技を見ようと、伸びをしたり、しゃがんだりしてたのは自分だけだった。

横浜みたいに、技法の解説はないし。太田は浮世絵専門館なので、「そんなの解説するまでもなく、うちの客には常識」ってことなのかもしれない。

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これが図録。一般書籍として、書店でも販売されています。

・日野原健司+渡邊晃・著, 太田記念美術館・監修 (2017.7) 『月岡芳年 妖怪百物語』. 135pp. 青幻舎, 東京.


デザイン : 原条令子

展示作品をコーナーごとに紹介すると、

(1) 初期の妖怪画 16点
(2) 和漢百物語 26点
(3) 円熟期の妖怪画 24点
(4) 新形三十六怪撰 36点

まさに充実の展示です。それにしても、この頃の浮世絵師は多作だ。これでも芳年作品のほんの一部なのだから。

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お気に入りは、


月岡芳年 (1865.8) 和漢百物語 宮本無三四
同書, p.54

躍動感が素晴らしいですね。

他には、やたらと相撲取りの豪傑話(まあ作り話かうわさ話なのだろうけど)が多いのがおもしろい。小野川喜三郎が、三つ目入道に煙草の煙を吹きかけながらの、小馬鹿にした目が素晴らしい。嫌がる三つ目入道の顔との対比も、また絶妙。

しかし芳年が描く妖怪は貧相なものが多く、ちょっとかわいそう。これだけ妖怪画を描いているのに、芳年の立ち位置は飽くまで「退治する側」にある。「妖怪が好きで好きでたまらない」といったタイプではない、と見た。

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月岡芳年 (1885.9) 奥州安達がはら ひとつ家の図
同書, p.80

芳年らしさが発揮された一枚。縦二枚つづりの画面構成を存分に活かした力作だ。

横浜でも太田でも、残念ながら無惨絵系統の展示はほとんどないので、今回の展示の中では、そっち方面の嗜好を垣間見れる貴重な作品。

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なお、今回の図録はページがマットなので、発色が悪いような気がする。横浜と展示が重複している「新形三十六怪撰」で、図録を比較してみるのも面白い。

すると、横浜展示のものとは、摺りが違う版があったりする。これは一点物ではない浮世絵収集の宿命であり醍醐味でもある。

一つ紹介しておこう。


月岡芳年 (1891) 新形三十六怪撰 奈須野原 殺生石之図
同書, p.113


月岡芳年 (1891) 新形三十六怪撰 奈須野原 殺生石之図
横浜市歴史博物館・編 (2017.7) 『丹波コレクションの世界II 歴史(れきし)×妖(あやかし)×芳年(よしとし) "最後の浮世絵師"が描いた江戸文化』. p.90 横浜市ふるさと歴史財団, 横浜.

横浜の図録は、ページがグロスで発色がいい。太田のよりもコントラストを強めにしている。ぼかしなど、微妙な味わいは太田図録の方がよく出ているかもしれない。

しかし、原本の保存状態の違い、図録での図版作製・色調整を考慮したとしても、これは摺り版が違うのではないか、と思った。

太田の展示では、一部の絵柄が刷られていない版を並べて展示してあったりするのも、なかなかおもしろかった。意図的なのか単なるミスプリントなのか、わかっていないそうだ。

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太田記念美術館はこじんまりとしたところなので、作品との距離が近くていい。その分、客が多いと結構窮屈になり、観覧も時間がかかるけど。平日昼間にゆったりした気持ちで見るには、すごくいい場所だと思った。

今回の「妖怪百物語」展は、2017/07/29~08/27と、わずか1ヶ月の短い展示なので、すぐに行った方がいい。もたもたしてると終わっちゃうぞ。

次回、「月百姿」展(2017/09/01~09/24、こちらも短いので注意)ももちろん行きます。

2017年8月7日月曜日

アルチンボルド→国芳の流れ

2017年7月1日土曜日 「アルチンボルド展」に行ってきました

でも触れましたが、Arcimboldoの寄せ絵と歌川国芳の寄せ絵は、確実とは言えないまでも、「ある程度関係ありそうだ」というところまではわかっています。

でも、絵なしではその流れはわかりにくいですね。というわけで、絵をつけました。

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Giuseppe Arcimboldo (1578) Eve and the Apple, with Counterpart (right, Adam).
デ・ジローラミ・チーニー(2017)p.222より.

Eve像は省略。この絵がArcimboldo自身の筆になるものかどうかは確実ではないらしく、作者が「アルチンボルドの工房」となっている場合もあります。

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その後、Arcimboldoの追随者が現れますが、ほとんどはヘタな模倣でした。

「裸体寄せ絵肖像画」で、上記Eve & Adam画にそっくりな絵は、18~19世紀に現れます。


Bartolomeo Bossi(18~19C) Composite Head of a Man.
フェリーノ=パグデン+渡辺・編 (2017)p.155より.

この絵は、今回の展覧会が世界初公開。Eve画は省略。

Arcimboldoから約200年たって、突如そっくりさんが現れたかのように見えますが、おそらく「現在見つかっているのはこれだけ」ということなのでしょう。Eve & Adam画の模倣者は、Arcimboldo以降連綿と続いていたと思われます。

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そういった寄せ絵の一部は、模写という形で19世紀の日本に伝わります。


松平斉民・収集 (19C) 人物画. 『芸海余波 第五集』所収. 早稲田大学図書館所蔵, 東京.
府中市美術館・編(2017)p.84より.

この絵は、ArcimboldoともBossiとも若干違います。おそらく、この手の「裸体寄せ絵肖像画」はたくさんあったのでしょう。そのうちの一つが、模写という形で日本まで届いていたということです。

これは大発見。府中市美術館エライ!

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そして、勉強家である歌川国芳が、この本を見たか、あるいは別ルートで、この手の「裸体寄せ絵肖像画」を見た可能性は充分あるでしょう。

もしかすると、「西洋には、こういう変な絵があるよ」と人づてで聞いただけなのかもしれません。国芳なら、そんな情報だけからでも「裸体寄せ絵肖像画」を描いてしまいそうな気がします。

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そして描かれたのが、一連の「裸体寄せ絵肖像画」


歌川国芳 (ca.1848) 人かたまつて人になる.
府中市美術館・編(2017)p.84より.

これは横顔なので、Arcimboldoの流れをくんでいる、とも言えそうですが、


歌川国芳 (ca.1848) みかけハこハゐがとんだいゝ人だ.
府中市美術館・編(2017)p.85より.

こういう斜めからの角度は、国芳独自の発想でしょう。

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というわけで、Arcimboldo→国芳という流れは、ある程度つながるわけですが、まだ「『芸海余波』→国芳」の部分がmissing linkになっています。

でも、昨今の国芳研究には目覚ましいものがあるので、その部分も早晩解決しそうな気がします。期待していましょう。

それにしても、「時空的に離れた二者がつながっている」ことがわかった瞬間は、ほんとうに驚きだし、また楽しいですよね。まさに学問の醍醐味です。

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なお、「アルチンボルド展」図録に収録されているバイヤー(2017)では、Arcimboldo流「裸体寄せ絵肖像画」の日本への伝来については、「かといって否定されるべきものでもない」と言うにとどめています。

しかしバイヤー先生が「国芳展」図録を見たら、両者の関係性について、より発展的な考察が展開されることになるでしょう。こちらも今後に期待しましょう。

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文献 :

・府中市美術館(金子信久+音ゆみ子)・編著 (2017.3) 『歌川国芳 21世紀の絵画力』. 287pp. 講談社, 東京.
・シルヴィア・フェリーノ=パグデン+渡辺晋輔・責任編集 (2017.6) 『ARCIMBOLDO : NATURE INTO ART』. 244pp. 国立西洋美術館, 東京/NHK, 東京/NHKプロモーション, 東京/朝日新聞社, 東京.
・アンドレアス・バイヤー・著, 岩谷秋美・訳 (2017.6) 多重形象化の芸術 ジュゼッペ・アルチンボルドの寄せ絵と二重化されたイメージの意味生産. 『ARCIMBOLDO : NATURE INTO ART』所収. pp.137-141. 国立西洋美術館, 東京/NHK, 東京/NHKプロモーション, 東京/朝日新聞社, 東京.
・レアナ・デ・ジローラミ・チーニー・著, 笹山裕子・訳 (2017.6) 『アルチンボルド アートコレクション』. 255pp. グラフィック社, 東京.
← 英語原版 : Leana De Girolami-Cheney (2013.10) ARCIMBOLDO (MEGA SQUARE). 256pp. Parkstone Press, NY, USA.

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なお、府中市美術館の「国芳展」については、こちらをどうぞ↓

2017年3月29日水曜日 府中市美術館 「歌川国芳 21世紀の絵画力」展
2017年4月24日月曜日 府中市美術館 「歌川国芳 21世紀の絵画力」展 2回目

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(追記)@2017/08/10

なお、

・松平斉民・収集 (19C) 『芸海余波 第五集』. 早稲田大学図書館所蔵, 東京.

は、早稲田大学図書館のサイトで見ることができます。

・早稲田大学 > 学部・大学院・図書館 > 図書館 : 早稲田大学図書館 > コレクション・刊行物 > 古典籍総合データベース >芸海余波. 第1-16集 > 芸海余波 第5集(as of 2017/08/09)
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/i05/i05_01646/i05_01646_0005/i05_01646_0005.html

このうち、前述の「裸体寄せ絵肖像画」(模写)のページは、

・早稲田大学 > 学部・大学院・図書館 > 図書館 : 早稲田大学図書館 > コレクション・刊行物 > 古典籍総合データベース >芸海余波. 第1-16集 > 芸海余波 第5集 > 16枚目 (as of 2017/08/09)
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/i05/i05_01646/i05_01646_0005/i05_01646_0005_p0016.jpg

「裸体寄せ絵肖像画」(模写)のクローズアップは

・早稲田大学 > 学部・大学院・図書館 > 図書館 : 早稲田大学図書館 > コレクション・刊行物 > 古典籍総合データベース >芸海余波. 第1-16集 > 芸海余波 第5集 > 図55 (as of 2017/08/09)
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/i05/i05_01646/i05_01646_0005/i05_01646_0005_p1055.jpg

2017年8月5日土曜日

月岡芳年ツアー2017(1) 横浜市歴史博物館「歴史×妖×芳年」展

2017年5月27日土曜日 行きたい! 札幌 「月岡芳年」展

で紹介した、札幌の月岡芳年展には結局行けず、残念だったのですが、そのかわりに

2017年6月28日水曜日 東京・横浜でも「月岡芳年」展

で紹介した、原宿で2回、横浜で1回開かれる芳年展に行くことにしました。

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まず一発目は横浜。

・(公財)横浜市ふるさと歴史財団/横浜市歴史博物館 > 見る : 企画展 > 年度別アーカイブ : H29(2017) > 企画展 丹波コレクションの世界Ⅱ 歴史×妖×芳年 : 詳細を見る > 企画展 丹波コレクションの世界Ⅱ 歴史(れきし)×妖(あやかし)×芳年(よしとし) "最後の浮世絵師"が描いた江戸文化(as of 2017/06/28)
http://www.rekihaku.city.yokohama.jp/koudou/see/kikakuten/2017/tanba_collection-2/

会期 : 2017年7月29日 (土) ~2017年8月27日 (日)
会場 : 横浜市歴史博物館
開館時間 : 9:00~17:00(券売は16:30まで)
休館日 : 月曜日
観覧料 : 一般 企画展500円(400円) 企画展・常設展共通700円(560円)、大学生・高校生 企画展 200円(160円) 企画展・常設展共通300円(240円)、中学生・小学生企画展100円(80円)企画展・常設展共通100円(80円) ※( )内は20名以上の団体料金です。 ※毎週土曜日は、小・中・高校生は無料です。
芳年を巡る【入館料相互割引プラン】 : 本展チケットの半券を太田記念美術館(外部リンク)の展覧会「月岡芳年 妖怪百物語/月岡芳年 月百姿」(会期:2017年7月29日(土)~8月27日/9月1日(金)~9月24日(日))でご提示いただくと、100円割引で御覧いただけます。(一枚につき一名様、1回限り有効) 他の割引との併用はできません。
主催 : 横浜市歴史博物館
共催 : 横浜市教育委員会
協力 : 神奈川県立歴史博物館
後援 : 朝日新聞横浜総局・神奈川新聞社・産経新聞社横浜総局・東京新聞横浜支局・日本経済新聞社横浜支局・毎日新聞横浜支局・読売新聞横浜支局・NHK横浜放送局・TVK・FMyokohama84.


同展チラシ表


同展チラシ裏

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会場の横浜市歴史博物館は、横浜市営地下鉄ブルーライン/グリーンラインのセンター北駅から歩いて5分。これまで、行き先として視界に入ったことのない地域だったので、新鮮でした。

ところで、頭に何もつかない「センター」って何だろう?

平日でしたが、思ったより客がいた。それでも、作品の前に人がダンゴになっているような状態ではないので、じっくり見ることができました。

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これは図録↓

・横浜市歴史博物館・編 (2017.7) 『丹波コレクションの世界II 歴史(れきし)×妖(あやかし)×芳年(よしとし) "最後の浮世絵師"が描いた江戸文化』. 107pp. 横浜市ふるさと歴史財団, 横浜.


装丁 : 高橋健介

展示作品は、横浜の貿易商・丹波恒夫氏(1881~1971)のコレクションから、78点が選ばれています。ほとんどは神奈川県立歴史博物館の所蔵品。

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月岡芳年(1839~92)は、幕末から明治前半に活躍した浮世絵師(錦絵師)。歌川国芳の弟子です。

2016年5月28日土曜日 府中市美術館 「ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想」展と岡田屋鉄蔵 『ひらひら』

で紹介した国芳一門のマンガ

・岡田屋鉄蔵 (2011.12) 『ひらひら 国芳一門浮世譚』. 182pp. 太田出版, 東京.

にも、小僧時代の芳年が出てきますよ。

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初期の武者絵などには、国芳の影響が強く出ていますが、次第に、豪胆な師匠の線とは違った、繊細な線での画風を極めていきます。

特に、糸のように細い線で描かれる美人画は、芳年の十八番。浮世絵というよりも、中国の美人画の影響があるような気がする。

明治になると、国芳の頃よりも一層海外の絵がどんどん入ってきて、絵師もいろいろな刺激を受ける機会が増えたのだと思う。

芳年にも、聖母子像の影響があらわな「一魁随筆 山姥 怪童丸」という作品がある。

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芳年の絵はもとより、彫師の技にも注目。明治期になると、彫師のテクニックもここまで進歩していたのか、と驚くばかりです。とても木版画には見えない。

摺師のテクニックにも仰天しっぱなし。ぼかし、グラデーションなどはお手の物。

空摺(墨をつけずに摺り、紙に凹凸を出す手法)
正面摺(墨の表面に艶を出して、単色の中に模様を浮かび上がらせる手法)
雲母(きら)摺(細かい雲母片を散らす手法)

などの、繊細な摺り技がふんだんに使われています。

会場には、これらの手法についての解説もあり、とてもわかりやすかった。この辺は指摘してもらわないと、素人にはなかなか気づかない。

これらは、図録や画集の印刷では全然出ない微妙な技なので、会場で現物を見るしかない。

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なお、図録カバーでは、この雲母摺部分のクローズアップが使われていて、なかなか通好みの装丁です。気づいた人はどれくらいいるかな?「遠方の星雲を撮影した天文写真」と思った人も多いかもしれない。

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優美な線で描かれた美人画からは一転、芳年が得意とした歴史物・時事もので男を描く際には、勢いのある直線で構成された角張った輪郭になります。特に、線の屈曲点での止めの迫力が芳年の特色。

芳年の売りの一つである「無惨絵」は、この丹波コレクションには少ない。しかし、今回は三枚綴りの歴史・時事ものや新形三十六怪撰シリーズなど、芳年の実力が十分堪能できる展示です。

この辺は、コレクターや展覧会キュレーターの個性が出るところ。今回は比較的一般人にも理解できるような作品ばかりが選ばれている、といえるでしょう。

しかし、逆を言えば、この展覧会だけでは、芳年の全貌は全く見えて来ないのだ。

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「新形三十六怪撰シリーズ」などは、原宿の太田記念美術館の展示とかなり重複していそうだが、一点ものではない浮世絵・錦絵の展覧会の宿命と観念して、もちろんそちらも行きます。

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暁斎や芳年が担った明治期の錦絵は、次第に印刷物に取って代わられます。彼らの後進たちは、印刷物での挿絵の世界に進んでいくわけですが、その世界もまた面白いのだ。

そして、伊藤晴雨、伊藤彦造、高畠華宵などを経て、これら挿絵画家の技は、現代のマンガ家たち、平田弘史、花輪和一、丸尾末広、さらには諸星大二郎の絵にまで続いていく。

手塚治虫を中心に置いてたどる「日本マンガ史」からは、全く見えてこない絵の系譜です。

そういった日本の通俗絵画史・マンガ史のパースペクティブの中に、芳年を置いて考えてみるのも、楽しみ方の一つでしょう。

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さて、次は、原宿・太田記念美術館の「月岡芳年 妖怪百物語」展だ!