なんだかタイトルは、言葉の組み合わせがわけわからんけど、何はともあれ、久々の黒田硫黄。
・黒田硫黄 (2018.2) 特品(とくひん)ビーム課長. モーニング, 2018年2月8日号, pp.317-359.
同誌, p.318
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黒田硫黄は『アップルシードα』以来か。これは、自分にはあんまりおもしろくなかったなあ。元ネタを知らないと、面白さはイマイチわからないのかもしれない。
驚いたことに、今回「モーニング」初登場なのだそうな。
え?と思うが、そうか、この人はデビュー以来ずっと「アフタヌーン」の人なのだな。
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舞台は、何かのモジュールを受注している電子機器メーカー。その担当が特品B課課長・下島さん。
この人なぜか甘味を異様にモリモリ食べる。その理由はというと、タイトルに秘密がある。
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明日が納期の、そのモジュールがうまく作動しない。そして下島さんは、部下の「おにぎりちゃん」と下請けの町工場へ。
この町工場のオヤジ達のウサン臭さは、黒田硫黄らしいところ。あと、そこの暗闇。全編を筆で描き塗っている、黒田らしい漆黒の闇だ。
未明までハンダづけと格闘し、なんとか納期に間に合う。
ここまでは、なんか企業ものマンガみたいだ。ところどころ変なところはあるが。
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翌朝、また「おにぎりちゃん」と二人で発注元へ。そしてモジュールを納品。
モジュールを取り付けた、本体というのがこれだ。
同誌, p.344
なんだ、これは(笑)。
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「なげーな」と思いつつも、立ち読みですまそうと、ここまで読んできた。ところが、ここで突然黒田らしい「どうかしてる話」になってきたため、びっくりして急遽買ってきたのだった。
黒田硫黄を最初に読んだのは、デビュー作の『大日本天狗党絵詞』。その時の感想も「こいつの作る話はどうかしてる。頭に虫が湧いてるんじゃねーか?」だった。
それは今もそう思っているのだが、いつしかそれが魅力に転じた。こんな変な話を作れる人は他にいないし。
トーンなどを使わず、何でも筆で強引に描いてしまう、荒っぽい絵は最初から好みだった。それで、結局はこれまで出た単行本は全部持ってる。
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で、この「どうかしてる話」を収束させるのに、また「唐突でどうかしてる話」が使われる(これは伏線が貼られてはいたが)。相変わらず変なストーリー展開。
この人は、あまり説明的な展開にしないので、いつもこんな感じの唐突感にあふれている。そこがいいんだけど。でもやっぱり、変な話だよなあ。
------------------------------------------
いやあ、でも相変わらずで安心したよ。絵も変わってない。体調もだいぶ戻っているんだろう。この調子で行ってほしい。
会社ものに、そこはかとなく「百合もの」の雰囲気も漂わせつつ、という、ちょっと挑戦要素も含む珍しい作品。
これは立ち読みで済ますには惜しい。是非買って読んで下さい。
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(追記)@2018/01/27
なお、作者本人のblog
・黒田硫黄/黒田硫黄の仕事 > 2018.01.18 Thu 新ジャンルへの挑戦
http://kurodaiou.blog57.fc2.com/blog-entry-152.html
によれば、
わたくし47年間も会社に入ったことがないまま、想像でサラリーマン漫画を描きました。
だって。あはは。いや、会議のシーンなんかはそれっぽかったですよ。
2018年1月27日土曜日
2018年1月21日日曜日
森繁拓真+カミムラ晋作 『おとうふ次元(ディメンション) 1~3』
「脱力タイトル選手権」なんていうものがあったら、文句なしに優勝でしょう。わはは。
・森繁拓真・原作+カミムラ晋作・作画 (2015.12~2017.3) 『おとうふ次元(ディメンション) 1~3』(MFコミックス フラッパーシリーズ). KADOKAWA, 東京.
← 初出 : ComicWalker, 2015年6月19日配信~2017年1月5日配信
https://comic-walker.com/
装幀 : 松本圭司
------------------------------------------
原作の森繁拓真は、東村アキコの弟。自身もマンガ家。言わずと知れたヒット作『となりの関くん』の作者だ。
「あるある系」や日常系に笑いを見つけるのが得意な人だ。この作品もそれ。
「おとうふ次元」というネーミングからしてギャグ・センス抜群。『となりの関くん』もおもしろいぞ。
------------------------------------------
カミムラ晋作は2005年デビュー。らしいが、残念ながら、他の作品を読んだことがない。
堅実な絵で安心して読める。人物の動きは少し固いのだが、こういう筋肉質の男を描かせると、かえってその絵がしっくり来る。
------------------------------------------
ストーリーは、未来からやって来た時空修復官トライ(現代日本での偽名=寅井)が、事故で未来に帰れなくなり、救助を待つまでの間、現代日本のアパートで暮らす話。
自分の行動により未来を変えてしまわないよう、できるだけ何もしない。だから普段はずっと寝ている(笑)。
------------------------------------------
とはいえ、何かを食べなきゃいけないし、最低限の行動も必要だ。しかし、トライは200年後の人間。現代日本の知識にうとい。
同書1巻, pp.18-19
肉じゃがを食べるだけで大騒ぎ(笑)。
------------------------------------------
ある行動により未来が変わりそうになると、「時変センサー」が発動し、別の行動を促す。
そこで活躍するのがライブラリ。このライブラリへ「フルアクセス」することにより、脳の処理速度を一万倍までに高めることができる。実質的に時間を止めるような形になり、リアルタイムでは瞬時に行動を変えることができるのだ。
このライブラリを会話型に人格化した、マスコットがなかなかいい味を出している。かわいいし。
同書1巻, pp.18-19
パンツを買うだけでも、この始末(笑)。
------------------------------------------
トライは筋肉モリモリ。ハードボイルドで、3巻にわたりニコリともしない。いわば「ゴルゴ13」型キャラ。
それが上述のようにトンチンカンな行動をするところが、このマンガのおもしろさ。まあ言ってみれば、泉昌之型の日常ギャグだ。
------------------------------------------
これは、設定を作ったところで8割型完成だ。原作の森繁の実力が光る。
また、SF好きなのもよくわかった。設定はまあ甘いんだが、コメディ(というよりギャグだな)なんだから、この程度で充分。
いつか本格的なSF作品もできそう。楽しみ。
------------------------------------------
登場人物は、他に、大家とその娘・舞花。
トライの天敵。この二人に関わるたびに、未来改変の危機が訪れるのだ。
同書3巻, pp.108-109
------------------------------------------
他に、トライが未来人であることを察知してしまった、在宅科学者・五坊貴人とメイドのヴェスナのコンビ。
同書2巻, pp.28-29
------------------------------------------
レギュラーの登場人物はこの5人だけだ。登場人物が少ないのは、最初から3巻くらいで収めるつもりだったのだろう。
あるあるネタが多いので、続けようと思えば、いつまでもできたはずなのに、潔く短く終わらせた。
きれいにまとまっていて、読後感もいい。オチはちょっと苦しいような気はするが。まあでも、ハードSFへのチャレンジとしては充分評価していい。
------------------------------------------
なお、タイトルが「おとうふ・・・」なのは、未来では「とうふ」が主食(笑)になっているせい。
オチにもとうふが絡んでいるのだ。このトボケ具合、読みたくなったでしょう。
------------------------------------------
個人的には「コインシャワー」の話が好きだ。オードリー春日を思い起こさせる。
そうか、主人公のトライには、オードリー春日も投影されているのかもしれませんね。
というわけで、実写化する際には、主人公はオードリー春日で決まり!
------------------------------------------
あんまり部数は出なかったらしく、本屋ではもう見かけないし、古本も少ない。全3巻揃えるのは結構大変だった。しかし、面白さは保証しますから、是非探してみてください。
こういう面白いマンガは、もっと評判になってほしい。このコンビでの次回作、特にもっとハードなSF作も読んでみたいし。
・森繁拓真・原作+カミムラ晋作・作画 (2015.12~2017.3) 『おとうふ次元(ディメンション) 1~3』(MFコミックス フラッパーシリーズ). KADOKAWA, 東京.
← 初出 : ComicWalker, 2015年6月19日配信~2017年1月5日配信
https://comic-walker.com/
装幀 : 松本圭司
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原作の森繁拓真は、東村アキコの弟。自身もマンガ家。言わずと知れたヒット作『となりの関くん』の作者だ。
「あるある系」や日常系に笑いを見つけるのが得意な人だ。この作品もそれ。
「おとうふ次元」というネーミングからしてギャグ・センス抜群。『となりの関くん』もおもしろいぞ。
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カミムラ晋作は2005年デビュー。らしいが、残念ながら、他の作品を読んだことがない。
堅実な絵で安心して読める。人物の動きは少し固いのだが、こういう筋肉質の男を描かせると、かえってその絵がしっくり来る。
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ストーリーは、未来からやって来た時空修復官トライ(現代日本での偽名=寅井)が、事故で未来に帰れなくなり、救助を待つまでの間、現代日本のアパートで暮らす話。
自分の行動により未来を変えてしまわないよう、できるだけ何もしない。だから普段はずっと寝ている(笑)。
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とはいえ、何かを食べなきゃいけないし、最低限の行動も必要だ。しかし、トライは200年後の人間。現代日本の知識にうとい。
同書1巻, pp.18-19
肉じゃがを食べるだけで大騒ぎ(笑)。
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ある行動により未来が変わりそうになると、「時変センサー」が発動し、別の行動を促す。
そこで活躍するのがライブラリ。このライブラリへ「フルアクセス」することにより、脳の処理速度を一万倍までに高めることができる。実質的に時間を止めるような形になり、リアルタイムでは瞬時に行動を変えることができるのだ。
このライブラリを会話型に人格化した、マスコットがなかなかいい味を出している。かわいいし。
同書1巻, pp.18-19
パンツを買うだけでも、この始末(笑)。
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トライは筋肉モリモリ。ハードボイルドで、3巻にわたりニコリともしない。いわば「ゴルゴ13」型キャラ。
それが上述のようにトンチンカンな行動をするところが、このマンガのおもしろさ。まあ言ってみれば、泉昌之型の日常ギャグだ。
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これは、設定を作ったところで8割型完成だ。原作の森繁の実力が光る。
また、SF好きなのもよくわかった。設定はまあ甘いんだが、コメディ(というよりギャグだな)なんだから、この程度で充分。
いつか本格的なSF作品もできそう。楽しみ。
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登場人物は、他に、大家とその娘・舞花。
トライの天敵。この二人に関わるたびに、未来改変の危機が訪れるのだ。
同書3巻, pp.108-109
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他に、トライが未来人であることを察知してしまった、在宅科学者・五坊貴人とメイドのヴェスナのコンビ。
同書2巻, pp.28-29
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レギュラーの登場人物はこの5人だけだ。登場人物が少ないのは、最初から3巻くらいで収めるつもりだったのだろう。
あるあるネタが多いので、続けようと思えば、いつまでもできたはずなのに、潔く短く終わらせた。
きれいにまとまっていて、読後感もいい。オチはちょっと苦しいような気はするが。まあでも、ハードSFへのチャレンジとしては充分評価していい。
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なお、タイトルが「おとうふ・・・」なのは、未来では「とうふ」が主食(笑)になっているせい。
オチにもとうふが絡んでいるのだ。このトボケ具合、読みたくなったでしょう。
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個人的には「コインシャワー」の話が好きだ。オードリー春日を思い起こさせる。
そうか、主人公のトライには、オードリー春日も投影されているのかもしれませんね。
というわけで、実写化する際には、主人公はオードリー春日で決まり!
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あんまり部数は出なかったらしく、本屋ではもう見かけないし、古本も少ない。全3巻揃えるのは結構大変だった。しかし、面白さは保証しますから、是非探してみてください。
こういう面白いマンガは、もっと評判になってほしい。このコンビでの次回作、特にもっとハードなSF作も読んでみたいし。
2018年1月14日日曜日
『谷崎万華鏡』
・中央公論新社・編 (2016.11) 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. 227pp. 中央公論新社, 東京.
← 初出 : 中央公論新社 > 特設サイト > 谷崎潤一郎メモリアルイヤー マンガアンソロジー 谷崎万華鏡, 2015/05~2016/10.
http://www.chuko.co.jp/special/tanizaki_mangekyo/
装画:中村明日美子, 装幀:山影麻奈
------------------------------------------
中央公論新社が谷崎潤一郎生誕百三十周年を記念して、『谷崎潤一郎全集 全26巻』を刊行。そのタイミングに合わせて、自社websiteで連載したマンガアンソロジーをまとめたものだ。
表紙は、シャープな絵の中村明日美子。谷崎好みの女性とはちょっと違うような気もするが、まあ、谷崎小説の感じ方は人それぞれ違うし、第一私は、谷崎をたいして読んでない(笑)。読んだのもだいぶ忘れてる。
------------------------------------------
005-014 久世番子/谷崎ガールズ(オリジナル)
015-042 古屋兎丸/少年
043-066 西村ツチカ/人間が猿になった話
067-082 近藤聡乃/夢の浮橋
083-094 山田参助/飈風
095-120 今日マチ子/痴人の愛
121-132 中村明日美子/続続蘿洞先生
133-150 榎本俊二/青塚氏の話
151-158 高野文子/陰翳礼讃
159-192 しりあがり寿/瘋癲老人日記
193-220 山口晃/台所太平記
221-225 作者あとがき
226-227 主要参考文献/初出
かなり力の入った布陣。その中から気になったものをいくつか。
------------------------------------------
・谷崎潤一郎・原作, 古屋兎丸・画 (2016.11) 少年. 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. pp.15-42. 中央公論新社, 東京.
同書, p.17
谷崎作品に一番ぴったりのマンガ家は丸尾末広だと思うが、残念ながら丸尾作品はない。断られたかな?
だからというわけでもないのかもしれないが、ここで古屋兎丸は充分丸尾を意識した絵を描いている。なんでも描けるんだけどね、この人は。
谷崎世界よりは、ちょっとジメジメさが足りないような気もするが、充分淫靡だ。
------------------------------------------
・谷崎潤一郎・原作, 近藤聡乃・画 (2016.11) 夢の浮橋. 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. pp.67-82. 中央公論新社, 東京.
同書, pp.80-81
このアンソロジーの中では、これが一番好き。
こんな作品があるのは知らなかった。これは筒井康隆でたくさん読んだ夢話とよく似ている。そうか、そういうことだったのか。
しかし、近藤聡乃はうまい。切れ長の目で下膨れの女性。幾何学的に整った絵も。一部で使ってあるマンガ的な表現を、とことん抑えたらもっと不気味な作品になっていたかもしれないなあ、なんても思う。
------------------------------------------
・谷崎潤一郎・原作, 高野文子・画 (2016.11) 陰翳礼讃. 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. pp.151-158. 中央公論新社, 東京.
同書, pp.154-155
なんかすっかり絵本風の絵になってしまった高野先生だが、うまさは相変わらず。谷崎の美文の側面を活かした絵になると、こうなるのかな。
------------------------------------------
・しりあがり寿 (2016.11) 谷崎潤一郎 『瘋癲老人日記』×ヘミングウェイ 『老人と海』 REMIX. 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. pp.159-192. 中央公論新社, 東京.
同書, pp.182-183
この本一番の問題作だろう。わけがわからない(笑)。最近William S. Burroughsばっかり読んでいるので、これはBurroughsのcut-upだな、とすぐ気づいたよ。この人は、やっぱり「前衛の人」なのだ。
------------------------------------------
他の作品も力作揃い。久世番子は安定の面白さ。
西村ツチカは、相変わらず不思議なマンガを描く人だ。
山田参助は『あれよ星屑』の人。本来あっちの人なので、男の裸を描く方が堂に入ってるのがおかしい。
今日マチ子の絵では『痴人の愛』を直球で描くのは無理と見て、現代物に翻案してある。まあチョイスとしてはいいとこでしょう。
中村明日美子は、気味の悪いテーマにはぴったり。
榎本俊二は、今はこんな絵になっているのか。意外に谷崎ワールドとしっくりくる作品になっていてびっくり。
山口晃は安定そのもの。マンガというより絵物語に近いが、晩年の谷崎を飽きずに読ませる。
------------------------------------------
濃厚な谷崎原作に比べて、少し脂分が足りない感は否めないが、曲者ばかりをそろえ、どれもおもしろい作品に仕上がっている。
何度も言っていることだが、ほんと日本のマンガの豊かさに驚きっぱなしです。
← 初出 : 中央公論新社 > 特設サイト > 谷崎潤一郎メモリアルイヤー マンガアンソロジー 谷崎万華鏡, 2015/05~2016/10.
http://www.chuko.co.jp/special/tanizaki_mangekyo/
装画:中村明日美子, 装幀:山影麻奈
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中央公論新社が谷崎潤一郎生誕百三十周年を記念して、『谷崎潤一郎全集 全26巻』を刊行。そのタイミングに合わせて、自社websiteで連載したマンガアンソロジーをまとめたものだ。
表紙は、シャープな絵の中村明日美子。谷崎好みの女性とはちょっと違うような気もするが、まあ、谷崎小説の感じ方は人それぞれ違うし、第一私は、谷崎をたいして読んでない(笑)。読んだのもだいぶ忘れてる。
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005-014 久世番子/谷崎ガールズ(オリジナル)
015-042 古屋兎丸/少年
043-066 西村ツチカ/人間が猿になった話
067-082 近藤聡乃/夢の浮橋
083-094 山田参助/飈風
095-120 今日マチ子/痴人の愛
121-132 中村明日美子/続続蘿洞先生
133-150 榎本俊二/青塚氏の話
151-158 高野文子/陰翳礼讃
159-192 しりあがり寿/瘋癲老人日記
193-220 山口晃/台所太平記
221-225 作者あとがき
226-227 主要参考文献/初出
かなり力の入った布陣。その中から気になったものをいくつか。
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・谷崎潤一郎・原作, 古屋兎丸・画 (2016.11) 少年. 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. pp.15-42. 中央公論新社, 東京.
同書, p.17
谷崎作品に一番ぴったりのマンガ家は丸尾末広だと思うが、残念ながら丸尾作品はない。断られたかな?
だからというわけでもないのかもしれないが、ここで古屋兎丸は充分丸尾を意識した絵を描いている。なんでも描けるんだけどね、この人は。
谷崎世界よりは、ちょっとジメジメさが足りないような気もするが、充分淫靡だ。
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・谷崎潤一郎・原作, 近藤聡乃・画 (2016.11) 夢の浮橋. 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. pp.67-82. 中央公論新社, 東京.
同書, pp.80-81
このアンソロジーの中では、これが一番好き。
こんな作品があるのは知らなかった。これは筒井康隆でたくさん読んだ夢話とよく似ている。そうか、そういうことだったのか。
しかし、近藤聡乃はうまい。切れ長の目で下膨れの女性。幾何学的に整った絵も。一部で使ってあるマンガ的な表現を、とことん抑えたらもっと不気味な作品になっていたかもしれないなあ、なんても思う。
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・谷崎潤一郎・原作, 高野文子・画 (2016.11) 陰翳礼讃. 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. pp.151-158. 中央公論新社, 東京.
同書, pp.154-155
なんかすっかり絵本風の絵になってしまった高野先生だが、うまさは相変わらず。谷崎の美文の側面を活かした絵になると、こうなるのかな。
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・しりあがり寿 (2016.11) 谷崎潤一郎 『瘋癲老人日記』×ヘミングウェイ 『老人と海』 REMIX. 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』. pp.159-192. 中央公論新社, 東京.
同書, pp.182-183
この本一番の問題作だろう。わけがわからない(笑)。最近William S. Burroughsばっかり読んでいるので、これはBurroughsのcut-upだな、とすぐ気づいたよ。この人は、やっぱり「前衛の人」なのだ。
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他の作品も力作揃い。久世番子は安定の面白さ。
西村ツチカは、相変わらず不思議なマンガを描く人だ。
山田参助は『あれよ星屑』の人。本来あっちの人なので、男の裸を描く方が堂に入ってるのがおかしい。
今日マチ子の絵では『痴人の愛』を直球で描くのは無理と見て、現代物に翻案してある。まあチョイスとしてはいいとこでしょう。
中村明日美子は、気味の悪いテーマにはぴったり。
榎本俊二は、今はこんな絵になっているのか。意外に谷崎ワールドとしっくりくる作品になっていてびっくり。
山口晃は安定そのもの。マンガというより絵物語に近いが、晩年の谷崎を飽きずに読ませる。
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濃厚な谷崎原作に比べて、少し脂分が足りない感は否めないが、曲者ばかりをそろえ、どれもおもしろい作品に仕上がっている。
何度も言っていることだが、ほんと日本のマンガの豊かさに驚きっぱなしです。
2018年1月8日月曜日
諸星大二郎 『雨の日はお化けがいるから』
諸星先生の短篇集が出ました。
・諸星大二郎 (2018.1) 『雨の日はお化けがいるから』(諸星大二郎劇場 第1集, BIG COMICS SPECIAL). 220pp. 小学館, 東京.
装幀 : 関善之 for Volare
この本、どこ行ってもない。なんで?初刷少ないのかな?巨大書店でようやく見つけました。
------------------------------------------
副題にある通り、ビッグコミック増刊に掲載されていた作品が中心です。
詳細目次
(01) 003-038 闇綱祭り ← 初出 : ビッグコミック, 2013年7月10日号
(02) 039-066 雨の日はお化けがいるから ← 初出 : モーニング, 2015年4月16日
(03) 067-090 ゴジラを見た少年 ← 初出 : ビッグコミックオリジナルゴジラ増刊号, 2014年8月10日増刊号
(04) 091-121 影人 ← 初出 : ビッグコミック, 2016年6月17日増刊号
(05) 123-142 (眼鏡なしで)右と左に見えるもの エリック・サティ氏への親愛なる手紙 ← 初出 : ビッグコミック, 2016年10月17日増刊号
(06) 143-154 空気のような ← 初出 : (2006.1)『AERA COMIC ニッポンのマンガ』(朝日新聞社)
(07) 155-162 怒々山博士と謎の遺跡 ← 初出 : ビジネスジャンプ増刊BJ魂, 2006年5月1日増刊号
(08) 163-170 怒々山博士と巨石遺構 ← 初出 : ビジネスジャンプ増刊BJ魂, 2006年7月1日増刊号
(09) 173-180 河畔にて 第1話 クーリング・オフ ← 初出 : 諸星大二郎 (2013.12) 『子供の情景』(諸星大二郎選集 第2集)(小学館)
(10) 181-196 河畔にて 第2話 上流からの物体X ← 初出 : ビッグコミック, 2016年12月17日増刊号
(11)197-220 河畔にて 第3話 欲しいものは河を流れてくる ← 初出 : ビッグコミック, 2017年3月17日増刊号
------------------------------------------
(01) 「闇綱祭り」は、「妖怪ハンター」に連なる異界もの。一番しっかりストーリーを作ってあるのがこの作品。
同書, p.7
この半分だけの神社!こんなのありえないんだけど、このイマジネーションは他の人では無理。創造力衰え知らず、といったところ。
他の作品はわりと軽めのものが多く、半分くらいコメディものだ。
------------------------------------------
(02) 「雨の日がお化けがいるから」は、「あもくん」シリーズの追加作。『あもくん』単行本発売の際に、どういうわけか筋違いの講談社「モーニング」に掲載された。
諸星先生はメジャーとはいえないが、確実に販売数が読める巨匠ですからね、大手出版社もこういった形で折に触れ恩を売っておくようなことをするのです。
------------------------------------------
(03) 「ゴジラを見た少年」が掲載された「ビッグコミックオリジナルゴジラ増刊号」はもう3年前かあ・・・。つい最近のように思ってしまうが・・・。
おなじみの少年時代の妄想ものだが、3.11や原発問題といった時事ものに関わっている。諸星作品にはたまにある傾向の作品だが、理に落ちすぎてあまり面白くはならないのが通例。
BCオリジナル増刊号は、この他にも「タイガース増刊」とか、最近変な特集をいろいろ組むのでおもしろい。店頭で見つけるのが楽しみ。
------------------------------------------
(04)、(05)については、初出時に
2016年5月26日木曜日 諸星大二郎 「影人(えいじん)」
2016年9月27日火曜日 諸星大二郎 「(眼鏡なしで)右と左に見えるもの」
で触れていますので、そちらもご覧ください。
いやあ、しかし「(眼鏡なしで)・・・」は、改めて読んでもやっぱりすごい。
------------------------------------------
(07)、(08)は久々の「怒々山博士もの」。このシリーズ、まだストックあるようなので、今後楽しみ。
(09)~(11)は、BC増刊号掲載のシリーズ。サイレントものだが、ちょっとご教訓ものっぽく、理に落ち過ぎであんまりおもしろくない。
------------------------------------------
BC増刊号では、ここしばらく「オリオン・ラジオ」シリーズが続いている。かなり地味な作品群だ。
まあでも、68歳なのに現役バリバリで新作マンガを描いてくれて、そのどれもがかなりおもしろいというだけで驚異的だ。ファンとしてはありがたいと思う。
前作『BOX』はおもしろかったけど、自分にはあんまり肌が合わなかった。でも、あれは諸星先生が楽しんで描いていることがわかって、それだけで充分だった。
あの歳でいろいろ新しいことやろうとしてるんだから、すごいよ。
この感じだと、今後さらに「あっ」と驚くような作品を期待してもよさそうだ。楽しみ。
・諸星大二郎 (2018.1) 『雨の日はお化けがいるから』(諸星大二郎劇場 第1集, BIG COMICS SPECIAL). 220pp. 小学館, 東京.
装幀 : 関善之 for Volare
この本、どこ行ってもない。なんで?初刷少ないのかな?巨大書店でようやく見つけました。
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副題にある通り、ビッグコミック増刊に掲載されていた作品が中心です。
詳細目次
(01) 003-038 闇綱祭り ← 初出 : ビッグコミック, 2013年7月10日号
(02) 039-066 雨の日はお化けがいるから ← 初出 : モーニング, 2015年4月16日
(03) 067-090 ゴジラを見た少年 ← 初出 : ビッグコミックオリジナルゴジラ増刊号, 2014年8月10日増刊号
(04) 091-121 影人 ← 初出 : ビッグコミック, 2016年6月17日増刊号
(05) 123-142 (眼鏡なしで)右と左に見えるもの エリック・サティ氏への親愛なる手紙 ← 初出 : ビッグコミック, 2016年10月17日増刊号
(06) 143-154 空気のような ← 初出 : (2006.1)『AERA COMIC ニッポンのマンガ』(朝日新聞社)
(07) 155-162 怒々山博士と謎の遺跡 ← 初出 : ビジネスジャンプ増刊BJ魂, 2006年5月1日増刊号
(08) 163-170 怒々山博士と巨石遺構 ← 初出 : ビジネスジャンプ増刊BJ魂, 2006年7月1日増刊号
(09) 173-180 河畔にて 第1話 クーリング・オフ ← 初出 : 諸星大二郎 (2013.12) 『子供の情景』(諸星大二郎選集 第2集)(小学館)
(10) 181-196 河畔にて 第2話 上流からの物体X ← 初出 : ビッグコミック, 2016年12月17日増刊号
(11)197-220 河畔にて 第3話 欲しいものは河を流れてくる ← 初出 : ビッグコミック, 2017年3月17日増刊号
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(01) 「闇綱祭り」は、「妖怪ハンター」に連なる異界もの。一番しっかりストーリーを作ってあるのがこの作品。
同書, p.7
この半分だけの神社!こんなのありえないんだけど、このイマジネーションは他の人では無理。創造力衰え知らず、といったところ。
他の作品はわりと軽めのものが多く、半分くらいコメディものだ。
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(02) 「雨の日がお化けがいるから」は、「あもくん」シリーズの追加作。『あもくん』単行本発売の際に、どういうわけか筋違いの講談社「モーニング」に掲載された。
諸星先生はメジャーとはいえないが、確実に販売数が読める巨匠ですからね、大手出版社もこういった形で折に触れ恩を売っておくようなことをするのです。
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(03) 「ゴジラを見た少年」が掲載された「ビッグコミックオリジナルゴジラ増刊号」はもう3年前かあ・・・。つい最近のように思ってしまうが・・・。
おなじみの少年時代の妄想ものだが、3.11や原発問題といった時事ものに関わっている。諸星作品にはたまにある傾向の作品だが、理に落ちすぎてあまり面白くはならないのが通例。
BCオリジナル増刊号は、この他にも「タイガース増刊」とか、最近変な特集をいろいろ組むのでおもしろい。店頭で見つけるのが楽しみ。
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(04)、(05)については、初出時に
2016年5月26日木曜日 諸星大二郎 「影人(えいじん)」
2016年9月27日火曜日 諸星大二郎 「(眼鏡なしで)右と左に見えるもの」
で触れていますので、そちらもご覧ください。
いやあ、しかし「(眼鏡なしで)・・・」は、改めて読んでもやっぱりすごい。
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(07)、(08)は久々の「怒々山博士もの」。このシリーズ、まだストックあるようなので、今後楽しみ。
(09)~(11)は、BC増刊号掲載のシリーズ。サイレントものだが、ちょっとご教訓ものっぽく、理に落ち過ぎであんまりおもしろくない。
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BC増刊号では、ここしばらく「オリオン・ラジオ」シリーズが続いている。かなり地味な作品群だ。
まあでも、68歳なのに現役バリバリで新作マンガを描いてくれて、そのどれもがかなりおもしろいというだけで驚異的だ。ファンとしてはありがたいと思う。
前作『BOX』はおもしろかったけど、自分にはあんまり肌が合わなかった。でも、あれは諸星先生が楽しんで描いていることがわかって、それだけで充分だった。
あの歳でいろいろ新しいことやろうとしてるんだから、すごいよ。
この感じだと、今後さらに「あっ」と驚くような作品を期待してもよさそうだ。楽しみ。
2018年1月7日日曜日
秋山はる 『こたつやみかん』
・秋山はる (2013.3~2014.6) 『こたつやみかん 1~4』(アフタヌーンKC). 講談社, 東京.
← 初出 : アフタヌーン, 2012年5~6月号/2013年2月号~2014年6月号.
Cover Design : Garowa Graphico
約2年で4冊を疾走した感のある快作だ。
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高校落研の物語。主人公は中心にいるチビメガネちゃん・坂井日菜子(高2)。「こたつやみかん」とは彼女の高座名だ。
最近このタイプが主人公のマンガ、増えたなあ。昔は脇役専門だったんだけど。でもどれもおもしろいのだ。当然みんな「オタク」だし(笑)。
この子はこう見えて「落語オタク」。なにせ、最初から最後まで落語の話しかしない。そしてついには・・・、おっとこれは現物を読んで確かめてくれ。
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登場人物は、落研の4人と他校の男子1人、これですべてだ。4巻でコンパクトに収まったのは、登場人物の数とテーマを絞ったからに他ならない。これに、定番の友情と恋愛をほどよく絡めてあり、そのバランス、出しどころも的確。
物語が休むことなく常に前へ前へと進んでいくので、すごく読みやすい。引き込まれる。寄り道は、夏休みに海に行く1回だけだ(巻頭カラー掲載用の措置)。
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普通、主人公は「最初はダメダメだけど、どこかキラリと光るものがある!こ、こいつは・・・」という場面があって、その才能を見ぬいた指導者が特訓を加える、という展開が多いのだが、このマンガにはそれがない!これがこのマンガの面白いところだ。
日菜子は当初、聞くだけの落語オタクだったので、演じ始めて最初はボロボロで、才能のカケラも感じさせない。
その後も、落語の上達はスローペース。しかし、ステップステップで着実に上達していく。それも指導者なしの自力だ。これだけ努力オンリー型の主人公は、最近珍しい。
その分「劇的な場面に乏しい」と感じるかもしれないが、いや、それがこのマンガの特徴と思って浸って下さい。
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転校生で美人で長身で才色兼備で落語もうまく性格もいい、という超人「まほ吉」がだんだん普通の人になっていったり、当初のライバル「悠太」がどんどんヘタレ化していったのはちょっと物足りないが、その分日菜子の落語愛が際立つ結果になり、ストーリーに筋を通す役目を果たしていたと思う。
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他校の男子で、落語の天才・桐野くんの行動はちょっと意外で(何が意外かは読んでちょうだい)、それまでそんな片鱗も見せていなかったのに・・・と思わないでもないが、それはあれだ、日菜子視点で絵を見せていたから、と思っておこう。
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連載になってから出してきた、後輩の「おパン亭コットン」がアクセントとして、すごくよく機能していた。クールなのもいい。
こういうキャラを作れるのは、コメディ作家として相当な実力だと思う。
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いずれにしても、この作品はワイワイ感もありすごく楽しめた。
あんまり評判は聞かないけど、絵も堅実にうまいし、もっと話題になっていい作品だと思う。
もう3年前と、中途半端に古い作品なので、全巻そろえるのはちょっと手間がかかるけど(4巻がなかなか見つからなかった)、頑張ってさがす価値のある作品です。
← 初出 : アフタヌーン, 2012年5~6月号/2013年2月号~2014年6月号.
Cover Design : Garowa Graphico
約2年で4冊を疾走した感のある快作だ。
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高校落研の物語。主人公は中心にいるチビメガネちゃん・坂井日菜子(高2)。「こたつやみかん」とは彼女の高座名だ。
最近このタイプが主人公のマンガ、増えたなあ。昔は脇役専門だったんだけど。でもどれもおもしろいのだ。当然みんな「オタク」だし(笑)。
この子はこう見えて「落語オタク」。なにせ、最初から最後まで落語の話しかしない。そしてついには・・・、おっとこれは現物を読んで確かめてくれ。
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登場人物は、落研の4人と他校の男子1人、これですべてだ。4巻でコンパクトに収まったのは、登場人物の数とテーマを絞ったからに他ならない。これに、定番の友情と恋愛をほどよく絡めてあり、そのバランス、出しどころも的確。
物語が休むことなく常に前へ前へと進んでいくので、すごく読みやすい。引き込まれる。寄り道は、夏休みに海に行く1回だけだ(巻頭カラー掲載用の措置)。
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普通、主人公は「最初はダメダメだけど、どこかキラリと光るものがある!こ、こいつは・・・」という場面があって、その才能を見ぬいた指導者が特訓を加える、という展開が多いのだが、このマンガにはそれがない!これがこのマンガの面白いところだ。
日菜子は当初、聞くだけの落語オタクだったので、演じ始めて最初はボロボロで、才能のカケラも感じさせない。
その後も、落語の上達はスローペース。しかし、ステップステップで着実に上達していく。それも指導者なしの自力だ。これだけ努力オンリー型の主人公は、最近珍しい。
その分「劇的な場面に乏しい」と感じるかもしれないが、いや、それがこのマンガの特徴と思って浸って下さい。
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転校生で美人で長身で才色兼備で落語もうまく性格もいい、という超人「まほ吉」がだんだん普通の人になっていったり、当初のライバル「悠太」がどんどんヘタレ化していったのはちょっと物足りないが、その分日菜子の落語愛が際立つ結果になり、ストーリーに筋を通す役目を果たしていたと思う。
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他校の男子で、落語の天才・桐野くんの行動はちょっと意外で(何が意外かは読んでちょうだい)、それまでそんな片鱗も見せていなかったのに・・・と思わないでもないが、それはあれだ、日菜子視点で絵を見せていたから、と思っておこう。
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連載になってから出してきた、後輩の「おパン亭コットン」がアクセントとして、すごくよく機能していた。クールなのもいい。
こういうキャラを作れるのは、コメディ作家として相当な実力だと思う。
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いずれにしても、この作品はワイワイ感もありすごく楽しめた。
あんまり評判は聞かないけど、絵も堅実にうまいし、もっと話題になっていい作品だと思う。
もう3年前と、中途半端に古い作品なので、全巻そろえるのはちょっと手間がかかるけど(4巻がなかなか見つからなかった)、頑張ってさがす価値のある作品です。
2018年1月4日木曜日
桑田乃梨子の新刊 『スキップ倶楽部2』と『だめっこどうぶつ8』
新刊といってももう1ヶ月たってしまったが・・・。
『スキップ倶楽部』の方は1巻を紹介してないので、合わせて紹介しよう。
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なお、桑田乃梨子についてのエントリーは、
2017年2月28日火曜日 ○○界の巨匠 桑田乃梨子の新刊 『明日も未解決』
以来になるので、約1年ぶりの登場。
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・桑田乃梨子 (2016.1) 『スキップ倶楽部1』(WINGS COMICS). 190pp. 新書館, 東京.
・桑田乃梨子 (2017.12) 『スキップ倶楽部2』(WINGS COMICS). 223pp. 新書館, 東京.
← 初出 : ウェブマガジン・ウィングス, 2013年12月号~2017年7月号.
2巻に3年半かけるとこなぞ、相変わらずのダラダラっぷりだが、もうすっかり慣れているので、平気。
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主人公は、小柄で明るい天然少年(高1)・春名密(ハル君)。最近、主人公にこのタイプ多いような・・・。しかし、そんなハル君にも、それなりに悩みは多いらしい。
舞台は入学したばかりの高校なんだが、それも「家庭科部」の部室ばかり。それとバイト先の喫茶店。これがほとんどすべてだ。
家庭科部の笹沢先輩と、何かと突っかかってくる謎のマルちゃん先輩。そして謎の校内ネコ・八矢(はちや)くんとのやりとりを中心に物語が進む。
女性陣は、中学から一緒の頼田さん(ヨリちゃん)、近所の女子高・コス女のマドンナで喫茶店の常連・舞風薫。薫の友人は、旧作 『箱庭コスモス』の登場人物たちだ。この子ら結構おもしろい。
あとは、ハル君の同級生・喜多(きた)と三波(みなみ)(笑)、喫茶店の店長(家庭科部OG)。これで全員。
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自分に自信が持てないハル君の悩みを中心に、マルちゃん先輩の謎、八矢くんの謎、マドンナへのあこがれ、あたりを軸にストーリーが展開される。
登場人物が少ないので、ワイワイ感は控えめ。終始静かに物語が進む。にぎやかな薫の友人が出てくると、楽しい展開になる。
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ちょっとファンタジーと心霊も入った話だけど、少し苦しい設定だったかもしれないなあ。きれいすぎるほどきれいに終わった前作『明日も未解決』にくらべると、結末もちょっと物足りない。
最近、こういう静かな展開が増えてきて、桑田先生も大人になったんだなあ、と思うが、それでも相変わらず高校生(それも学ラン、で女子のスカートも長い、ケータイすら出ていない)マンガばっかり描いているのが、この人の特徴。今後も「高校生マンガ」一筋で行ってほしい。
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登場人物では、何かとハル君の面倒を見てくれる、明るいヨリちゃんがすごく魅力的なのだが、脇役の域を出なかったのがちょっと残念。今後幸せになってほしい。
同書1巻, pp.102-103
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お次は、もう連載17年になる「だめっこどうぶつ」最新刊。
・桑田乃梨子 (2017.12) 『だめっこどうぶつ8』(BAMBOO COMICS). 105pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : まんがライフ, 2014年11月号~2016年5月号.
cover design : Shinya Isozaki(ISO DESIGN WORKS)
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少し間が開いたが、装丁も変わっての第8巻。まだ1年半分もストックがあるようなので、今年中には第9巻も出るだろう。
なんか登場人物がインフレ状態で増えていて、前の巻を読み返さないとわかんない人(じゃないんだけど)が多い。
うる野(オオカミ)の兄弟まで出てきて、収拾つくのかな?大丈夫かな?にぎやかでいいけど。
個人的には、ちーちゃん(チーター)の出番が少なくてちょっと寂しい。このちーちゃんは「完全天然娘」という、桑田マンガでは大変珍しいキャラなので、貴重なだけにもっと見たいのだ。
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愛猫にょろり没後2年たつが、なんかまだそのショックを引きずって、静かな作品が多いような気が・・・。また、ワイワイしたマンガを描いてほしいぞ。
『スキップ倶楽部』の方は1巻を紹介してないので、合わせて紹介しよう。
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なお、桑田乃梨子についてのエントリーは、
2017年2月28日火曜日 ○○界の巨匠 桑田乃梨子の新刊 『明日も未解決』
以来になるので、約1年ぶりの登場。
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・桑田乃梨子 (2016.1) 『スキップ倶楽部1』(WINGS COMICS). 190pp. 新書館, 東京.
・桑田乃梨子 (2017.12) 『スキップ倶楽部2』(WINGS COMICS). 223pp. 新書館, 東京.
← 初出 : ウェブマガジン・ウィングス, 2013年12月号~2017年7月号.
2巻に3年半かけるとこなぞ、相変わらずのダラダラっぷりだが、もうすっかり慣れているので、平気。
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主人公は、小柄で明るい天然少年(高1)・春名密(ハル君)。最近、主人公にこのタイプ多いような・・・。しかし、そんなハル君にも、それなりに悩みは多いらしい。
舞台は入学したばかりの高校なんだが、それも「家庭科部」の部室ばかり。それとバイト先の喫茶店。これがほとんどすべてだ。
家庭科部の笹沢先輩と、何かと突っかかってくる謎のマルちゃん先輩。そして謎の校内ネコ・八矢(はちや)くんとのやりとりを中心に物語が進む。
女性陣は、中学から一緒の頼田さん(ヨリちゃん)、近所の女子高・コス女のマドンナで喫茶店の常連・舞風薫。薫の友人は、旧作 『箱庭コスモス』の登場人物たちだ。この子ら結構おもしろい。
あとは、ハル君の同級生・喜多(きた)と三波(みなみ)(笑)、喫茶店の店長(家庭科部OG)。これで全員。
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自分に自信が持てないハル君の悩みを中心に、マルちゃん先輩の謎、八矢くんの謎、マドンナへのあこがれ、あたりを軸にストーリーが展開される。
登場人物が少ないので、ワイワイ感は控えめ。終始静かに物語が進む。にぎやかな薫の友人が出てくると、楽しい展開になる。
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ちょっとファンタジーと心霊も入った話だけど、少し苦しい設定だったかもしれないなあ。きれいすぎるほどきれいに終わった前作『明日も未解決』にくらべると、結末もちょっと物足りない。
最近、こういう静かな展開が増えてきて、桑田先生も大人になったんだなあ、と思うが、それでも相変わらず高校生(それも学ラン、で女子のスカートも長い、ケータイすら出ていない)マンガばっかり描いているのが、この人の特徴。今後も「高校生マンガ」一筋で行ってほしい。
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登場人物では、何かとハル君の面倒を見てくれる、明るいヨリちゃんがすごく魅力的なのだが、脇役の域を出なかったのがちょっと残念。今後幸せになってほしい。
同書1巻, pp.102-103
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お次は、もう連載17年になる「だめっこどうぶつ」最新刊。
・桑田乃梨子 (2017.12) 『だめっこどうぶつ8』(BAMBOO COMICS). 105pp. 竹書房, 東京.
← 初出 : まんがライフ, 2014年11月号~2016年5月号.
cover design : Shinya Isozaki(ISO DESIGN WORKS)
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少し間が開いたが、装丁も変わっての第8巻。まだ1年半分もストックがあるようなので、今年中には第9巻も出るだろう。
なんか登場人物がインフレ状態で増えていて、前の巻を読み返さないとわかんない人(じゃないんだけど)が多い。
うる野(オオカミ)の兄弟まで出てきて、収拾つくのかな?大丈夫かな?にぎやかでいいけど。
個人的には、ちーちゃん(チーター)の出番が少なくてちょっと寂しい。このちーちゃんは「完全天然娘」という、桑田マンガでは大変珍しいキャラなので、貴重なだけにもっと見たいのだ。
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愛猫にょろり没後2年たつが、なんかまだそのショックを引きずって、静かな作品が多いような気が・・・。また、ワイワイしたマンガを描いてほしいぞ。
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