2017年3月12日日曜日

ラーフル分布地図とラーフルの語源(1) 分布図編

・大西拓一郎・編 (2016.12) 『新日本言語地図 分布図で見渡す方言の世界』. xi+304pp. 朝倉書店, 東京.



という本を読みました。高い本なので、買ったわけではありません。もちろん図書館です。

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この本は、調査者100名が2010~15年の足かけ6年に渡り、日本全国554ヶ所で調査に当たり、著者13名が149項目について日本全図に落とし、日本語方言分布図を作成したものです。

すごい労作。今後数十年間は、これが日本語方言分布の基本資料として君臨し続けることでしょう。

個人で買う人は多くないだろうけど、あると非常に便利なので、各自治体の図書館はぜひ購入し、永久に蔵書しておいてほしい本だ。

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この調査の特徴としては、「とかげ」や「長男」といった名詞、「いく・くる」といった動詞、「しおからい」といった形容詞はもちろんのこと、いろんな文法についても分布を調べている点。とてもおもしろい。

たとえば「~に」にしても、「(見)に(行った)」、「(東京)に(着いた)」、「(ここ)に(有る)」、「(犬)に(追いかけられた)」といった具合に、いろんなケースで場合分けをして詳細に調べてあります。

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ひと通り見て、私の出身地(東北地方)の方言は、意外に標準語のバリエーションにカテゴライズされるものが多く、思ったよりも面白くなかった。

でも、「(犬)に(追いかけられた)」などは、「(犬)がら(追っかげらっだ)」と言うのだが、この「から」がなぜか九州にも現れるのだ。

興奮するぜ。というのも、柳田國男が、

・柳田國男 (1930.7) 『蝸牛考』(言語誌叢刊). 149+24+5pp.+pl. 刀江書院, 東京.
→ 再発 : (1980.5) (岩波文庫). 岩波書店, 東京. など多数

で提唱した「方言周圏論」の実例が垣間見れるから。

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「方言周圏論」というのは、ある言葉が時代とともに変遷して行き、それが国家中央(明治以前は京(都))から徐々に周囲に広まっていく、という理論。従って、中央から離れたところには、古い言葉が方言として生き残る。その分布が、中央から同心円上の分布を示す、という理屈だ。

これは、「かたつむり」の方言分布から帰納した理論。

つまり、中央(京)に「デデムシ」、その外には順に「マイマイ」、「カタツムリ」、「ツブリ」、「ナメクジ」と分布し、外(東西の遠隔地)へ行くほど古い言葉が残っている。

詳しくはこちらをどうぞ↓

・堀田隆一/hellog~英語史ブログ > #1045. 柳田国男の方言周圏論(2012-03-07)
http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2012-03-07-1.html

ただし日本列島は細長いので、同心円を細長く切り抜いた分布になる。すなわち東西の離れたところで、似た方言が見られることになる。

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もっとも、この方言周圏論は全然万能ではなく、適用できる方言はそれほど多くないようだ。

しかし時折、この理論がビッタリはまる言葉が見つかる。

1990年頃に朝日放送の人気番組「探偵ナイトスクープ」で一世を風靡した「日本全国アホ・バカ分布」が最も有名だろう。

・松本修 (1993.7) 『全国アホ・バカ分布考 はるかなる言葉の旅路』. 446pp. 太田出版, 東京.
→ 再発 : (1996.12) (新潮文庫). 新潮社, 東京.

これを説明していると、ぜんぜん進まないので、詳しくは本を読むか、あちこちのサイトに概要があるはずなので、そちらをご覧ください。

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さて、今回も「かたつむり」についてももちろん調査されており、ある程度方言周圏論が当てはまる結果ではあるのだが、柳田國男が調べた時代からはだいぶ乱れているよう。

その理由としては、唱歌「で~んでんむ~しむし、か~たつむり~」の全国普及の影響が挙げられている。さもありなん。

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そんなことより「ラーフル」だ!

「ラーフル」ってなんでしょう?知っている人は鹿児島県人!。

これはいわゆる「黒板消し/拭き」のこと。これをどういうわけか、ごくごく局地的に「ラーフル」と呼ぶ地方があるのですよ。ほとんど鹿児島県だけですが。いかにもヨーロッパ系言語の響きなのに「方言」っていうのがおもしろいですよね。

鹿児島県人の中には、まさか「ラーフル」が方言だとは思いもよらず、県外に出てから方言と知って驚く、というケースも多いようです。

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この「ラーフル」が使われているのは、主に鹿児島県だけのようだ、というのはかねてより言われていたことなんですが、これをきっちり調査で確かめたのは、今回が史上初です。


同書, p.65の部分に加筆

「ラーフル」研究(笑)にとっては、エポックメイキングな調査結果なんですよ!。

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まあ、見事に鹿児島県におさまってますね(笑)。屋久島「ダーフル」や種子島「ダフラー」はちょっとなまってますが、奄美諸島もちゃんと「ラーフル」です。

鹿児島県の範囲にきっちり収まっていること、奄美にはあって沖縄には全くみられないことから、第二次世界大戦後の教育制度の枠内で生じた現象であることが推察できます。

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しかし、西日本各地にポツポツ「ラーフル」の飛び地があります。これは何でしょうか?

上掲書にはその考察はないのですが、これはおそらく、鹿児島出身の教師が各地に散らばって、そこで広めたんではないか、と私は推察しています。

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長くなったので、「ラーフル」の語源については次回。新説もあるぞ!

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