これはジャケ買いでした。
・久野遥子 (2017.7) 『甘木唯子のツノと愛』(BEAM COMIX). 208pp. KADOKAWA, 東京.
装幀 : 森敬太(セキネシンイチ制作室)
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とても整った絵で、デザインも美しい。
ところが、その中身はというと、いたるところが未整理の混沌とした内容で、すごく難解なマンガ。
しかし、こういうモヤモヤするマンガには、マンガ読みの血が騒ぐ。とてもエキサイティングでした。
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作者は2010年デビュー。しかし、その後は主にアニメの分野で活躍。マンガはごくたまに描くだけ。
本書に収録された作品も2010年が2本、2012年、2017年が表題作と、飛び飛び。絵柄も一定しない。
005-036 透明人間 ← 初出 : 月刊コミックビーム, 2010年11月号
039-076 IDOL ← 2010年 第12回えんため賞 特別賞 受賞作
079-106 へび苺 ← 初出 : 月刊コミックビーム, 2012年11月号
109-204 甘木唯子のツノと愛 ← 初出 :月刊コミックビーム, 2017年5~7月号
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絵柄としてもストーリーとしても、自分は「へび苺」が好きですね。
同書, pp.84-85
すごく変な話なんだけど、これが一番話がまとまっている感はある。
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4つの作品が収録されているが、どれも二人の主人公を並置しているのがこの人の特徴。
描きたい素材をギューギューに詰め込んでくるんだが、どれもあんまり説明しないので、すごくわかりにくい。
「透明人間」でも、結局ハムスターを逃した理由がよくわからない。女子のいじめ問題というのは、男子にはわかりにくいせいもあるんだが・・・。
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「IDOL」は設定も絵も結構おもしろい。何か、初期の大友克洋っぽくもある。
先生の「性癖」は、なくても話は成立したような気もする。また、そういう性癖だとしても、押入れのアレはないなあ。そういう人はまた別の性癖だ。
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さあ、問題の「甘木唯子・・・」は、絵も手塚系のスッキリとした絵に変わって、一見読みやすくなっている。が、話は難解。
中1に進学したばかりの唯子と、チビの兄ひろきの物語。
これも主人公は二人なんだが、実際はひろきの内面が表に染みだしたようなお話。唯子のツノも、ひろきの感情が投影されて、二人の間でだけ具現化したものだ。
同書, pp.108-109
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すべて、家出した母に対する、ひろきのアンビバレントな感情に収斂していく話であるのは分かったが、暗喩だらけなので、1回読んだくらいでは何がなんだか分からない。神話のような話だ。
ひろきが野重さんと出会い、さらに野重さんと唯子が接触することで、物語に変化が訪れるのだが、これもなぜそうなったのか、その必然性が分かる人は少ないだろう。
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遊園地、ひろきの低身長、剣道、写真など、意味ありげな小道具がたくさん出てくるんだが、それがどういう役割なのかいまいちはっきりしない。出し方がうまく整理できないまま、見切り発車でどんどん出してきたような感じ。
やはりこの人はアニメの人なのだ。自分が描きたいカットをたくさん並べてくるが、めまぐるしくシーンを変えるので、そのつながりがわかりにくい。宮﨑駿の『ハウルの動く城』あたりを見た時と似た感じ。
これ、アニメだったら、雰囲気でどんどん見ていけるようになるだろうか?
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脇役の野重さんがとても魅力的。ひろきと野重さんの話だけでも、一つまとまった話が作れるのになあ、惜しい。
同書, pp.168-169
やっぱり詰め込み過ぎだあ(笑)。
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ラストも今ひとつわかりにくいが、自分の中では一応納得できた。
エンディングは、正にアニメのエンドロールがかぶさるような作りで、アニメ作家らしい。
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マンガと一緒で、どうも書いている方もまとまりがないが、そのまとまりのなさが実はこのマンガの魅力、この作家の魅力なのかもしれない。
ツボにはまった時の破壊力はすごそうだが、今回はまだそこまで行かなかった。
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昔の絵も魅力的だが、せっかく絵柄を親しみやすいものに変えたのだから、この絵柄で何作か見てみたい。
次回はもう少しストレートな内容で、30ページ位の作品を読んでみたいぞ。これだけの実力があるんだから、絶対面白いはず。
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