・水上悟志 (2018.1) 『水上悟志短編集 放浪世界』(BLADE COMICS). 175pp. マッグガーデン, 東京.
装幀 :新井隼也+ベイブリッジ・スタジオ
表紙の絵は、上から見下ろしたところなんだが、実にマンガ的。
この角度からだと、顔は相当見上げる形でないと見えないはず。また、手なども相当ひねらないと見えないはずだ。現実だとひどく不自然なはずなんだが、マンガだと実に均整のとれた絵になる。おもしろい。
絵にもストーリーにも挑戦的なこの作者について、1枚の絵で表現出来てる素晴らしい表紙。
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収録作は、
003-027 竹屋敷姉妹、みやぶられる
← 初出 : ミラクルジャンプ, 2014年6月30日号
029-052 まつりコネクション
← 初出 : モーニング, 2015年2月5日号
055-078 今更ファンタジー
← 初出 : モーニング・ツー, 2017年5号
081-096 エニグマバイキング
← 初出 : 月刊コミックガーデン, 2017年10月号
099-172 虚無をゆく
← 初出 : 月刊コミックガーデン, 2017年11月号
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一番好きなのは、「竹屋敷姉妹」。
メガネの一卵性双生児・冬花と雪花。ルックスが全く同じな上に、服装も行動も同じにし、わざと誰も見分けがつかなくしている。しょっちゅうクラスを入れ替わっても誰も気づかないほど。アホ毛まで一緒だ(笑)。
そこに、二人を見分けられる人間が出現!どうする、竹屋敷姉妹!
同書, pp.12-13
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作者談「モブ顔ヒロイン」(笑)、と言うんだが、この手の地味キャラを主人公/準主人公クラスに置くのは、結構最近トレンドだ。「タイムスリップオタガール」とか「ちおちゃん」とか「大蜘蛛ちゃん」とか『まかない君』の「弥生ちゃん」とか、多い。
これもそうだったな。
2018年1月7日日曜日 秋山はる 『こたつやみかん』
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オチは「ありきたり」と思うかもしれないが、結構微妙な絵の変化で表現しているので、気づかない人も多いかもしれない。
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最近、こういう「ベタな展開」というものは、定期的に出てくる必要があるんだ、と思うようになった。
「今までにない展開、ストーリーを」というのは、どの創作者も求めるものなのだが、それがエスカレートすると、周囲には珍奇なストーリーだらけになり、息苦しくなってくる。
あまりにもクラシックな展開の、「おしん」や「韓流ドラマ」が突如大ヒットしたりするのはそのせい。
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特にマンガの世界は回転が早く、マンガを読み始めて間もない若者には、「ベタな展開」の昔のマンガに触れる機会は少ない。
人間の成長では「ベタな展開」から学ぶところが多いはずで、それをマンガでも供給し続けてほしい。幸い、マンガの世界では、ストーリーがベタでも、作者の独自性を表現できる部分はいくらでもある。
なんだかんだいっても、結局「大ヒット」はベタな作品から生まれることが多いのだ。
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本書の目玉が「虚無をゆく」。
同書, pp.110-111
「この世は実は全部自分の妄想なのではないか?」「まともなのは自分だけで、世界の人間は全部ロボットなのではないか?」など、中二病にありがちな妄想を、そのまま74ページの中編にまで仕上げた力技にまいった。
展開も設定も結構強引なのだが、「この作品をどうしても描きたい」という作者の熱意がガンガン伝わってきて、熱い作品となった。
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巨大ロボット「盤古」が不格好なのはわざとでしょうね。「メカのかっこよさで、この作品を褒められたくない」という作者のメッセージ。
それまで描いていた漆黒の宇宙空間を、一転、星であふれる空間に描くラストシーンも見事だ。
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しかし、ジャケ買いで、こういういい作品に出会えるのは本当にうれしい。
隅々にまで作者の熱意が入っている作品は、表紙にもそれが現れるのだ、と実感した。
他の作品も読んでみよう。
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(追記)@2018/02/25
「今更ファンタジー」は、子供もいる三十代になってもまだ何気にひきずっていた「中二病」に完全に引導を渡す話なんだが、それを作者自身も実践したのが「虚無をゆく」という作品。
なるほど、筋が通った短編集だ。
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