本エントリーは
stod phyogs 2009年5月8日金曜日 朝の連続テレビ小説+映画「ゲゲゲの女房」の予習をしておこう の巻(1) はじめに
からの移籍です。日付は初出と同じです。
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ちょっとまたチベット方面の話題からはずれます。
私はチベット・マニアですがマンガ・マニアでもあります。といっても、興味の範囲は恐ろしく狭く、マンガ全般を俯瞰できるような読み方はしていません(『ドラゴンボール』も読んだことがない)。
収集対象は、水木しげる、諸星大二郎、吾妻ひでお、花輪和一、とり・みき、平田弘史など。特殊ですね(笑)。マンガ・マニアというより特定マンガ・マニアということでいいです。
これら作家の本は、全部合わせても新刊で出るのは年に十冊程度ですから、集めるのも楽なものです。ただし水木作品だけは例外。なにしろ出版点数が尋常ではない。かき集めるのにだいぶ苦労しました。それでも高額復刻本を中心に、まだまだ未入手多数(古い単行本やら貸本オリジナルなどは、手が出るはずもありません)。旅はまだ続きます・・・。
というわけで本blogでも、チベット方面とは全く関係のないマンガの話もちょくちょく挟まってきます。
一発目はやはり今話題の水木サンから。
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最近驚いたニュースのひとつがこれ↓。
・ナタリー natalie > コミック > 最新ニュース > 「ゲゲゲの女房」、2010年ドラマ化&映画化決定 2009年4月23日 19:18
http://natalie.mu/comic/news/show/id/15811
2007~08年にかけては、何度目か知らない「水木しげるブーム」でした。いつものようにその主役は鬼太郎。映画は出るわ、TVアニメは出るわ、研究書は出るわ、復刻本も続々出るわ、で、極めつけは貸本版「墓場鬼太郎」のアニメ化。これには驚きました(出来がまた素晴らしいんだ)。
その水木ブームも、TVアニメ鬼太郎の終了と共にぱたりとやみ、それまで続いていた貸本時代の復刻本も、発売予告が出たきり音沙汰がなくなってしまいました。残念。今回のブームもこれで終わりかあ、と名残を惜しんでいたところに、このニュース。
それにしても水木作品の底力たるや、恐ろしいものです。いったい何度ブームが来るのか・・・。もっとも、原作になる『ゲゲゲの女房』は、奥さんの布枝さんが書いたエッセイですが。
この自伝も奥さん自身に大きな事件が立て続けに起きるわけではないので、どうしても奥さんから見た「水木しげる伝」というものになります。映画・ドラマでも、水木サンの爆笑エピソードが多数織り込まれるでしょう。
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その爆笑エピソードを拾うには、『ゲゲゲの女房』だけを読んでいたのでは不十分。膨大な数を誇る水木サンの自伝、自伝的作品、他人の目から見た評伝などを当たる必要があります。
実は水木サンは、マンガ、活字双方において、おそらく日本で一番たくさん自伝を書いた人なんではないか、と思われます。その数、長短合わせて50をこえます。私は一応その大半を読んでいるはずですが、あまりに数が多いのでときどき「あのエピソードはどの作品だったか?」と混乱しきり。
内容には当然ダブリもたくさん出てきます。いくらエピソードの宝庫・水木サンといっても、人生は一回きりです。何度も繰り返し書いていればネタ切れもします。最近の作品では、さすがに既出エピソードの繰り返しばかりでちょっと食傷気味です。
でも、それでいいんです。対象はいつも、初めて「水木伝」に触れる人たちなんですから。伝記をあらかた読むような人(私です)は対象外。新たに自伝を編む際に「この話は前とダブっているから落とそう」なんていう気になったら、新刊ではあの爆笑エピソードやら、この感動エピソードやらがどんどん落ちてしまいます。それでは初めて「水木伝」に触れる人がかわいそうです。
世の中には、同じ話を何度焼き直しても許される究極の「定番」というものも必要。商品としての寿命がきわめて短い今の出版界ではなおさらです。
作り手側がそれを手抜きの言い訳にして、安易な作品を送り出し続けるのは最低ですが、水木サンくらいになれば問題はないでしょう。
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脚本を担当する山本むつみさん(連ドラ)、大石三知子さん(映画)は、ここに掲げたような自伝・伝記から爆笑エピソードを残さず拾って、後世に残る「水木しげる+布枝」伝の決定版を是非作ってほしいものです。
ただし、これらの自伝類はあくまで「作品」、「商品」として書かれたものですから、「大筋では事実だが、細部には大幅にフィクションが混入している」と考えた方がいいでしょう。「ドキュメンタリー」と云うよりは娯楽要素が強い「実録もの」、「歴史小説」に近い感じでしょうか。
作品によって設定や細部が互いに矛盾しているケースも多く見られ、混乱するかもしれませんが、それは娯楽作品であることを重視した結果でしょう。水木サンの左腕があったりなかったりするのが典型的な例でしょうか(ドラマ・映画ではどうするのかな?)。
自伝・伝記それ自体すでに作品として完成度が高いので、ドラマ・映画にするには好都合でしょうね。
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しかし、なぜにこんなに自伝系作品が大量にあるのか。その答えはこの証言にありそうです。
「彼に会った人は異口同音に、作品より彼自身の方が面白いという」(呉智英)-伊藤(2007)より
なるほど、自伝執筆依頼が引きも切らないのも納得。
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ではそのリストを8回(!)に分けて見ていきましょう。まさかこんな分量になるとは思わなかったんですが・・・。自分でも驚いた。
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参考:
・平林重雄・編(2005) 水木しげる詳細年譜. 水木しげる (2005) 『完全版 マンガ水木しげる伝 (下) 戦後編』所収. pp.479-513. 講談社漫画文庫, 東京.
・平林重雄 (2007) 水木しげると戦争漫画(増補改訂版). ユリイカ, vol.37, no.10, 特集・水木しげる[2007/09], pp.74-85.
・伊藤徹 (2007) 証言構成 水木しげるにみせられて四〇年. ユリイカ, vol.37, no.10, 特集・水木しげる[2007/09], pp.91-101.
・Tome Page > 水木しげる作品不完全リスト(鬼太郎シリーズ以外)
http://www.lares.dti.ne.jp/~hisadome/mizuki_2.html
・中場の屁太郎 : 水木しげる作品案内所 水木しげる~希代の天才画家の出版物ガイド
http://kokekakiikii.blog107.fc2.com/
・妖怪庵 > 怪文 > 水木しげる所蔵リスト
http://isimaru.gooside.com/mizukilist.htm
・げげげ通信 : 「水木しげる」と「水木プロダクション」公式サイト > 新着情報 > テレビ・ラジオ関係
http://www.mizukipro.com/tv.htm
世の中には恐るべき水木マニアがたくさんいます。その方々に比べれば、私など小僧もいいとこです。次回より挙げていくリストは、上記のヘビー級資料群なしでは、作ることはできませんでした。ありがとうございます。
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・『別冊新評, vol.13, no.3 水木しげるの世界』. pp.210. 新評社(1980/10).
今回は直接参考にしたわけではないが、今に至る「水木しげる研究」の出発点となった記念すべき本なので、是非明記しておきたい。特に、伊藤徹・編「水木しげる作品リスト」(原型は1974年、自費出版-未見)、呉智英・編「水木しげる年譜」は、後に発表される作品リストや年譜の基礎となった重要作。
>それまで続いていた貸本時代の復刻本も、発売予告が出たきり音沙汰がなくなってしまいました。
返信削除と書きましたが、その直後から刊行が再開。『鈴の音』、『お笑いチーム』と来て来月はなんと『怪獣ラバン』。やはり『ゲゲゲの女房』映像化の影響なんでしょうか。