2017年10月30日月曜日

高野文子の娘たち (2) ヨコイエミ 『カフェでカフィを』

2017年3月26日日曜日 「フイチンさん」の娘たち (2) 近藤聡乃 ウラモトユウコ

で、高野文子の影響が色濃く見える二人、近藤聡乃、ウラモトユウコを紹介しましたが、これはもう「フイチンさんの娘たち」というより「高野文子の娘たち」といった方がいいでしょう。

というわけで「高野文子の娘たち (1)」はありませんが、いきなり(2)で進めましょう。

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娘3人目は、ヨコイエミ。

・ヨコイエミ (2017.9) 『カフェでカフィを』(集英社クリエティブコミックス). 191pp. 集英社, 東京/集英社クリエイティブ, 東京.
← 初出 : Office You, 2013年7月号~2015年9月号.


デザイン : 松本哲児(BRIDGE)

最近の新刊マンガはシュリンクがかかっていて、中身が見れません。大手の売れ筋作品では、薄い「立ち読み版」が書店に配布されることもありますが、こういったマイナー作品ではそれもない。

だから表紙で判断せざるを得ないケースが多いのだが、この本も情報なしでそうやって見つけた本。

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表紙はOK。カラーコーディネートもいいですね。

このマンガは、基本「コーヒー」をテーマにした短篇集なのだが、前後の話が何らかの形でつながっているという連作集でもある。最近このパターン多いですね。

1話2話あたりは、ちょっとオシャレ系の雰囲気もあり、大丈夫かな(つまり、オッサンでもついて行けるかな?)、と心配に。


同書, p.34

第3話目まではこういう細い線で描かれている。この辺でもかなり高野風なのだが、「るきさん」よりもっと後、「黄色い本」あたりに近いかな。

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4話「マリアージュ」は、完全に『棒がいっぽん』のころの高野マンガの影響を受けている。


同書, pp.40-41

右ページで会話、左ページでは角度をめまぐるしく変えた「どアップ」、というのは、なかなか迫力ある。これ、高野文子 『棒がいっぽん』収録の「奥村さんのお茄子」とか「バスで四時に」をかなり意識した実験作だ。

また内容も、高野作品「マヨネーズ」のシチュエーションをもうちょっとソフトにした感じ。

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この辺で、「この人、高野文子の娘の一人だ!」と気づいたわけです。この実験はその次の第5話「ミス・ベンダーの旅」にも続きます。


同書, pp.66-67

この話は、なんと缶コーヒーの缶と自動販売機の会話だ。この点でも実験作だ。

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もしかすると、この辺は編集さんあたりに「ちょっとやり過ぎですよ」と注意されたのかもしれない。

その次からは、絵にはあまり凝らずに、会話中心の人間模様にシフトしている。でもそっちもおもしろい。

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12話「カフェ・ド・バスルーム」は、若夫婦が一緒に風呂に入りながら、コーヒー飲んだりアイス食ったりと、いちゃいちゃする話だ。普通はそのまま始まっちゃうわけだが(笑)、その直前の楽しそうな雰囲気をよく描いている。まあ、実体験なんでしょうね(笑)。

しかし、最近は女性の陰毛などは、女性マンガ家も平気で描くようになったなあ。男性器はまだ隠す人多いけど。

アイスを食べるシーンの、目を見開いて大口開ける顔、「うはぁ 恐怖漫画の顔みて」、「んまい」。

これは!楳図かずおファンだな!特に「まことちゃん」の。

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「三爺マンガ同好会」「ぐるぐる」の、ジジイ三人組コントもおもしろいなあ。この作品集は、老人が大活躍するのも特徴です。

この辺は、高野作品「二の二の六」あたりの雰囲気。

p.85の「源さん」に大笑い。これ、1983年のドラマ「源さん」の宇津井健じゃないか(笑)。

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ヨコイエミさんは、1990年代にデビューし連載作も持っていたのだが、その一作で一度フェイドアウト。どうも結婚して一時仕事をセーブしていたような雰囲気。

そして名前を変えて再デビュー。前作は知らないのだが、こんな感じで、のんびり作品を発表していってほしい。

2ヶ月に1本10ページじゃ、なかなか単行本にならないだろうけど。この本も1冊分たまってから出るまで2年もかかってる。

いつかまた(2年後くらい?)取り上げます。

2017年10月27日金曜日

萩尾望都 『A-A'』(5) 一角獣種とアスペルガー症候群

この「一角獣種シリーズ」でよく語られるのが、アスペルガー症候群との類似性。

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アスペルガー症候群(Asperger Syndrome、AS)とは、発達障害の一種で「高機能自閉症」とも呼ばれます。

1944年、Austriaの小児科医Hans Asperger(1906-80)がはじめて症例を報告した。1981年、UKの精神科医Lorna Wingが「アスペルガー症候群」という用語を用いた論文を発表し、以後この用語と概念が広く普及した。

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特徴はもう

2017年10月11日水曜日 萩尾望都 『A-A'』(1) 一角獣種とは何か?

でまとめた一角獣種の性格そのまま。

・他人の気持ちを理解しにくい
・他人の発言を額面通りに受け取る(特に皮肉や隠喩などが理解しにくい)
・空気を読むのが苦手
・特定の対象に強く興味を示し集中する
・きちんとしたもの、規則的なものを好む
・同じ行動を反復する
・毎日同じ食べ物を食べ続ける
・大きな声や接触が苦手であることが多い
・知的障害、言語障害はない

その結果、特に対人関係で周囲と軋轢が生じやすく、「変わり者」という扱いをされて、孤立してしまうケースが多い。

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「一角獣種シリーズ」に出てくる3人の一角獣種の中では、「A-A'」アディが典型的なASに似た性格を示すよう。

「4/4カトルカース」のトリルでは、性格よりも「一角獣種」の生理に焦点を当てて取り上げているので、あまりASっぽい感じは出ていない。

「X+Y」のタクトはアディとも似ているけど、おもしろいのは、タクトは「ちょっと変わり者」とは思われてはいるものの、周囲に愛されており、孤立したようなところが全くない。

まあタクトはちっちゃくて、アイドル的な扱いだからかもしれないが・・・。しかし、男だけの集団で、あんな寛容な子ばかりというのは、女性向けマンガ特有のファンタジー。だから、常にあんな風にうまくいくとは思わない方がいい。

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ASは「症候群」などという名前が付いているので、あたかも病気であるかのように思ってしまうが、私はそうは思っていない。原因は不明らしく、従って明確な治療法もない。そもそも治療する必要があるのだろうか?

ASっぽい人は昔からいた。病気という扱いではなく、「ちょっと変わった人だな」くらいの扱いだ。今も、ASと診断されていなくても、普通に周囲に一定数いる。

はっきり診断されているわけではないが、Jazz musicianのThelonious Monk(1917-82)はASだったんではないか、と言われていますね。確かに、伝記を読むとASっぽい行動だ。素晴らしい曲と、特異でおもしろすぎる演奏を多数残してくれた人です。日常生活もまた「The Unique」。

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ASの人が話したりする事、作ったりするもの、行動自体も、Monkのように、とても意外で興味深いものが多い。それが他の人と違っている故に、それを発展させれば、今まで見たことも聞いたこともない、新機軸・新発見・新発明になるんじゃないか、と思ってる。そう、ASの人は人類の宝なのだ。

私の周囲にも「この人ASっぽいな」という人は結構いた。もちろん、なかなか対応がむずかしいんだけど、徐々に対応の仕方がわかってきた。

まず褒めてやる。

これはASに限らないのですが、人は誰でも「自分を否定されること」には弱い。ASの人は特に弱いようです。

褒められて喜ばない人はいないでしょうけど、わざとらしい褒め方、お世辞はあまり効果ないような気がします。ASの人は、言葉を額面通り受け取る傾向があるので、一見うまく行きそうな気もするのですが、何故かわかりません。

とにかくASの人が興味を持って集中していることを、面白がって褒めるのが一番です(これもASの人に限らないのですが)。

ところが、ASの人が集中している対象の中には、「何それ?」という意外なものが多いのです。なかなか理解されないのですよ。だから、これはもう褒める側にも、ASの人と興味を共有する才能がいるのです。努力して身につくものじゃないので、むずかしいですよね。

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この「一角獣シリーズ」にもASの人への対応法のヒントがあると思う。アディに気をかけてあげて心を開かせたレグ・ボーン、タクトとは距離を保ちつつ仲間として受け入れているザーズ他の仲間たち。

まあ、所詮フィクションなので、真に受けると逆に危険なのだが、ヒント程度には使えると思う。

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萩尾先生は、どこから「一角獣種」のアイディアを得たのだろうか?執筆当時(1981~84年)は、ASという用語、概念はまだ専門家の間にしか知られていなかったと思うので、何か本で得た知識ではなさそうだ。周囲にASの人がいてモデルにしたのだろうか?

萩尾先生の「A-A'」へのコメントを見ると、今にして思えばある意味ASの象徴かもしれない、というような話をされているので、意識してASをモデルにしたわけじゃなさそう。

一部自分にも当てはまるらしいが、やはり周囲にASの人がいたんじゃないか、という気がする。

まあ、この辺はいつか業界の人に詳しく訊いてほしいところですね。

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なお、ASや発達障害に関しては、マンガもたくさん出ています。解説/HOW TOマンガや、実体験を(やや誇張して)描いたエッセイ・マンガの形態がほとんどです。創作モノとして昇華させた作品は知らないので、いつかそういう作品も見つけてみたい(あると思ってる)。

それにしても、「アスペルガー」というテーマに限っても、これだけたくさんマンガがあるって、やっぱり日本のマンガの多様性はすごい。

2017年10月24日火曜日

萩尾望都 『A-A'』(4) X+Y

・萩尾望都 (1984.7-8) X+Y(前編・後編). プチフラワー, 1984年7月号~8月号.
→ 収録 : 『A-A'』(小学館文庫). pp.101-200. 小学館, 東京.


『A-A'』(小学館文庫版), pp.102-103.

このエピソードのメインテーマは、「性転換」と、そして「BL(ボーイズラブ)」だ!

主人公は一角獣種のタクトと、「4/4カトルカース」のモリが再登場。前作の解決編ともいえる。

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地球の大学のエリート集団に属するタクトは、小柄な一角獣種美少年。友人ザーズのいとこメリメと初体験するが、うまくいかなかった(「プチフラワー」でいきなりこれだ!)。

医務室でジョージとアンアンに検査してもらったところ、ついでの遺伝子検査で、とんでもないことがわかった。タクトは性染色体が「X+X」つまり女性だったのだ。この事実に反発するタクト。

一方、タクトのチームは、火星カナル・プラン(要するにテラフォーミング)・コンペティションで、見事地球代表となる。そしてチームは火星へ。

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火星についたチームは、さっそく凧(カイト=ハングライダー)レースに遭遇。墜落してしまった凧に乗っていたのはモリ。「4/4カトルカース」のモリの4年後だ。

一目見て、タクトが一角獣種であることに気づくモリ。一方、モリも強い念動力使いであることが、チームにばれる。チームの「TAKO計画」には、念動力使いが必要なのだ。

カナル・プランでのプレゼンテーションでは、保水用ゲルの実験に失敗し、会場を水だらけにしてしまう。メッセンジャーとして参加していたモリも、巻き添えでびしょ濡れ。チームの宿舎に招かれ、そこでモリはタクトと「共鳴」を起こし、タクトを浮かび上がらせてしまう。

凧デートに出かけるモリとタクト。タクトにトリルの面影を見、モリはタクトに告白。しかし、タクトは一角獣種らしい「コミュ障」ぶりを発揮し、冷静に拒否。モリはタクトに怒りをぶつけてしまう。


『A-A'』(小学館文庫版), p.149.

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『A-A'』(小学館文庫版), pp.102-103.

チームは土星タイタン代表に認められ、土星に視察旅行に。チームのカナル・プランは、土星の輪の一部を雪ダルマ状にして火星まで運ぶ計画なのだ。

気になってタクトにコンタクトしたモリだが、タクトはモリの記憶を失っていた。「自分の念動力のせいらしい」と感じたモリは、チームの後を追って土星へ。

タイタンからミマスに移ったチーム。タクトとモリは凧の実験に。そこで二人は遭難してしまう。モリは、ケガをしていたものの無事発見。しかしタクトは行方不明。

ケガを押してタクトを探しに出たモリ・・・。二人はどうなる?

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エンディングでは、チームはタクトの父親ムーンサルト博士に会いに、小惑星帯トロヤ群に行く。そこで聞かされたのが、ムーンサルト博士の性転換実験と、タクトの出生と性転換の秘密、なぜ、タクトに7歳以前の記憶がないかの理由・・・。

タクトは男のままか?女になるのか?

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一角獣種、性転換、BLに加えて、火星のテラ・フォーミングまでが背景として加わり、SF要素のテンコ盛りだ。

これだけ盛り込んだ設定を、100ページにうまく収める力量に唸らされる。テラ・フォーミングがらみは、ちょっと消化不良気味でもあるが・・・。

性転換ネタも、まあ~お話ならでは、のことだよね。突っ込みどころは満載。

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地球→火星→土星系タイタン→土星系ミマス→小惑星帯トロヤ群とめまぐるしく移動することもあり、ロードムービー的な楽しみ方も可能。

前作で後悔を残したモリが成長し、悩みつつ試行錯誤しつつむくわれる完結編だ。

そういえば、タクトにはショタ要素もあるので、ショタ好きにも楽しめるかな。ああ、もう万能のマンガだ。

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小柄で、文字通り中性的なタクトが魅力。これに一角獣種特有のクールネスを持っているのだから、マンガの主人公としては強力だ。

いや、実際にいたら、相手するのは結構大変そうだが・・・。

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これで「一角獣種シリーズ」は終わりのようだが、もっと読みたいなあ。深みのあるテーマなので、どんな道具立てとくっつけても相性がいい。

もう1回ツヅク

2017年10月20日金曜日

萩尾望都 『A-A'』(3) 4/4カトルカース

続いては、「一角獣種シリーズ」2作目

・萩尾望都 (1983.11) 4/4 カトルカース. プチフラワー, 1983年11月号.
→ 収録 : 『A-A'』(小学館文庫). pp.51-100. 小学館, 東京.


『A-A'』(小学館文庫版), p.51.

今回のメインテーマは「念動力」と「共鳴」。

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舞台は木星の衛星イオの大規模基地。

NASAの外惑星探査機Voyager 1号が木星に到達したのは1979年。その時に、衛星イオは活発な火山活動が存在し、表面は硫黄分に富む溶岩で覆われていることが明らかになった。

この作品が描かれた当時、その情報はだいぶ知られていたはずだが、この作品には全く反映されていない。

舞台はほとんど基地のドームの中なので、全然影響ないけど。

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主人公は14歳のモリ。超能力養成学校(?)の学生。だが、その力をうまく発揮できないのが悩み。

モリはペルー出身。幼いころ、その念動力とカレイドスコープ・アイ(万華鏡のようにきらめく瞳)のせいで、村人に殺されかかったことがある。しかし念動力により村を全滅させた。その後、念動力をうまく扱えなくなった。

ある日、モリは一角獣種の娘トリルが落下するのを、空中で止めるという大技を披露する。

トリルは、サザーン博士が育ている一角獣種の純粋種であった。知能障害があり、言葉もうまく喋れない。サザーン博士は、一角獣種の繁殖と改良について研究しているアブナイ先生だ。


『A-A'』(小学館文庫版), p.77.

モリの15歳の誕生日にトリルを招いたところ、モリの念動力が大暴れ。モリとトリルは「共鳴」という現象を起こしており、それによりモリの念動力が増幅されることがわかった。

サザーン博士からトリルを奪い、連れ出すモリ。そこで二人はさらに大きな事件を起こしてしまう。

イオにいれなくなったモリは、火星に旅立つ。しかし、トリルも研究所から逃げ出してしまう。戻ろうとするモリが見つけたトリルは・・・。

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SFの設定を除くと、古典的な「A boy meets a girl」+「ロミオとジュリエット」ストーリーだ。

このエピソードでは「一角獣種」の性格よりも、その歴史、現状、生理が重要なキーとなっている。

サザーン博士は、トリルの卵子を取り出し人工授精させようとしたり、自分でも犯したりしている(よう)で、実はとてもハードでヤバイ話。こんなのが少女マンガ誌(というより、プチフラワーは女性版「青年誌」だが)に載っていたんだから、すごいよね。

主人公は一貫してサイキック男子なので、ちょっと「一角獣種」の効果が薄いけど、悲劇としてよくまとまった逸品だ。

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後悔を残したモリは、次の「X+Y」にも登場し、ダブル主役をはることになる。

2017年10月15日日曜日

森泉岳土 『報いは報い、罰は罰』

『A-A'』の途中ですが、新刊の紹介。

2016年12月31日土曜日 森泉岳土 『うと そうそう』
2016年8月14日日曜日 森泉岳土5連発

で紹介した森泉岳土(もりいずみたけひと)の新刊が出ました。

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・森泉岳土 (2017.10) 『報いは報い、罰は罰 上・下』(BEAM COMIX). KADOKAWA, 東京.
← 初出 : 月刊コミックビーム, 2016年12月号~2017年9月号.


装幀 : 吉田昌平(白い立体)

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いやー、今回の表紙は、白黒で何が描いてあるのかわからないグチャグチャの絵。森泉の真骨頂だ。最高です。

表紙でいきなり客を選ぶ、と思うけど、「最近の森泉絵は、端正になりすぎ」と感じていたので、初期のテイストが蘇ったこの表紙は、自分にはとても嬉しい。

書店の売り場に、禍々しい空気を存分に発散しているので、気持ち悪くて、「チラ見するのも嫌だ」という人もいるかもしれない。

自分は、最初、上・下巻の区別がつかなくて、「もう片方はどこだ?」と探してしまいましたよ(笑)。

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カバーは、何と言うのか知らないが、しっとりしたマットな素材。これは汚れや煙をよく吸いそうだ。書店カバーはかけたままにしておこう。

この凝った装幀のせいもあり、この本かなり高い。各170ページくらい(正確にはわかんないんですよ)で1250円+税。でも迷わず買っちゃいましたよ。それだけ価値のある本です。

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この本、ノンブル(ページ番号)がいっさいない。少年マンガでは、ほぼ全ページ断ち切りでノンブルがないのはあるけど、これはきっちり全コマがページ内に収まっているのに、だ。

当然、意図的なもの。マンガというより芸術作品として売ろうとしているのかもしれない。あるいは「ページ数など気にせず没頭してほしい」ということか?

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内容は、長編ゴシック・ホラー。これだけストーリー性の強い長編作品は、森泉は初挑戦だ。

妹・真百合が、嫁ぎ先の洋館から行方不明になったと聞き、姉・真椿(まつばき)はUSAから帰国早々、山奥の洋館に向かうのだった。

そこで出会った洋館の怪しい一家。そして、冬の洋館で巻き起こる惨劇。犯人は?真椿は無事に帰れるのか?そして妹・真百合の行方は?

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同書・上, はじめの方

2ページ目の絵からして、もう怖すぎなんですけど(笑)。

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推理ものの要素も少しあるが、悩む間もなく、わりとあっさり明らかになってしまうので、これはやっぱりホラーものだ。犯人もそれほどひねりはない、と感じるかもしれない。

「冬の洋館での惨劇」というと、小説 Stephen King (1977) SHINING、あるいは映画 Stanley Kubrik(dir) (1980) SHINING(シャイニング)を思い出すかもしれないが、このマンガもかなりその影響を受けていると思う。

それだけではなく、作中には様々なホラーの類型が散りばめられていて、作者がホラーものをよく勉強していることがわかる。その分、ホラーとしてのオリジナリティは少し弱い気がする。登場人物もちょっと類型的かな。

しかし、そんなことはあまり気にする必要はない。森泉くらいの超絶画力で、本気で読者を怖がらせようとしたら、底知れぬ恐ろしい絵が出てくる、という事実を楽しんでほしい。

ホント、どのページも怖すぎだよ。


同書・下, 前半

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今回人物画は、おそらく意識的にちょっと劇画調にしてある。誰かの絵にそっくりのような気がするんだが、思い出せない。石井隆や丸尾末広のテイストはかなり感じる。

端正な表情だけでストーリーを進めることが多い森泉だが、ホラーともなると、驚き、恐怖、疲労の表情など、バラエティに富んだ森泉人物画が楽しめる。相変わらず「汗」を感じさせる絵はないが、まあそれはそういう作風なんで・・・。

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ぜひ挙げたかったのだが、ネタバレになるのでわざと挙げなかった絵が、上巻後半の惨殺シーン。これはもうスゴすぎて、声も出ない。日本マンガの至宝ですね。おそらく何年か後には、あちこちで真似されるでしょう(特にFranceのband decinée方面で)。

最初に描いたように、この作品では、どうやって描いているのか想像もつかない、森泉流背景が圧倒的だ。暗がりの多い洋館、夜のシーンの多さ、森泉テクニックが存分に発揮されている。

コンピュータ上の画像処理ではなさそうな、暗闇のボカシの多用も、この洋館に漂う禍々しさをよく表現している。これに気が滅入る人もいるかもしれないな。

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ストーリー展開では、ちょっとタイミングよすぎでお芝居くさい、とか、主人公が転落するシーンはちょっと無理がある、とか感じる所もあるかもしれないが、何せこの絵で、この勢いで、描かれると、もう圧倒されてしまい、ぐいぐい引き込まれる。

今後、ネット上ではネタバレっぽいレビューもかなり出てくると思うので、早いこと買って、まっさらな状態で読むことをお勧めします。

いやあ、次はどんなマンガを描いてくれるんだろう。楽しみでしょうがない。

2017年10月14日土曜日

萩尾望都 『A-A'』(2) A-A'

まずは表題作の「A-A'」から。

・萩尾望都 (1981.8) A-A'. プリンセス, 1981年8月号.
→ 収録 : 『A-A'』(小学館文庫). pp.4-49. 小学館, 東京.


『A-A'』(小学館文庫版), pp.4-5.

昔は、正統派少女マンガ誌に、こんなハードSFが載っていたのですよ。

当時のプリンセスには、SFマンガでは他に山田ミネコがいたが、主力は、貸本時代から活躍する細川智栄子や「わたなべまさこ」など。ちょっと古くさいマンガが多かった。

細川智栄子「王家の紋章」なんて、いまだ現役作品だ!

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「一角獣種シリーズ」は、前回まとめた一角獣種の性格がもたらす軋轢を背景に、もう一つSFガジェットを大きなテーマとしておいている。

「A-A'」では、それが「クローン」だ。

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プロキシマ星系第5惑星ムンゼル探査基地に派遣されていたアデラド・リー(一角獣種、19歳、女性)は、事故で死んでしまう。地球で眠りから覚めたアデラドは、自分がアデラド本体のクローンであることを知る。

A=アデラド(アディ)、A'=アデラドのクローン、ということ。

宇宙探査隊員は、事故死にそなえ、地球を発つ前にクローン作成を義務付けられているのだ。そして本体が事故死の場合は、クローンが代役を務めるため、探査基地に再度派遣される。

二代目アディは、初代アディ3年前のクローンなので、16歳のまま。保存されていた記憶も3年前で止まっているわけ。

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ムンゼル基地に到着した二代目アディは、一角獣種のコミュ障をいかんなく発揮し、周囲をとまどわせる。


『A-A'』(小学館文庫版), p.15.

実は3年前には初代アディも同様だったのだが、レグ・ボーンのおかげで次第に心を開くようになり、二人は恋人同士となったのだった。

二代目アディに対するレグの反応は複雑。「初代アディそのままだ」「いや、アディは死んだのだ。今いるアディは別人だ」という葛藤。再びアディを気にかけるが、二代目アディは一向に心をを開かない。

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レグと二代目アディが調査に向かった先で、二人は偶然、「あるもの」を発見。その「あるもの」に絶望したレグは、二代目アディの心を開かせることもあきらめ、αケンタウリ星系トリマン・コロニーAに転属してしまう。

そこに、トリマン・コロニーAの爆発事故のニュース。レグも事故死。これに対する二代目アディの反応(内面)は、「爆発の光度はどれぐらいだったろう?」。

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アディの冷たい反応に呆れる隊員たちであったが、ある日アディが拒食症に陥っていることに気づき、彼女なりにショックを受けていることを知る。

アディ同様、レグもクローンの出番となる。再びムンゼル基地に配属された二代目レグ。

到着した二代目レグを迎えたアディは・・・。

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クローンをメイン・テーマにした作品だが、これが「一角獣種」という背景に乗っていることで、とても深みのある作品になっている。

SFはやはり設定が命だ。設定がテキトーだと、舞台はSFっぽくても、単にドンパチやってるだけで、実は舞台はどこでもいい話になってしまう。

「一角獣種」を中心においていることもあり、このシリーズは終始静かに進む。が、ところどころに大きな見どころを置いているので、退屈するようなことは一切ない。ここでは、「あるもの」発見が大きな見どころ。

ラストシーンは、カタルシスと感動をもたらす名場面になっている。その一瞬で物語をバスッと断ち切るテクニックも名人芸だ。

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アディの冷たい無表情がいいですね。そのクールさの下から少しずつ感情がにじみ出てくる際の、微妙な描写もおもしろい。

あまり有名じゃないけど、萩尾中編SFの傑作の一つだと思う。是非ご一読を。

2017年10月11日水曜日

萩尾望都 『A-A'』(1) 一角獣種とは何か?

先日、雪崩が起きまして。いや室内で(笑)。

それで地層の下部に埋設されていたものが多数発掘されました。これがその一つ。

・萩尾望都 (2003.9) 『A-A'』(小学館文庫). 308pp. 小学館, 東京.


カバーデザイン : 小松美紀子+ベイブリッジ・スタジオ

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これは、「一角獣種シリーズ」3作(1981~84)を中心として、「ユニコーンの夢」(1974)、「6月の声」(1972)、「きみは美しい瞳」(1985)を収録した作品集。

「一角獣=ユニコーン」ということで、「ユニコーンの夢」が収録されたのだと思うが、内容は「一角獣種シリーズ」とは関係ない。他の作品も関係ない。

ここでは「一角獣種シリーズ」についてのみ触れる。

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先に初出と書誌を、

初出:

・「A-A'」. プリンセス, 1981年8月号.
・「4/4 カトルカース」. プチフラワー, 1983年11月号.
・「X+Y 前編」. プチフラワー, 1984年7月号.
・「X+Y 後編」. プチフラワー, 1984年8月号.

収録:

(1) 萩尾望都 (1984.11) 『A-A'』(萩尾望都作品集17). 小学館, 東京.(「一角獣種シリーズ」3作を収録)
(2) 萩尾望都 (1995.9) 『A-A' SF傑作選』(小学館叢書). 小学館, 東京.(「一角獣種シリーズ」3作+7作を収録)
(3)萩尾望都 (2003.9) 『A-A'』(小学館文庫). 小学館, 東京. (「一角獣種シリーズ」3作+3作を収録)

(2)と(3)は、「一角獣種シリーズ」以外の収録作として「ユニコーンの夢」、「6月の声」が共通している。

参考:
・萩尾望都作品目録 > 作品目録(as of 2017/10/07)
http://www.hagiomoto.net/works/

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「一角獣種シリーズ」は、地球人が太陽系の外惑星(火星・木星系・土星系)~太陽系外に進出している時代のお話。つまりSFだ。

シリーズを通して「一角獣種」という種族が登場する(必ずしも主人公ではない、というか単独の主人公にしづらい)。

「一角獣種」とは、同じ地球人類なのだが、宇宙開拓黎明期(21世紀はじめ)に、宇宙開拓に向くよう遺伝子操作で開発された種族。

シリーズ中に、断片的に「一角獣種」についての説明があるが、意識して整理しておかないと、よくわからなくなる。

その説明を抜き出して、「一角獣種」の設定を整理しておこう。

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「A-A'」

p.16
チャイ「ン・・・まァ しようがないなァ。 もともと アデラドは無愛想の型(タイプ)だし・・・。 なんせ 赤いたてがみの一角獣種の生き残りだものな。」
無名「21世紀初頭に 宇宙旅行のため開発された 遺伝子変異種でしょう? 風変わりなのよね。」

p.19
初代アディ「レグ・ボーン。わたしは とてもめずらしい種族なんだそうだ。」
レグ「一角獣種? いい名だ。 はじめて聞くが。」
初代アディ「わたしも 成長して宇宙開発計画に参加するまで 知らなかった。この髪は ただの色ちがいだと思っていた。 わたしの種は 盛り上がった頭部と そこの赤いたてがみが特徴で 一角獣と名づけられた人工の変異種だそうだ。ごくたまに わたしのように 隔世遺伝であらわれる。」

p.22
ジェルミ「あなた 地鳴りを聞いたのね? アデラド。」
レグ「おい!熱くないか。こんなに湯をかぶって。」
二代目アディ「別に・・・。」
レグ「医務室だ! おいで アディ!」
無名1「思い出したぞ!一角獣種は 視聴覚範囲が我われと少しずれてるのだった!」
無名2「遅い!」

p.28
レグ「たそがれのムンゼル というのは当たっているな。こう見ると淡く青くぼやけていて。」
二代目アディ「私の目には 明るく遠くまで見渡せる。」
レグ「・・・ああ。」
レグ(内面)「彼女の目には 暗い光も明るく見える。赤外線の波長まで見えるはずだ。」

p.44-45
チャイ「さあ いいかね?宇宙旅行用に開発された一角獣種がだな? なぜ土星に帝国をつくれなかったと思う? 問題は はきけだ! パンはあるのに はきけで食べられなくなり きまじめに仕事をつづけ コロコロ餓死したんだ。 拒食症だが きみの種は ストレスからすぐこれにかかりやすい。おまけに動きはにぶいし 注意力はない。ああ世話がやける。」
ジェルミ「前も病気にかかったのよ。 3年前はね わたしたちは みんなであなたにとまどってたのよ。 一本調子のしゃべりかた。泣き笑いも 怒りもしないお人形・・・。 どう接していいやら・・・。 誰もがあなたを無視してた。 あなたもわたしたちを無視してた。 そしたらレグが気づいたの。あなたが15日間なにも食べてないって。 あなたはちゃんと対応していたのね。感情もある。 ただ 表現のサイクルが ふつうの人とちがうので・・・ふつうに泣き笑いをしないので・・わたしたちにはよくわからないのよ。」

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「4/4 カトルカース」

p.58
モリ「マム 一角獣種ってなにさ」
ママミア「百年以上前につくられた改良種よ。ほら 核戦争のころね。わたしが鳥の改良種をつくってるように 人間をつくった時代があったのさ。 その子孫だろう。いまどき純血種ってのはめずらしいねえ。」

p.60
サザーン博士「またか。いや しょっちゅうなんだよ。走りだすと止まれないんだ。不器用で。」 

p.61
サザーン博士「だいたいこの種は 環境不適合型で短命なんだ。」

p.61-62
モリ「赤いオーロラが出てんですよ。上のほう。」
サザーン博士「---赤いオーロラ? 暗くて見えんがね。一角獣種は赤外線光波が見えるんだ。------赤外線オーロラが出てるんだろう。」

p.65-66
サザーン博士「気のせいさ。一角獣種には感情などないんだよ。」
モリ(内面)「!」
サザーン博士「もともと コンピューターを扱うために開発された種なのだ。感情がなければミスもない というわけさ。」
(中略)
サザーン博士「人は何からできているか? それは四つの断片よりなる。理性 知性 経験 これらはいいさ。 最後に感情! 非論理的 非生産的な感情! しかるに一角獣種はなにからできているか?数式 記録 記憶 記号!彼らはすばらしき未来人だ!」

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「X+Y」

p.105
ザーズ「なんでもないんだ。ただ このゆーずーのきかない一角獣種が---。」

p.108
メリメ「ここがあなたの部屋?」
タクト「そう 彼の。」
(中略)
メリメ「(前略)そのへんな三人称だけのしゃべりかたも慣れるわ。」

p.114
ジョージ「うううむ!わしは彼を7歳のときから知ってるが いまだにようわからん。」
アンアン「ああいう無反応って一角獣種特徴なの? おしゃべりザーズと比べて単におとなしい子だと思ってたのに・・・。」
ジョージ「らしいが・・・。 よくわからん。隔世遺伝の珍種だからなァ 一角獣種というのは。」

p.138
モロゾフ先生「一角獣種が かなり多く頭から出している波長に アルファ波があります。 これは5歳未満の幼児に多く見られるものですが モリはこのアルファ波によく反応します。」

p.149
モリ「おまえに なにが"わかる"んだ! おまえは少しでもオレの気持ちを"考えて"いるのか! "考えて"ない! "わからない"ことは "考えない"からな。」
タクト「・・・ なにを怒っているのだ。モリ。」
モリ「おまえがオレをふったからだ!」

p.154
ザーズ「タクトは ウソや冗談がいえるほど 情緒教養度高くないんだ。」

p.155
ザーズ「あせんなよ。あいつは人見知りするんだ。一角獣種ってそうなんだよ。」

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少し補足を。

物語の舞台がいつなのかはわからないが、「一角獣種」が作られた21世紀初頭から100年以上後の時代。人々の間では、その記憶も薄れている。

その21世紀初頭には核戦争があったらしいが、本連作では語られるだけで、ストーリー展開に影響を与えない。

21世紀初頭以降、「一角獣種」が新たに作られることはなく、現在「一角獣種」という種族が独立して存在しているわけではない。

「一角獣種」は、他の地球人類と同一種(重要な遺伝子は完全に一致)。なので、他の地球人類とは普通に婚姻・生殖が可能。物語の現在は、他の地球人類と婚姻が進み、「一角獣種」というまとまった種族は存在していない。しかし隔世遺伝により、時おり「一角獣種」の特徴を持つ子が生まれてくる。

ある時、「一角獣種」たちは土星に帝国を作ろうとして失敗したらしい。映画「ブレードランナー」の「レプリカントの反乱」みたいだ。

遺伝子操作の目的は、情緒を抑制し、論理的な作業の効率を上げ、人為的ミスを減らすこと。集中力がすごい。

遺伝子操作の副作用として、身体的な特徴(頭部中央が盛り上がり、その部分の髪が赤くなるため、トサカのように見える)、感覚異常(赤外線が見える、聴覚に優れる、温度変化に鈍感)、運動能力異常(にぶい、反射的な運動が苦手)、ストレスに弱く拒食症になりやすい、などの特徴がある。これは、遺伝子操作で意図して発露させたものではない。

なんといっても、精神面で、情緒(泣く、笑う、怒る)・表情の変化に乏しい、相手の考えていることが想像できない、従って表面上は、常にぶっきらぼうな態度、相手を傷つけるような発言が多い、何を考えているのかわからない、といった形として現れるのが大きな特徴。そのため、この面で周囲と軋轢が生じやすい。

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萩尾先生のすごいところは、「一角獣種」の歴史だけで1冊分描けるくらいの設定を作っておきながら、これをメインテーマにはせず、重要ではあるがシリーズの背景としてしか使っていないところ。

贅沢すぎる!

おそらく、もっともっと詳しい設定があるはずだ。もったいないなあ。マンガじゃなくて小説でもいいから、これまでの一角獣種の歴史=「一角獣種サーガ」を残してほしいなあ。

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この「一角獣種」の性格、発達障害の一種「アスペルガー症候群(AS)」に似ているということで評判なのだが、私も読んですぐそう思った。

その話題は最後にするとして、次回は各エピソードを見ていこう。

2017年10月7日土曜日

千葉市美術館「鈴木春信」展

に行ってきました。

・千葉市美術館 Chiba City Museum of Art > ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信 会期 2017年9月6日(水)~ 10月23日(月)(as of 2017/10/07)
http://www.ccma-net.jp/exhibition_end/2017/0906/0906.html

ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信
会期 : 2017年9月6日(水)~ 10月23日(月)
会場 : 千葉市美術館
住所 : 〒260-8733 千葉県千葉市中央区中央3-10-8
tel : 043-221-2311
fax : 043-221-2316
開館時間 : 午前10時-午後6時 (入場は午後5時30分まで)、金・土曜日は、午後8時まで開館 (入場は午後7時30分まで)
休館日 : 毎月第1月曜日(祝日の場合は翌日)
観覧料 : 一般1,200円(960円)、大学生700円(560円)、小・中学生、高校生無料 ※( )内は前売券、団体20名以上、千葉市内在住65歳以上の方の料金 ※障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料 ※10月18日(水)は「市民の日」につき観覧無料
主催 : 千葉市美術館、ボストン美術館、日本経済新聞社
後援 : アメリカ大使館
特別協賛 : フィデリティ投信
協賛 : 大伸社
協力 : 日本航空、高久国際奨学財団

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同展パンフレット, 表


同展パンフレット, 裏

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これは図録

・田辺昌子+セーラ・E・トンプソン・監修 (2017) 『ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信』. 263pp. 日本経済新聞社, 東京.


デザイン : 川添英昭

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鈴木春信(1725?-70)は、江戸中期の浮世絵師。浮世絵が2~3色刷の「紅絵」から多色刷の「錦絵」に移り変わる1760年代に活躍しました。

パンフレット表、図録表紙は、春信の代表作

鈴木春信 (1766) 桃の小枝を折り取る男女.

から。

お人形さんのように定型化された(当時の絵は皆そうだが)切れ長目、おちょぼ口、細身の体躯が特長。他の絵師もスタイルは同じだが、筆の滑らかさ、体の線の柔らかさが、春信は抜きん出ている。

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画題は女性が多いが、春信の絵では、男性も同じ筆致で描かれる。とても艶かしい男になっている。中性的だ。

だから、派手に着飾った若衆(わかしゅ、男色で受け担当の少年)や色子(美少年男娼)を描かせると絶品。


鈴木春信 (1766-67) 見立三夕「西行法師」.
図録, p.112.

これは一見女性に見えるが、二人とも色子だそうです。

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この時代の浮世絵はサイズが小さく、彫り・摺りの技術もまだ発展途上。しかし紙はかなり上質なものが使われている。部数もまだ少なく、いまだ好事家が主対象だったわけ。

そういった好事家が私的に浮世絵を作らせて、会で集まり互いに交換していたのが「絵暦」。この絵暦交換会(大小会)が浮世絵を発展させたと言ってもいい。

絵の中に「大の月」あるいは「小の月」を判じ物のように折り込んで入れるのが特徴だ。ちょっと見には全然わからないものも多く、クイズ的な楽しみ方もしていたと思われる。

採算を度外視して美しい「絵暦」を競ったことから、浮世絵が単調な「紅絵」から「錦絵」に急速に発展していった。

春信の浮世絵も、後期になるほどどんどんカラフルになっていくので、その急速な発展ぶりは目を見張る。

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鈴木春信 (1765) 夕立.
図録, p.66

止まったような絵が多い春信だが、これは珍しく動きのある絵だ。「あらまあ」という顔、おもしろい手・腕のポーズ、下駄が外れて蹴上げた右足、風になびく袖、くねる体躯、どれを取っても絶品である。

雨風の描き方などは、北斎以降の浮世絵にくらべるとまだまだ稚拙だが、その分かえっておもしろい。

なお、これも絵暦で、明和二年の大の月が干し物に隠されている。

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横浜、原宿で開催された「月岡芳年」展では、墨を付けないで摺り、紙の表面に凹凸や光沢を出す「空摺り」や「正面摺り」の手法に驚きました。その話はこちらでどうぞ↓

2017年9月16日土曜日 月岡芳年ツアー2017(3) 太田記念美術館 「月岡芳年 月百姿」 展
2017年8月19日土曜日 月岡芳年ツアー2017(2) 太田記念美術館 「月岡芳年 妖怪百物語」 展
2017年8月5日土曜日 月岡芳年ツアー2017(1) 横浜歴史博物館「歴史×妖×芳年」展

これは、浮世絵後期に生み出された手法だとばかり思い込んでいたのですが、春信の時代にすでに発明されてたことを知りました。

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鈴木春信 (1766-67) 鷺娘.
図録, p.103.

娘の白地の着物に、空摺りで細かく模様が浮き出ています。図録では、珍しくこの空摺りがよく出ているのですが、スキャン画像ではうまく出なかった。

また、娘の帽子や積もった雪は、これも墨を付けず凹版で摺って、エッジを凹ませてあります。つまり丸みを帯びた図形の内部がもっこり浮き出るわけです。これは「きめ出し」という手法。

これも是非展覧会で現物を見てください。感動しますよ。

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もう一つ「きめ出し」の例を。


鈴木春信 (1767-68) 女三宮と猫.
図録, p.126

ここでは着物の輪郭や猫の輪郭に強く「きめ出し」が使われている。これは図録ですらよく出ているが、現物はもっとよい。

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春信は晩年になると、突如、現実の町娘を題材に美人画を描きはじめる。中高年になって、突如アイドルに入れ込みだすオッサンみたいで微笑ましい。まあ、本人の趣味というよりは、版元のアイディアではないかと思われるが。


鈴木春信 (ca.1769) 浮世美人寄花(はなによす) 笠森の婦人 卯花(うのはな).
図録, p.177.

これは谷中・笠森稲荷境内の水茶屋・鍵屋の看板娘「お仙」。右手の蔦紋小袖がお仙だ。柳腰のいい女。当時、江戸のアイドル的な存在で、この浮世絵もブロマイドとして扱われていたらしい。

同じ頃に、浅草寺奥山の楊枝屋・本柳屋の「お藤」、浅草・二十軒茶屋の水茶屋・蔦屋の「およし」と並んで、明和の三美人と呼ばれていたそうだ。

その中でもこの「お仙」が一番人気で、春信は「お仙」を何度も描いている。

もっとも、この頃の浮世絵は顔が皆同じなので、袖の紋などで判別するより他ないのだが、それでも体躯の優美なカーブなどで「お仙」らしさが十分表現できていたのだろう(本当にそうかどうかは、当時の人じゃないとわかんないけど)。

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その後、役者絵が流行するようになると、徐々に役者の顔を似顔絵で描くようになってくる。特異な絵師・写楽の登場で、デフォルメともいえる強烈な似顔絵が出てきて、ますます浮世絵はおもしろくなっていくのだ。

春信の発展形である細面・柳腰の美人画は、喜多川歌麿で完成を見る。歌麿の美人画は頭身が高くなり、八頭身美人。洗練されすぎていて、手が届かない感じ。まさに「美人画」だ。

それに比べると、春信の美人画はちょっとかわいらしいし、やはりお人形さんっぽい。より親しみやすい絵だ。

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しかしこうして見ると、春信の絵、というか当時の浮世絵には、中国の美人画の影響を非常に強く感じる。柔らかな体躯の描き方は、まさに中国の手法だ。

またサイズが小さいこともあり、イラン~インドのミニアチュールの雰囲気もある。まあ、ミニアチュール自体、中国絵画が移植されて発達したものだから、似ていても不思議ではないが。

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それにしても、ボストン美術館の浮世絵コレクション恐るべしだ。世界でもボストンにしかない浮世絵が、山のようにあるという。

今回の春信作品も、ボストンだけの所蔵品がいくつも来ている。大規模な春信展は15年ぶりだというし、浮世絵ファンは無理してでも見た方がいいですよ。

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なお、この「春信展」、千葉のあとは1年かけて、名古屋→大阪→福岡と巡回されます。そちら方面の方々もお見逃しなく。

2017/09/06~10/23 千葉・千葉市美術館
2017/11/03~2018/01/21 名古屋・名古屋ボストン美術館
2018/04/24~06/24 大阪・あべのハルカス美術館
2018/07/07~08/26 福岡・福岡市博物館

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「春信展」と並行して、千葉市美術館の所蔵品で「江戸美術の革命 春信の時代」展も開催されていた。

色々と面白かったが、中でも曾我蕭白の(ca.1751~64)「獅子虎図」、(ca.1758~59)「寿老人・鹿・鶴図」を見れたのがよかった。蕭白お得意の「困り顔の虎」、いつ見ても笑えるし、いいなあ。迫力も充分。

参考:
・だまけん/だまけん文化センター 絵画と寺社巡り > 曽我蕭白 獅子虎図屏風(2016/10/04)
http://5dama2.blog96.fc2.com/blog-entry-247.html

2017年10月1日日曜日

kashmir 『デイドリームネイション』/『百合星人ナオコサン』

kashmirについては、

2017年4月15日土曜日 kashmir 『てるみな』/『ぱらのま』

で上記2作を紹介しましたが、今回紹介するのは、それ以前の旧作2つ。

近作、『ななかさんの印税生活入門』、『ゆせそま。』などは、またいつか。

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・kashmir (2007.12~2013.4) 『デイドリームネイション 1~5』(MFコミックス アライブシリーズ). メディアファクトリー, 東京.
← 初出 : コミックアライブ, 2006年8月号~2013年5月号.


Cover design : Hideki Satomi

青を基調に統一した、素晴らしいデザイン・シリーズ。

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連載は7年に渡るが、描かれる期間は6月末~9月末のわずか3ヶ月間。

乳メガネ・小岩井知春(ちはる、高2女子・まじめ)とその幼なじみ・荻野夏穂(かほ、高2女子・ショート/いいかげん)の二人が属する漫研の夏、の物語。

他に、後輩・黒坂(高1男子・エロ本拾いの達人)、OG・久遠寺先輩(大1女子・セクハラ変態)、部長(高3男子・ペド)、後輩・紗英ちゃん(高1女子・ガチエロ絵師まっしぐら)などが口を挟み、わいわい大騒ぎの物語。


同書4巻 p.6

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重要登場人物が、八景さん(山の神さま、笑)。1回めから全裸で漫研部室に登場。以来、ほとんどずっと部室でマンガ読んでるだけ(笑)。時々メイド服も。わけわからん人(?)。


同書1巻 p.9

でも、要所要所で大活躍するし、こういうオールマイティを一人置いておくと、事件を起こすにしても、おさめるにしても、エンジンとして強力だ。長期連載の秘訣だな。

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定石通り、登場人物の中で一番まともな、知春の視点で物語が展開する。

エピソードは、同人誌即売会、夏合宿~喫茶店バイト、文化祭の3つだけ。それで7年連載しちゃうんだからすごいね。

2016年8月6日土曜日 平方イコルスン3連発
2017年7月20日木曜日 平方イコルスン 『スペシャル 2』

で紹介した平方イコルスン 『スペシャル』も、夏休みを挟んで、時間がゆっくり流れているが、こういうマンガ多いんだろうな、自分が知らないだけで。

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若者がたくさん集まって、無駄にたむろするマンガ(個人的に「ワイワイもの」と呼んでいる)は、永島慎二 『フーテン』、『若者たち』の頃から大好き。特に桑田乃梨子 『おそろしくて言えない』が傑作だった。

おそらく、そのワイワイもの好きの原点は、『水滸伝』なのだろうと思う。その性癖にピッタリ合った『デイドリームネイション』は、自分にとっては傑作中の傑作だ。

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夏穂ちゃんがトリックスターとして強力。かわいいし、虚無的だし、暴れる時は暴れるし。言うことないね。


同書1巻 p.69

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夏穂ちゃんは陸上部と兼業なんだが、陸上部の後輩・千澄(高1女子・色黒ポニーテール)がまたド変態で、夏穂の匂いフェチ。こういうスパイスもおもしろい。


同書1巻 p.123

しかし、この千澄は、音井れこ丸 『おじさんとマシュマロ』の若林の原型みたいな変態っぷりだな。いいぞ。

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お次はデビュー作(と思ったら2作目でした、デビュー作は『◯本の住人』)

・kashmir (2007.2~2014.4) 『百合星人ナオコサン 1~5』(Dengeki Comics). KADOKAWA/(アスキー・)メディア・ワークス, 東京.
← 初出 : コミック電撃大王, 2005年5月号~2014年4月号.


Cover Design : Satomisan=里見英樹(よつばスタジオ)

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こちらは連載期間がさらに長く、9年間だ。

完全ギャグマンガ。ある日、みすずちゃん(女子中学生・廃墟マニア/おとなしい)の家に、突如現れた「百合星人」のナオコサン。宇宙人の証拠に、ホレ、耳がエルフ。

そのナオコサンがなぜか家に居候。「ドラえもん」型の設定だ。

このナオコサンが巻き起こす騒動に、みすずちゃんをはじめ、弟・涼太(小学生)、親友・柊ちゃん(ひいちゃん、女子中学生・メガネ/百合+エロ絵師属性大)、涼太の同級生・彩ちゃん(女子小学生・ツンデレ)、ライバル・ヤオイ星人(バイトしながら同人誌を描いてる)らが巻き込まれる。

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ナオコサンはトラブルメーカー型キャラで、マンガの中身も騒々しくめまぐるしいスラップスティック。宇宙人だからメカも出し放題だし、トラブルメーカーとして最強。


同書3巻 p.156

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これは、吾妻ひでお『やけくそ天使』直系の、SF風味ありのギャグマンガだ。

今まで吾妻ひでお系ギャグマンガと呼ばれるものは、だいぶ見てきたが、これが吾妻ギャグに一番近い。後継者と言っていいだろう。

ところどころ、吾妻風ガジェットも登場するし、kashmirが吾妻ファンなのは間違いない。


同書1巻 p.88

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「百合星人」といっても、百合要素は全くない。ナオコサンは幼女好きなので、広義の「百合」と言えないこともないが、中身は男なので単なる「ペド」です。

むしろ、とってつけたように、柊ちゃんが百合要素を薄~く担当。

「幼女」だの「エロ本」だのという言葉が頻出するが、口で言っているだけなので、絵にエロ要素は皆無(笑)。

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みすずちゃんのセリフだけが、連載初回から吹き出しじゃなく、ナレーションのようにコマの中にむき出しになっている。これ、面白い手法だ。


同書2巻 p.23

なぜこんな手法を思いついたのか謎だが、内面のセリフも多いみすずちゃんにぴったりだ。

これは、下記の謎解きの布石になっているような、なっていないような・・・。

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ナオコサンは、遠いところにいる(という設定の)奈緒子お姉さんが、帰って来た・・・はずなのに、なぜか全然別人だった、という設定。5巻では、その謎解きになっているような、なっていないような、SFファンタジー連作で一応決着をつけている。



同書5巻 p.132

この辺もkashmirの多芸ぶりが光る。ちょっと苦しい辻褄の付け方だったような気も・・・。

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みすずちゃんの「廃墟好き」あたりからも、今の「てるみな」「ぱらのま」へ向かう片鱗が伺えるし、まさにkashmirの原点といえるマンガだ。


同書4巻 p.104

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この手の本は、バラバラなら古本で安く拾えることもあるが、もともと部数はそんなに多く出ないものなので、全巻揃えるのは結構大変だった。特に最終巻はなかなかなくてねえ。

こういう中途半端に新しいマンガを探すのは、活字の本や本当に古い(1980年代以前)マンガを探すのとは、また違った苦労がある。

この手のマンガが、復刻されたり文庫化されたりすることはまずないので、見つけたらその時に買っておくしかない。特にセット物で見つけた時は、問答無用で買え、だ。

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最近の、美少女萌え系マンガ(に一応置かれているもの)というのは、定まった評価がないし、ほとんどは自分の性に合わない。しかし、その中にごくたまに、こういう風に自分でもついて行ける作品が混じっているのだ。

それを見つけ出すのはなかなか楽しいのだが、歩止まりも悪い。まあ性分だから仕方ない。苦労しつつ、密林(Amazon.co.jpじゃないよ)探索を楽しもう。

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(追記)@2017/10/01

ちなみに「デイドリームネイション」とは、Sonic Youthの1988年発表のアルバム名。内容とは全く関係ない。

こういうの多いけど、題名が単なる判別記号になってしまい、作品への愛着度も下がるなあ。

冬目景『イエスタディをうたって』でも、Yesterdayなんか一回も出てこない。高野雀『13月のゆうれい』では、一応最後になにやら関連付けるセリフを置いているが、「はいはい、つじつま合わせね」といった程度の感想しかない。