2016年12月31日土曜日

森泉岳土 『うと そうそう』

2016年8月14日日曜日 森泉岳土5連発

で紹介した森泉岳土の新刊が出ています。

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・森泉岳土 (2016.12) 『うと そうそう』. 166pp. 光文社, 東京.
← 初出 : 小説宝石, 2015年6月号~2016年8月号


ブックデザイン : 吉岡秀典(セプテンバー・カウボーイ)

今回は、水と爪楊枝を8B(!)の鉛筆に持ち替えての作品。紙は画用紙かな?

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うまい、うますぎる。嫌味に感じるほどうまい。中身もブックデザインも完成度が高すぎて、私がくだくだ語る必要もない。見て、読んでもらえばそれで充分、といった作品。

解説によると、著者はこの作品全部を、連載開始前わずか1ヶ月で描き終え、連載はそれを小出しにしていったのだそうな。驚きですね。

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中身は8ページものが15編。いずれも主人公のモノローグで構成される詩のような作品。スケッチのような単純な線で描かれており、シルエットを得意とする森泉にとってはお手のものだろう。



鉛筆なので下描きはないはず。一発勝負でこれだけの絵が描けてしまうのがすごい。別紙にラフくらい取ってから、その後にコマ割りして描いてはいるのだろうが。

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各話の扉がまた凝っている。上3分の2は見えるか見えないかのかすかな線で、手前に置いて見るとよく見えないが、奥から覗きこむようにすると見えてくるという、ホログラムのような特殊印刷。どういう仕組みなんだろう。

本をひっくり返しても同じなので、インクの粒子に角度がついている、とかではなさそう。不思議な仕組みだ。

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解説は映画監督・大林宣彦。実は、著者は大林監督の娘婿に当たるのです。大林監督の文章は、フラフラあちこちに寄り道する展開で、本人の話と似ていておもしろい。

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1400円+税、ということで高いと感じるかもしれませんが、ブックデザインも含めてひとつの芸術作品と思って、手に取ってみてください。

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(追記)@2016/12/31

著者自身が、小説宝石及びブックバンで本作について語っているので、そちらもどうぞ。

・ブックバン > レビュー > 森泉岳土/だれかの指 『うと そうそう』刊行エッセイ(2016/12)
http://www.bookbang.jp/review/article/523795
← 初出 : 小説宝石, 2017年1月号

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(追記)@2017/01/01

扉の仕組みが少しわかった。仕掛けがあるのはインクの方じゃなくて紙の方だ。

光沢のある紙を使っているんだが、特定の角度に光を多く反射する。それが手前側、少し本を傾けた角度(本を読む視線の方向)。すると紙が光を反射して白っぽくなり、やはり白っぽいインクで印刷された絵と同化して真っ白に見える、という寸法。

その角度からずれると、紙からの反射は減り、紙は少し黒っぽくなり絵が見える、というわけだ。

2016年12月30日金曜日

stod phyogsの分家blogです

ブログstod phyogsの分家です。

本家からマンガ、アート、本、科学ほか、いろいろ雑多な話題はこちらに移します。しばらくは本家の投稿も残しておくので、2016/12/24以前の投稿は当分重複します。

リンクやレイアウトにまだ不備がありますが、それらはおいおい修正していきます。

2016年12月24日土曜日

須藤佑実『ミッドナイトブルー』

本エントリーは
stod phyogs 2016年12月24日土曜日 須藤佑実『ミッドナイトブルー』
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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・須藤佑実 (2016.11) 『ミッドナイトブルー』(フィールコミックス). 175pp. 祥伝社, 東京.


















装丁 : コードデザインスタジオ

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これは表紙画とデザインに一目惚れです。素晴らしい。

タイトルの「ミッドナイトブルー」にひっかけて、ブルーな配色だが、これはミッドナイトブルーではない。なんだこれは、粘土ブルー(いわゆる青灰色)か?

火星の夕焼け色にも似ているな。はからずも、タイトル作「ミッドナイトブルー」は火星がキーワードだ。

肌の薄いピンクに、影のように控えめに入った粘土ブルーがすごく効果的。そこはかとなく、表紙の人物の素性を表現してもいる。

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あと文字が少し透けていて、薄~く背景が見えるのもいいなあ。気づく人は少ないだろうけど。デザイナーが楽しんでいるのがわかる。

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中身は「ときどきファンタジーが入った正統派ラブストーリー集」といったところ。

これも「フィーヤン」(祥伝社の雑誌「フィールヤング」)かあ。最近女性向けマンガ買うと、「フィーヤン」ものに当たる確率が高い。高野雀とかヤマシタトモコとか。

この須藤佑実については、予備知識なしで本を買ったのだが、見覚えある絵。と思ったら『流寓の姉弟』の人かあ。

『流寓の姉弟』も本屋で何度も手にとっているんだが、なかなか買う踏ん切りがつかなかった。しかし、よし、これも買おう。

2016年12月3日土曜日

『うんこ』出ました。

本エントリーは
stod phyogs 2016年12月3日土曜日 『うんこ』出ました。
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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2016年10月30日日曜日 『10分後にうんこが出ます』

で紹介した

・中西敦士 (2016.11) 『10分後にうんこが出ます 排泄予知デバイス開発物語』. 223pp. 新潮社, 東京.


















装幀:新潮社装幀室

が出たので、買ってきました。単刀直入に言うと「ハズレ」でした。

ハズレの本について書くのもなかなか苦痛なのですが、前々回のエントリーで大々的に「楽しみ」と書いてしまったので、ちゃんと責任取ります。

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この本は「排泄予知デバイス」を「作る人」の話ではなく、「作る人」と「金」を集めてくる「起業家」のお話。

だから、実験にしても試作機開発にしても、具体的な内容がさっぱりわからない。もっとも、著者はその最中ずっとUSAでプレゼン資料を作っていて、現場には立ち会っていないんだから、詳しいことが書けないのも仕方ない。

かたや資金調達の記述になると、とたんに具体的な話がどんどん出てくる。そっちが専門なんだから、その箇所では生き生きしてくるのも当然でしょうね。

実験や機器開発の間に、「排泄のメカニズムや腸内のうんこの諸相がどんどん明らかになっていく」、また「排泄予知が一筋縄ではいかないことが明らかとなり、そしてそれを克服する具体的な方法の発見」といった科学的な内容を期待していた自分にとっては、全く面白くありませんでした。

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終始、著者の行動力と人たらしの素晴らしさが、自画自賛として語られていく、という展開で、最初の4分の1で飽きたなあ。

確かに行動力は素晴らしいし、実際の人間性もきっと魅力的なんだと思うが、私と合うタイプではないですね。著者にとっては別にどうでもいいことだけど。

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文章はそれほどうまいわけではないんだが、時々名言チックなことを言ったり書いたりできる才能のある人。この本のキャッチーなタイトル「10分後にうんこが出ます」にもその片鱗が伺える。

「排泄のビッグデータ」(p.7)
「それなのに、うんこに関する情報は社会で共有されていない」(p.14)

この、今まで見たことも聞いたこともない意外な連結具合はどうだ。

「僕は当時(引用者注:大学時代)能楽サークルに所属していたのだ。ちなみにバークレーでうんこを漏らした時、パンツからブツが落ちないように歩く「すり足」は、サークルで学んだ動きだった。」(p.100)

も素晴らしい。

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しかしひと通り読んでみて、このプロジェクトには医学(特に内科)関係のプロが一人もいないのが、非常に気になった。つまり、消化器、排泄物に関する知識が圧倒的に不足している、と感じた。

「排泄予測」という理想だけが先走っていて、あたかももうすぐ完成するかのようにプレゼンして資金を集めているのだが、人間の体は素人がすぐに十全に把握できるほど甘くないだろう。

資金調達のためプレゼン日程だけが先に決まっていて、その直前に超音波装置(試作機とは別の既成の装置)で腸の具合を初めて調べているんだから、かなり危なっかしい。

その実験結果は「超音波測定器で腸内の便の様子がわかることが判明した」というもの。これだけで「排便予知装置の開発が可能」というシナリオで資金を集めるのだから、その強心臓ぶりは私にはちょっと理解できない。

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排尿予知デバイスはかなり実用化が近いようなのだが、肝心の排大便予知デバイスは当分完成しないようだ。

クラウド・ファンディングで集めた約1200万円を全額返金することを2016年9月に決定している(p.175)ことからも、それは確実だろう。

大便や大腸の諸相はそう簡単に単純化できるものではないし、なんといっても排便のタイミングには個人差が大きい。大便の位置がわかるだけで一律に「何分後に出ます」と予知できるものではない、と思う。

でもまあ、大腸の様子がウェアラブル・デバイスでリアルタイムに観測できるようになるだけでも立派なものだとは思う。

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発想が面白いのは間違いないし、完成したら世の役に立つのも間違いない。私が協力できるのは、この本を買って印税の130円(定価の10%が印税として)を著者にあげるくらいだが、是非完成へ向けて頑張ってほしい。

「山師」で終わるか、「利用者に感謝される人」になるのかは、今後の社長である著者の力にかかっているのだ。これから先は「行動力」だけでは解決できない問題が多いと思うけど。

2016年11月29日火曜日

panpanya 『動物たち』

本エントリーは
stod phyogs 2016年11月29日火曜日 panpanya 『動物たち』
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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公称11月30日発売ですが、1日早く手に入れました。

・panpanya (2016.12) 『動物たち』. 180pp. 白泉社, 東京.


















装丁:panpanya

ページ数はちょっと減って180ページだが、カラーが16ページもあるので満足です。

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今回も登場人物は約4人。「おかっぱの女の子」と「タコ男」と犬の「レオナルド」(そのヴァリエーションも含む)と「ロングヘアーの女の子」。

それにしてもそのロングヘアーの子が「部長」役っての無理すぎないか?タコ男も同じシリーズ中で、不動産屋、引越し屋、大家と三役で大活躍。

この「少数精鋭?」にこだわる理由はなんだろう?

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異様で夢みたいな話はちょっと控えめで、散歩エッセイみたいなのが多かった。それもまたよし。

白眉はやはり「猯(まみ)」、「狢(むじな)」、「示談の手引き」の動物三部作。動物といっても、どれも似たようないい加減な絵。表紙の動物たちですね。

扉とカバーを剥がしたところには、そのいい加減な絵の「動物」(これは「猯」かな?)を中途半端にリアル化した絵があって大笑い。


















しかし、どうでもいいが、Google IMEでは「まみ」で「猯」が一発で出たぞ。どうなってんだ?

なお、MS IMEでは本字の「貒」の方が一発で出ました。

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カバーをはがすと、その地は都会の坂道によくある、○○の滑り止が刻印してあるコンクリート路面。この質感がザラザラしていて素晴らしい。コンクリート路面そのものだ!ずーっと触っていたい。

いまや新刊マンガのほとんどはシュリンク(薄いビニールです)がかけてあるので、これは買わないと絶対味わえない幸せ。

この造本だけでも、ものすごく手間と金がかかっているのですよ。だからこれで980円+税は絶対に高くない。買って、この感触をぜひ味わっていただきたい。

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すごい書き込みの背景も健在。特に「猯」のタイトル画は素晴らしいですね。


















『動物たち』 pp.78-79.

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ようやく気づいたんだが、主人公のおかっぱの女の子はなんか、先日完結したばかりの

・石黒正数 (2005.5-2016.12) 「それでも町は廻っている」(通称「それ町」)

の紺先輩と似ている。


















石黒正数 (2007.9) 『それでも町は廻っている 3』(YKコミックス827). p.44. 少年画報社, 東京.

孤独でクールなところが特に。どちらも最近のお気に入りです。

石黒正数もそのうち取り上げてみよう。

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『動物たち』はまだ1回しか読んでないけど、これから何度でもなんどでも楽しめる本。ぜひ買ってください←自主的回し者。

さて、次は『10分後にうんこが出ます』を買ってこよう。今月は楽しい月末だ。

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(追記)@2016/11/30

panpanyaについては

2016年8月9日火曜日 panpanya 3連発

でも書いていますので、こちらもどうぞ。

2016年10月30日日曜日

『10分後にうんこが出ます』

本エントリーは
stod phyogs 2016年10月30日日曜日 『10分後にうんこが出ます』
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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・べつやく れい@betsuyaku(2009年8月に登録)
https://twitter.com/betsuyaku

経由で知りました。元ネタはこちら↓

・岸本佐知子@karyobinga > 新潮社『波』の巻末に出ている新刊予告が気になりすぎる。(19:13 - 2016年10月28日)
https://twitter.com/karyobinga/status/792187648840314880/photo/1

・中西敦士 (2016.11) 『10分後にうんこが出ます 排泄予知デバイス開発物語』. 224pp. 新潮社, 東京.

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もう飛び上がって本屋に行きましたよ。

そしたら、ないんですよ。新刊書のコーナーにも、ノンフィクションのコーナーにも。念のために行ってみた科学書のコーナーにも。

で店員さんに訊いてみました。そしたら・・・

「11月30日ですね」だって。

しまった!でも仕方ないよなあ、Twitterでは何月かが書いてないんだもの。

女性店員に「『10分後にうんこが出ます』ありますか?」って訊くのは恥ずかしかった。

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しかし、「本タイトル大賞」はこれで決まりだな。

おまけに「イグ・ノーベル賞」もほぼ決まりだろう。ただし・・・製品化が完了すれば、の話。

・トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社/世界初!排泄予知ウェアラブル「DFree」先行予約、受付開始!(as of 2016/10/29)
https://readyfor.jp/projects/DFree

まだできていないのだ。でもこの感じだともう一息、ってところか。

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完成の暁には、最初につけてあげたいのは、しょっちゅううんこを漏らしている爆笑問題の田中。このセンサーには「田中センサー」という通称をつけたい。略称「たなセン」。

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❚ 開発メンバーの想い
私自身もうんこを漏らしたことがあります。 外に出かけるのが怖いと感じるようになりました

は思わず笑ってしまうが、実は真面目な発明なのだ。

うんこを漏らす人は、10分後かどうかはわからないにしても、「あ、漏れそうだ」とわかってはいるのに、仕事で動けなかったり、周囲にトイレがなくて漏らしてしまうケースが多いと思う。

しかし、このデバイスは、そういう「健康だけど、うんこを漏らしてしまう」という人が主な対象ではなさそう。

❚ 日本には、自分の意思で排泄ができない人が数百万人います

現在、日本では介護を受けている方が約600万人。また、自分でコントロールができず、便が漏れてしまう方は、20~65歳で300万人以上、65歳以上で130万人以上ともいわれています。加齢による機能低下以外に、出産後などにも排泄に困るようになる方がいらっしゃいます。DFreeはこうした排泄でお悩みの方はもちろん、トイレへの移動が困難な車いすの利用者、介護分野での活用が期待されています。

ということ。当然そうなるだろうな。

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しかし「うんこ」と「センサー」という思いもかけない結びつきに、目からウロコが落ちる思いでした。

よし、11月30日はpanpanyaの新刊に、「うんこセンサー」本、と楽しみが2つになったぞ。絶対発売日に買おう。

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(追記)@2016/11/01

そういえば、冒頭で出てきた「べつやくれい」(ひらがなだけの名前の人は「」でくくらないとわかりにくいのが難点のど飴)さんのダンナで、デイリーポータルZのウェブマスター・林雄司さん(ニフティ社員)も「うんこ漏らし」の天才だった。

いつかデイリーポータルZで、このデバイスをサカナに、爆笑田中と「うんこ漏らし」対談してほしい。

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(追記)@2016/12/03

『10分後にうんこが出ます』が発売されたので、

2016年12月3日土曜日 『うんこ』出ました。

で書きました。

2016年10月16日日曜日

ゴツボ×リュウジ 『あしがる 1~3』

本エントリーは
stod phyogs 2016年10月16日日曜日 ゴツボ×リュウジ 『あしがる 1~3』
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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・ゴツボ×リュウジ(2013.10) 『あしがる 1』(角川コミックス・エース). 179pp. KADOKAWA/角川書店, 東京.
・ゴツボ×リュウジ(2014.2) 『あしがる 2』(角川コミックス・エース). 177pp. KADOKAWA/角川書店, 東京.
・ゴツボ×リュウジ(2014.8) 『あしがる 3』(角川コミックス・エース). 177pp. KADOKAWA/角川書店, 東京.
← 初出:月刊少年エース, 2013年6月号~2014年8月号


装幀・デザイン : 神宮司訓之(ZIN STUDIO)

これは素晴らしい!高校女子サッカー・マンガです。

といっても、サッカーの試合(フットサルというか5 vs 5ミニサッカーだけど)は学校の球技大会しかやってない(笑)。そこでの活躍が認められて同好会発足。そしてメンバー11人を探しつつ、次々とライバルが現われ始めたところで「打ち切り」となりました。

残念だなあ、こんなにおもしろいのに。しかし少年誌じゃなかったかな、これは。続きを青年誌で、ぜひ。

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スポーツ万能の園(その)が、高校入学式にいきなり遅刻。その途中でサッカー少女の青名(あおな)と出会い、滋賀県・竹生島高校に女子サッカー部を作っていく物語。

登場人物が多くて、ワイワイ感が楽しい。主要登場人物がみなハッキリしてるのもよい。

というのも、この前にやはり高校部活ものマンガを読んでいたのだが、その登場人物がそろいもそろってグズグズしまくりで、頭を抱えた(ブックオフの108円コーナーに、必ず全巻揃いであるアレですよ)。その後にこれを読んでスカッとしたせいもあるかな。

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「水滸伝」要素があるのも好みの点。わずか3巻の間に(ちゃんと人格がある)登場人物が20人近く出て来て、どんどん主人公の周りに集まってくる。いい感じ。

さしずめ、園は「豹子頭林冲」、青名は「九紋龍史進」といったところか。実際の水滸伝では、林冲と史進が絡むシーンってないんだけどね。

林冲のライバル「青面獣楊志」は3巻に出てきます。「あしがる」と「水滸伝」共通のファンじゃないと、何言ってるかわかんないだろうけど・・・。

ちなみに「花和尚魯智深」は湖東さんです。

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ただ、スポーツものの宿命として、登場人物がわりと似たタイプばかりになりがちなのはしょうがないかな。「あしがる」も、自己主張が強いタイプばっかだ。

あと主人公の園がどんどん三枚目化/狂言回し化してるのもちょっと心配な点だったが、まあ終わっちゃったし、それはいいか。

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繰り返すけど、これは青年誌で続きをぜひ読みたい。そっちなら人気出ると思うよ。

あと、ゴツボ×リュウジの他の作品も俄然読みたくなったぞ。「ササメケ」、「ササナキ」、「アニコイ」(どうでもいいが、題名四文字ばっかだな)、たくさんある。

これから掘っていくのが楽しみだ。

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(追記)@2016/10/17

それにしても、この単行本デザインは素晴らしい。ゴツボ×リュウジの絵自体デザイン要素が強いせいもあり、ぴったり。

特に2巻の青名ちゃんの表紙は名作、と言っていい!

2016年10月11日火曜日

中央線マンガ その3 『中央線ドロップス』

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stod phyogs 2016年10月11日火曜日 中央線マンガ その3 『中央線ドロップス』
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中央線マンガ・シリーズ第3弾(『終電ちゃん』『中央モノローグ線』から続く)。

・元町夏央 (2009.3) 『中央線ドロップス』(ACTION COMICS). 235pp. 双葉社, 東京.
← 初出:A-ZERO, 2008年8月号~09年2月号.






















装丁:新上ヒロシ(ナルティス)

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作者は女性なのだが、線は骨太。ストーリーも『中央モノローグ線』に比べると暑苦しい。まあ暑苦しい方が中央線らしい、とも言える。

登場駅は、吉祥寺、西荻窪、阿佐ヶ谷、中野(ほとんど出てこないが)、高尾、御茶ノ水(+いろんな駅)。高尾が2回に渡って取り上げられてるのが珍しいかな。

阿佐ヶ谷の「クマと同棲」は変な話だなあ。比喩かと思いきや、本当にクマなんだもの。

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それにしても、表紙はこれも中央線カラーだよ。

中央線マンガは他にもあったと思うんだが、今は思いつかない(ある駅/町を取り上げたものはたくさんあるが)。

実は青梅線マンガ、京王線マンガというのもあるのだ。いずれ紹介しよう。

2016年9月27日火曜日

諸星大二郎 「(眼鏡なしで)右と左に見えるもの」

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stod phyogs 2016年9月27日火曜日 諸星大二郎 「(眼鏡なしで)右と左に見えるもの」
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びっくりしました。

・諸星大二郎 (2016.10) (眼鏡なしで)右と左に見えるもの エリック・サティ氏への親愛なる手紙. ビッグコミック10月17日増刊, vol.49, no.23, pp.41-60.


















これ何!?ってくらいわけがわからない。この歳(67歳)になって、こんな、見たことも聞いたこともないマンガを描くのか!全然老成しない人だ!

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タイトルにある通り、これはErik Satie作曲1ère Gymnopédie : Lent et douloureux(ジムノペディ1番「ゆっくりと苦しみをもって」)他の曲名とその音楽に発想を得た作品、というとんでもないものだ。

そのタイトルも「(眼鏡なしで)右と左に見えるもの」に始まり、

「ナマコの胎児」
「いやらしい気取り屋の三つのお上品なワルツ」
「大頭の友人という存在をやっかむ」
「彼のジャムパンを失敬するやり方」
「(いつも片目をあけて眠る見事に太った)猿の王様を目覚めさせる」

といった異常なもの。

モロ☆先生が異常なんじゃなくて、Satieが異常なんですけどね。でもモロ☆先生の感性にビッタリなんでしょう。

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これでどうして、パリを舞台にした、二人の男がこの世の危機を察知したり、これを救ったりする話になるのかわけがわからない。

まあ、わけのわからないタイトルとその音楽を、絵とストーリーにしていくんだから、わけのわからないマンガになるのは当然なのだが。

それにしても、どっからそんな発想が出てくるのか???

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ストーリーは一応ありますが、ないと言ってもいいので、あまり深刻に裏読みする必要はありません。

流れに乗って、そう、音楽を聞くように読んで(というより見て)いけばいいのです。

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モロ☆先生の息子さんは、音大で作曲の勉強をしているそうなので、

・ぐるなび みんなのごはん > グルメマンガ > 田中圭一のペンと箸 漫画家の好物 > 第17話:諸星大二郎と吉祥寺のタイ料理(2016-01-21)
http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/penhashi/2851

息子さんの影響かな?なんて思いましたが・・・

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ためしに「諸星大二郎 サティ」で検索してみると、2chのモロ☆スレの過去ログがひっかかってきました。

・2ちゃんねる > 漫画 > 過去ログ > トーモロコシガ☆諸星大二郎3☆ホーサクダヨ~(2006/11/18-2007/10/19)
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/sf/1163832737/l50

その973が、「コミコミ」という雑誌(1985年2月号)に載っていたらしいモロ☆先生のオリジナルカセットの収録曲タイトル。

モロ☆の昔のオリジナルカセット(1985年・2月コミコミ) 
タイトル「ツァラトゥストラの干物」 

A面:サマータイム(ガーシュイン)/夢のあとに(フォーレ)/ネイチャー・ボーイ(ナットキング・コール)/プレイバック・PARTⅡ(山口百恵)/幻想曲ハ短調(バッハ)/越殿楽/テクテク・マミー(E・S・アイランド)/セントルイスブルース(ベルリンフィルの12人のチェロ奏者)/ピグミーの歌/ソルヴェーグの歌 

B面:ツァラトゥストラかく語りき(R・シュトラウス)/ロックンロール・ウィドウ(山口百恵)/はららごの干物「ナマコの胎児」(サティ)/カルメン・シータ 2声のインベンション第2番(バッハ)/ハイサイおじさん(喜納昌吉)/10 番街の殺人(ベンチャーズ)/ソプラノ・メゾソプラノ2組の混声合唱と管弦楽のためのレクイエム(リゲティ)/夢のカリフォルニア(パパス&ママス)/獅子の泣き歌/シンコペイテッド クロック(アンダーソン)

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なんと、モロ☆先生は昔からSatieを聴いていたのだ。

影響を受けたのは、逆で、このカセットみたいなのを聴かされていた息子さんの方だったのだ。驚き。

それが、その30年後に、こうしてマンガ作品として昇華されてくるという・・・、まさに底なしの創作力。

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とにかく言葉で表現するのは無理なので、ぜひ買ってじっくり読んでほしい。立ち読みでこのマンガの魅力を理解するのは不可能。

私も最初立ち読みですまそうと思ったのだが、無理だった。買って何度も読まないと、理解できないはず(いや、何度読んでも理解は不可能なんですけどね)。

「考えるな、感じろ」(映画「燃えよドラゴン」より)というBruce Leeの言葉を紹介して終わり。

それにしてもすごいマンガだった。

2016年9月25日日曜日

『終電ちゃん 2』発売!

本エントリーは
stod phyogs 2016年9月25日日曜日 『終電ちゃん 2』発売!
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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・藤本正二 (2016.9) 『終電ちゃん 2』(モーニングKC-2658). 158pp. 講談社, 東京.


















装丁:杉本智行(uni-co)

が発売になりました。

1巻のお話は、こちらでどうぞ。

2016年8月16日火曜日 終電ちゃんに叱られたい

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全7話ですが、中央線の終電ちゃんの主な登場回は3回のみ。他は山手線の終電ちゃん、大阪環状線の終電ちゃん、東海道新幹線の終電ちゃん、長崎の終電ちゃん二人。

表紙は山手線の終電ちゃんですが、第12話にしか出てきません。

全体に散漫になって、1巻の熱気はもうないですね。ページ数も少ないし。狂言回しの寺岡がうまく機能するか・・・、この辺が今後の課題でしょう。

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中央線の終電ちゃんが背負ってる勾配標。あれ、少し反ってるのがいいですね。

線路沿いで見ると、勾配が書いてる板はやっぱり反ってます。木製だから、どこでの勾配標も少し反ってるのです。これがちゃんと描いてあるのが素晴らしい。

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しかし、この勾配標、終電ちゃんはひもで背負ってるんだが、そのひもがかかってるのは終電ちゃんの首(笑)。大丈夫なんだろうか?

まあもう50年以上あのまんまなんだから、もうひもも体と一体化してるのかも知らん。

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ちょっと驚いたんですが、奥付の発行日が、2016年9月23日になっていました。

最近本を発売当日に買うなんてことをしたことがなかったので、知らなかった。いつからそうなってるんですか?

出版業界では、奥付の発行日は実際の発売日の1ヶ月先にすることが通例でしたが、ついにこの悪しき慣例が改善される日が来たのか。感慨深いねえ。

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あと最近感じるのは、出荷時からシュリンク(薄いビニールですね)がかかっているマンガがずいぶん増えたこと。もちろん『終電ちゃん 2』もそう。これによって書店の負担はだいぶ減ったことだろう。

また、バーコードはシュリンクに貼られているので、裏カバーからバーコードが消えた。これによって、裏カバーのデザイン制限がだいぶなくなった。装丁/デザイン担当は喜んでいるでしょう。おそらくカバー絵を描くマンガ家も。

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そのかわり、出版社名と値段も裏カバーから消えた。これは残してもよかったんじゃないかな。特に値段。

バーコード付きシュリンクをはがすと、値段は本のどこにもなくなってしまう。後年、値段を知りたい人は、どっか別のルートで調べなきゃいけなくなる。これは要再考。

本から値段の表示が消えたということは・・・もしかしてこれは、再販制度撤廃の序曲?なんて思ったりして。

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(追記)@2016/09/25

おまけですが、3巻の冒頭は、熱血終電ちゃんが帰ってきます。すでにモーニング掲載済みなのだ。熱血と友情・・・ジャンプみたいだな。

2016年8月24日水曜日

『終電ちゃん』の副読本2冊

本エントリーは
stod phyogs 2016年8月24日水曜日 『終電ちゃん』の副読本2冊
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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・山田亮 (2016.5) 『JR中央線・青梅線・五日市線 各駅停車』. 223pp. 洋泉社, 東京.


















装丁:志村佳彦(ユニルデザインワークス)

中央線本はたくさんあって、ちょっと食傷気味なほど。その中でもこれは買い!

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古い写真、古い地図満載。古い地図(昭和前半頃のものが多い)は住宅・商業地造成による改変前の原地形がわかって興味深い。

古い地図を集めた本も、結構多いんだが、みな高いんですよ。だからこういうコンパクトにまとめた本は貴重。

あと、青梅線、五日市線を取り上げているのもポイント高い。

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お次はマンガ。

・小坂俊史(こさかしゅんじ) (2009.10) 『中央モノローグ線』(BAMBOO COMICS). 115pp. 竹書房, 東京.


















装丁:名和田耕平デザイン事務所

表1の風景がどこか、中央線住民ならすぐわかりますね。ついでに表4も。


















これもすぐわかるでしょう。著者の中央線愛が伝わってくる表紙です。

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中央線住民の女性たちのモノローグ四コマ。最初に出てくるのは、中野、高円寺、吉祥寺。

あーありがちだなー、と思って見ていると、次に出てくるのがなんと武蔵境。これがこの本の特殊な点ですね。

いわゆる「中央線文化」と呼ばれるのは、高円寺とか吉祥寺とかが中心となっている。だいたい三鷹より東、中央・総武線エリアだ。三鷹以西の「田舎くさい中央線」とは別世界。

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その田舎くさい中央線が始まるのが、「一昔前は」武蔵境からだった。高架化以降ずんずん都会化して、武蔵境はいまや「中央線マイナー四強」からは脱却しつつある。

残りの「マイナー三強」は、東小金井、西国分寺、西八王子です。さすがにこのエリアは、このマンガでも取り上げられなかったが。

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しかしこのマンガ、作者は男性なのですね。

男性がマンガで描く女性は、時に女性には気持ち悪く映るらしいのだが、このマンガは女性が読んでも違和感ないんじゃないだろうか?

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中央線マンガは他にも何冊かあったと思うので、そのうちまた探して取り上げてみよう。

それにしても2冊とも見事に中央線カラーだなあ(笑)。

2016年8月16日火曜日

終電ちゃんに叱られたい

本エントリーは
stod phyogs 2016年8月16日火曜日 終電ちゃんに叱られたい
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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・藤本正二 (2016.3) 『終電ちゃん 1』(モーニングKC-2580). 190pp. 講談社, 東京.


















装丁:杉本智行(uni-co)

いわゆる「擬人化マンガ」と思いきや、どうもちょっと違うらしい。

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東京都を東西に横断するJR中央線。その高尾行最終電車を司っているのが「終電ちゃん」。正確には「中央線の終電ちゃん」。

というのは、各社各路線にそれぞれ独自の「終電ちゃん」がいるらしいのだ。

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駅では酔客をどなりつけ、酔いつぶれている客は起こしたり車内に運び入れたり、とにかくすべての客を乗せるのを使命としている。ダイヤを守ることは重視していない。

徹底的に乗客への慈愛に満ちている。口は悪いが。だから乗客からの信頼・人気もすごいのだ。

「よーし 出発する前に一言 お前たち全員に 言っておきたいことがある!」
「終電ちゃんだ!」
「明日は必ず もっと早い電車で帰るって 約束しな!!」
「はーい!!!するするーッ!!」

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馴染みの乗客にはいちいち声をかける。どうやら、終電ちゃんは、すべての客の下の名前を知っているらしいのだ。ただの擬人化キャラではありませんね。

厳しさと慈愛を兼ね備えたキャラ。これは・・・。

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発車時刻も終電ちゃんが決める。東京総合指令室より偉いのだ。運転士も車掌も駅員も、駅長すら終電ちゃんを怖れ、へりくだって話しかける。


















(『終電ちゃん 1』 p.38)

見得を切るポーズの男前なこと。

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終電ちゃんは中央線終電の擬人化キャラか?妖精か?それとも女神か?と議論がなされているわけですが、これはもう決定です。

『終電ちゃん』「終電ちゃんとクリスマス(後編)」 p.139で終電ちゃんが言っているではないですか

「ああやっと分かったかい 厄介事ばかりの疫病神なんだよ私は!」

って。だから(女)神様なんですよ。

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中央線の終電ちゃんは、なぜか背中に変なものを背負っている。これは勾配標。

仏教の仏様は、皆独自の持ち物(持物(じもつ)と云います)を持っています。たとえば、観世音菩薩=蓮華、薬師如来=薬壺、文殊菩薩=経冊+剣など。それぞれの尊格の属性(つまりお経で語られている仏の性格)を一発で表現する持ち物となっています。

中央線の終電ちゃんの勾配標はこれと同じですね。

他の終電ちゃんも独自の持物を持っています。JR山手線の終電ちゃんは転轍機を引きずっているし、小田急小田原線の終電ちゃんはカンテラを持っています。

それぞれの持物にはこういう由来が・・・ないんだろうなあ(笑)。この辺は、下手につじつまを合わせるとツッコミが入るところでしょうから、由来を語るエピソードなどは入れない方がいいかも。

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終電ちゃんは、走行中は電車の先頭の屋根に座っています(ほんとはあり得ないが)。これも女神である証拠。

これは、船の舳先に飾られているアレ。そう船の守り神である女神様、それと同じなのです。

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マンガで語られている中央線の終電は高尾行。しかし、実は高尾行終電の後には、武蔵小金井行終電、三鷹行終電がまだあるのだ。

                                東京   新宿   吉祥寺   終点
高尾行終電             24:20  24:41  24:58    高尾 25:37
武蔵小金井行終電  24:27  24:50  25:07    武蔵小金井 25:17
三鷹行終電             24:35  25:01  25:18    三鷹 25:21

出典:
・chuosen.jp > 基礎知識 終電時刻表 (as of 2016/08/15)
http://www.chuosen.jp/timetable/lasttrain/

ということは、武蔵小金井行終電ちゃん、三鷹行終電ちゃんもいるのだろうか?

ここは「中央線の終電ちゃんは実は三姉妹」という説を主張したい。もちろん長女があの「高尾行終電ちゃん」。

いつか二人の妹終電ちゃんも見てみたいが(自分でかってに思っているだけですが)、このへんも「今まで全然触れないじゃないか」とツッコミが入りそうなので、もし出すとしても、おまけの四コマかなんかで軽く触れるだけにしといた方がいいかも。

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それにしても、この作者は新人にしてすごいキャラを発見してしまったもんだ。ちばてつや賞受賞作の週刊モーニング掲載後わずか2ヶ月でいきなり連載開始(月一連載)なんだから、実力はある。

絵はまだ下手だけど、これからみるみるうまくなるはずだから全然心配していない。

絵よりもストーリーに長けた人。「人情もの」の展開は安定しているし、ストックもまだまだ持ってそう。そんなに若い人ではないと見た(30代?)。

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とはいえ、「終電ネタ」でそうそう続くものでもないだろう。「終電ちゃんとクリスマス(前後編)」で大ネタをかましてしまったし(たぶんこれが一番描きたかったネタとみたぞ)。

あとは終電ちゃんを狂言回しにして、乗客の人情話で延々連載を続けるか・・・。

ネタ出しに苦しむくらいなら、3巻くらいで早めに風呂敷をたたむのもひとつの手。実力ありそうだから、次回作も楽しみだ。

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誰も指摘しないけど、「終電ちゃん」のタイトルロゴ。これは、駅とも関係が深い「修悦体」を模したもの。これもなかなかいい感じ。

2巻は2016年9月23日発売だそうだ。楽しみ。

2016年8月14日日曜日

森泉岳土5連発

本エントリーは
stod phyogs 2016年8月14日日曜日 森泉岳土5連発
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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「もりいずみたけひと」と読みます。マンガ家です。

この人の絵はびっくりしましたね。こんなのです↓


(『祈りと署名』「ハルはきにけり」 p.91)

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主線は太いのに、なんか線の真ん中が抜けてる、ってわけがわからない。どうやって描いてるの?

答えは『祈りと署名』「あとがき」にありました。

「水で描いてます」というとまずキョトンとされる。「そこに墨を落とすんです。細かいところは爪楊枝で」と説明してもほとんどのかたが(分からない)という顔をする。
(『祈りと署名』「解説あるいは経緯など」 p.148)

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わかんねーよ(笑)。でも、こちらを見たらようやく理解出来ました。

・ジャパン・クリエーターズ Wannabe.jp > Illustration イラスト > Illustrator FILE 10:森泉岳土
http://wannabe.jp/illustration/column/moriizumi/index.html

まず下絵を描く。その線を水でなぞる。そこに墨を落としそのまま広がるのを待つ。あるいは爪楊枝でひろげる。こういう手法のようです。

墨が線の端に残るのは、水を吸った紙は膨らんで、だいたい中央部が盛り上がるので墨は周縁部に落ちて行く、また周縁部に染みこんで行く水と一緒に縁辺部に向かって行く、ってとこでしょうか。

紙が水で濡れた時に、残った染みでは縁辺部の汚れが一番目立つのと同じ現象でしょう。

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なんでまたこんな面倒くさい画法で描くのか?と誰しも疑問に思うでしょうが、

今のところ、これがいちばん僕に向いた描きかただ、と思っている。
(『祈りと署名』「解説あるいは経緯など」 p.148)

と言うんだから仕方ない(笑)。でも、この画法を発見したエピソードも知りたいところ。

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先ほどの「Illustrator FILE 10:森泉岳土」によると、この画法だと必然的に太い線しか描けないので、4倍サイズで原画を作り、それをコンピューターに取り込んで、コラージュ的にマンガにしてるんだそうです。相当な手間ですね。

初期の作品は、ちょっと見には、なにやら墨のシミが画面いっぱいににじんでるようにしか見えない絵が多かったが、近作はだんだん洗練されてきて大分見やすくなっています。画法よりもコンピューター使いが洗練されてきているんだと思いますね。

初期のあの荒々しい絵もすごく魅力的ですが。

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・森泉岳土 (2013.12) 『祈りと署名』(BEAM COMIX). 149pp. KADOKAWA/エンターブレイン, 東京.


ブックデザイン:吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)

単行本デビュー作。

表題作はかなり力を入れた作品のようではあるが、自分にはあんまり肌に合わなかったなあ。

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「ハルはきにけり」 pp.85-116.
← 初出:月刊コミックビーム, 2011年11月号.

これは名作。小学生のハルちゃんが本の世界と妄想の世界を行き来する楽しい連作。

社会の授業で「アルジェリア」と「ナイジェリア」があることを知ったハルちゃんは図書館へ。そして「アルゼンチン」の反対「ナイゼンチン」を発見するのであった。

「行ってみたいな」に続く、次の見開き4ページが素晴らしい。


(『祈りと署名』「ハルはきにけり」 p.110-111)


(『祈りと署名』「ハルはきにけり」 p.112-113)

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「トロイエ」 pp.117-136.
← 初出:月刊コミックビーム, 2012年8月号.

全編シルエットで描かれた作品。


(『祈りと署名』中扉)

実験作、と思いきや、実は元々こういうシルエットでの作品ばかり描いていたんだそうな。この画法でシルエットだけの作品・・・想像を絶する。どうしてマンガで行こうと思ったのか、謎は深まるばかり。

顔を描くようになったのは、なんと

なにを置いても、漫画家のいしかわじゅん氏から「目鼻口を描かないと」と助言をいただいたことが大きい。そんな助言をいただくのもどうかとは思うが、
(『耳は忘れない』「未来、未来、今は過去」p.150)

だそうな。

シルエットの人物から徐々に表情が見えてくるのがすごい。真っ黒のシルエットよりも、所々白く抜けたシルエットのほうが圧迫感があるのはどういうわけだ?

とにかく不思議なマンガ。

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・森泉岳土 (2014.7) 『夜よる傍に』(BEAM COMIX). 186pp. KADOKAWA/エンターブレイン, 東京.
← 初出:月刊コミックビーム, 2013年12月号~2014年6月号.


ブックデザイン:吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)

なんと連載作で、きっちり単行本になってしまうのです、この人の作風で。すごいですね。

夜中出歩く休業中のカメラマンのサトル。神社で出会った少女・美琴の頼みに答えて、絵本をさがす。そして見つけ出した絵本の世界が現実に侵入し始め・・・。


(『夜よる傍に』 p.127)

ほとんどが夜のシーンなので、この作者にはお手の物。「夜の帳」という言葉を、これほどまでに的確に絵に出来る人がいるとは・・・。


(『夜よる傍に』 pp.22-23)

この作品では、線の太さが気にならないほどまで縮小してあるようで、荒々しさが消えだいぶ洗練された画面構成になっています。コンピューター使いがうまくなったよう。

ごくわずかだが、気付き線(頭上に描かれる短い放射線)や汗といったいわゆる「漫符」も現れ、徐々にマンガ文法を勉強していることも伺えます。

登場人物は最小限なのだが、脇役も魅了的。深夜喫茶のマスター藤田さん+真央さんがいい味出している。アンは「引き」強すぎでしょ(笑)。また、絵本の作者クリスピンのエピソード挿入もいいタイミング。

静かでいい作品なんだが、一つだけ、「間違った夜明け」には爆笑してしまった(すんません)。言葉を絵にするのは難しいですね。その道の達人森泉も相当悩んだに違いない。

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・森泉岳土 (2014.8) 『耳は忘れない』(BEAM COMIX). 152pp. KADOKAWA/エンターブレイン, 東京.


ブックデザイン:吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)

この人の単行本が2ヶ月連続で出てるなんて信じられない。初期作品が多く収録されているので、荒々しい画風時代の森泉画法がたっぷり堪能できる。

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「耳は忘れない」 pp.1-16.
←初出:描きおろし

表題作で単行本表紙もこの作品から。

黒に黄色を入れた二色の作品。実験作だが、さすがに黄色だと、この画法の効果はあまり出ない。

この人、意外にもバックパッカーなのだ。旅先で出会った女と、旅先で聴いた音楽の思い出。

私は旅先に音楽は持って行かないので、この感覚はわからない。だいたいThelonious Monkの音楽が頭に入っていると、音源などなくとも頭の中で充分楽しめる、というような話はいつかMonkのお話の時に。

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「森のマリー」 pp.49-58.
← 初出:月刊コミックビーム, 2010年9月号.

これが商業誌デビュー作らしい。


(『耳は忘れない』「森のマリー」 pp.54-55.)

絶句しますよね。初出の時の衝撃はどうだったんだろうか。まあ、わけがわからん、という感じで、反応はあまりなかったんだろうと思うけど。

しかし初期の荒々しさはほんと魅力的だ。意外にも森泉絵のルーツが「いわさきちひろ」にあるらしいことも、これでわかる。

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「盗賊は砂漠を走る」 pp.73-90.
← 初出:月刊コミックビーム, 2011年2月号.


(『耳は忘れない』「盗賊は砂漠を走る」 pp.84-85.)

もうね、ちょっと見には何が描いてあるのかわからない絵とはこれです。どうやって描いているのかも、説明聞いてもわからない。

マンガとしては空前絶後の絵。なのに、律儀に枠線があり、吹き出しもある。なるほどこれはマンガである。

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「小夜子、かけるかける」 pp.91-148.
← 初出:月刊コミックビーム, 2011年12月号~2012年1月号.

お母さんが作ったお話を絵本にする小夜子。絵のスクールに通い熱中する小夜子。塾に通わされる小夜子(以下略)。少女の自分探しの旅。

作中作の絵は薄墨を使って差別化しているが、この絵もとても美しい。


(『耳は忘れない』「小夜子、かけるかける」 pp.116-117)

このころからようやく、補助的に使っていた爪楊枝の真価に気づき、だいぶ細い線を描けるようになってきている。
(『耳は忘れない』「未来、未来、今は過去」p.151)

「爪楊枝の真価」などという言葉、生まれてはじめて聞いたよ。ほんともう驚きっぱなし。

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・森泉岳土 (2015.3) 『カフカの「城」他三篇』. 81pp. 河出書房新社, 東京.


デザイン:セキネシンイチ制作室

名作のマンガ化作品集。これはB5版。これくらい大きいほうがのびのび描けているような気がする。

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収録作は、

フランツ・カフカ「城」
夏目漱石「こころ」より「先生と私」
エドガー・アラン・ポー「盗まれた手紙」
ドストエフスキー「鰐」

・ドリヤス工場 (2015.9)『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』. リイド社.
・ドリヤス工場 (2016.7)『定番すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』. リイド社.

もやたら売れてるみたいだし、こういった名作マンガ化けっこう流行るかもしれませんね。もっとも、この森泉本はどこに行ってもなくて、意外にも近所の小さい本屋で見つけた。

でも、こういう名作によっかかる路線は、受けがよかったり売れたりするかもしれないが、続けてもおもしろい方向性にはなかなかいかないので、数年に1回程度でいいかも。

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「古典」を意識してか、全作を通じてコマ割りが3×3、あるいはその変形になっています。そのせいか、とても読みやすい。後半はコマ割りの実験場のごとし。

絵もすっかり端正にまとめる技を身に着けているので、森泉画法には気づかない人も多いかもしれない。

この辺りの画面構成は見事ですね。


(『カフカの「城」他三篇』「カフカ「城」」 p.17)

漱石「こころ」の終わりごろから、縦長3コマの実験が始まります。


(『カフカの「城」他三篇』「漱石「こころ」」 p.40)

縦長コマの中で遠近感を表す実験


(『カフカの「城」他三篇』「ポー「盗まれた手紙」」 p.50)

とまあ見応えたっぷりです。

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・森泉岳土 (2016.5) 『ハルはめぐりて』(BEAM COMIX). 140pp. KADOKAWA/エンターブレイン, 東京.
← 初出:月刊コミックビーム, 2015年5月号/2015年9月号/2015年12月号/2016年4月号


ブックデザイン:吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)

「ハルはきにけり」のハルちゃんが中学生になって、ベトナム、台湾、モンゴル、山形・銀山温泉を旅する。

「中学生バックパッカー」という設定はちょっと無理があるけど、ハルちゃんをみんな(私も)見たいようだから許そう(笑)。

今後、ハルちゃんは森泉作品唯一の馴染みキャラとして定着していくのかもね。

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画風はすっかり安定しちゃって、フツーの人でも安心して読める。ストーリーも旅ものなので淡々と進み、お馴染みのハルちゃんの妄想シーンが見どころ。


(『ハルはめぐりて』「台湾篇」 pp.66-67)

霧に巻かれるシーン、見事ですね。シルエットで語らせるのはお手のもの。

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(『ハルはめぐりて』「ベトナム篇」 pp.30-31)

よく見ると、これ不思議な絵だ。写実的な部分とデフォルメがきつい部分が妙な具合に共存して違和感がない。

前髪なんてぶっとい線で3本垂らしてあるギャグマンガみたいな表現なのに、その周囲のタッチと違和感なく入ってくる。ぶっとい前髪3本は、「ハルはきにけり」の頃からのハルちゃんのアイコンになってる。

森泉作品の雰囲気は、森雅之(この人もいつか取り上げよう)に似ていることにも今気づいた。

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ハルちゃん面白いので、数年に1度でいいから、ハルちゃん物を描き続けてほしいですね。

あとやっぱり、最近の端正なスタイルもいいけど、初期の嵐のような絵もまた見たいなあ、とお願いしといて終わり。

2016年8月9日火曜日

panpanya 3連発

本エントリーは
stod phyogs 2016年8月9日火曜日 panpanya 3連発
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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これもよくわかんないタイトルですが、やっぱりマンガの話。panpanyaは「パンパンヤ」と読むようです。これも性別不明だが、たぶん男。

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平方イコルスン同様、白泉社「楽園」執筆者だが、知ったのはそちら経由ではない。

本屋に行くたびに、気になってしょうがなかったのだが、この人の本結構高いんですよ。だからなかなか手が出なかった。

でも1冊買ったらもうはまりまくり。といっても寡作なので3冊しかないけど。

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黒っぽい緻密な背景に、ラフスケッチのようないいかげんな人物。

とくると、これはまさに水木しげるではないですか。怪奇色はないけど、水木しげる、あるいはガロ・マンガの後継者の一人、と言っていいでしょう。

こういう人が、青林工藝舎(注)ではないところから出てきて、商業的に成立しているのが21世紀の日本マンガの特徴です。

(注)青林堂が1997年に青林堂と青林工藝舎に分裂した後、ガロらしさを保持しているのは青林工藝舎の方。青林堂は、かつてのおもかげは微塵もなく、ガロも廃刊。保守系活字本である程度ヒットを出しているのはご存知の通り。

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登場人物はというと、全作品同じ。おかっぱの少女が主人公。小学生から社会人まで、どの年代でもこれで押し通す。だいたい高校生くらいのことが多いけど。


主人公の女の子
(『蟹に誘われて』 「方彷の呆」 p.78)

他には、犬のレオナルド


レオナルド(なんでこの名前?)
(『蟹に誘われて』 「THE PERFECT SUNDAY」 p.186)

犬には見えないぞ。「べつやくれい」が描く犬なみのいいかげんさ。

お次は、なんて言ったらいいのかわからない、目も鼻もなく、タコのような口が四方に開いているだけの人物。この二人が必ず出てくる。


なんていう名前だ?この「謎のタコ男」(そうだこれで行こう、今、名前つけたよ)
(『蟹に誘われて』 「パイナップルをご存じない」 p.65)

あと、友だちらしきロングヘアーの女の子と、イルカが時々いろんな役で出てくる。一種のスターシステムと言えないこともない。

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背景に描かれるのは、ゴチャゴチャした街の風景であることが多い。それも看板にやたらと執着している。

こんなの


(『足摺り水族館』 「完全商店街」 p.39)

このコマにpanpanyaのすべてが詰まっていると言っても過言ではない。

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というと、思い出すのは、ガロ出身の逆柱いみり(望月勝広)。

緻密な街の風景、それも昭和30年代テイストでありながらも、架空の看板やら架空の乗り物・生物やらがあふれる幻想テイストの作品を描き続けている人。

そういえば、逆柱いみりも、初期の作品にはショートカットの女子となにか変なものとの掛け合いで、一応ストーリーが展開されていた。panpanyaはそれと似ていますね。

逆柱マンガは、その後徐々にまともな登場人物がいなくなり、ついにはストーリーすら消滅。異様な風景だけがえんえん描かれるという、もはや環境マンガ~アートの世界に入ってしまった。

最初の2冊『象魚』、『马马虎虎』までは追っかけたが、その後ついていけなくなりました。

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調べてみると、panpanyaと逆柱いみりは仲がよいらしく、二人で展覧会などもやっているそうな。まあそうなるでしょうね。しかし、まさか逆柱いみりの後継者が現れるとは・・・驚きの一言。

panpanyaが描く風景は、逆柱に比べると現実味があり(といっても今はもうない、二昔前の風景だが)、逆柱マンガよりはとっつきやすいかもしれない。看板も現実のものを使ってるし(やっぱり二昔前のものだけど)。

結構年食ってる人なのか、レトロ好きの若い人なのか、もう全然わからないです。しかし、レトロ好きであっても、いきなり「HiC50」(缶ジュースです)なんか出せるもんだろうか?

いやいや、最近は串間努さんの一連の著作なんかもあるし、若い人でも調べられるかあ。わからんなあ。

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では単行本と作品をいくつか紹介。

・panpanya (2013.8) 『足摺り水族館』. 323pp. 1月と7月, 東京.


装丁:panpanya
・1月と7月(as of 2016/08/02)
http://1to7.thebase.in/

小さい出版社からのデビュー作。出版社のサイトに行ってみたが、『足摺り水族館』は出版物リストにはない。すでに絶版のようなので、見つけたら逃さず買っておいた方がいいです。

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気になったのは、

「完全商店街」 pp.13-50.

少女はここでは小学生らしい。お母さんに頼まれたお使い。読めないアイテム↓


(『足摺り水族館』「完全商店街」 p.17.)

を探して町をさまよい歩く。百貨店へ行ったり、街中のロシアへ行ったり、そしてついに完全商店街へ。

完全商店街の描写がもう素晴らしすぎて・・・(前述)。よく見るとこれは、映画「ブレードランナー」の世界ですね。なるほど自分が好きなのはそういうことであったか・・・。今気づいた。

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「インノセントワールド」 pp.109-142.

これはいつもと違い、画用紙にスケッチ風に描かれている(あるいはそれ風なデジタル作画?)。

京都への修学旅行。仲間とはぐれ京都タワーを目指すが、いつの間にか第2京都タワーへ。そしてさらには未知の第3京都タワーへ。

夢風に描かれた作品。つげ義春「外のふくらみ」っぽくもあり、とても魅力的。

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「マシン時代の動物たち」 pp.221-256.

真夜中の空き地に向かって、自動販売機たちがどんどん集まり出すシーンは素晴らしい。

落ちは、ちょっと腑に落ちすぎて、イマイチのような気がする。

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「君の魚」 pp.269-316.

私設水族館展示用の魚を求めて多摩川を逆上るのだが、時代設定が1970年代あたりらしく、水質汚染がひどいことになってる。

立川あたりが工場地帯になっていたり、平行している玉川上水を大型漁船が通過しマグロを落としたりと、妄想の多摩川っぷりが実に楽しい。

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・panpanya (2014.4) 『蟹に誘われて』. 219pp. 白泉社, 東京.


装丁:panpanya

そして白泉社から商業誌デビュー。それにしてもこの作風で毎年1冊も単行本が出せるのってすごい。

なお、タコ男がレギュラー化するのはこの本から。

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「わからなかった思い出」 pp.10-14.
← 初出:楽園web増刊, 2013/4.

田舎のおばあちゃんがくれるおもちゃ、

「スーパーボールだよ」
「アメリカンクラッカーだよ」
「アストロジャックスだよ」
「ソムベーソバイだよ」
「オロコッパーヘンデルモルゲンだよ」
「Непонятный(注)」

と徐々にエスカレートしていく話。

(注)

ちなみにこれはロシア語で「奇妙な」という意味です。おそらく、おもちゃの名前ということではないのでしょう。ロシア語、というかキリル文字好きなんだね。

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「innovation」 pp.21-51.
← 初出:同人誌, 2012/2.

発電所で、ベルトコンベアで流れてくるココナッツを棒で叩いて割るアルバイトをしている主人公(今回は高校生)。

学校の授業である竹細工を作り、これをバイトの仕事に使ったために大変なことに。

落ちは謎の解明に向かうのだが、ますますわけがわからなくなる結末でいい。豪快だし。最後の方はなぜか黒田硫黄を思い出す。

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「TAKUAN DREAM」 p.144-147.
← 初出:楽園web増刊, 2013/11.

わずか4ページながら、大傑作。

お話はというと、「たくあん」のプラモデルを作る話だ。どうだ参ったか!

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「鍋」 pp.169-172.
← 初出:楽園, no.14 [2014/2].

スーパーに、

広告の品 「闇鍋セット ゲテモノ・非食品 珍味など愉快な具材をこれ一袋で バラエティアソート スープ付 2~3人前」 ズバリ 特価498円

があるのもビックリだが、その隣りに陳列されている、

広告の品 「AKARUNABE 明鍋セット 明るい鍋で気軽に闇鍋気分! おいしくてもりあがる!! スープ付 2~3人前」 ズバリ 特価 498円

にはもっとビックリ(笑)。

で、レオナルド(繰り返すけど犬です)と一緒に食べる明鍋の驚きの結末!(ってほどじゃないか)。でもこの話好きだなあ。

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「計算機のこころ」 pp.205-216.
← 初出:楽園, no.14 [2014/2].

「鍋」と同時発表か。同月に傑作を2作も描いてしまうとは、すごい。

1960年代にトランジスターやICを搭載した電卓が登場する以前にイルカの頭脳を演算処理装置として利用していた時代があったのだ。(『蟹に誘われて』「計算機のこころ」 p.206)

という偽史をベースに、イルカの計算機をもらってきた主人公。ためしにこのイルカ計算機で、リーマン予想を解かせてみると・・・。

しかし、リーマン予想を解かせるのに、「リーマン予想」と書いた紙を「べこーっ」と入れるだけでいいのは楽だなあ(笑)。

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・panpanya (2015.5) 『枕魚』. 217pp. 白泉社, 東京.


装丁:panpanya

今のところ最新作。2016年は単行本出るかなあ。楽しみ。

細かい背景描き込みに、主人公だけスポットで赤、そして全体にアミかけ、と凝った表紙。panpanyaらしいデザインです。

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「範疇」 pp.9-12.
← 初出:楽園web増刊, 2014/4.

走ってくる車をカウントする主人公。これは車か?車じゃないのか?と悩んでいるうちに目を回す。落ちも完璧。傑作です。

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「備品」 pp.29-32.
← 初出:楽園, no.15 [2014/6].

校庭に現れる犬。それに対処しきれない先生たち。そこに現れたのが謎の備品。

その「備品」は、真上からしか描かれてないのが、想像をかきたてさせてくれて見事。

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「地下行脚」 pp.63-96.
← 同人誌, 2009/11.

新宿の地下、イルカの案内で「変わったピザまん」をさがす話。

確かに深夜の東京、誰もいない地下街や繁華街ってこんな印象だ。暗い暗い意志の塊がうごめいているような・・・。これを絵にできるんだから、この人すごい。

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「ニューフィッシュ」 pp.111-141.
← 同人誌, 2013/10.

これはスペクタクルSF大作(ってほどでもないか)。でも作者にしてはアクションも多く、スケールの大きい珍しい作品なのは確か。

James Cameron監督 (1989) 『THE ABYSS』なみ、なんちゃって。

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「始末」 pp.166-170.
← 初出:楽園web増刊, 2014/11.

電動黒板消し(これ、本当に見たいな)に駆逐されたラーフル(鹿児島方言)の末路は!

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「記憶だけが町②」 pp.193-198.
← 同人誌, 2009/11.

サンエブリー、SPAR、生活彩家、time's、オレンジハート、■ママ(不明、ヤマザキショップ?)、ヒロマルチェーン、モンマート、コミュニティストア、全日食チェーン、マイショップ、くらしハウス、SAVE ON、スリーエフ・・・。

「マイナーコンビニの激戦区だったのか・・・」

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しかし、平方イコルスンにしてもpanpanyaにしても、自分の分身を少女として登場させるのはなぜなんだろう?

「そりゃ、読むのは男なんだから、かわいい女の子出さなきゃ駄目でしょ!何が不思議なの?」
「ユングでしょ。これは作者のアニマであり・・・・」
「男はみな、すべからく少女になりたい願望があるのだよ。」

どれも当たっているかもしれないし、当たってないかもしれない。

そういえば花輪和一のマンガも、作者の分身は少女だ。江口寿史は「オレは女子高生を描きたいんじゃなくて女子高生になりたいんだ」と言った。

この話は奥が深そうなので、ここで終わり。

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panpanyaのマンガは、登場人物がこのかわいい子じゃなければ、マイナーマンガのままで終わったかもしれない。

でもやっぱり、性格は少しひねくれてるし、言葉遣いは「君は○○なのかね?」という具合でやっぱり男。

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それにしても、「最近のマンガはおもしろいものがない」などとほざいて、全然最近のマンガを読んでいなかったオレは大馬鹿野郎だった。

すごいマンガはまだまだあるぞ!どんどん紹介していこう。

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(追記)@2016/11/30

2016年11月29日火曜日 panpanya 『動物たち』

この時点での最新刊

・panpanya (2016.12) 『動物たち』. 180pp. 白泉社, 東京.

について書いていますので、こちらもどうぞ。

2016年8月6日土曜日

平方イコルスン3連発

本エントリーは
stod phyogs 2016年8月6日土曜日 平方イコルスン3連発
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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タイトルだけ見ると、一体何の話か?と思うかもしれないが、マンガの話です。

「平方イコルスン」は作家名。近頃はペンネームも凝りすぎて、何がなんだかわからないのが多い。もともと「平方二寸」だったのが、友人が「平方=(イコール)寸」と誤読して以来このペンネームになったそうな。性別不明だが、たぶん男です。

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知ったのはごく最近。ドリヤス工場(これもよくわからないペンネーム)を追っかけて、リイド社(『ゴルゴ13』の単行本で有名)のマンガサイト

・トーチweb(since 2014/08)
http://to-ti.in/

に行ったらぶち当たった。

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登場人物は95%が女子高生。その会話というかセリフ中心でストーリーが展開されていく、というちょっと珍しいマンガ。

この人はもともと文章の人で、おまけでイラストやマンガを描いているうちに、pixvに投稿した「けいおん」パロが目に止まってデビュー、という経歴らしい。だからセリフ中心の展開も納得。

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そのセリフも生硬で理屈っぽい。姿は女子高生なんだが、中身はやっぱり男だな。それでもよくわからないセリフ回しは変でおもしろい。こういうマンガもあるんだ、とちょっと新鮮でした。

画材はペンタブでオール・デジタル作画らしいが、トーンも全く使わない絵柄なので、デジタル感は微塵もない。ハンコか版画みたいなソリッドなこういう絵柄は昔から好きです。

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・平方イコルスン (2012.8) 『成程』. 91pp. 白泉社, 東京.


デザイン:柴田昌房(30A)

商業誌デビュー作含む初単行本。

この人のマンガはセリフが多いし、コマ割りも細かい。基本三段組だが、それをさらに上下に二段に割ってあることが多い。だからこの単行本はB5版という珍しいサイズ。

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気になった作品は、

「性的寄り道」 pp.19-22.
← 初出:楽園, no.6[2011/6]

持ち主不明で教室に置きっぱなしになっているバイク・ヘルをめぐる話。意味わかんないでしょ。まあ読むがいいさ。

わずか4ページなのに、連続TVドラマ「オヨグダンシ」(なんでいまさら「ウォーターボーイズ」なのやら)なんていう小ネタまで挟んでくる。変だ。

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「恋の草鞋編み」 pp.39-42.
← 初出:楽園, no.7[2011/10]

先生に草鞋を編むと、見返りに関西弁を聞かせてもらえる、という現物を読まない限り、意味がよくわからないストーリー。

その手伝いをする友人(当人より草鞋編みがうまい)のアンビバレンツな心情が切ない。青春やねえ。

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「とっておきの脇差」 pp.43-48.
← 初出:描きおろし

これは6ページ。武器による女子同士の決闘が当たり前の世界。

友人の付き添いで決闘現場まで車で送ったが、敢えなく友人は敗れ去り(つまり死んだってことです)、二人はそのまま予約していた温泉に向かうのだった(一名分予約キャンセル)。

なんでこんな発想できるんだろ。

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・平方イコルスン (2015.5) 『駄目な石』. 121pp. 白泉社, 東京.


装丁:柴田昌房(30A)

引き続き「楽園」発表作をまとめたもの。サイズが小さくなったので、読みにくいことこの上ない。文庫化は絶対無理だな。

例によってタイトルからして意味不明。

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「みっとも」 p.33-36
← 初出:楽園web増刊[2013/3]

風紀にうるさい先生と、「ツインテールがうっとうしい」と注意された女子の息詰まる攻防。

この「エネルギーが無駄に空回りしている女子」、作者はよっぽど気に入ったらしく、巻末にどアップで再度登場。

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「相討ち」 pp.43-46.
← 初出:楽園web増刊[2013/7]

これは大傑作。

武器自作マニアの女子(もう設定からしてよくわからない)が、教室で槌(棍棒)を振り回しているうちに、後ろの席の男子の頭部を直撃。男子は入院。見舞いに行ったその女子は、武器への愛情を延々語るのであった。

そして男子も退院後は武器マニアとなり、二人で仲よく自作武器のテスト、というA Boy Meets A Girlストーリーなのだが、冷静になって読みなおしてみると変な話だよな~。

武器愛(ほら、変な言葉ができてる)を語る女子のイキイキとした表情が素晴らしいです。

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「咄嗟」 pp.73-76.
← 初出:楽園web増刊[2014/3]

芝居のセリフ合わせをしているらしい男女高校生。「雄叫び」では物足りなくて「どたけび」に変える。

女子部員が「どたけび」の手本を示すが、みんな口には出さないが「めたけび」にしかなってないな・・・、という、そんだけの話。なんのこっちゃ。

最後の女子部長(?)の「さけび!」「わめく!」(すぱぱっ)で唐突に終わるのもいい。

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「報復上手」 pp.95-98
← 初出:楽園web増刊[2014/8]

合唱で腕をガン振りしている女子(意味がわからない・・・)に、わざと殴られに行って見事成功した男子(これも意味がわからない・・・)。

それをフォローしている別の女子。そのうちに、この二人が喧嘩しつつ、イチャチャするのだった。ええ話やなあ(どこが?)。

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・平方イコルスン (2016.4) 『スペシャル vol.01』(torch comica). 175pp. リイド社, 東京.
← 初出:トーチweb., 2014/8~2015/10.


装幀:名和田耕平デザイン事務所

さあ、そしていよいよ連載作品。これまではすべて違う登場人物による4~6ページの読み切りばかりだったのですが、ついに続きものです。でも「スペシャル」ってなんだ?

田舎の高校に転校してきた葉野(さよちゃん)。隣の席は授業中も常にヘルメットをかぶっている伊賀さん。あんまり出てこないけど、下の名前は「こもろ」(場所は長野県なんだろうか・・・)。

これが異常な怪力少女。借りたシャーペンはあっという間に粉々になるし、下校中に標識を曲げてしまうし。

その原因は不明。解明しない。おそらく最終回になっても解明はしないと思う。これはそういうマンガではないのだ。

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他のクラスメイトも異常。

炊飯器から洗濯機まで、私物を教室に置く金持ち・大石(女子)。その奴隷と化している・谷(男子)。ガソリン・フェチ(意味不明)・藤村(女子)。年中豆を食ってる・会藤(男子)、そいつをつねることを生きがいとする築前(女子)。相変わらずよくわかんない設定。

この作品の女子は、あんまり理屈っぽくないので、みんな一応「女子・・・かな?」という気はするなあ。

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なんか「ここが素晴らしい!」というポイントがよくわからないまま、読み続けている、というマンガの紹介でした。

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(追記)@2017/07/20

2017年7月時点での最新刊『スペシャル 2』について書いていますので、こちらもどうぞ。

2017年7月20日木曜日 平方イコルスン 『スペシャル 2』

2016年7月19日火曜日

ヤマシタトモコ 9冊もあった

本エントリーは
stod phyogs 2016年7月19日火曜日 ヤマシタトモコ 9冊もあった
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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気がついたら、ヤマシタトモコだらけになっていたのでした。


















「何がよかった」というわけじゃないんだが、なぜか買ってしまう。スイスイ読める。相性がいいのだな、たぶん。

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登場人物はどれもほぼ同じで、長身ショートで顔も性格もキツイ。それでいて屈折してて、エイッと思いきりがいいとことか、なかなかよい。

ストーリーが時々投げやりになるのも、オイオイとは思うが、なんかわかる。

一応恋愛ものなんだが、その男のどこに惚れたのかさっぱりわからん話が多い。作者はあんまり男に興味ないと見た。

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以下、思いついたとこだけ。

「Don't Cry, Girl ♥」(注)の裸族男。

たえ子 「!!?・・・升田さんこれは一体・・・」
升田 「・・・気づいたかい?」
たえ子 「家に入った瞬間から男性器が視界に入らない!!」
升田 「きみが処女ときいて股間の動線上に障害物を設定したのさ」

・・・お前は「けっこう仮面」か!くだらねー。

(注) ちなみに単行本は『ドントクライ、ガール ♥』だが、作品は「Don't Cry, Girl ♥」。

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「くうねるところにたべるとこ」の妄想スーシェフはおもしろい。声上げて笑った。

そいつは、意味もなくオープンカフェに突然現れて、メガネ女子にソーセージを無理やり食わすのも謎。こいつ真性の変態だ。

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おっと、男の話ばかりになったが、BLは興味ありません。ヤマシタトモコもBL作品多いんだが、それは避けてます。

あ、絵はそんなに好きじゃないんだけど、とにかくうまいです。男も一度読んでみてください。男女あんまり関係ないか。商業誌デビューは男性誌だし。

2016年6月12日日曜日

えすとえむ 『うどんの女(ひと)』

本エントリーは
stod phyogs 2016年6月12日日曜日 えすとえむ 『うどんの女(ひと)』
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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・えすとえむ (2011.9) 『うどんの女(ひと)』(FC531). 183pp. 祥伝社, 東京.
← 初出:フィールヤング, 2010年5月号/11月号/2011年1~6月号.


















装丁:新上ヒロシ(ナルティス)

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美大生と学食のおばちゃんのじれったいラブストーリー。学食のおばちゃん(うどん担当、通称:うどん村田)といっても35歳で美人、スタイル抜群といった設定であまりリアリティはないけど。

これが弘兼憲史だとリアリティはあるだろうが、そもそも見たくもない(笑)。

こういうじれったいラブストーリーは、こないだ読み終わった冬目景『イエスタデイをうたって』が長すぎて、ほとほと疲れてしまったので、1巻ですっきりまとまった作品はホント助かる。

古典では高橋留美子『めぞん一刻』も長すぎだったなあ。これも引っ張ろうと思えばいくらでも引っ張れる設定なんだが、えいやと終わらせたのは立派。

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はずしのギャグが決まりに決まって爽快、笑えます。

「気になっちゃうのよ そういうことされると 結局それって 好きなの? 何なの?・・・・・うどん」

「好き」
「村田さんはまだ田中先生が好きなんですね」
「え?そっち?」

「じゃあふたりで会うとき何してんの?」
「・・・・うどん  食べたり?」

どうということはないラブコメなんだけど、うどんが間に入るとこんなにおもしろくなるとは。

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最近、美大出身の絵のうまいマンガ家が増えた。それに伴い美大を舞台にしたマンガもとにかく増えたね。ちょっと食傷気味ではある。

2016年5月31日火曜日

冬目景 「アラナギサマ」

本エントリーは
stod phyogs 2016年5月31日火曜日 冬目景 「アラナギサマ」
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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冬目景がマイブーム最盛期なので、当然のようにまた取り上げます。

現在発売中のイブニング, vol.16, no.12(2016年6月14日号)に読み切りで登場。表紙にも登場。


















相変わらず美しいが、よく見るとバランス悪くないか?この絵。

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・冬目景 (2016.6) アラナギサマ. イブニング, vol.16 no.12(2016年6月14日号), pp.135-164.




















東京で小説家を目指す千軒(せんのき)健太郎。半ば居候と化しているニートの友人・一ノ谷。ケンは、ばあちゃんの頼みにもかかわらず、祈年祭(としごいのまつり)・年男の儀式に村に帰らない。

そこへやって来たのが分家の娘・鼎(かなえ)=セーラー服の美少女。健太郎の身に起こる怪現象、そして家へ戻ると一ノ谷が・・・。鼎も突如・・・。

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文字にすると扉にある通り「伝奇ホラー」なんですが、実際は半分以上コメディです。最後の妖魔退治もギャグみたいだし。

とまあ、神秘的な美少女のギャップを楽しむマンガでした。

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最終ページの柱には、「この作品の続編というか鼎ちゃんにまた会いたい人は熱いラブコールを送ってくれ。頼んだぞ。」とあるが、うーん、続編作れるかなあ?まあ、次回はようやく村に帰って・・・くらいはできそう。

「夕闇古書市」で予感した通り、作者はあやかしモノをやりたがっている気配がありますね。

こみ入った設定にすると、ツメが甘いところがある方なので、バックグラウンド抜きでポコポコ妖魔が出てくるものの方がいいような気がするな。そう「ACONY」みたいな感じで。

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まあでも、鼎ちゃんまた見たいな。例によって数年後でもいいからさ(笑)。