2018年3月26日月曜日

やりすぎの人 小林銅蟲(2) 『寿司 虚空編』

・小林銅蟲 (2017.8) 『寿司 虚空編』. 223pp. 三才ブックス, 東京.
← 初出 :
裏サンデー, 2013年~2014年
http://urasunday.com/index.html
MANGA pixv, 2015/04/13+2015/10/26+2016
https://comic.pixiv.net/magazines/87


装幀 : 井上則人デザイン事務所

タイトルからして、これも料理マンガかと思いきや、数学マンガだ。それもテーマが「巨大数」!

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巨大数とは何かというと、とにかくでかい数(笑)。宇宙に存在する粒子の数よりもはるかに多い数でも、とにかく作っていこう、という試みだ。

何が目的かわからないが、すでに手段が目的化しているという暴走理論でもある。高等数学って、まあそういう学問ではあるけど。

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冒頭から、もうグラハム数が出てくる。

私は5ページ目の「↑(タワー=クヌースの矢印記号)」が3つ重なった「↑↑↑」が出てきたところでもう脱落しました(笑)。

あとは、作者の暴走ぶりを笑って楽しむのみ。

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普通、こういうマンガには、読者と物語のディープな世界をつなぐ「初心者」を主人公として置くものだが、このマンガにはそういう登場人物はいない。

ひたすら巨大数の数式を投げまくる親方(ごくたまに寿司を握る)と、その弟子マシモ、そして親方の娘うるか(の霊)、この三人の掛け合いで話は進む。マシモが比較的初心者に近いのだが、ツッコミは入れるものの、読者に寄り添う気はまるでない。

三人で読者など置いていって、暴走しっぱなし。


同書, pp.198-199

ここは珍しく料理にからめて解説しているところ。他のページはマンガの形にはなっているが、エグい数式の解説がひたすら続く、という展開。寿司関係ねーじゃん。

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同書, pp.20-21

これは数式を展開している様子だが、こんなのが10ページも続いたりするのだ。

こんなマンガなので、裏サンデーでは6回で打ち切り。まあ当然ですな。

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第6話は64ページもある。裏サンデーでの最終話。

覆面レスラー「綿花製品・アストラル・気持ち・御覧ください・仮面」が出てきて、ちょっと展開は変わる。もしかすると編集者に「あんた、いいかげんにしろ」と怒られたのかもしれない。作者がプロレス・ファンであることもわかる。

それでも、その合間には「最小超限順序数ω(オメガ)」や「FGH(急増加関数)」の解説がしっかり入る。

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ちなみに

第1話は4ページ(2の2乗)
第2話は8ページ(2の3乗)-数式展開ページを除く
第3話は16ページ(2の4乗)
第4話+第5話は32ページ(2の5乗)
第6話は64ページ(2の6乗)

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MANGA pixvに移ってからは、巨大数に疲れたのか、説明の仕方がわからなくなったのか、寿司屋の客との掛け合い、5年前に店を飛び出した元弟子マサとのロボット・バトル(笑)。


同書, pp.172-173

ほんともう、自分の好きなものを、なりふり構わず全部乗せで突っ込んできたようなマンガ。

「ついていけない・・・」と落ち込んだ読者、心配ありません。誰もついて行っていませんから(笑)。

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本屋で見かけたので、こんな本も買ってしまった。

・鈴木真治 (2016.9) 『巨大数』(岩波科学ライブラリー253). 113pp. 岩波書店, 東京. 



これは前半では、巨大数の歴史を解説。恒河沙とかアボガドロ数とかエディントン数なども出てくるので、上記のような異常な巨大数に至るまでの経緯がわかりやすい。

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『寿司 虚空編』で扱ってるような巨大数が現れるのは、後半になってからだ。

『巨大数』では後半になってやっと現れるグラハム数が、マンガでは冒頭から登場することでも、『寿司 虚空編』の異常さがわかるでしょう。

『寿司 虚空編』でしきりに出てくるアッカーマン関数は、『巨大数』ではちょっとだけ。「ふぃっしゅ数」に至っては、あとがきでちょっと触れているだけです。

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『巨大数』で扱ったのは、主に学界中心の話題だったのですが、『寿司 虚空編』で扱っているのは、アマチュア・グーゴロジスト(巨大数愛好家)が2ch(今は5ch)あたりで作り出した巨大数の話題なのです。そういうわけで両書には興味の範囲にずれがあるので、話が一致しなくても当然。

それにしても、科学啓蒙書すら置いてけぼりにするマンガが存在しうるとは・・・。いつも言ってることですが、日本のマンガの豊穣さに驚くばかり。

しかも、どうやらこれが増刷になったらしい。恐ろしや・・・。

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本屋に行ったら、フェアかなんかで、この『巨大数』が平積みされていました。それもどうかと思うが・・・、一体誰が買うんだ?(オレだった)。

それで本屋のお兄さんに「『寿司 虚空編』を隣りに置いといて下さい」と言っておきましたが(←バカ)、どうも『寿司 虚空編』の存在は知らなかったようです。

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しかし小林銅蟲って人は大丈夫かなあ。暴走しすぎだ。

この人は、水産学部出身で理系だ。なるほど、『めしにしましょう』の理詰めの料理法、『寿司 虚空編』の数学趣味にも納得。メンヘル、ひきこもりからの脱却でTVにも出てるし。

なんだか急に狂い咲きしてるんだが、その後に急落しないよう、暴走を抑えて小出しにしていくのもひとつの手。が、それができる人ならこんなマンガ描かないよな(笑)。

まあ、とにかくできるとこまでこの「濃いマンガ」を続けてほしいものです。

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(追記)@2018/03/28

なお、『寿司 虚空編』の第9話、第10話は単行本未収録で、WEBでしか読めません。

こちらでどうぞ。インタビューもおもしろいぞ。

・ピクシブ/pixvコミック > 寿司 虚空編/小林銅蟲(as of 2018/03/26)
https://comic.pixiv.net/works/1505

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