★Twitter 2021/01/03-04より転載+加筆修正★
西村ツチカ (2020.12) 『ちくまさん』. 125pp. 筑摩書房.
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帯 ( あるいは腰巻 ) の推薦文に高野文子さんを持ってくるところからして、『るきさん』を連想させようという作戦らしいのだが、私がこの絵から強く感じるのは「真鍋博」感。
確かにカラーコーディネートをマンガに持ち込む実験は『るきさん』と同じだ。だが『るきさん』では上田トシコ 『フイチンさん』流の動きの実験もあったが、『ちくまさん』では動きはあまり重要ではなさそう。
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日頃の絵柄とも少し変えて、細身の人物、直線的な背景を多用している。内容も感覚的というよりは説明的。これは真鍋博でしょ。
私のような古い世代には、真鍋博と言えば星新一のショートショートの挿絵や表紙でおなじみなのだが、もう没後20年になり、若い人たちにはわからないかもしれない。ので、代表作を一つ上げておこう。画像検索すれば「ああ、あの絵か」とすぐわかると思うけど。
真鍋博・画+愛媛県美術館・監修 (2020.9) 『真鍋博の世界 Hiroshi Manabe's Works 1932-2000』. 255pp. パイインターナショナル.
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『ちくまさん』の背景は、よく見ると、直線もとても丁寧なフリーハンドなのですね。下描きで定規は使っていそうだけど。「グリッドで埋め尽くしてパースのない絵」というのは、もう真鍋博そのもの。
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真鍋博の末裔三人目だ。自分が思っているだけだが。あとの二人は町田洋と黒谷知也。
町田洋 (2013.8) 『惑星9の休日』. 175pp. 祥伝社.
黒谷知也 (2017.5) 『書店員波山個間子 1』 (it COMICS). 155pp. KADOKAWA.
真鍋博の末裔はもう一人いるな。
森田るい (2017.11) 『我らコンタクティ』 (アフタヌーンKC). 255pp. 講談社.
最近聞かないけど、大作『我ら・・・』で燃え尽きちゃったかな?
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『ちくまさん』に戻って・・・と。
ストーリーはあまり練りこまず、展開も結構いきあたりばったり ( 意図的でしょうね )。その分絵の完成度に重点を置いている。だからいい感じの軽やかさが出ていて、とても読みやすい。変な表現だが、「見ている」というより何か「香りを嗅いでいる」気になる不思議な作品。
あとがきで高野文子への謝辞も述べられているのだが、これ、帯が分離してしまうと何のことやらさっぱりわからなくなるんじゃないだろうか?ちょっと心配。
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しかしこの本置いてある本屋少ないですね。町の書店では3軒当たって見つからず、都会の大書店で3冊だけ差してあるのを見つけた。初刷部数が少ないだけかもしれないけど。
1900円+税、というのはかなり高く感じる。半分くらいカラーページ、それも微妙な色使いなので色調整も難しそう。手間暇かかっているのはわかるが・・・。
そうか、これマンガ本と思うからいかんのだ。安価な美術書と思えば高くないぞ。うんそうだ。
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ついでにもう一つの作品も紹介しておこう。
西村ツチカ (2017.11) 『北極百貨店のコンシェルジュさん 1』 (BIG COMICS SPECIAL). 146pp. 小学館.
こちらはいつもの作品に近い。小学館らしく少しビジネス教訓くさくなっている気もするが、こちらもいい。おもしろかったのは、動物の絵・動かし方が手塚治虫的なところ。これジャングル大帝だなあ。この辺。
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なお、『ちくまさん』の自己解説にある「奥さんが・・・」で、この人が男性であることをはじめて知った・・・。